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#navi(SS集)
#br
* 作品 [#k27f67ff]
** 概要 [#id7e84d6]
|~作者 |書き込めない人 |
|~作品名 |長門さんと夜景 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2007-05-08 (火) 19:01:46 |
** 登場キャラ [#u764163a]
//////////
|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#t90747f4]
//////////
#br
#setlinebreak(on)
まだ朝方には肌寒さを感じるが、
それでも暦の上でも季節的にも一番華やかな季節になったある...
古泉のワンペアに対し、容赦なくフルハウスを叩きつけていた...
もはや大変不本意ながら聞き慣れてしまった声が届いた。
#br
「ん〜、何かないかしらね〜」
#br
声の主は大変喜ばしくないことに、
まことに喜ばしくない声でそう言った。
#br
「……『何か』って何だ、『何か』って」
#br
「決まってるじゃない」
#br
手元の雑誌から顔を上げ、俺の方を向いたハルヒは、
まるで日曜に教会に行きますかと尋ねられた敬虔なキリスト教...
さも当然という風に答えた。
#br
#br
「あたしが『これは!?』って思えるようなことよ!!」
#br
#br
「……そうか」
#br
それなら今から紙に『これは!?』って書いて、
そいつを眺めればいい……
などとは口が4分割されても言えず、
仕方がないので俺は質問を変える事にした。
#br
「で、お前が穴が開かない程度に眺めてるその雑誌には、
そんな事物がないのか?
というか何読んでんだ、お前?」
#br
「ん〜、これ?デートコースマニュアルよ」
#br
「ブッ!?」
#br
盛大に噴出しそうになった。
もし朝比奈さんのお茶を飲んでる最中に聞いていたら、
目の前のエスパー少年のニヤケ面はおろか、
視界の片隅で黙々と読書する彫像と化している長門にまで被害...
#br
「ちょっとは面白い所が紹介されてるかと思ったけど、
てんで駄目ね。在り来たりすぎるわ。
もっとこう、いわくつきの場所とか、呪われた場所とか……」
#br
そんな所でデートするような人間はお前だけだ。
恋愛成就の曰くならともかく、
お前が探してるのは人外の者が活躍する曰くだろうしな。
#br
「ねぇ、有希もそう思わない?」
#br
そう言ってすぐ近くにいた長門に雑誌を手渡すハルヒ。
珍しく無口宇宙人の方もこの見た目も中身も薄っぺらい本に興...
俺に分かる程度に目を輝かせながら見ていた。
#br
「キョンも絶対有り得ないでしょうけど、万が一にもデートの...
千載一遇のチャンスで運良くやらせていただくことができたか...
こんな物なんかに頼っちゃ駄目だからね!」
#br
余計なお世話だ……と言いたい所だが、
俺の乏しい経験では頼りたくなるのは致し方ない気もする。
#br
「ま、まぁ、あえて言うならその雑誌の76ページの右下に載っ...
173ページの真ん中に載ってる市街地から外れたところにある公...
あんたと行くことになる優し〜い女の子も行ってあげない事も...
#br
そんなことを言われても、
俺はその雑誌を見ていないからよく分からん。
そもそもお前のセンスがその優しい女の子と合致するか分から...
#br
そんな感じのことを言うと、
何故かハルヒだけでなく古泉や朝比奈さんに睨まれたような、
ため息をつかれたような……一体何だってんだ?
#br
#br
#br
#br
#br
「……ここに興味がある」
#br
何故か少しだけ刺々しい視線が飛んでくる部屋に、
長門の声が響く。
#br
「ん?なんか気になるトコでもあったの?」
#br
そう言ってハルヒが長門が持っている雑誌を覗き込む。
何だ?またカマドウマでもいるのか?
#br
そう心配する俺とは反対に、
長門の指差す写真を見たハルヒが怪訝な顔をする。
#br
「ここ、って……これ夜景の写真よ?」
#br
いつの間にかハルヒだけではなく、
古泉と朝比奈さん、ついでに俺も長門の手元を覗き込んでいた。
#br
「わぁ〜素敵ですね〜」
#br
断食1ヶ月の苦行中でも幸せになれそうな声で、
朝比奈さんが言った。
#br
「そういえば、その辺りは夜景が有名でしたね」
#br
専属メイドさんに追随するように、
古泉が笑顔のまま言う。
#br
「う〜ん、デートの締めとしてはいいとは思うけど……
でもなんでそんなに興味があるの?」
#br
唇で山を作りながら、
不思議そうな声で尋ねるハルヒ。
確かに、夜景ならこの辺りでも、何ならこの北高でも、
充分に見られるからそこまで気にするようなこととは思えない。
#br
そんな疑問に、長門はどこぞのアナウンサーに見習ってもらい...
あっさりと答えを言った。
#br
#br
「写真では正確な明るさが分からない……だから実物が見たい」
#br
#br
#br
#br
#br
そんな訳で俺たちは今、
電車に乗って数十分の隣町までやってきた。
せっかく坂を下ってきたってのに、
今から駅から延々と続く上り坂を歩かねばならないらしい。
#br
「さて、有希の知的好奇心を満たすためにも歩くわよ!」
#br
「無駄に元気がいいのは結構なことだが、
目的地なんかは決まってるんだろうな?」
#br
「当たり前でしょ」
#br
そう言って鞄から紙束を取り出すハルヒ。
どうやら事前に地図をプリントアウトしていたらしい。
その行動力だけは素直に感心したいが、
周りの人間を巻き込むのだけは勘弁してくれないか。
#br
……まぁ、今回は長門のためだから許すが。
#br
#br
#br
#br
地図を持ったハルヒを先頭に、
俺たちはまるでアヒルの親子連れのように歩いていた。
#br
そういえばこの辺りには入るのがそれなりに難しい高校や大学...
入学前に勉学という苦労を、入学後にも上り坂という苦労を味...
少なからず憐憫の情を感じる。
いや、勉学と上り坂に加え、竜巻娘という苦労を味わう俺の方...
もちろん学問面では苦労が身を結ぶことなどなく、
むしろ苦労というほど苦労をするのは試験前の1週間だけという...
#br
そんなことをぼんやり考えていると、
ハルヒが突然立ち止まった。
#br
「う〜ん、ちょっとまだ明るいけど……大丈夫かな?」
#br
確かにもう既によい子はお家に帰る時間だというのに、
空が微妙に明るい。
普段は気付かないが、暦が進むにつれ、
それだけ日照時間が延びているのだろう。
#br
「まぁ、何とかなるだろう。まだ目的地まで距離はあるんだろ...
多少は待ってもいいだろ」
#br
「有希もそれでいい?」
#br
「いい……」
#br
俺の提案にコクリと頷く長門。
こいつなら時間を凍結させるなりして、
あっという間に夜中にすることも可能なんだろうが、
さすがにハルヒがいるところで使われるわけにも行かない。
そう思いながら俺たちは再び歩を進めることにした……
#br
#br
#br
#br
「ねぇ、有希ちょっと……」
#br
依然先頭をすたすた歩いていたハルヒが、
こちらも平然とした顔で歩く長門に声をかけた。
ちなみに俺も古泉も少し息が上がってきたし、
後方を歩く朝比奈さんにいたっては、
明日筋肉痛になるんじゃなかろうかといわんばかりに疲れてい...
#br
「なに?」
#br
「夜景を見る場所なんだけど……」
#br
何やらこちらを見ながら二人で話しているが、
何を話しているのかは聞き取れない。
#br
やがて、ハルヒが何事か言うと、
それに対し長門が頷いてまた二人で歩き出した。
#br
「……何の話をしてたんだ?」
#br
「別に〜」
#br
なんだ?
気味が悪いぞ。
#br
「場所を少し低めに決めただけ」
#br
「低め?何でまた?」
#br
そんな俺の疑問に答えることなく、
二人はさっさと歩いていってしまった。
#br
#br
#br
#br
しばらく歩いているうちに、
いつの間にかあたりは漆黒の闇に包まれていた。
秋の日は何とか落としとか言うが、
どうやら太陽というのは沈む時は一気に沈むものらしい。
#br
「もうちょっとで見えると思うんだけど」
#br
街灯の明かりで地図を見比べながら、
ハルヒが辺りを見回す。
この辺りからでは木や建物が邪魔をして夜景が見えない。
おそらくハルヒの言う『もうちょっと』の地点は開けた場所だ...
#br
「あっち……」
#br
そう言って長門が突然指をさす。
どうやらその方向が目的地らしい。
#br
「うん、そうみたいね!」
#br
そう言って二人で駆け出していく。
あれだけ上り坂を歩いて、まだ走れるのか……
二人の姿を眺めながらそう羨んでいると、
突然二人が急停止した。
#br
どうやら目的の場所に着いたらしい。
それほどの距離でもなさそうなので、
取り残されていた俺たち3人は、そちらに駆け寄って……
#br
#br
「おぉ……」
#br
「これはこれは……」
#br
「わぁ〜」
#br
#br
3者3様の感嘆を示した。
#br
#br
「きれい……」
#br
「……」
#br
#br
ハルヒが素直に賞賛し、
長門が黙ってそれに首肯する。
#br
なるほど、かつてこの景色を見た人が、
100万ドルの価値があると褒め称えたそうだが、
あながち間違っていない。
#br
むしろ写真を見て感動していた自分が情けなくなってくる。
人間の視覚は物を実際より大きく見せたり小さく見せたりする...
写真と違って現実と認識の間に乖離を作るそうだが、
これはそんな事抜きに素晴らしいものだろう。
#br
そして俺たちはしばらくの間、
この人工的なのに幻想的な光景を静かに眺めていた……
#br
いつも無表情な少女の顔が、
この景色みたいに煌いていた事もここに付記しておくことにし...
#br
#br
#br
#br
P.S.
#br
#br
#br
「ねぇ、有希。夜景のことなんだけどさ」
#br
「なに?」
#br
先頭を行く二人の少女が地図を見ながら話をしている。
#br
「やっぱり冬の方が空気が澄んでて綺麗に見えるらしいのよ」
#br
「……」
#br
「それでね……今日はこの『とっておきの場所』じゃなくて、
もう少し低いこっちのポイントに行きたいんだけど……」
#br
「どうして?」
#br
少しだけ怪訝そうな顔で尋ねる物静かな少女に、
もう一人の少女が顔を赤くしながら弁明をした。
#br
「いや、その、べ、別に深い意味はないのよ?
ただ、そういう所にはもっと雰囲気がある時にというか、
別に今の雰囲気が悪いって言ってるんじゃないんだからね?
でもやっぱり、ほら、こういうのって『相手』と二人で……」
#br
言いながらちらちらと後ろに視線をやる少女。
つられてもう一人の少女も視線をやる。
#br
「……」
#br
「有希?」
#br
「わかった、それでいい……」
#br
「じゃあ!」
#br
「ただし……」
#br
喜ぶ少女に、無表情の中に喜色を混ぜたような顔で、
もう一人の少女が『宣戦布告』をする……
#br
#br
#br
「その『相手』までは譲歩しない……」
#br
#br
#br
その言葉に一瞬呆気に取られた少女は、しかし、
眉を上げながら笑うという顔で、
望むところといわんばかりに頷いた……
//////////
#setlinebreak(default)
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#navi(SS集)
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* 作品 [#k27f67ff]
** 概要 [#id7e84d6]
|~作者 |書き込めない人 |
|~作品名 |長門さんと夜景 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2007-05-08 (火) 19:01:46 |
** 登場キャラ [#u764163a]
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|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#t90747f4]
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まだ朝方には肌寒さを感じるが、
それでも暦の上でも季節的にも一番華やかな季節になったある...
古泉のワンペアに対し、容赦なくフルハウスを叩きつけていた...
もはや大変不本意ながら聞き慣れてしまった声が届いた。
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「ん〜、何かないかしらね〜」
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声の主は大変喜ばしくないことに、
まことに喜ばしくない声でそう言った。
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「……『何か』って何だ、『何か』って」
#br
「決まってるじゃない」
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手元の雑誌から顔を上げ、俺の方を向いたハルヒは、
まるで日曜に教会に行きますかと尋ねられた敬虔なキリスト教...
さも当然という風に答えた。
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「あたしが『これは!?』って思えるようなことよ!!」
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「……そうか」
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それなら今から紙に『これは!?』って書いて、
そいつを眺めればいい……
などとは口が4分割されても言えず、
仕方がないので俺は質問を変える事にした。
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「で、お前が穴が開かない程度に眺めてるその雑誌には、
そんな事物がないのか?
というか何読んでんだ、お前?」
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「ん〜、これ?デートコースマニュアルよ」
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「ブッ!?」
#br
盛大に噴出しそうになった。
もし朝比奈さんのお茶を飲んでる最中に聞いていたら、
目の前のエスパー少年のニヤケ面はおろか、
視界の片隅で黙々と読書する彫像と化している長門にまで被害...
#br
「ちょっとは面白い所が紹介されてるかと思ったけど、
てんで駄目ね。在り来たりすぎるわ。
もっとこう、いわくつきの場所とか、呪われた場所とか……」
#br
そんな所でデートするような人間はお前だけだ。
恋愛成就の曰くならともかく、
お前が探してるのは人外の者が活躍する曰くだろうしな。
#br
「ねぇ、有希もそう思わない?」
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そう言ってすぐ近くにいた長門に雑誌を手渡すハルヒ。
珍しく無口宇宙人の方もこの見た目も中身も薄っぺらい本に興...
俺に分かる程度に目を輝かせながら見ていた。
#br
「キョンも絶対有り得ないでしょうけど、万が一にもデートの...
千載一遇のチャンスで運良くやらせていただくことができたか...
こんな物なんかに頼っちゃ駄目だからね!」
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余計なお世話だ……と言いたい所だが、
俺の乏しい経験では頼りたくなるのは致し方ない気もする。
#br
「ま、まぁ、あえて言うならその雑誌の76ページの右下に載っ...
173ページの真ん中に載ってる市街地から外れたところにある公...
あんたと行くことになる優し〜い女の子も行ってあげない事も...
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そんなことを言われても、
俺はその雑誌を見ていないからよく分からん。
そもそもお前のセンスがその優しい女の子と合致するか分から...
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そんな感じのことを言うと、
何故かハルヒだけでなく古泉や朝比奈さんに睨まれたような、
ため息をつかれたような……一体何だってんだ?
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「……ここに興味がある」
#br
何故か少しだけ刺々しい視線が飛んでくる部屋に、
長門の声が響く。
#br
「ん?なんか気になるトコでもあったの?」
#br
そう言ってハルヒが長門が持っている雑誌を覗き込む。
何だ?またカマドウマでもいるのか?
#br
そう心配する俺とは反対に、
長門の指差す写真を見たハルヒが怪訝な顔をする。
#br
「ここ、って……これ夜景の写真よ?」
#br
いつの間にかハルヒだけではなく、
古泉と朝比奈さん、ついでに俺も長門の手元を覗き込んでいた。
#br
「わぁ〜素敵ですね〜」
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断食1ヶ月の苦行中でも幸せになれそうな声で、
朝比奈さんが言った。
#br
「そういえば、その辺りは夜景が有名でしたね」
#br
専属メイドさんに追随するように、
古泉が笑顔のまま言う。
#br
「う〜ん、デートの締めとしてはいいとは思うけど……
でもなんでそんなに興味があるの?」
#br
唇で山を作りながら、
不思議そうな声で尋ねるハルヒ。
確かに、夜景ならこの辺りでも、何ならこの北高でも、
充分に見られるからそこまで気にするようなこととは思えない。
#br
そんな疑問に、長門はどこぞのアナウンサーに見習ってもらい...
あっさりと答えを言った。
#br
#br
「写真では正確な明るさが分からない……だから実物が見たい」
#br
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そんな訳で俺たちは今、
電車に乗って数十分の隣町までやってきた。
せっかく坂を下ってきたってのに、
今から駅から延々と続く上り坂を歩かねばならないらしい。
#br
「さて、有希の知的好奇心を満たすためにも歩くわよ!」
#br
「無駄に元気がいいのは結構なことだが、
目的地なんかは決まってるんだろうな?」
#br
「当たり前でしょ」
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そう言って鞄から紙束を取り出すハルヒ。
どうやら事前に地図をプリントアウトしていたらしい。
その行動力だけは素直に感心したいが、
周りの人間を巻き込むのだけは勘弁してくれないか。
#br
……まぁ、今回は長門のためだから許すが。
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地図を持ったハルヒを先頭に、
俺たちはまるでアヒルの親子連れのように歩いていた。
#br
そういえばこの辺りには入るのがそれなりに難しい高校や大学...
入学前に勉学という苦労を、入学後にも上り坂という苦労を味...
少なからず憐憫の情を感じる。
いや、勉学と上り坂に加え、竜巻娘という苦労を味わう俺の方...
もちろん学問面では苦労が身を結ぶことなどなく、
むしろ苦労というほど苦労をするのは試験前の1週間だけという...
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そんなことをぼんやり考えていると、
ハルヒが突然立ち止まった。
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「う〜ん、ちょっとまだ明るいけど……大丈夫かな?」
#br
確かにもう既によい子はお家に帰る時間だというのに、
空が微妙に明るい。
普段は気付かないが、暦が進むにつれ、
それだけ日照時間が延びているのだろう。
#br
「まぁ、何とかなるだろう。まだ目的地まで距離はあるんだろ...
多少は待ってもいいだろ」
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「有希もそれでいい?」
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「いい……」
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俺の提案にコクリと頷く長門。
こいつなら時間を凍結させるなりして、
あっという間に夜中にすることも可能なんだろうが、
さすがにハルヒがいるところで使われるわけにも行かない。
そう思いながら俺たちは再び歩を進めることにした……
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「ねぇ、有希ちょっと……」
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依然先頭をすたすた歩いていたハルヒが、
こちらも平然とした顔で歩く長門に声をかけた。
ちなみに俺も古泉も少し息が上がってきたし、
後方を歩く朝比奈さんにいたっては、
明日筋肉痛になるんじゃなかろうかといわんばかりに疲れてい...
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「なに?」
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「夜景を見る場所なんだけど……」
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何やらこちらを見ながら二人で話しているが、
何を話しているのかは聞き取れない。
#br
やがて、ハルヒが何事か言うと、
それに対し長門が頷いてまた二人で歩き出した。
#br
「……何の話をしてたんだ?」
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「別に〜」
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なんだ?
気味が悪いぞ。
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「場所を少し低めに決めただけ」
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「低め?何でまた?」
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そんな俺の疑問に答えることなく、
二人はさっさと歩いていってしまった。
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しばらく歩いているうちに、
いつの間にかあたりは漆黒の闇に包まれていた。
秋の日は何とか落としとか言うが、
どうやら太陽というのは沈む時は一気に沈むものらしい。
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「もうちょっとで見えると思うんだけど」
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街灯の明かりで地図を見比べながら、
ハルヒが辺りを見回す。
この辺りからでは木や建物が邪魔をして夜景が見えない。
おそらくハルヒの言う『もうちょっと』の地点は開けた場所だ...
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「あっち……」
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そう言って長門が突然指をさす。
どうやらその方向が目的地らしい。
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「うん、そうみたいね!」
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そう言って二人で駆け出していく。
あれだけ上り坂を歩いて、まだ走れるのか……
二人の姿を眺めながらそう羨んでいると、
突然二人が急停止した。
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どうやら目的の場所に着いたらしい。
それほどの距離でもなさそうなので、
取り残されていた俺たち3人は、そちらに駆け寄って……
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「おぉ……」
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「これはこれは……」
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「わぁ〜」
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3者3様の感嘆を示した。
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「きれい……」
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「……」
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ハルヒが素直に賞賛し、
長門が黙ってそれに首肯する。
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なるほど、かつてこの景色を見た人が、
100万ドルの価値があると褒め称えたそうだが、
あながち間違っていない。
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むしろ写真を見て感動していた自分が情けなくなってくる。
人間の視覚は物を実際より大きく見せたり小さく見せたりする...
写真と違って現実と認識の間に乖離を作るそうだが、
これはそんな事抜きに素晴らしいものだろう。
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そして俺たちはしばらくの間、
この人工的なのに幻想的な光景を静かに眺めていた……
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いつも無表情な少女の顔が、
この景色みたいに煌いていた事もここに付記しておくことにし...
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P.S.
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「ねぇ、有希。夜景のことなんだけどさ」
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「なに?」
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先頭を行く二人の少女が地図を見ながら話をしている。
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「やっぱり冬の方が空気が澄んでて綺麗に見えるらしいのよ」
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「……」
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「それでね……今日はこの『とっておきの場所』じゃなくて、
もう少し低いこっちのポイントに行きたいんだけど……」
#br
「どうして?」
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少しだけ怪訝そうな顔で尋ねる物静かな少女に、
もう一人の少女が顔を赤くしながら弁明をした。
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「いや、その、べ、別に深い意味はないのよ?
ただ、そういう所にはもっと雰囲気がある時にというか、
別に今の雰囲気が悪いって言ってるんじゃないんだからね?
でもやっぱり、ほら、こういうのって『相手』と二人で……」
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言いながらちらちらと後ろに視線をやる少女。
つられてもう一人の少女も視線をやる。
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「……」
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「有希?」
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「わかった、それでいい……」
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「じゃあ!」
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「ただし……」
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喜ぶ少女に、無表情の中に喜色を混ぜたような顔で、
もう一人の少女が『宣戦布告』をする……
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「その『相手』までは譲歩しない……」
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その言葉に一瞬呆気に取られた少女は、しかし、
眉を上げながら笑うという顔で、
望むところといわんばかりに頷いた……
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