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#navi(SS集)
#br
* 作品 [#k0718378]
** 概要 [#kdf93afb]
|~作者 |NEDO |
|~作品名 |小さなヒーロー 最終話 「決別」 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2008-06-27 (金) 00:03:04 |
** 登場キャラ [#t0f4ca75]
//////////
|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#y60d5b3b]
//////////
#br
#setlinebreak(on)
#br
平和とは程遠い悪夢の一夜が過ぎ、迎えた翌日。
天変地異に巻き込まれるのに定評がある俺は、何事もなかっ...
この疲労が取れたら、今後に備えて体力作りでもしようかな。
#br
教室に着くと、ハルヒが自分の席に突っ伏していた。
俺が自分の椅子を引くと、ハルヒはピクリと体を反応させた...
#br
今の俺は正直、ハルヒのことをあまり恨んでいない。
昨日の俺がこいつの中の破壊衝動の権化に死ぬほど追い回され...
なぜなら、仲間を殺してしまうほど傷つけるなんてことを、...
難儀な力を持ってしまったハルヒに、俺は同情していた。
#br
疲労と考え事で授業はすっかり上の空で、気づくと昼休みに...
長門に会って昨日の礼などを言いたかったが、長門と一緒に...
「今日のキョンはお疲れみたいだね」
と国木田が言い出すと、
「どーせこいつのことだからアレだろう」
谷口がうっかり口を割りそうだったので、足を踏んで警告し...
#br
午後の授業が始まっても、ハルヒは相変わらず机に顔を伏せ...
#br
放課後、長門と昨日のことを話したかった俺は早めに部室へ...
#br
部室のドアを開くと朝比奈さんが着替え中だった。俺は完全...
#br
廊下で朝比奈さんの着替え待ちをしていると、古泉が現れた...
「昨夜はお疲れ様でした。ご無事でなによりです」
何がご無事だ、白々しい。昨日はよくも言ってくれたな。頭...
「あれはあなたへのあてつけではなくて、ヒントのつもりで言...
お前の言ってる事がサッパリわからん。あの空間に脱出方法...
「涼宮さんに対して謝罪の意思表示をする事、それがあの空間...
ハルヒに謝るどころか心の中で恨み言を復唱してたぐらいだ...
「あれ?おかしいですね。僕の感覚によるとあの空間は内部か...
古泉は顎に手を当てて考える古泉のポーズをした。どうやら...
#br
あの空間を消滅させたのは誰かと問われると、考えられるの...
《神人》を一体ずつ消去する裏で、空間ごと全削除するような...
ま、俺も長門も無事だったわけだから、細かい事なんてどう...
#br
まもなく、着替えを済ませた朝比奈さんがドアを開けて俺達...
#br
「あの、キョン君。今回は協力できなくてごめんなさい」
お盆で胸を押しつぶしながら、朝比奈さんは可憐に謝った。...
「それで、涼宮さんの様子は…」
「ええ、今のところ閉鎖空間を発生させる兆しはありませんが...
朝比奈さんは俺に向かって話しかけてるのに割り込んで来る...
#br
ハルヒ談義をしていると、部室のドアがゆっくり開いた。
噂をすればなんとやら、ドアを開けたのはハルヒだった。ハ...
#br
今朝からずっと、ハルヒの様子は普通じゃない。いつ怪しげ...
「みくるちゃん」
ハルヒの本日第一声に、朝比奈さんも俺も思わずビクっとす...
「悪いけど、ほっといて」
トーンダウン気味にハルヒは言った。攻撃的な口調じゃない...
朝比奈さんは「はうう」と言いながらパイプ椅子に腰をかけ...
#br
部室内はハルヒの操作するマウスのクリック音だけが支配す...
#br
長門は俺の方を見向きもせず窓側へと歩いていき、いつもの...
「え???なにこれ…」
ハルヒは信じられないような顔で封筒と長門の顔を見比べた...
「な、何て書いてあるんです?」
朝比奈さんが恐る恐る尋ねた。
ハルヒが無言でこちら側に向けた封筒には、整った文字でこ...
#br
『退団届』
#br
俺は自分の目を疑った。
驚きすぎて言葉が出なかった。
ハルヒも朝比奈さんも古泉も絶句していた。
#br
沈黙を破って、長門は事務的な口調で言った。
#br
「私はもう、ここには来ない。今後あなたに干渉することはな...
そして、小さく頭を下げて、
「さようなら、涼宮ハルヒ」
長門はあっけなく部室から立ち去った。
#br
長門が、SOS団を辞める?
何故?
#br
我に返った俺は部室から躍り出て、長門の両肩を掴んで制止...
「いきなり何を言ってるんだ長門!どうしてお前が辞めなきゃ...
叫ぶような声でそう言って強引に前を向かせた。動揺しすぎ...
「私は、あなたの側にはいられない。私と側に居ると、あなた...
#br
俺が長門と一緒にいるところを見られた結果、俺の命が危険...
#br
でもそれは長門が悪いわけじゃない。
ハルヒが悪いわけでもない。
誰に責任を問えることではない。
それでも…
#br
他に解決する方法がない。
#br
事実、今日、俺は長門と会わなかった。会うことが出来なか...
#br
長門の肩が震えていた。いや、震えていたのは俺の手かもし...
#br
俺は長門に拒絶されたことがショックで、走り去っていく長...
#br
長門、俺はもうお前と会えないのか?
もうお前の力になってやる事も出来ないのか?
#br
呆然と立ち尽くしていると、突然背中に強烈な衝撃が加えら...
涼宮ハルヒのドロップキックだった。
#br
「何しやがる、この」
「あんたこそ、何ボケっと突っ立ってるのよ!」
俺が文句を言おうとすると、いつもの威勢のいいハルヒの声...
「本当にアンタって男は!そうやって何回女の子を泣かせれば...
いや、泣かせた記憶なんて一度もないんだが。
「追いかけなさい!団長命令よ!」
い、いや、しかしだな…
#br
「有希はあんたに追いかけてきて欲しいのよ!そんなことも分...
#br
俺はハルヒの言葉が信じられなかった。言わんとしてる意味...
「お前…」
俺や朝比奈さんはもちろん、ハルヒ心理学スペシャリストの...
「だって有希は、貴重な無口キャラなのよ!私達の大切な仲間...
ハルヒの言葉は、俺が閉鎖空間で叫んだ言葉とよく似たもの...
「それにあたしは、有希のこと…」
ハルヒは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
#br
俺はようやく理解した。
もしかするとハルヒは、自分の深層心理がやったことを、無...
#br
「わかった、行ってくる」
「さっさと行け、バカキョン」
#br
俺は部室棟から出て、長門の姿を探しながら校門へと向かっ...
#br
行き先はどこだ?長門が行きそうなところといえば、まず自...
#br
長門の自宅から最寄の光陽園駅に差し掛かった時、見慣れた...
駄目もとのつもりで覗いてみると、見慣れたベンチに長門の...
#br
「長門!」
大声で呼びかけても、長門は座ったまま顔を向けようとしな...
「ここに居てくれてよかったよ。お陰で町中を探し回らずに済...
ベンチの側まで近寄った時、俺は異変に気づいて足を止めた。
#br
長門の表情はいつもと変わらない無表情だ。しかし…
長門の頬には、ひとすじの涙が流れていた。
#br
俺は動揺した。
涙は女の武器という言葉通り、長門の涙にも男心をくすぐる...
足を動かす事も言葉をかける事も忘れて眺めていると、長門...
#br
「何故来たの?あなたはここに来てはいけない」
視線を元に戻して事務的に言う長門の拒絶オーラに、俺は物...
「いいんだよ。俺がここに居るのは団長命令だ。この意味がわ...
長門はようやく顔を上げてくれた。やはり長門も信じられな...
「つまりお前がSOS団を辞める必要はなくなったんだ。もうどこ...
長門の瞳から大粒の涙がひとつ零れ落ちた。
このまま長門の涙を見続けていたら俺の男心がヤバいことに...
#br
「…泣くのは初めてか?」
俺が娘の成長を見守る父親のような口調で尋ねると、長門は...
「初めて泣いてみて、どんな気持ちになった?」
「…上手く言語化できない」
こういう時に堅い文語表現が出るあたり、多少の人間らしさ...
「あなたはどんな気持ちだった?」
「俺?」
「あなたは昨日、私の目の前で泣いていた。その時の気持ち」
いかん、忘れてた。昨日俺は泣いてるところを長門に思いっ...
「う…上手く言語化できない」
オウム返しでその場を凌ごうとする俺に長門のジト目が突き...
#br
「あ、そういえば…」
懸命に話題を逸らす俺だった。
「長門、昨日はありがとな。あんなへんぴな所までわざわざ助...
「私はあなたを守りきれなかった。お礼を言われる資格はない...
礼を言われるのに資格か、長門らしいが難しく考えすぎだ。...
「そんなことはない。もう充分すぎるほど助けられた」
「あなたの足も引っ張ってしまった」
「たまには俺にも助けさせろ。俺にも男のプライドってもんが...
「そう…」
それでいい。好意は素直に受け取るのが人情ってもんだ。
「なら私も、あなたに…」
長門は目線だけをそらして、頬を染めてこそいないが照れく...
「ありがとう」
言われた俺も照れくさかった。今のこの雰囲気はなんか色々...
#br
ふと、長門はベンチから腰を上げて、
「あなたに伝えなければいけないことがある」
ややかしこまった感じで言い出した。俺はつい襟を正して、...
#br
「誰かを好きになるという感情…」
おま、それをこの空気で言うか…
俺の動揺を他所に、長門は静かに語り出した。
「以前の私には分からなかった。でも、今の私にはわかる。
大切な人を失いかけて、初めて気づいた。
もっと側にいたいと願うこと。
何に代えても守りたいと思うこと。
いつも心の中から離れなくて、それでも想いを止められない...
長門の切なそうな細い声が、俺の心臓を高鳴らせた。
「今までの私の中にもあった感情…それらすべてが、きっと、人...
俺が硬直して何も言えなかったせいか、長門は『かもしれな...
#br
まったく、何をやっているんだ俺は。女に身を護られて、女...
#br
俺は小さな肩に手を置いて、長門と向き合った。
「長門、俺もお前に言う事がある」
澄んだ瞳が、まっすぐ俺を見つめている。
「以前の俺にはよくわからなかった。だが、今ならハッキリと...
#br
――ハルヒはここまでしろとは言わなかったが、まあいいだろう。
#br
頭の中をよぎった想いをなあなあに丸め込んで、ついでにも...
#br
「長門、お前のことが好きだ」
#br
長門は驚きの表情と共に頬を薄く紅潮させて、それから喜び...
そして俺は、あの長門と本当の長門、両者の違いを明確かつ...
#br
「やっぱりお前は眼鏡が無い方が可愛いぞ」
#br
長門の返事を待たずに肩を引き寄せて、唇を重ねた。
長門は体を一瞬強張らせたが、俺を受け入れてくれるかのよ...
瞳を閉じて感じる長門の感触は頼りないほどに小さくて、柔...
#br
#br
これから俺達はどうなっていくのだろう。
ハルヒの目を盗みながら騙し騙し付き合っていくのだろうか。
今回ほどの惨事とはいかないまでも、また厄介事に巻き込ま...
まあ、それもいいだろう。
この先何があろうとも、俺の中で芽生えた確かな気持ちは揺...
それより今は、もうしばらくこのままでいさせてくれ。
#br
#br
そんな事を思いながら油断していると、長門は俺の腰に腕を...
やるな、長門。
#br
#br
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
長門有希の思考記録(抜粋)
#br
彼の腕の中は、包まれそうなくらいに大きくて、優しかった。
このままずっと甘えてもいいように思ってしまうほど。
でも彼は、この五感から感じられる生身の力しか持たない。
この非日常が支配する世界ではあまりに脆く、頼りない。
#br
だから、これからもこの儚い存在を守っていきたい。
私の中に芽生えた確かな気持ちと共に。
#br
心の中でそう誓って、彼を抱きしめた。
#br
#br
−終−
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#setlinebreak(default)
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#navi(SS集)
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* 作品 [#k0718378]
** 概要 [#kdf93afb]
|~作者 |NEDO |
|~作品名 |小さなヒーロー 最終話 「決別」 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2008-06-27 (金) 00:03:04 |
** 登場キャラ [#t0f4ca75]
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|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#y60d5b3b]
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#setlinebreak(on)
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平和とは程遠い悪夢の一夜が過ぎ、迎えた翌日。
天変地異に巻き込まれるのに定評がある俺は、何事もなかっ...
この疲労が取れたら、今後に備えて体力作りでもしようかな。
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教室に着くと、ハルヒが自分の席に突っ伏していた。
俺が自分の椅子を引くと、ハルヒはピクリと体を反応させた...
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今の俺は正直、ハルヒのことをあまり恨んでいない。
昨日の俺がこいつの中の破壊衝動の権化に死ぬほど追い回され...
なぜなら、仲間を殺してしまうほど傷つけるなんてことを、...
難儀な力を持ってしまったハルヒに、俺は同情していた。
#br
疲労と考え事で授業はすっかり上の空で、気づくと昼休みに...
長門に会って昨日の礼などを言いたかったが、長門と一緒に...
「今日のキョンはお疲れみたいだね」
と国木田が言い出すと、
「どーせこいつのことだからアレだろう」
谷口がうっかり口を割りそうだったので、足を踏んで警告し...
#br
午後の授業が始まっても、ハルヒは相変わらず机に顔を伏せ...
#br
放課後、長門と昨日のことを話したかった俺は早めに部室へ...
#br
部室のドアを開くと朝比奈さんが着替え中だった。俺は完全...
#br
廊下で朝比奈さんの着替え待ちをしていると、古泉が現れた...
「昨夜はお疲れ様でした。ご無事でなによりです」
何がご無事だ、白々しい。昨日はよくも言ってくれたな。頭...
「あれはあなたへのあてつけではなくて、ヒントのつもりで言...
お前の言ってる事がサッパリわからん。あの空間に脱出方法...
「涼宮さんに対して謝罪の意思表示をする事、それがあの空間...
ハルヒに謝るどころか心の中で恨み言を復唱してたぐらいだ...
「あれ?おかしいですね。僕の感覚によるとあの空間は内部か...
古泉は顎に手を当てて考える古泉のポーズをした。どうやら...
#br
あの空間を消滅させたのは誰かと問われると、考えられるの...
《神人》を一体ずつ消去する裏で、空間ごと全削除するような...
ま、俺も長門も無事だったわけだから、細かい事なんてどう...
#br
まもなく、着替えを済ませた朝比奈さんがドアを開けて俺達...
#br
「あの、キョン君。今回は協力できなくてごめんなさい」
お盆で胸を押しつぶしながら、朝比奈さんは可憐に謝った。...
「それで、涼宮さんの様子は…」
「ええ、今のところ閉鎖空間を発生させる兆しはありませんが...
朝比奈さんは俺に向かって話しかけてるのに割り込んで来る...
#br
ハルヒ談義をしていると、部室のドアがゆっくり開いた。
噂をすればなんとやら、ドアを開けたのはハルヒだった。ハ...
#br
今朝からずっと、ハルヒの様子は普通じゃない。いつ怪しげ...
「みくるちゃん」
ハルヒの本日第一声に、朝比奈さんも俺も思わずビクっとす...
「悪いけど、ほっといて」
トーンダウン気味にハルヒは言った。攻撃的な口調じゃない...
朝比奈さんは「はうう」と言いながらパイプ椅子に腰をかけ...
#br
部室内はハルヒの操作するマウスのクリック音だけが支配す...
#br
長門は俺の方を見向きもせず窓側へと歩いていき、いつもの...
「え???なにこれ…」
ハルヒは信じられないような顔で封筒と長門の顔を見比べた...
「な、何て書いてあるんです?」
朝比奈さんが恐る恐る尋ねた。
ハルヒが無言でこちら側に向けた封筒には、整った文字でこ...
#br
『退団届』
#br
俺は自分の目を疑った。
驚きすぎて言葉が出なかった。
ハルヒも朝比奈さんも古泉も絶句していた。
#br
沈黙を破って、長門は事務的な口調で言った。
#br
「私はもう、ここには来ない。今後あなたに干渉することはな...
そして、小さく頭を下げて、
「さようなら、涼宮ハルヒ」
長門はあっけなく部室から立ち去った。
#br
長門が、SOS団を辞める?
何故?
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我に返った俺は部室から躍り出て、長門の両肩を掴んで制止...
「いきなり何を言ってるんだ長門!どうしてお前が辞めなきゃ...
叫ぶような声でそう言って強引に前を向かせた。動揺しすぎ...
「私は、あなたの側にはいられない。私と側に居ると、あなた...
#br
俺が長門と一緒にいるところを見られた結果、俺の命が危険...
#br
でもそれは長門が悪いわけじゃない。
ハルヒが悪いわけでもない。
誰に責任を問えることではない。
それでも…
#br
他に解決する方法がない。
#br
事実、今日、俺は長門と会わなかった。会うことが出来なか...
#br
長門の肩が震えていた。いや、震えていたのは俺の手かもし...
#br
俺は長門に拒絶されたことがショックで、走り去っていく長...
#br
長門、俺はもうお前と会えないのか?
もうお前の力になってやる事も出来ないのか?
#br
呆然と立ち尽くしていると、突然背中に強烈な衝撃が加えら...
涼宮ハルヒのドロップキックだった。
#br
「何しやがる、この」
「あんたこそ、何ボケっと突っ立ってるのよ!」
俺が文句を言おうとすると、いつもの威勢のいいハルヒの声...
「本当にアンタって男は!そうやって何回女の子を泣かせれば...
いや、泣かせた記憶なんて一度もないんだが。
「追いかけなさい!団長命令よ!」
い、いや、しかしだな…
#br
「有希はあんたに追いかけてきて欲しいのよ!そんなことも分...
#br
俺はハルヒの言葉が信じられなかった。言わんとしてる意味...
「お前…」
俺や朝比奈さんはもちろん、ハルヒ心理学スペシャリストの...
「だって有希は、貴重な無口キャラなのよ!私達の大切な仲間...
ハルヒの言葉は、俺が閉鎖空間で叫んだ言葉とよく似たもの...
「それにあたしは、有希のこと…」
ハルヒは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
#br
俺はようやく理解した。
もしかするとハルヒは、自分の深層心理がやったことを、無...
#br
「わかった、行ってくる」
「さっさと行け、バカキョン」
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俺は部室棟から出て、長門の姿を探しながら校門へと向かっ...
#br
行き先はどこだ?長門が行きそうなところといえば、まず自...
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長門の自宅から最寄の光陽園駅に差し掛かった時、見慣れた...
駄目もとのつもりで覗いてみると、見慣れたベンチに長門の...
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「長門!」
大声で呼びかけても、長門は座ったまま顔を向けようとしな...
「ここに居てくれてよかったよ。お陰で町中を探し回らずに済...
ベンチの側まで近寄った時、俺は異変に気づいて足を止めた。
#br
長門の表情はいつもと変わらない無表情だ。しかし…
長門の頬には、ひとすじの涙が流れていた。
#br
俺は動揺した。
涙は女の武器という言葉通り、長門の涙にも男心をくすぐる...
足を動かす事も言葉をかける事も忘れて眺めていると、長門...
#br
「何故来たの?あなたはここに来てはいけない」
視線を元に戻して事務的に言う長門の拒絶オーラに、俺は物...
「いいんだよ。俺がここに居るのは団長命令だ。この意味がわ...
長門はようやく顔を上げてくれた。やはり長門も信じられな...
「つまりお前がSOS団を辞める必要はなくなったんだ。もうどこ...
長門の瞳から大粒の涙がひとつ零れ落ちた。
このまま長門の涙を見続けていたら俺の男心がヤバいことに...
#br
「…泣くのは初めてか?」
俺が娘の成長を見守る父親のような口調で尋ねると、長門は...
「初めて泣いてみて、どんな気持ちになった?」
「…上手く言語化できない」
こういう時に堅い文語表現が出るあたり、多少の人間らしさ...
「あなたはどんな気持ちだった?」
「俺?」
「あなたは昨日、私の目の前で泣いていた。その時の気持ち」
いかん、忘れてた。昨日俺は泣いてるところを長門に思いっ...
「う…上手く言語化できない」
オウム返しでその場を凌ごうとする俺に長門のジト目が突き...
#br
「あ、そういえば…」
懸命に話題を逸らす俺だった。
「長門、昨日はありがとな。あんなへんぴな所までわざわざ助...
「私はあなたを守りきれなかった。お礼を言われる資格はない...
礼を言われるのに資格か、長門らしいが難しく考えすぎだ。...
「そんなことはない。もう充分すぎるほど助けられた」
「あなたの足も引っ張ってしまった」
「たまには俺にも助けさせろ。俺にも男のプライドってもんが...
「そう…」
それでいい。好意は素直に受け取るのが人情ってもんだ。
「なら私も、あなたに…」
長門は目線だけをそらして、頬を染めてこそいないが照れく...
「ありがとう」
言われた俺も照れくさかった。今のこの雰囲気はなんか色々...
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ふと、長門はベンチから腰を上げて、
「あなたに伝えなければいけないことがある」
ややかしこまった感じで言い出した。俺はつい襟を正して、...
#br
「誰かを好きになるという感情…」
おま、それをこの空気で言うか…
俺の動揺を他所に、長門は静かに語り出した。
「以前の私には分からなかった。でも、今の私にはわかる。
大切な人を失いかけて、初めて気づいた。
もっと側にいたいと願うこと。
何に代えても守りたいと思うこと。
いつも心の中から離れなくて、それでも想いを止められない...
長門の切なそうな細い声が、俺の心臓を高鳴らせた。
「今までの私の中にもあった感情…それらすべてが、きっと、人...
俺が硬直して何も言えなかったせいか、長門は『かもしれな...
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まったく、何をやっているんだ俺は。女に身を護られて、女...
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俺は小さな肩に手を置いて、長門と向き合った。
「長門、俺もお前に言う事がある」
澄んだ瞳が、まっすぐ俺を見つめている。
「以前の俺にはよくわからなかった。だが、今ならハッキリと...
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――ハルヒはここまでしろとは言わなかったが、まあいいだろう。
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頭の中をよぎった想いをなあなあに丸め込んで、ついでにも...
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「長門、お前のことが好きだ」
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長門は驚きの表情と共に頬を薄く紅潮させて、それから喜び...
そして俺は、あの長門と本当の長門、両者の違いを明確かつ...
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「やっぱりお前は眼鏡が無い方が可愛いぞ」
#br
長門の返事を待たずに肩を引き寄せて、唇を重ねた。
長門は体を一瞬強張らせたが、俺を受け入れてくれるかのよ...
瞳を閉じて感じる長門の感触は頼りないほどに小さくて、柔...
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これから俺達はどうなっていくのだろう。
ハルヒの目を盗みながら騙し騙し付き合っていくのだろうか。
今回ほどの惨事とはいかないまでも、また厄介事に巻き込ま...
まあ、それもいいだろう。
この先何があろうとも、俺の中で芽生えた確かな気持ちは揺...
それより今は、もうしばらくこのままでいさせてくれ。
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そんな事を思いながら油断していると、長門は俺の腰に腕を...
やるな、長門。
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長門有希の思考記録(抜粋)
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彼の腕の中は、包まれそうなくらいに大きくて、優しかった。
このままずっと甘えてもいいように思ってしまうほど。
でも彼は、この五感から感じられる生身の力しか持たない。
この非日常が支配する世界ではあまりに脆く、頼りない。
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だから、これからもこの儚い存在を守っていきたい。
私の中に芽生えた確かな気持ちと共に。
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心の中でそう誓って、彼を抱きしめた。
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−終−
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