#navi(SS集)

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* 作品 [#lc9882f7]

** 概要 [#ucb61ac5]

|~作者      |十六夜  |
|~作品名    |長門有希の… 閑話1 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2006-09-25 (月) 19:56:52   |

** 登場キャラ [#s3c61faa]

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|~キョン    |不登場    |
|~キョンの妹|不登場  |
|~ハルヒ    |不登場  |
|~みくる    |不登場  |
|~古泉一樹  |不登場 |
|~鶴屋さん  |不登場 |
|~朝倉涼子  |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜  |不登場   |
|~思念体    |不登場  |
|~天蓋領域  |不登場  |
|~阪中      |不登場|
|~谷口      |不登場|
|~ミヨキチ  |不登場    |
|~佐々木    |不登場  |
|~橘京子    |不登場   |

** SS [#i500c1b1]

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#setlinebreak(on)

唐突だが俺は、今日ほど疲れた日はなかった。今はベッドで横たわっている状態だ。
これからの人生でもこれほど肉体・精神共々、疲れることはまずないだろう、…今日と同じ条件の日がこない限り。その原因を今からお教えしよう。
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…週末の土曜日。
先週はボーリングやらカラオケやらで遊び倒したので、
「今日は徹底的にやるわよ!!」
今日は不思議探索が行われるコトになった。こんな日にハルヒと同じグループになった時には命が危ないな、と危惧していた。願わくは、長門、朝比奈さん、最悪でも古泉ならガマンするつもりだった。ハルヒが同じグループでなければ誰でもいい、そんな心持ちである。
しかし神に見放されたのか、日ごろの行いのせいのなか、コトもあろうにハルヒと同じグループになってしまったではないか、しかも二人きり。…それが午後からも同じくハルヒと二人。
想像していただきたい。
常に今にも走り出さんとする歩みのスピード、何かとつけて変わらぬ大音量で流れるスピーカー、西から東へ、北から南へと振り回される俺。それが朝から夕方まで続いたのだ、俺がどのようになるかわかるだろ?
謎がさっぱり見つからない(見つかったら困るのだが)というのに、なぜか終始ご機嫌なハルヒを横目に、俺はすっかり徹夜で宿題を片付けたような完全なお疲れモードだった。
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いつもより遅い午後六時を回ったトコで、ようやく集合場所に戻ってこられた。
今だ、ハルヒはご機嫌メーターが一杯である。一日、俺と二人で歩き回っただけで収穫もなかったのに、どうしてここまで機嫌がいいのだろうね。
無論、悪くなられるのもゴメンだが。
「それじゃあ、これで解散! また学校でね!」
ハルヒはルンルン(古いか)といった感じで、駅に入っていく。俺はもう早く帰って横になりたいので、先早に失礼するコトにした。
「今日は疲れたからもう帰るよ。じゃあな、皆」
「あなたのおかげでしばらく閉鎖空間が発生することはないでしょう、お疲れ様でした」
まったくだ。
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長門と朝比奈さんに一礼をして、停めてあった自転車にまたがる。最後の力を使い、どうにか家に着き、玄関の扉を開ける。開けた先には我が妹が待っており、
「おかえりー」
お帰りタックルをこの身に受け、よろめく。
「こらこら、お兄ちゃんは疲れているんだ、カンベンしてくれ。ところで、もう晩メシはできているか? 今日はエネルギーの使いすぎで腹が減ってたまらないのだが」
「できてるよー。おかーさーん、キョン君がご飯食べたいってー」
それはありがたい。早くメシ食って、風呂入って、横になりダラダラしよう。
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さすがに燃料切れを起こしそうなぐらい体が栄養を求めていたので食べるコトに夢中になり、オフクロや妹が何か話していたが記憶にはうっすらと言葉の断片しか残っていない。
風呂の湯船に浸かりその内容を思い出す。
その断片は「美術館」「チケット」「二枚」という言葉だ。おそらく知り合いにでももらったのだろう、そんな理由でなければ俺の家族が興味の無い物を購入するわけないしな。
事実、俺も絵や美術品には興味無い、まぁ、暇つぶしにはなるかもしれんが。
こんないつ頭の中から消えてもおかしくないような情報を思い浮かべながら、風呂からあがった俺は、ベッドで横になれる喜びを満喫していた。あぁ、足を使わないというコトはこれほどまで楽なのか…。
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こうして冒頭に戻る。
俺が横たわっている理由がわかっただろうか? わからなければ、
「ハルヒによって振り回された」
とこの短い言葉がわかれば十分である。
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そして二十分ほどこの状態が続いており、このまま寝てしまおうかと思った矢先、携帯電話が鳴り響いた。
っと誰だ? …長門か。
「もしもし、長門か。どうかしたのか?」
「……」
だから前も言ったが三点リーダーのみのセリフは電話ではやめてくれ。
「例のアレか?」
「そう」
例のアレというのは、例のアレだ。…詳しく説明するのは恥ずかしいので、わからない人は「長門有希の…2」([[SS集/289]])の最後の方を参照してくれ。ご足労をかけてすまない。
「確かに今日俺はずっとハルヒと同じグループだったからな。すまないが、そのハルヒのおかげで今日はエネルギーを使い果たしたから、さすがに今から会いに行けるのは難しい」
「…そう」
そんな残念そうな返事を返さないでくれ、お願いだから。…そうだな、
「悪い、長門。すぐかけなおすから、ちょっと待ってくれないか」
「わかった」
俺は電話をベッドに置き、階段を駆け下りた。
オフクロに尋ねた所、俺の記憶の断片から推理されたコトは正しかったようだ。そう、美術館のチケットである。これまた推理通り、やはり親父の知人からもらった物らしく、用事があるので俺にあげるというコトらしい。
俺は階段を駆け上がり、携帯から長門の家へと電話をした。
「すまないな、待たせて」
「いい」
「それでだ、実は母親から美術館のチケットを今もらってな。明日は用事も無いし、どうだ、一緒に行かないか?」
「お願いする」
決まりだな。…美術館だけだし、時間は明日の昼からでいいだろう。
「なら明日の午後一時、いつもの集合場所で待ち合わせでいいか?」
「わかった。待ってる」
「じゃあ、また明日な」
「また明日…」
電話を切る。長門と一緒に美術館か…。
たまにはこういう場所もいいかもな、長門も行ったコトないだろうし、俺もない。二人にとっていい経験になるだろう。
そして、俺は眠りについた。まだ九時を過ぎたトコだが、今日はもう…ダメだ。
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目が覚める。…時間は、九時半だ、もちろん夜でなく朝の。十二時間寝てしまったのか…、よっぽど休息を求めていたようだな、俺の体は。
長門との待ち合わせをいつもの九時にしなくてよかったよ、この時間だといくら長門でも許してもらえそうに無い。
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遅めの朝食を摂り、昼までまったりすることにした。この時間に宿題をすれば、夜頑張らなくてもよくなるんだが。
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さて昼食も食べたし、早めに家を出るとするか。今、出発すれば集合時間の二十分前には着くだろう。
自転車にまたがり、駅へと向かう。また、長門を後ろに乗せてみたいものだ。あの、体にウデを回した時の感想といったら…、この一文は俺の気の迷いだから気にしないでくれ。
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近くに自転車を停め、駅前へと歩くともう長門は来ていた。今日はめずらしく見慣れた制服でなく、私服でありどんなものかと説明すると、まず似合っている。
その私服とは、上は体の線が表れおり、青空に浮かぶ白雲のような無垢のブラウス、下はアジサイの淡い紅色の花のように薄い色のスカートで、梅雨も終わりそろそろ初夏に対応するような姿である。
普段のセーラー服の長門を見慣れている俺の目にはこの良い意味でのギャップに耐えられそうに無い、お持ち帰りして家に連れて…、犯罪だな。
「悪い、待たせてしまったな。もう少し早く来ればよかったな」
「いい。五分前に来たばかり」
「そうか…、イヤ、でも待たせたコトには変わりないしな」
頭をポリポリかきながら長門に頭を下げる。
「罰金」
げっ、マジか!?
「ジョーク」
ここでまた長門ジョークを聞くコトになるとは。…長門が言うとジョークも本当に聞こえるからタチが悪い。
「…よし、それじゃあ行くか。今から行く美術館は電車で四駅先にある所だ、さっそく電車に乗ろう」
「…」
頷く、肯定の合図。
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俺が駅へと向かいその後ろからいつもと違うイメージを持たせる長門がトコトコついてくる、違うイメージといっても長門は長門だがな。ホームへと階段を降り、電車を待っているこの時間、無言ではなんなのでこの私服がえらく似合う長門に話しかける。
「今日はいつもの制服じゃあないんだな」
見惚れてしまいそうな長門がコチラを向き、
「へん?」
「そういうつもりで言ったんじゃなくて、変じゃないさ。とても似合っているぞ、長門」
「そう」
少しうつむく。この仕草は照れているのだろうか? 長門らしくない感情だとは思うが。
「一つ聞きたいことがある」
何だ?
「あなたを待っている短い間だけで、三人もの男性に声をかけられた。いつもはそんな事はありえない。なぜ?」
何!? 俺の長門に…じゃなくて、長門にそんなコトがあったのか。でもその男の気持ちはわかる、俺もお持ち帰りしたいぐらいだったからな。
「それはお前が可愛かったからだろう。制服ではなく私服だと話かけやすいしな」
「可愛い?」
あっ、思わず本音が出てしまったか、
「…そうとも、似合ってる上に可愛いさ。その話かけてきた男共はどうしたんだ?」
「情報操作した」
「情報操作って何をしたんだ?」
「……」
無言が続く、これ以上は詮索しないコトにしておこう。
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電車に乗り目的地の駅まで、ガタゴト揺られながら長門をチラッと見たり、窓から流れる景色を見たり、横目で長門を見たりと繰り返すうちに駅に着く。降りた駅から五分ほど歩いた所に美術館が見えてきた。
ほぅ、思っていたより立派な建物だな。休日のせいか人も結構来ている、もちろん子供にとっては退屈なる美術館に家族で来ている人たちはいない。熟年夫婦や中年のおじさんといった感じの人が多く、若いカップルというのもいない。なんか場違いのようだな俺たち。
まぁ、そんなコトを言ってもいまさらしょうがないので、入り口へと進み、受付嬢に話しかける。
「高校生二人で」
「はい、高校生二名様ですと1400円です」
「えーっと、このチケットでお願いします」
チケットを受付嬢へと渡すと、チケットを一目し、
「はい結構です。こちらがパンフレットです、どうぞ。…そちらは彼女ですか? 今日は楽しんでいってくださいね」
やはり他人から見るとそんな風に俺たちは見られているのか…、悪い気はしないが。
中に入ろうと歩き始めると長門が俺の服のスソを子猫のような小さな力で引っぱっているのに気づく。
「彼女って何?」
…それを俺の口から説明しろというわけか長門。
「ある特定の女性を指す名称?」
「そういう意味じゃなくて、この場合恋人同士の女性を指す言葉だな」
「恋人?」
それも説明してくれというのか、口に出すのは恥ずかしいのだが、
「まぁ、この人ならずっと一緒にいてもいい、というのかな」
「そう」
「そういうコトだ、簡単に言うとな。じゃあ、行こうか」
「わかった」
そう言うと後ろから長門がついてくる、こんな内容の会話はこれまでにしてくれよ。
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先ほどもらったパンフレットを見る。……どうやら絵が中心のようだな、他にはステンドグラスや小物が飾ってあるらしいな。一番奥にはメインのものが飾ってあるみたいだが、パンフレットには「見てからのお楽しみ」と書かれてある、ずいぶんと持ったいぶるトコだな。
しかし、ここまでするからにはよほど凄いものが飾ってあるのだろう。
それでは今から、俺と長門が絵・美術品を見ていく様子をご紹介しよう。
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まず入り口を抜けたすぐのトコには、風景画・人物画など絵画が飾ってあるスペースである。ふーむ、絵にはまったく興味がなかったがこうして見ると中々、趣があっていいものだな。
「どうだ、長門。これなんて綺麗だと思わないか?」
俺が指をさしたその作品は、海から朝日がちょうど昇り、太陽光がまるで海の上を道のように走っている絵である。素人目の俺から見ても、美しいものだ。
「わたしもそう思う」
「こんな景色が現実にあるかわからないが、描くのは大変だろうな」
こんな感じで絵を見ながら歩く俺たちだが、ふと長門の足が止まる。
「…雪」
雪? あぁ、この絵か。これもいいな、町に降る雪を描いているが白一色で統一されている。冬の北海道とかこんな感じなんだろうな。
「これが気に入ったのか?」
ミリ単位で頷く、
「…雪には特別な思い入れがある」
そういや、文芸部の活動として作った会誌、その中に雪の描写があったな。
「気に入った絵のコピーは三百円で買えるとパンフレットにあるから、帰りにでも貰おう。今日来た記念にもなるしな」
「そうする」
と言った後もしばらく見ていたわけだが。それほど気に入ったのかな。
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絵画も風景画から人物画へと移ってきた。先ほどと同じように、絵をためつすがめつ見ていくのだが、再び長門の足が止まる。どうやら、絵を見て止まっているようだ。その目の先には…あっ、俺が意識的に飛ばした絵だな。
その絵は…裸婦画である。
さすがに長門の前でそんな絵をじっくり見るような男ではないため、一別しただけですぐ次の絵に目をやったのである。
「長門。そんなものをじっくり見るもんじゃありません」
「裸…」
うん、それはわかってるから、長いコト見ていると俺も恥ずかしくなる。
「裸…」
わかったからさ、次に進もうか。
「このようなものも絵にするの?」
「…そうだ、一種の芸術というヤツさ。美しいものは何でも絵になるってものだ、彫刻でもよくあるしな」
有名なものではミロのヴィーナスとかがそうだな。確か、美の女神アフロディーナをモデルにした像だ。
「あなたは好き?」
好きって裸婦画とかそういうもの一環がか? …そりゃあ、女性の生まれたままの姿のっていうのは俺みたいな年の男は嫌いなわけないが、
「いいか長門。このような作品はそういう目線で見るものでは無いんだ。さっきも言ったように一つの芸術であり、作者がやむにやまれる芸術的衝動と創作意欲に突き動かされて絵にしたんだ。
そこには浅ましい欲望なんてものは存在しない、純粋にして高邁、深奥にして真実の芸術への発露、つまり女性の裸を描いて多くの男性に見てもらいたい、注目されたいとか願って描いたものでは無いんだ。だからこのような作品を見る俺もやましい気持ちなんてこれっぽっちも無い」
なぜか周りの中年男性から小さな拍手が起こる。なにか自分に言い訳しているみたいだな。
「でもあなたはすぐ目をそらした」
そりゃあ長門、やっぱり恥ずかしいじゃないか…。
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次のブースは[遊び絵]か、どんなものだろうな。
あれ? 絵なのに彫刻が壁にかかっている。どういうコトだ?
「あれはトロンプ・ルイユと呼ばれるもの」
トロンプ・ルイユ? 無知な俺にはどういう意味かわからないのだが。
「近くで見ればわかる」
どれどれ、…もしかしてこれ[絵]なのか?
「そう」
「へぇー、近くで見るまで全然わからなかったな。なるほど、影のつけ方とか実物そっくりだ。よくわかったな、長門」
「前に読んだ本に出てきた。物の立体感まで筆で再現し、綿密描写と遠近法によって実物であるように錯覚を起こす。トロンプ・ルイユとはフランス語で眼だましの意味を持つ」
確かに眼だましだな、周りを見渡しても言われなければ彫刻と見間違う作品が数多くなる。
他にも、写真かと思うような絵もあり目が飽きないでいた。
このように一つ一つ関心して見ていると、面白いものを発見した。長門はまだ見ていない。
「これもトロンプ・ルイユか?」
「そう」
俺が指差すその[絵]に向かって手を伸ばす長門だが、[絵]が描かれている壁に当たる前に長門の指先が触れ、驚いたように手を引っ込める。
「引っかかったな長門。それは[絵]じゃなくて本物の[彫刻]だ」
そう、最後の一つに本物の彫刻が飾っており、俺も思わず触ってしまい驚いたものだ。
「うかつ」
このらしくない長門の行動が見られただけで俺は十分満足だ。
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絵のブースを抜けたトコには、多彩な色を使ったステンドグラスが左右に広がる壮麗な道があり、そこを優雅で雅やかな趣で長門とゆっくり歩いて、この先はいよいよ見てからのお楽しみであるメインブースである。
正直、このステンドグラスの道も十分メインになってもおかしくないような芸術品で、光が差し込む幻想的な雰囲気に感心したものである。
そして、道を抜けた先にはとてもとても大きな絵が飾られてあった。高さも横も半端ではなくマンガなら見開きを使わなければとても描ききれないだろう。その絵の迫力に全ての人が圧倒され、しばらく言葉はおろか、頭の中にも何もでない、息つまるような自然の色彩の生命力には何も敵わない。
もちろんただデカイだけなら、ここまで過大評価はいきすぎだ。しかしこの作品は紙に描かれているわけでもなく、油絵のように布のキャンバス、画布でもない。…なんとこの絵は大理石の上に描かれているのだ。
「……」
「……」
俺も長門もしばらく三点リーダーが続く。
「…これは凄いな。ばかでかい大理石の壁全体が作品になっている」
「この作品は大理石の紋様を雲や水に見立てて、作者の絵と融合させている」
長門の言うとおり、大理石の自然にできた色彩・斑紋がそのまま加工されず使われて、まるで自然界の色と人工の色の一大響宴といった感じだ。
「このような作品にも情報統合思念体は興味を持っている。初め、情報生命体はこの有機生命体独自の創造物には見向きもしなかった。
しかし、このように何かしら人を惹きつける力を持つ作品がある事を知り、分析を始めた。今、わたしも目の前の光景を見て情報統合思念体が興味を持った理由が改めてわかった」
だろうな。情報統合思念体たちがどれだけ偉いか知らんが、情報のみの存在である限りこのような芸術品は創れないだろう。
元々ハルヒが注目される前にも地球の人間に興味を持っていた理由に、こんな要因があったのかと思うと人間も捨てたものでは無いな。
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こうしてしばらくただただ感心しながら、二人見つめ続け十分満足した所で、最後のブース、お土産コーナーへとやってきた。ここにはパンフレットに書かれていた展示物のコピーが買えたり、小物が売っていたりする場所である。
まず長門お気に入り、雪一色の絵のコピーを、日頃お世話になっているお礼として俺の金で購入。長門は、
「わたしが払う」
と言っていたが、たかが三百円だ。これぐらいなら俺が三日間、ジュース一本をガマンすればいい話なので、長門の訴えを却下した。
こうしてひとまず目的の物は買ったので、他の小物も見ることにした。
小物といっても、露店でいかにも「ニセモノです」と言っているような簡素な商品ではなく、しっかりと細部まで作りこまれている商品ばかりである。もちろん値段も値が張り、年配をターゲットにしているような物ばかりで、ちょっとこの辺りは手がでないな。
ただでさえ誰かさんのおかげでサイフが軽いのだから尚更だ。その軽くなる原因の全てが、その誰かが悪いというわけでもないのだが、…もうちょっと俺の体が早起きに対応していればよかったのになぁ。
話がずれてしまったな。せっかく長門と二人きりというのにハルヒのコトを思い出してしまうとは。それにしても、
「うーん、お手頃でなかなかいいのって少ないな」
一番低い価値のお札を一、二枚ならどうにかサイフから手が出るのだが、ここに置いてあるのはもう一つレベルが上がったお札(マイナーな二千円札ではなく五千円札な)でないとダメだ。
「仕方ない。俺はあの最後にあった絵のコピーだけを買うコトにするよ。長門はどうする?」
「これ」
長門が手に取ったものは、…分厚い本である。タイトルからしてどうやら欧州やらアメリカの美術に関する本のようだ。ホント本好きだな。だがそれがいい、…と俺は思う。
「そうか、なら会計しにいくか」
「…」
ミリ単位で頷く。本を両手で抱えるその姿は至極満足しているようだ、…だがそれがいい、とまた俺は思う。
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会計を済ました俺たちは二人、満足して美術館を出て朝、集合した駅前で立っている。
電車の中でふと辺りを見渡したのだが、多くの男性がコチラを見ているのを気付いた。俺なんかを見ているわけないので男性の視線は私服姿の長門である。
メイド姿や巫女姿の朝比奈さんを見る奇異なモノではなく、同じ男性である俺が言うのもなんだが、いやらしい目つきであった。もちろん俺がそんなコトを許すワケもなく、男性たちを一目してやると案の定、目を逸らした。これだから男という生き物は…、俺もだが。
「長門、今日は楽しかったよ。じゃあ、また明日な」
「…また、あした」
こうして別れようとした時、電車の時を思い出した。
「あぁ、気をつけて帰れよ」
この「気をつけて」というのは、「男に」という言葉も含まれる。まぁ、情報操作をお得意とする長門には無縁かもしれないが、一応な、…なんか娘を心配する親父みたいだな。
「…わかった」
この俺の真意を理解したかわからないが、とりあえず言葉を受け取ってくれたようだ。
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そして今は朝。
さすがに土日続けてお出かけすると、朝起きるのがツライな。やはり人間、週に一度はダラダラして過ごす日が無いとダメだな、…中年くさいとか言わないでくれよ。
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こうして、授業も集中する間もなく、あっという間に放課後。
俺が日課となっている文芸部室に向かい、ノックをする。
「はぁーい」
朝比奈さんの受付嬢あいさつがあり、部屋に入る。
すでに、長門、古泉、返事をした朝比奈さんが来ており、後はハルヒのみである。俺がいつもの指定席に座るといくら負けてもめげない古泉が勝負を仕掛けてきた。
「今日は、基本に返ってババぬきをしませんか?」
わかりやすいポーカーフェイスでババぬきを吹っかけるとはいい度胸だ。そんなに黒丸を増やしたいのか、いいだろう相手になってやる。
こうしていつものような平和な放課後であったが、この平和を脅かす魔物がやってきた。
「皆、そろってるー!!」
ずかずかと団長席へと向かうハルヒ、お茶を持ってこさせるハルヒ、ここまではいつも通り。さて次は何を…、
「あれ? 有希、今日は変わった本読んでるわね。何、…美術の本?」
「そう」
昨日買った本か、さっそく読んでいるだな。
「へぇー、いつ買ったの?」
「昨日」
なにかマズイ方向に進んでいるような…。
「ドコで買ったの?」
「美術館」
喜べ、古泉。この勝負はお前の不戦勝でいい。俺は試合を放棄する。
「…一人で行ったの?」
「二人」
俺はそっとイスから立ち上がる。
「……誰と?」
「……」
どうやら長門の視線は俺の背中に向けられているようだ。この視線からハルヒは誰と行ったと思うだろうね。そしてなぜ、視線を横からではなく背中へと受けているかと言うと、すでに俺は扉の前まで来てノブに手を置いているからだ。
「………キョン?」
「そう」
俺は扉のノブに手をかけ、急いで外に逃げようとした。…逃げようとしたのだが、首ねっこを誰かに捕まれた。誰だって? ハルヒに決まっている。
しかもあの位置からこの位置までワープしたように一瞬で距離がなくなった。物理法則を無視しているとしか思えない。
「キョン。ちょっと聞きたいことがあるわ」
「な、なんだ。ハルヒ」
昨日のコト以外でお願いしたいのだが。それ以外ならフロに入った時間や、トイレに行った回数でも、初恋の話でもなんでもいいぞ。
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「昨日、だ・れ・と、ど・こ・に行ったか聞きたいの!」
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え〜っとだなハルヒ、いいかまず落ち着け。
あっ、古泉、俺が出たかった外に簡単に逃げやがって。しかもその「ご愁傷様です」といった表情はなんだ。そして…あぁ、朝比奈さんまで「ごめんなさい」と謝って行ってしまった。
つまり、この部屋には俺、長門、ハルヒの男一人女二人。
…まさに修羅場!!
なんて言ってる場合ではない。仕方がない、
「個人のプライバシーで言えん」
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「いいから言いなさい!!!」
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こうしてハルヒの怒声が響く文芸部室は、いつもとちょっと変わった日常を体験するコトになった。
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…終わり

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-関連作品:[[長門有希の… 閑話2(SS集/342)>SS集/342]]

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