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#navi(SS集)
#br
* 作品 [#xc6d66a9]
** 概要 [#e8e9cd37]
|~作者 |輪舞の人 |
|~作品名 |機械知性体たちの輪舞曲 第12話 ...
|~カテゴリー|長門SS（一般）|
|~保管日 |2007-01-25 (木) 21:18:49 |
** 登場キャラ [#vdb726b2]
//////////
|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |不登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |不登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |登場 |
|~喜緑江美里|登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#j653b04d]
//////////
#br
#setlinebreak(on)
#br
『当該対象の個体記録は抹消済み』
#br
―ある情報端末の記録―
#br
#br
本を閉じる。わたしのその行為が合図。
彼と朝比奈みくるは立ち上がり、帰宅の準備を開始した。
時刻１７:２８。夕暮れ。今日の日没時の光景はひどく赤い。
彼はそんな風に赤く染まった部室を出てゆく。何も知らない...
彼が部屋を出てすぐ、朝比奈みくるは更衣の変更を始めてい...
わたしは無言のままドアへ向かって歩き出す。隣を通り過ぎ...
しかし、何かに怯えるように身をすくめてしまう。
わたしの態度に変化はないはずなのに、と考える。
表情など、わたしにはないのに。何が違うというのだろう。
#br
#br
わたしが彼女を、今日、消滅させる。
その事によって彼は、わたしのあの言葉への理解と、自身の...
ひとつの存在の消失と引き換えに得られる、信頼。
だが、そうでなければ、閉鎖空間の中にいる彼へ、わたしの...
そう定められている。もはや避けられないのだろう。
公園のベンチで、おぼろげに実感していた恐怖。
彼女の消滅を対価とした、彼と世界の存続。わたしには選ぶ...
#br
だから世界が続いていくために。彼を守るために。
わたしはあなたを、今日、この手で消し去る。
もう昨日の夜に、それは決めていた。
誰の助けもないのだから。
#br
廊下に出た直後、微弱な空間振動を検知。情報封鎖が一部欠...
#br
――始まった。
#br
これにより状況は確定。発生確認から正確に四百八十五秒後...
生成するのはセカンダリ・デバイス。S-02B、特殊端末群第二...
パーソナルネーム、朝倉涼子。
わたしはその空間生成の完成を確認後、八十五秒後に強制侵...
まだ十分近くある。
わたしの部屋に残された「彼ら」のための、エマージェンシ...
現時点でプラントが許す最大容量の攻性情報因子生成を開始...
統合思念体より状況の説明を要求される。
#br
（急進派端末による、任務の逸脱と独走の可能性が急速に上昇）
（現在までに91％を超えて、なお増大中）
（それに伴い、準観測対象に対する機能停止の危険性きわめて...
（セカンダリ・デバイスに対する抑制行動の許可を）
#br
『許可する』
#br
わたしは少しだけ早歩きで一年五組の「上」へ移動を開始。
きわめて微弱だが、そこから空間振動の残留を認める。ここ...
旧館。部室棟の階段を降り、本校舎に入ったところで、わた...
初めて出会う人物。やわらかく揺れる髪。穏やかな笑みを浮...
#br
「ご健闘を」
#br
通りすがりざまに、彼女は小さく言った。
ここで「出会うはずがなかった」、彼女。
#br
またあの現象。時間の上書きが始まっている。
こんな時に。
そう、こんな時に。
わたしは疾走しながら、その事実に気づき、さらに加速する。
最後に突然訪れた、最大の機会。
#br
――未来が変えられるかもしれない。
#br
第三の特殊情報端末。パーソナルネーム「喜緑江美里」の存...
#br
#br
一年五組。「上面部」に到達。時刻は規定時刻よりも三十秒...
変えられる。このまま突入し、強制的に彼女を無力化できる...
もう、あの縛られたような思考は感じない。完全に自由に動...
理由は不明。でも、おそらく今が最後のチャンス。逃したく...
制御空間への強制介入開始。自身の空間侵入と同時に、プラ...
防壁の初期展開、三十二層までを確認。突入。
#br
突入――できない？
#br
空間の封鎖。空間内部からの強制遮断を確認。
まさか。規定事項では、自分は上面部の封鎖が未完了の場所...
いや、それはもはや「規定事項」ではない。何という事。明...
急いで他の侵入可能経路を探査。これではまったく逆。
間に合わなくなる。
一年五組の廊下側、側面部に、ごく僅かな手がかりとなりそ...
時間が足りない。先ほどまでの、未来の改変への期待は完全...
今度は焦燥感がわたしを急きたてる。
#br
――あーあ。失敗？
うるさい。こんな時に。
#br
階段を急いで駆け下り「側面部」該当位置へ。行動再開。
突入開始。先に組み上げたシークエンスを、再実行。急がな...
情報制御空間へ侵入を開始。時間が、妙に早く流れているよ...
#br
#br
強行突破。突入と同時に攻性情報因子を放つ。
わたしの空間侵入の余波を受けて爆散する教室の外壁だった...
その粉塵の中に、硬直している彼。
急速に接近していた朝倉涼子。彼に対して、突きつけるもの。
機能停止のための刃。ヒトの命を刈り取るもの。
わたしはそれを、まったく余裕のないいまま手につかみ取る。
彼の首筋近くにまで来ていた冷たい金属は、その動きを止め...
ここまで来て状況展開に変化がないなんて。どういうこと。
いや。上書きでは、ないのかもしれない。
記憶が、改ざんされている――？
少しずつぼやけていく思考。どっち。
#br
「……長門？」
彼の言葉。損傷はまだ、ない。
間に合った。わたしは緊張の中、安堵する自分に気づく。
ナイフをつかんだ右手から滴り落ちる血液。記憶のままのも...
「……邪魔する気？」
それに対して、彼女の唖然としたような声。彼女もナイフを...
#br
とうとうこの時がきた。三年前のあなたの突然の裏切りの発...
もうあなたの真意を確認する時間はない。
これから、わたしは彼を守るために、与えられた能力すべて...
結局、事態に変化はない。時間の上書きがあっても、変わら...
大きな枠では、変化させる事ができない。この状況はそれを...
#br
わたしは朝倉涼子の言葉に反駁する。
また無駄な事なのかも知れない。
言いたい事も、再び上書きされてしまうのではないか、とは...
だが。
「……どういう事」
……まさか。
本当に言えた。ここに来て規定事項外の、あの記憶外の言葉。
初めての事だった。
もしかしたら、やれるのかもしれない。
「わたしの指揮権限下にあるあなたの独断専行。それが許され...
「間に合うって、何に？」
「あなたが、死ななくて済む」
「死ぬ？ わたしが」
朝倉涼子はナイフを握り締めたまま、笑う。何て冷たい笑い...
「あなたが言うの。何も知らないくせに。死って、どういう事」
「あなたが、わたしに教えたはず」
「彼が死ねば、涼宮ハルヒは必ず、なんらかのアクションを起...
彼女はナイフをねじり取ろうと力を込める。
「……そんな事は、させない」
「この情報制御空間内で勝てると、本気で考えてるの？」
わたしはナイフを強く握り返す。このナイフは危険。わたし...
「――情報結合の解除を申請する」
ナイフをただちに結合解除。
しかし、これではいけないのでは。まったく同じ展開に戻り...
そして、それを見た彼女は後ろに――飛ばない。
結晶化していくナイフをすぐ横に放り投げると同時に、この...
ナイフが消えた右手の平に、収束する空間粒子。結合すると...
そのまま横なぎにわたしと彼を襲う。
わたしは完全に混乱している。一致しているようで、してい...
彼女の次の行動が、読めない。
わたしは体をひねりざま、彼を抱えるように刀の横撃を回避...
彼の上に覆いかぶさるように倒れる。彼のくぐもったような...
彼が頭を抑えながら、苦悶の声をあげる。
「……どうなってんだ、これは。長門」
「話は後」
そんな余裕は本当にない。次の瞬間には、投射された槍の重...
朝倉涼子はそれと同時に、今度こそ後ろへ跳躍。わたしは左...
わたしは急いで彼の側に、かばう様に立ち上がる。
状況がまったく読めない。焦りを感じる。
このままでは彼に危害が及ぶ。
もう決めた事だった。
#br
――情報戦闘モードを、ターミネート（抹殺）モードへ部分移...
#br
「やっと本気？」
朝倉涼子は薄く笑う。
「でも、あなたの機能停止の方が早いわ」
#br
さらに彼女の両手から飛翔する四本の粒子結晶の槍。今度の...
同時に発生する爆風と舞い散る結晶に、うめくように身を屈...
今は、耐えて。言葉には出ない。
物理攻撃。「今回」もそうなのか。わたしをそんな手段で倒...
同じインターフェイスが、そんなもので決戦するなんてあり...
「そいつをかばいながら、いつまで持つかしら」
朝倉涼子の声。両手を広げて宣言するかのように、言い放つ。
その直後。彼女の高速言語。こんな時に、何を。
#br
――キョン君の事、好きなんでしょ。わかってるって。
#br
……何？ 何を言っているの？
また、欺くためのもの？
同期した記憶に……こんな言葉は含まれていないのに。
#br
そんな混乱しているわたしへ、攻撃が再開。
「――これでは、どう？」
次も違う。物理飽和攻撃。周囲の教室施設の残骸が、変成を...
まるで津波のような巨大な壁が立ちはだかり、取り囲むよう...
ただの壁ではない。逃げ道が完全に消失。まるでドームのよ...
明らかにわたしの記憶と違う。まったく未知の攻撃手段。全...
多重質量でそのまま押しつぶすつもりか。
ただ、それでわたしを無効化できるという、その考えが理解...
いくら物理攻撃で押してきても、わたしにはそれに対抗でき...
第一、我々はこんな攻撃で機能停止に至ることはあり得ない。
#br
わたしの放った攻性因子の浸透状況はすでに九割を超えてい...
朝倉涼子の攻性防壁はあまりにも脆弱。わたしの放った攻性...
わたしはただ、あなたの攻撃をかわし続け、時間稼ぎをして...
このまま攻性情報が内部に浸透し、結合すれば、有機情報結...
#br
……時間稼ぎ。
あまりに妙な違和感が、今の状況の異様さを考えさせる。
誰にとっての「時間稼ぎ」。
そんな思考は、殺到する「ドーム状の壁」の到来に封じられ...
重い圧迫感。衝撃からかばうように、両手で彼を抱き抱える...
集中しなければ。自分は保ったとしても、生身の彼にダメー...
壁が崩壊の後、さらに爆散。轟音と共に飛び散る破片。
状態が沈静化する間もなく、今度は天井部に異常。視界が悪...
#br
――いけない。別の思考に気を取られすぎた。油断してしまっ...
――同じ事が始まろうとしている。
#br
上方から落下する、相当数の槍。
わたしは跳躍し、上天の槍の弾幕を迎撃。
そして完全な無防備になった彼に対して、新たに生成された...
#br
――同じだ。
#br
間に合わない。わたしは彼の前に降り立ち、その槍から彼を...
シールドの展開すらも間に合わない、多重複合攻撃。これを...
背中から串刺しの槍。
貫かれた衝撃で、かけていた眼鏡が、落下する。
#br
――ここまで来て。
#br
飛び散るわたしの体液。赤い、血。彼の顔にも。
機能停止ではない。でも物理攻撃を繰り返されると、これ以...
#br
――だから、仕方のない事だった。これから起こる事は。
#br
「長門！」
彼の言葉。でもだいじょうぶだから。あなたは心配しないで...
「へいき」
すべて、わたしのミス。
身体ダメージなどはいくらでも軽減できる。多少の時間はか...
でも、このような状態のままでは、自分に対する攻撃は無効...
そして次に続く、彼女の不可解な言葉。
「それだけダメージを受けたら、他の情報に干渉する余裕はな...
彼女のとどめの宣告なのだろう。でも意味はないと思う。な...
「死になさい」
やっぱり、改めて、聞きたくなかった言葉だと思う。
#br
次の瞬間に、わたしの内臓は食い破られるように、彼女の両...
あなたと初めて出会ったあの夜に、わたしの頬を撫でてくれ...
その手と同じと思うには、あまりにも冷たくて、痛い。
わたしは、そう、ぼんやりと感じていた。
#br
このまま機能停止しても悪くないのかも。そう思えるくらい...
それはとても、痛いものだった。
#br
#br
―第12話 終―
#br
#br
SS集/475へ続く
#br
#br
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#setlinebreak(default)
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終了行:
#navi(SS集)
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* 作品 [#xc6d66a9]
** 概要 [#e8e9cd37]
|~作者 |輪舞の人 |
|~作品名 |機械知性体たちの輪舞曲 第12話 ...
|~カテゴリー|長門SS（一般）|
|~保管日 |2007-01-25 (木) 21:18:49 |
** 登場キャラ [#vdb726b2]
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|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |不登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |不登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |登場 |
|~喜緑江美里|登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#j653b04d]
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#setlinebreak(on)
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『当該対象の個体記録は抹消済み』
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―ある情報端末の記録―
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#br
本を閉じる。わたしのその行為が合図。
彼と朝比奈みくるは立ち上がり、帰宅の準備を開始した。
時刻１７:２８。夕暮れ。今日の日没時の光景はひどく赤い。
彼はそんな風に赤く染まった部室を出てゆく。何も知らない...
彼が部屋を出てすぐ、朝比奈みくるは更衣の変更を始めてい...
わたしは無言のままドアへ向かって歩き出す。隣を通り過ぎ...
しかし、何かに怯えるように身をすくめてしまう。
わたしの態度に変化はないはずなのに、と考える。
表情など、わたしにはないのに。何が違うというのだろう。
#br
#br
わたしが彼女を、今日、消滅させる。
その事によって彼は、わたしのあの言葉への理解と、自身の...
ひとつの存在の消失と引き換えに得られる、信頼。
だが、そうでなければ、閉鎖空間の中にいる彼へ、わたしの...
そう定められている。もはや避けられないのだろう。
公園のベンチで、おぼろげに実感していた恐怖。
彼女の消滅を対価とした、彼と世界の存続。わたしには選ぶ...
#br
だから世界が続いていくために。彼を守るために。
わたしはあなたを、今日、この手で消し去る。
もう昨日の夜に、それは決めていた。
誰の助けもないのだから。
#br
廊下に出た直後、微弱な空間振動を検知。情報封鎖が一部欠...
#br
――始まった。
#br
これにより状況は確定。発生確認から正確に四百八十五秒後...
生成するのはセカンダリ・デバイス。S-02B、特殊端末群第二...
パーソナルネーム、朝倉涼子。
わたしはその空間生成の完成を確認後、八十五秒後に強制侵...
まだ十分近くある。
わたしの部屋に残された「彼ら」のための、エマージェンシ...
現時点でプラントが許す最大容量の攻性情報因子生成を開始...
統合思念体より状況の説明を要求される。
#br
（急進派端末による、任務の逸脱と独走の可能性が急速に上昇）
（現在までに91％を超えて、なお増大中）
（それに伴い、準観測対象に対する機能停止の危険性きわめて...
（セカンダリ・デバイスに対する抑制行動の許可を）
#br
『許可する』
#br
わたしは少しだけ早歩きで一年五組の「上」へ移動を開始。
きわめて微弱だが、そこから空間振動の残留を認める。ここ...
旧館。部室棟の階段を降り、本校舎に入ったところで、わた...
初めて出会う人物。やわらかく揺れる髪。穏やかな笑みを浮...
#br
「ご健闘を」
#br
通りすがりざまに、彼女は小さく言った。
ここで「出会うはずがなかった」、彼女。
#br
またあの現象。時間の上書きが始まっている。
こんな時に。
そう、こんな時に。
わたしは疾走しながら、その事実に気づき、さらに加速する。
最後に突然訪れた、最大の機会。
#br
――未来が変えられるかもしれない。
#br
第三の特殊情報端末。パーソナルネーム「喜緑江美里」の存...
#br
#br
一年五組。「上面部」に到達。時刻は規定時刻よりも三十秒...
変えられる。このまま突入し、強制的に彼女を無力化できる...
もう、あの縛られたような思考は感じない。完全に自由に動...
理由は不明。でも、おそらく今が最後のチャンス。逃したく...
制御空間への強制介入開始。自身の空間侵入と同時に、プラ...
防壁の初期展開、三十二層までを確認。突入。
#br
突入――できない？
#br
空間の封鎖。空間内部からの強制遮断を確認。
まさか。規定事項では、自分は上面部の封鎖が未完了の場所...
いや、それはもはや「規定事項」ではない。何という事。明...
急いで他の侵入可能経路を探査。これではまったく逆。
間に合わなくなる。
一年五組の廊下側、側面部に、ごく僅かな手がかりとなりそ...
時間が足りない。先ほどまでの、未来の改変への期待は完全...
今度は焦燥感がわたしを急きたてる。
#br
――あーあ。失敗？
うるさい。こんな時に。
#br
階段を急いで駆け下り「側面部」該当位置へ。行動再開。
突入開始。先に組み上げたシークエンスを、再実行。急がな...
情報制御空間へ侵入を開始。時間が、妙に早く流れているよ...
#br
#br
強行突破。突入と同時に攻性情報因子を放つ。
わたしの空間侵入の余波を受けて爆散する教室の外壁だった...
その粉塵の中に、硬直している彼。
急速に接近していた朝倉涼子。彼に対して、突きつけるもの。
機能停止のための刃。ヒトの命を刈り取るもの。
わたしはそれを、まったく余裕のないいまま手につかみ取る。
彼の首筋近くにまで来ていた冷たい金属は、その動きを止め...
ここまで来て状況展開に変化がないなんて。どういうこと。
いや。上書きでは、ないのかもしれない。
記憶が、改ざんされている――？
少しずつぼやけていく思考。どっち。
#br
「……長門？」
彼の言葉。損傷はまだ、ない。
間に合った。わたしは緊張の中、安堵する自分に気づく。
ナイフをつかんだ右手から滴り落ちる血液。記憶のままのも...
「……邪魔する気？」
それに対して、彼女の唖然としたような声。彼女もナイフを...
#br
とうとうこの時がきた。三年前のあなたの突然の裏切りの発...
もうあなたの真意を確認する時間はない。
これから、わたしは彼を守るために、与えられた能力すべて...
結局、事態に変化はない。時間の上書きがあっても、変わら...
大きな枠では、変化させる事ができない。この状況はそれを...
#br
わたしは朝倉涼子の言葉に反駁する。
また無駄な事なのかも知れない。
言いたい事も、再び上書きされてしまうのではないか、とは...
だが。
「……どういう事」
……まさか。
本当に言えた。ここに来て規定事項外の、あの記憶外の言葉。
初めての事だった。
もしかしたら、やれるのかもしれない。
「わたしの指揮権限下にあるあなたの独断専行。それが許され...
「間に合うって、何に？」
「あなたが、死ななくて済む」
「死ぬ？ わたしが」
朝倉涼子はナイフを握り締めたまま、笑う。何て冷たい笑い...
「あなたが言うの。何も知らないくせに。死って、どういう事」
「あなたが、わたしに教えたはず」
「彼が死ねば、涼宮ハルヒは必ず、なんらかのアクションを起...
彼女はナイフをねじり取ろうと力を込める。
「……そんな事は、させない」
「この情報制御空間内で勝てると、本気で考えてるの？」
わたしはナイフを強く握り返す。このナイフは危険。わたし...
「――情報結合の解除を申請する」
ナイフをただちに結合解除。
しかし、これではいけないのでは。まったく同じ展開に戻り...
そして、それを見た彼女は後ろに――飛ばない。
結晶化していくナイフをすぐ横に放り投げると同時に、この...
ナイフが消えた右手の平に、収束する空間粒子。結合すると...
そのまま横なぎにわたしと彼を襲う。
わたしは完全に混乱している。一致しているようで、してい...
彼女の次の行動が、読めない。
わたしは体をひねりざま、彼を抱えるように刀の横撃を回避...
彼の上に覆いかぶさるように倒れる。彼のくぐもったような...
彼が頭を抑えながら、苦悶の声をあげる。
「……どうなってんだ、これは。長門」
「話は後」
そんな余裕は本当にない。次の瞬間には、投射された槍の重...
朝倉涼子はそれと同時に、今度こそ後ろへ跳躍。わたしは左...
わたしは急いで彼の側に、かばう様に立ち上がる。
状況がまったく読めない。焦りを感じる。
このままでは彼に危害が及ぶ。
もう決めた事だった。
#br
――情報戦闘モードを、ターミネート（抹殺）モードへ部分移...
#br
「やっと本気？」
朝倉涼子は薄く笑う。
「でも、あなたの機能停止の方が早いわ」
#br
さらに彼女の両手から飛翔する四本の粒子結晶の槍。今度の...
同時に発生する爆風と舞い散る結晶に、うめくように身を屈...
今は、耐えて。言葉には出ない。
物理攻撃。「今回」もそうなのか。わたしをそんな手段で倒...
同じインターフェイスが、そんなもので決戦するなんてあり...
「そいつをかばいながら、いつまで持つかしら」
朝倉涼子の声。両手を広げて宣言するかのように、言い放つ。
その直後。彼女の高速言語。こんな時に、何を。
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――キョン君の事、好きなんでしょ。わかってるって。
#br
……何？ 何を言っているの？
また、欺くためのもの？
同期した記憶に……こんな言葉は含まれていないのに。
#br
そんな混乱しているわたしへ、攻撃が再開。
「――これでは、どう？」
次も違う。物理飽和攻撃。周囲の教室施設の残骸が、変成を...
まるで津波のような巨大な壁が立ちはだかり、取り囲むよう...
ただの壁ではない。逃げ道が完全に消失。まるでドームのよ...
明らかにわたしの記憶と違う。まったく未知の攻撃手段。全...
多重質量でそのまま押しつぶすつもりか。
ただ、それでわたしを無効化できるという、その考えが理解...
いくら物理攻撃で押してきても、わたしにはそれに対抗でき...
第一、我々はこんな攻撃で機能停止に至ることはあり得ない。
#br
わたしの放った攻性因子の浸透状況はすでに九割を超えてい...
朝倉涼子の攻性防壁はあまりにも脆弱。わたしの放った攻性...
わたしはただ、あなたの攻撃をかわし続け、時間稼ぎをして...
このまま攻性情報が内部に浸透し、結合すれば、有機情報結...
#br
……時間稼ぎ。
あまりに妙な違和感が、今の状況の異様さを考えさせる。
誰にとっての「時間稼ぎ」。
そんな思考は、殺到する「ドーム状の壁」の到来に封じられ...
重い圧迫感。衝撃からかばうように、両手で彼を抱き抱える...
集中しなければ。自分は保ったとしても、生身の彼にダメー...
壁が崩壊の後、さらに爆散。轟音と共に飛び散る破片。
状態が沈静化する間もなく、今度は天井部に異常。視界が悪...
#br
――いけない。別の思考に気を取られすぎた。油断してしまっ...
――同じ事が始まろうとしている。
#br
上方から落下する、相当数の槍。
わたしは跳躍し、上天の槍の弾幕を迎撃。
そして完全な無防備になった彼に対して、新たに生成された...
#br
――同じだ。
#br
間に合わない。わたしは彼の前に降り立ち、その槍から彼を...
シールドの展開すらも間に合わない、多重複合攻撃。これを...
背中から串刺しの槍。
貫かれた衝撃で、かけていた眼鏡が、落下する。
#br
――ここまで来て。
#br
飛び散るわたしの体液。赤い、血。彼の顔にも。
機能停止ではない。でも物理攻撃を繰り返されると、これ以...
#br
――だから、仕方のない事だった。これから起こる事は。
#br
「長門！」
彼の言葉。でもだいじょうぶだから。あなたは心配しないで...
「へいき」
すべて、わたしのミス。
身体ダメージなどはいくらでも軽減できる。多少の時間はか...
でも、このような状態のままでは、自分に対する攻撃は無効...
そして次に続く、彼女の不可解な言葉。
「それだけダメージを受けたら、他の情報に干渉する余裕はな...
彼女のとどめの宣告なのだろう。でも意味はないと思う。な...
「死になさい」
やっぱり、改めて、聞きたくなかった言葉だと思う。
#br
次の瞬間に、わたしの内臓は食い破られるように、彼女の両...
あなたと初めて出会ったあの夜に、わたしの頬を撫でてくれ...
その手と同じと思うには、あまりにも冷たくて、痛い。
わたしは、そう、ぼんやりと感じていた。
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このまま機能停止しても悪くないのかも。そう思えるくらい...
それはとても、痛いものだった。
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―第12話 終―
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SS集/475へ続く
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