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#navi(SS集)
#br
* 作品 [#ve0e207d]
** 概要 [#t93a2231]
|~作者 |ながといっく |
|~作品名 |ほしふり(前編) |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2010-08-07 (土) 15:48:49 |
** 登場キャラ [#ufe2dcdf]
//////////
|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#i854d6e0]
//////////
#br
#setlinebreak(on)
俺のあずかり知らぬところで世界が分裂し、片方の世界では...
お天気キャスターは毎日のようにオレンジ色の太陽マークを...
そんな、夏の日の出来事だった。
#br
公立校たる北高の校舎でクーラーが完備されているのは職員...
こういうときは居眠りでもして暑さをやり過ごすのが一番な...
おいおい、お前の成績は上り調子だったんじゃないのか?と...
ところが、俺の好成績を見て自己の教育能力に満足したのか...
結局のところ、俺は強制力を行使されない限り、自分から勉...
ともかく、俺の成績は再び下降線を辿り、中間テストにおい...
そうなってしまえば、当然SOS団の活動には支障をきたすこと...
#br
さて、ここまで長々と天気やら神様に愚痴ってきたわけだが...
『悪夢』である。
春が過ぎた頃から見始めたその夢は、徐々にその頻度を増し...
#br
何時で何処なのかも解らないモノクロの空間で、俺は絶体絶...
だが、どんなピンチであっても、俺はいつだってギリギリの...
俺の身代わりとなって。
夢の終わりはいつも同じで、長門が俺の腕の中で徐々に光の...
まあ、大体こんな感じだ。
#br
いくら夢とはいえ、目の前で長門が消える様を見せつけられ...
自分でも気にしすぎだとは思う。現実の長門は健在で、部室...
#br
去年の冬。長門が、初めて自らの感情と願望を爆発させたあ...
涼宮ハルヒの観察などという、俺だったらたとえ時給三千円...
そんな無茶苦茶な現実に嫌気がさした長門が世界ごと変えて...
だからこそ、俺はあの日、長門に頼りすぎないこと、長門の...
だが、現実はそう上手くはいかない。
雪山での遭難、未来からの指令、犬の幽霊騒ぎ、春の分裂事...
もう一つ、気になるのが長門の変化だ。
あの冬の事件以降、長門は俺達を守るという意思を頻繁に見...
もちろん、それ自体は喜ばしいことだが、長門が前にもまし...
そんな長門に、いつしか俺は一抹の不安を抱くようになって...
#br
長門を失うことへの不安を。
#br
……正夢じゃ、ないよな?
#br
授業を終え、逃げるように教室を去っていく日本史教師の後...
「今日は放課後すぐに部室に集合ね」
涼宮ハルヒが、ただでさえ発光過多なその瞳を、更にいつも...
「眠気覚ましよ、感謝なさい」
「誰がするか。で、なんだって?」
「今日は寄り道しないで部室に向かうこと。いいわね?」
「いつもそうしてるだろうが」
やる気無く言うと、ハルヒは眉間に皺を寄せ、
「あたしは今日の事を言ってるの。あんたがいつもどうしてる...
どうせなら俺が今日がどうするかにも無関心であってほしい...
「解ったよ、なるべく早く行くようにするさ」
従順な団員に気を良くしたのか、ハルヒは満足げに、
「良い心がけね。団長直々に褒めてあげるわ」
「どうも。お前にお褒めの言葉を頂いてもあんまり嬉しくない...
「じゃあ何? 頭でも撫でてほしいの? 古泉くんみ...
随分と失礼なことを言いやがる。俺だってお前みたいな母性...
「何ボケっとしてんのよ」
朝比奈さんに撫でられながら長門を撫でるという極上の妄想...
「まさか本気にしてる? 言っとくけど、あたしは部下を...
繰り返し言うが、お前に撫でてもらいたくも育ててもらいた...
「そんな性癖は持ちあわせてねーよ」
「そう? 別に遠慮しなくてもいいのに」
「全力で遠慮させてもらう」
「あっそ」
興味が失せたようにそう言い捨て、しばらく窓の外を眺めて...
「弁当箱にカマドウマの死体が入ってたような顔してるわよ、...
どんな顔だそれは。
「この暑さだからな。夏バテかもしれん」
本当のことは言わなかった。例え夢の中の話だろうが、団員...
「ふーん」
明らかに納得していない様子だったが、これ以上追及するつ...
「まあいいわ。とにかく今日は大事な日なんだから放課後まで...
#br
そう、ハルヒが今日中ずっと目を輝かせていた理由は今日の...
あらゆる行事を徹底的に楽しまなければ気が済まないという...
七月七日、七夕である。
#br
睡魔に屈することなく無事に放課後を迎えた俺は、ダラダラ...
ハルヒの命令通り寄り道はしない。別に忠実な団員でありた...
ちなみにハルヒは終業のチャイムが鳴るやいなや、鞄を俺に...
去年の七夕では、激しい感情の起伏を見せて俺を戸惑わせた...
#br
老朽化のせいなのか、部室棟は教室よりも一段上の灼熱地獄...
しかし、こんな暑さの中、何の成果もない団活に励まなけれ...
もちろんノックは忘れない。この行程を省略すれば、週に一...
それに、長門だって――いや、長門は何とも思わないかもしれ...
#br
ドアの向こうからの返事はなかった。
この時点でハルヒ、朝比奈さん、古泉がいないことが確定す...
#br
「よう、長門」
#br
――長門有希がいるかのいずれかということになる。
#br
窓際の指定席にて、見慣れた制服姿で読書に勤しむ長門。そ...
「……」
長門は無言で目礼を返し、膝元の書籍に視線を戻した。安堵...
それにしても、この暑さでも汗一つかかないんだな。いや、...
二人分の鞄を机に置き、適当な椅子に座る。普段なら誰かが...
「長門」
「なに」
先程と同様、顔だけをこちらに向けて答える長門。必要最小...
「最近、どうだ?」
長門は何を聞いているのかわからないとでも言いたげな無表...
「どう、とは」
「あー……ほら、冬や春みたいに敵の宇宙人に攻撃されたりとか」
あれは攻撃じゃなくて挨拶みたいなものだったらしいが。
「天蓋領域による攻撃、あるいは接触は今のところ感知してい...
長門は淡々と答えた。少しだけ安心する。
「そうか。ならいいんだ。読書の邪魔をして悪かったな」
これで会話は打ち切りと思いきや、今度は長門から問いが飛...
「なぜ?」
不意を突かれ固まる俺。
「あなたの質問の意図が知りたい」
暑さとは無縁の涼しげな瞳でじっと見つめる長門。いつの間...
「えーと、だな……」
言葉に詰まる。
長門が消える夢を見たなどと、当の本人に言ってしまって良...
発する言葉を見つけられないでいると、
「ごっめーん!」
豪快な叫び声とともに、ハルヒが竹を担いで部室に飛び込ん...
「あー疲れた。竹林ってなんであんなに暑いわけ? 竹や...
絶対違う。
「でも、去年より立派な竹を持ってこれたし、苦労のかいがあ...
盗人猛々しいを地で行く竹泥棒ハルヒは、得意満面の笑みを...
「ねえ、みくるちゃんと古泉くんはまだ? 今日は特大イ...
ここでようやく、俺と長門が会話中だったことに気付いたら...
「あんた達、見つめあって何してたの?」
「何でもねえよ。ちょっと世間話してただけだ」
「そうなの、有希?」
俺は無視かよ。
問いかけられた長門はゆっくりと頷き、
「そう。彼がわたしの体調について尋ねてきたので、それに答...
「有希の体調?」
ハルヒの顔が曇る。冬(洋館のアレは夢ということになった...
「ああ、春のこともあったから心配でな。今は何ともないらし...
適当にフォローを入れる。俺の意図とは少々違うが、長門が...
ハルヒは腕を組んで考えるような仕草をし、
「うん、有希は一人で貯め込んじゃいそうだしね」と呟いた。
昨年の冬を思いだし、ぐっと胸が締め付けられる。ハルヒ、...
「有希、何かあったらあたしでもキョンでもいいから、遠慮し...
優しげな声で長門を気遣うハルヒ。まったく、根はやさしい...
「わかった」と頷く長門。
それで満足したのか、ハルヒはいつものハルヒに戻ってしま...
「まったく、キョンが紛らわしいせいで変に疑っちゃったじゃ...
何をどう疑ったと言うんだ。
「てっきり、熱で頭やられたあんたが有希に手出そうとしてる...
「誰が熱病だ。変な言いがかり付けるんじゃねえ」
「どうだか」
そそくさと長門に近寄るハルヒ。
何のつもりかと思えば、ハルヒは長門の耳元に口を寄せてこ...
「有希、キョンには気を付けた方がいいわよ。普段はみくるち...
なんて野郎だ。長門が本気にしたらどうする。どうやらハル...
「長門、耳を貸すな。デタラメだ」
誓って言えるが、俺は長門に変な下心を持ったことは無い。…...
「ふーん。じゃあ、熱で朦朧としてる有希にあんなに顔近付け...
俺に都合の悪いことばかりよく覚えている女だ。
「有希が弱ってて抵抗できないからって、いやらしいことしよ...
口ごもらざるを得なかった。
断じて違う。だが、傍から見ればそう見えたであろうことも...
「答えなさいよ」
段々と目尻が吊りあがっていくハルヒ。どうやら本当にイラ...
「そんなんじゃねえよ」
しどろもどろになりながら、横目で長門を見る。助けてくれ。
俺のアイコンタクトに、長門はあくまで無感動な声で答えた。
「……そうなの?」
お願いだから真に受けないでください。
#br
その後、朝比奈さんと古泉の到着によってハルヒが本日のメ...
朝比奈さんが全員にお茶を配り終えたところで、ハルヒは団...
「今年も今日という日がやってきました!」
ここまで七夕を楽しみにしている奴は日本中探してもこいつ...
「昔の人は言いました。千里の道も一歩から。大いなる不思議...
七夕を祝い続ければ不思議に出会えるという謎の因果関係は...
「というわけで!」
ハルヒはスカートを翻らせて勢いよく椅子から飛び降りると...
「今年も願い事を書くわよ!」
予想通りであった。まあ、やっぱりそうなるんだろうな。
「で、短冊と筆ペンはどこだ?」
「ちょいまち」
さっさと始めてさっさと終わらせようという魂胆を丸出しに...
「何だ?」
「その前に復習。キョン、七夕に願い事を叶えてくれるのが誰...
「織姫ことベガ氏と、彦星ことアルタイル氏だろ?」
「正解。三十点」
なんでそんなに低いんだ。去年の古泉の回答と同じなはずだ...
「科学は日進月歩なの。去年と同じ答えで満足してるからあん...
「そいつは悪かったな。それで、残りの七十点についてはご教...
皮肉めいた口調で言うと、ハルヒはふふんと得意げに笑い、
「古泉くん、夏の大三角形って何だかわかる?」
「アルタイル、ベガ、デネブでしょうか」
古泉が即答した。
「正解。九十点」
なんだかよくわからん星の名前が一つ増えただけでこの高得...
不満が募るばかりの俺をよそに、ハルヒは名案を思いついた...
「今日の授業中にふと思ったのよ。ベガが織姫で、アルタイル...
頭が痛くなる。七夕に願い事をする風習は、織姫と彦星の説...
「みくるちゃん、どう思う?」
クリパの時にも感じたことだが、一応は他人の意見を聞いて...
黙って聞いていた朝比奈さんは、突然の質問に目をぱちくり...
「えっ、えっと……願い事がいっぱい叶うのはいいことだと思い...
全くもってその通りです。叶うならの話ですが。
朝比奈さんの回答に満足したのか、ハルヒはうんうんと頷き、
「古泉くんと有希はどう?」
と、副団長ともう一人の平団員に意見を求めた。
「素晴らしいアイデアかと」
「……」
胡散臭いスマイルと無言の頷きで、それぞれ賛意を表明する...
「そうでしょう! みんなそう言うと思って、今年は短冊...
こうして、首尾よく(俺以外の)団員の賛同を得たハルヒは...
「さぁ、遠慮しないでじゃんじゃん書いちゃいなさい!」
遠慮というものを母親の胎内に忘れてきた女が言う。二つだ...
「もちろん、アルタイルには十六年先、ベガには二十五年先の...
相対性理論をフルに活用したハルヒ理論によると、十六光年...
それはともかく、一点ほど突っ込んでおかなければならない...
「それで、デネブさんとやらには何年先の願い事をすりゃ良い...
俺の至極当然な疑問に対し、
「そういえば、それは考えてなかったわね」
ハルヒはあっさりそう答えた。行き当たりばったりな性格は...
「古泉くん、デネブってどのくらい遠いの?」
呆れかえる俺をよそに、ハルヒは忠実なる副団長への丸投げ...
「申し訳ありませんが、存じておりません」
「そっかあ。じゃあみくるちゃん、知ってる?」
「わ、わかりません」
「キョン……は知ってるわけないか」
随分と失礼なことを言われたが、実際に知らないので何も言...
「長門、わかるか?」
「千八百光年」
即答。
さすが、動く図書館の異名を持つ長門有希である。本に書い...
「ふうん、ベガやアルタイルよりもずいぶん遠いのね」
感心するようにハルヒ。
「で、願い事はどうするんだ? 俺は千八百年先まで生き...
ハルヒはしばらく悩むように眉を寄せていたが、やがて開き...
「うーん、じゃあデネブには今思ってる願い事を叶えて貰うこ...
相対性理論はどこへ行った。
「死んだ後に願いを叶えて貰ったって仕方ないじゃないの。遠...
あっけらかんと言うハルヒ。ご都合主義にも程があるだろう。
「無理に三つ願わなくたっていいんじゃないのか?」
「ダメダメ、去年と同じことやったって進歩が無いわよ。それ...
それに?
ハルヒは一瞬真顔になり、聞こえるか聞こえないかという小...
「――デネブだけ一人ぼっちなんて、可哀想じゃないの」
#br
「悩みますね」
早々に短冊を二枚書きあげ、三枚目に何を書くか考えている...
「こんなもん適当にやり過ごせばいいだろう」
「そうでしょうか。ひょっとしたら願い事が叶ってしまうかも...
「なら実現しても困らないようなことを書くまでだ。違うか?」
そう言い返すと、古泉はわざとらしく真剣な表情を作り、
「おっしゃる通りです。ですが、僕にとっての幸福が、万人に...
「すると何か、お前は俺の不幸を神々に願うつもりなのか?」
だとしたら俺も報復措置をとるぞ。そうだな、お前が機関と...
古泉は芝居じみた仕草で両手を宙に向けた。
「とんでもない。僕はいつでもあなたの幸せを心から願ってい...
やめろ。気色悪い。全力で遠慮しておく。
目線とジェスチャーで離れるよう促すと、古泉は憎らしいほ...
やれやれ。願い事の一つや二つ考えるのにずいぶんを大げさ...
ため息交じりに部室を見わたすと、ハルヒはふんふんと陽気...
「あ、デネブへの願い事だけは非公開だからね」
なぜだ?
「ずっと先の願い事ならともかく、今の願い事なんて周りに見...
そういうもんなのかね。ハルヒの感性はよくわからないが、...
――そうだな、非公開ならこんなことを書いてもいいだろう。
#br
青竹には次々と短冊が吊るされていった。
ハルヒの願い事は今年も痛々しく、
『地球の公転軌道を反転させよ』
『日本列島を南半球まで流して欲しい』
心から実現して欲しくないものばかりだった。下手な冗談だ...
朝比奈さんは相変わらずの可愛らしい文字で、
『お習字が上手になりますように』
『お裁縫が上手になりますように』
これまた相変わらずいじらしいお願いをしていた。
本来、七夕とは短冊を飾ることで書道や裁縫の上達を願う行...
古泉と長門の両名も去年と似たり寄ったりで、古泉が『無病...
ん、俺か?
俺も去年と大して変わらん。二十五年後と十六年後に叶えて...
『もっと金くれ』
『家族全員乗れるような大きい車をよこせ』
「俗物ねえ」
ハルヒの呆れかえったコメントも去年と同じである。日本列...
しばらくの間、俺や他の団員の吊るした短冊を黙って眺めて...
「……で、三つ目は何を書いたの?」
非公開じゃなかったのかよ。舌の根も乾かないうちから公開...
「何よ、ケチくさいわね。いいじゃない、減るもんじゃないし」
「ならお前のを先に見せろ。そうするなら考えないでもない」
売り言葉に買い言葉で言い返すと、ハルヒは何故か焦ったよ...
「じゃあ別にいいわよ。あんたの願い事なんて夜中の天気より...
興味無いなら聞くなと言ってやりたかったが、
「今日はこれで終了! じゃあね!」
ハルヒは唐突にそう言うと、さっさと鞄を担いで部室から出...
何なんだ一体。
#br
ハルヒが帰ったことで、団活は自然にお開きとなった。
古泉と朝比奈さんは既に部室を去り、残ったのは俺と、読書...
長門は何も喋らないし、俺が長門に話しかけることもない。...
もし、あっちの世界で文芸部員になる道を選んでいたら、こ...
どのくらい時間が経ったかわからないが、そろそろ目と尻が...
「じゃあ、俺も帰るよ」
「そう」
長門は読んでいたハードカバーに栞を挟んで閉じ、自分の通...
彼女はその小さな唇をほとんど動かさずにこう言った。
「来る?」
静謐な二つの瞳が俺をしっかりと見つめている。
「どこに?」と俺。
返事を聞いたのは爪先ではなかった。
「わたしの家」
#br
前言撤回。どうやら今年の七夕も一波乱あるらしい。
#br
(SS集/1121に続く)
//////////
#setlinebreak(default)
#br
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終了行:
#navi(SS集)
#br
* 作品 [#ve0e207d]
** 概要 [#t93a2231]
|~作者 |ながといっく |
|~作品名 |ほしふり(前編) |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日 |2010-08-07 (土) 15:48:49 |
** 登場キャラ [#ufe2dcdf]
//////////
|~キョン |登場 |
|~キョンの妹|不登場 |
|~ハルヒ |登場 |
|~みくる |登場 |
|~古泉一樹 |登場 |
|~鶴屋さん |不登場 |
|~朝倉涼子 |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜 |不登場 |
|~思念体 |不登場 |
|~天蓋領域 |不登場 |
|~阪中 |不登場|
|~谷口 |不登場|
|~ミヨキチ |不登場 |
|~佐々木 |不登場 |
|~橘京子 |不登場 |
** SS [#i854d6e0]
//////////
#br
#setlinebreak(on)
俺のあずかり知らぬところで世界が分裂し、片方の世界では...
お天気キャスターは毎日のようにオレンジ色の太陽マークを...
そんな、夏の日の出来事だった。
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公立校たる北高の校舎でクーラーが完備されているのは職員...
こういうときは居眠りでもして暑さをやり過ごすのが一番な...
おいおい、お前の成績は上り調子だったんじゃないのか?と...
ところが、俺の好成績を見て自己の教育能力に満足したのか...
結局のところ、俺は強制力を行使されない限り、自分から勉...
ともかく、俺の成績は再び下降線を辿り、中間テストにおい...
そうなってしまえば、当然SOS団の活動には支障をきたすこと...
#br
さて、ここまで長々と天気やら神様に愚痴ってきたわけだが...
『悪夢』である。
春が過ぎた頃から見始めたその夢は、徐々にその頻度を増し...
#br
何時で何処なのかも解らないモノクロの空間で、俺は絶体絶...
だが、どんなピンチであっても、俺はいつだってギリギリの...
俺の身代わりとなって。
夢の終わりはいつも同じで、長門が俺の腕の中で徐々に光の...
まあ、大体こんな感じだ。
#br
いくら夢とはいえ、目の前で長門が消える様を見せつけられ...
自分でも気にしすぎだとは思う。現実の長門は健在で、部室...
#br
去年の冬。長門が、初めて自らの感情と願望を爆発させたあ...
涼宮ハルヒの観察などという、俺だったらたとえ時給三千円...
そんな無茶苦茶な現実に嫌気がさした長門が世界ごと変えて...
だからこそ、俺はあの日、長門に頼りすぎないこと、長門の...
だが、現実はそう上手くはいかない。
雪山での遭難、未来からの指令、犬の幽霊騒ぎ、春の分裂事...
もう一つ、気になるのが長門の変化だ。
あの冬の事件以降、長門は俺達を守るという意思を頻繁に見...
もちろん、それ自体は喜ばしいことだが、長門が前にもまし...
そんな長門に、いつしか俺は一抹の不安を抱くようになって...
#br
長門を失うことへの不安を。
#br
……正夢じゃ、ないよな?
#br
授業を終え、逃げるように教室を去っていく日本史教師の後...
「今日は放課後すぐに部室に集合ね」
涼宮ハルヒが、ただでさえ発光過多なその瞳を、更にいつも...
「眠気覚ましよ、感謝なさい」
「誰がするか。で、なんだって?」
「今日は寄り道しないで部室に向かうこと。いいわね?」
「いつもそうしてるだろうが」
やる気無く言うと、ハルヒは眉間に皺を寄せ、
「あたしは今日の事を言ってるの。あんたがいつもどうしてる...
どうせなら俺が今日がどうするかにも無関心であってほしい...
「解ったよ、なるべく早く行くようにするさ」
従順な団員に気を良くしたのか、ハルヒは満足げに、
「良い心がけね。団長直々に褒めてあげるわ」
「どうも。お前にお褒めの言葉を頂いてもあんまり嬉しくない...
「じゃあ何? 頭でも撫でてほしいの? 古泉くんみ...
随分と失礼なことを言いやがる。俺だってお前みたいな母性...
「何ボケっとしてんのよ」
朝比奈さんに撫でられながら長門を撫でるという極上の妄想...
「まさか本気にしてる? 言っとくけど、あたしは部下を...
繰り返し言うが、お前に撫でてもらいたくも育ててもらいた...
「そんな性癖は持ちあわせてねーよ」
「そう? 別に遠慮しなくてもいいのに」
「全力で遠慮させてもらう」
「あっそ」
興味が失せたようにそう言い捨て、しばらく窓の外を眺めて...
「弁当箱にカマドウマの死体が入ってたような顔してるわよ、...
どんな顔だそれは。
「この暑さだからな。夏バテかもしれん」
本当のことは言わなかった。例え夢の中の話だろうが、団員...
「ふーん」
明らかに納得していない様子だったが、これ以上追及するつ...
「まあいいわ。とにかく今日は大事な日なんだから放課後まで...
#br
そう、ハルヒが今日中ずっと目を輝かせていた理由は今日の...
あらゆる行事を徹底的に楽しまなければ気が済まないという...
七月七日、七夕である。
#br
睡魔に屈することなく無事に放課後を迎えた俺は、ダラダラ...
ハルヒの命令通り寄り道はしない。別に忠実な団員でありた...
ちなみにハルヒは終業のチャイムが鳴るやいなや、鞄を俺に...
去年の七夕では、激しい感情の起伏を見せて俺を戸惑わせた...
#br
老朽化のせいなのか、部室棟は教室よりも一段上の灼熱地獄...
しかし、こんな暑さの中、何の成果もない団活に励まなけれ...
もちろんノックは忘れない。この行程を省略すれば、週に一...
それに、長門だって――いや、長門は何とも思わないかもしれ...
#br
ドアの向こうからの返事はなかった。
この時点でハルヒ、朝比奈さん、古泉がいないことが確定す...
#br
「よう、長門」
#br
――長門有希がいるかのいずれかということになる。
#br
窓際の指定席にて、見慣れた制服姿で読書に勤しむ長門。そ...
「……」
長門は無言で目礼を返し、膝元の書籍に視線を戻した。安堵...
それにしても、この暑さでも汗一つかかないんだな。いや、...
二人分の鞄を机に置き、適当な椅子に座る。普段なら誰かが...
「長門」
「なに」
先程と同様、顔だけをこちらに向けて答える長門。必要最小...
「最近、どうだ?」
長門は何を聞いているのかわからないとでも言いたげな無表...
「どう、とは」
「あー……ほら、冬や春みたいに敵の宇宙人に攻撃されたりとか」
あれは攻撃じゃなくて挨拶みたいなものだったらしいが。
「天蓋領域による攻撃、あるいは接触は今のところ感知してい...
長門は淡々と答えた。少しだけ安心する。
「そうか。ならいいんだ。読書の邪魔をして悪かったな」
これで会話は打ち切りと思いきや、今度は長門から問いが飛...
「なぜ?」
不意を突かれ固まる俺。
「あなたの質問の意図が知りたい」
暑さとは無縁の涼しげな瞳でじっと見つめる長門。いつの間...
「えーと、だな……」
言葉に詰まる。
長門が消える夢を見たなどと、当の本人に言ってしまって良...
発する言葉を見つけられないでいると、
「ごっめーん!」
豪快な叫び声とともに、ハルヒが竹を担いで部室に飛び込ん...
「あー疲れた。竹林ってなんであんなに暑いわけ? 竹や...
絶対違う。
「でも、去年より立派な竹を持ってこれたし、苦労のかいがあ...
盗人猛々しいを地で行く竹泥棒ハルヒは、得意満面の笑みを...
「ねえ、みくるちゃんと古泉くんはまだ? 今日は特大イ...
ここでようやく、俺と長門が会話中だったことに気付いたら...
「あんた達、見つめあって何してたの?」
「何でもねえよ。ちょっと世間話してただけだ」
「そうなの、有希?」
俺は無視かよ。
問いかけられた長門はゆっくりと頷き、
「そう。彼がわたしの体調について尋ねてきたので、それに答...
「有希の体調?」
ハルヒの顔が曇る。冬(洋館のアレは夢ということになった...
「ああ、春のこともあったから心配でな。今は何ともないらし...
適当にフォローを入れる。俺の意図とは少々違うが、長門が...
ハルヒは腕を組んで考えるような仕草をし、
「うん、有希は一人で貯め込んじゃいそうだしね」と呟いた。
昨年の冬を思いだし、ぐっと胸が締め付けられる。ハルヒ、...
「有希、何かあったらあたしでもキョンでもいいから、遠慮し...
優しげな声で長門を気遣うハルヒ。まったく、根はやさしい...
「わかった」と頷く長門。
それで満足したのか、ハルヒはいつものハルヒに戻ってしま...
「まったく、キョンが紛らわしいせいで変に疑っちゃったじゃ...
何をどう疑ったと言うんだ。
「てっきり、熱で頭やられたあんたが有希に手出そうとしてる...
「誰が熱病だ。変な言いがかり付けるんじゃねえ」
「どうだか」
そそくさと長門に近寄るハルヒ。
何のつもりかと思えば、ハルヒは長門の耳元に口を寄せてこ...
「有希、キョンには気を付けた方がいいわよ。普段はみくるち...
なんて野郎だ。長門が本気にしたらどうする。どうやらハル...
「長門、耳を貸すな。デタラメだ」
誓って言えるが、俺は長門に変な下心を持ったことは無い。…...
「ふーん。じゃあ、熱で朦朧としてる有希にあんなに顔近付け...
俺に都合の悪いことばかりよく覚えている女だ。
「有希が弱ってて抵抗できないからって、いやらしいことしよ...
口ごもらざるを得なかった。
断じて違う。だが、傍から見ればそう見えたであろうことも...
「答えなさいよ」
段々と目尻が吊りあがっていくハルヒ。どうやら本当にイラ...
「そんなんじゃねえよ」
しどろもどろになりながら、横目で長門を見る。助けてくれ。
俺のアイコンタクトに、長門はあくまで無感動な声で答えた。
「……そうなの?」
お願いだから真に受けないでください。
#br
その後、朝比奈さんと古泉の到着によってハルヒが本日のメ...
朝比奈さんが全員にお茶を配り終えたところで、ハルヒは団...
「今年も今日という日がやってきました!」
ここまで七夕を楽しみにしている奴は日本中探してもこいつ...
「昔の人は言いました。千里の道も一歩から。大いなる不思議...
七夕を祝い続ければ不思議に出会えるという謎の因果関係は...
「というわけで!」
ハルヒはスカートを翻らせて勢いよく椅子から飛び降りると...
「今年も願い事を書くわよ!」
予想通りであった。まあ、やっぱりそうなるんだろうな。
「で、短冊と筆ペンはどこだ?」
「ちょいまち」
さっさと始めてさっさと終わらせようという魂胆を丸出しに...
「何だ?」
「その前に復習。キョン、七夕に願い事を叶えてくれるのが誰...
「織姫ことベガ氏と、彦星ことアルタイル氏だろ?」
「正解。三十点」
なんでそんなに低いんだ。去年の古泉の回答と同じなはずだ...
「科学は日進月歩なの。去年と同じ答えで満足してるからあん...
「そいつは悪かったな。それで、残りの七十点についてはご教...
皮肉めいた口調で言うと、ハルヒはふふんと得意げに笑い、
「古泉くん、夏の大三角形って何だかわかる?」
「アルタイル、ベガ、デネブでしょうか」
古泉が即答した。
「正解。九十点」
なんだかよくわからん星の名前が一つ増えただけでこの高得...
不満が募るばかりの俺をよそに、ハルヒは名案を思いついた...
「今日の授業中にふと思ったのよ。ベガが織姫で、アルタイル...
頭が痛くなる。七夕に願い事をする風習は、織姫と彦星の説...
「みくるちゃん、どう思う?」
クリパの時にも感じたことだが、一応は他人の意見を聞いて...
黙って聞いていた朝比奈さんは、突然の質問に目をぱちくり...
「えっ、えっと……願い事がいっぱい叶うのはいいことだと思い...
全くもってその通りです。叶うならの話ですが。
朝比奈さんの回答に満足したのか、ハルヒはうんうんと頷き、
「古泉くんと有希はどう?」
と、副団長ともう一人の平団員に意見を求めた。
「素晴らしいアイデアかと」
「……」
胡散臭いスマイルと無言の頷きで、それぞれ賛意を表明する...
「そうでしょう! みんなそう言うと思って、今年は短冊...
こうして、首尾よく(俺以外の)団員の賛同を得たハルヒは...
「さぁ、遠慮しないでじゃんじゃん書いちゃいなさい!」
遠慮というものを母親の胎内に忘れてきた女が言う。二つだ...
「もちろん、アルタイルには十六年先、ベガには二十五年先の...
相対性理論をフルに活用したハルヒ理論によると、十六光年...
それはともかく、一点ほど突っ込んでおかなければならない...
「それで、デネブさんとやらには何年先の願い事をすりゃ良い...
俺の至極当然な疑問に対し、
「そういえば、それは考えてなかったわね」
ハルヒはあっさりそう答えた。行き当たりばったりな性格は...
「古泉くん、デネブってどのくらい遠いの?」
呆れかえる俺をよそに、ハルヒは忠実なる副団長への丸投げ...
「申し訳ありませんが、存じておりません」
「そっかあ。じゃあみくるちゃん、知ってる?」
「わ、わかりません」
「キョン……は知ってるわけないか」
随分と失礼なことを言われたが、実際に知らないので何も言...
「長門、わかるか?」
「千八百光年」
即答。
さすが、動く図書館の異名を持つ長門有希である。本に書い...
「ふうん、ベガやアルタイルよりもずいぶん遠いのね」
感心するようにハルヒ。
「で、願い事はどうするんだ? 俺は千八百年先まで生き...
ハルヒはしばらく悩むように眉を寄せていたが、やがて開き...
「うーん、じゃあデネブには今思ってる願い事を叶えて貰うこ...
相対性理論はどこへ行った。
「死んだ後に願いを叶えて貰ったって仕方ないじゃないの。遠...
あっけらかんと言うハルヒ。ご都合主義にも程があるだろう。
「無理に三つ願わなくたっていいんじゃないのか?」
「ダメダメ、去年と同じことやったって進歩が無いわよ。それ...
それに?
ハルヒは一瞬真顔になり、聞こえるか聞こえないかという小...
「――デネブだけ一人ぼっちなんて、可哀想じゃないの」
#br
「悩みますね」
早々に短冊を二枚書きあげ、三枚目に何を書くか考えている...
「こんなもん適当にやり過ごせばいいだろう」
「そうでしょうか。ひょっとしたら願い事が叶ってしまうかも...
「なら実現しても困らないようなことを書くまでだ。違うか?」
そう言い返すと、古泉はわざとらしく真剣な表情を作り、
「おっしゃる通りです。ですが、僕にとっての幸福が、万人に...
「すると何か、お前は俺の不幸を神々に願うつもりなのか?」
だとしたら俺も報復措置をとるぞ。そうだな、お前が機関と...
古泉は芝居じみた仕草で両手を宙に向けた。
「とんでもない。僕はいつでもあなたの幸せを心から願ってい...
やめろ。気色悪い。全力で遠慮しておく。
目線とジェスチャーで離れるよう促すと、古泉は憎らしいほ...
やれやれ。願い事の一つや二つ考えるのにずいぶんを大げさ...
ため息交じりに部室を見わたすと、ハルヒはふんふんと陽気...
「あ、デネブへの願い事だけは非公開だからね」
なぜだ?
「ずっと先の願い事ならともかく、今の願い事なんて周りに見...
そういうもんなのかね。ハルヒの感性はよくわからないが、...
――そうだな、非公開ならこんなことを書いてもいいだろう。
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青竹には次々と短冊が吊るされていった。
ハルヒの願い事は今年も痛々しく、
『地球の公転軌道を反転させよ』
『日本列島を南半球まで流して欲しい』
心から実現して欲しくないものばかりだった。下手な冗談だ...
朝比奈さんは相変わらずの可愛らしい文字で、
『お習字が上手になりますように』
『お裁縫が上手になりますように』
これまた相変わらずいじらしいお願いをしていた。
本来、七夕とは短冊を飾ることで書道や裁縫の上達を願う行...
古泉と長門の両名も去年と似たり寄ったりで、古泉が『無病...
ん、俺か?
俺も去年と大して変わらん。二十五年後と十六年後に叶えて...
『もっと金くれ』
『家族全員乗れるような大きい車をよこせ』
「俗物ねえ」
ハルヒの呆れかえったコメントも去年と同じである。日本列...
しばらくの間、俺や他の団員の吊るした短冊を黙って眺めて...
「……で、三つ目は何を書いたの?」
非公開じゃなかったのかよ。舌の根も乾かないうちから公開...
「何よ、ケチくさいわね。いいじゃない、減るもんじゃないし」
「ならお前のを先に見せろ。そうするなら考えないでもない」
売り言葉に買い言葉で言い返すと、ハルヒは何故か焦ったよ...
「じゃあ別にいいわよ。あんたの願い事なんて夜中の天気より...
興味無いなら聞くなと言ってやりたかったが、
「今日はこれで終了! じゃあね!」
ハルヒは唐突にそう言うと、さっさと鞄を担いで部室から出...
何なんだ一体。
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ハルヒが帰ったことで、団活は自然にお開きとなった。
古泉と朝比奈さんは既に部室を去り、残ったのは俺と、読書...
長門は何も喋らないし、俺が長門に話しかけることもない。...
もし、あっちの世界で文芸部員になる道を選んでいたら、こ...
どのくらい時間が経ったかわからないが、そろそろ目と尻が...
「じゃあ、俺も帰るよ」
「そう」
長門は読んでいたハードカバーに栞を挟んで閉じ、自分の通...
彼女はその小さな唇をほとんど動かさずにこう言った。
「来る?」
静謐な二つの瞳が俺をしっかりと見つめている。
「どこに?」と俺。
返事を聞いたのは爪先ではなかった。
「わたしの家」
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前言撤回。どうやら今年の七夕も一波乱あるらしい。
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(SS集/1121に続く)
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