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* 作品 [#ba49480e]

** 概要 [#i00cf589]

|~作者      |De lorean  |
|~作品名    |長門書店 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2006-07-23 (日) 07:05:57   |

** SS [#p6c99362]

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梅雨はあけたが、湿度と気温はますます上がり、
プラゲージの中のカブトムシに謝りたくなってくる7月の昼下がり。
野暮用で入り込んだ裏路地で、俺はその店を見つけてしまった。
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―「長門書店」―
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まさか。と思ったが、そのまさかだった。
店の入り口に置かれたチェアに、ちょこんと腰掛けていた。
制服の上に、エプロン。
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「・・・長門?」
「・・・・・(顔をこちらに向ける)」
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「なにやってんだ? こんなとこで。」
「・・・書籍の修繕、販売。」
「それは分かるんだが、どうしてお前が。 というか、長門書店ってなんだ。」
「ここは、私の店。」
「いつの間に店なんか構えたんだ?」
「この店舗の存在を周知されるのは、営業戦略上、不都合。 よって秘密にしていた。」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ &aname(next);
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私はこれまで、ヒト社会で生活するにあたり必要となる資金を、
情報統合思念体 本体からの支給によって賄っていた。
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情報統合思念体 本体が、ヒトの金融市場において、最小限の情報操作を実施。
その結果発生した余剰利益が、私に活動資金として支給されていた。
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しかし、すべての生命体は、その活動を維持するために行動し、その対価として生を得ている。
ヒトの場合、勤労の結果として賃金を受け取る。
そしてその貨幣で、食料、その他を購入することで、生命活動を維持―「欲」を満たしている。
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私も、形態としてヒトのそれをとっている以上、
勤労せずに生命活動を維持するのは、不自然であると判断した。
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「働かざるもの、食うべからず。ってところか。」
「そう。」
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「しかし、なんで本屋なんだ?」
「・・・・・」
「お前が、本屋を起こすことにした理由、さ。」
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本が好きだから本屋、ってのは、なんとなく理解できる。
だがそれなら、どこかの本屋でバイトをすればいい話だ。
なぜ、わざわざ1から事を起こしたんだ?
稼ぐどころか、逆に金がかかるだろうに。
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「私は自身の情報を操作することによって、あらゆる環境に適応できる。
    私は現在、136の職種を経験している。書店への勤務も行なった。
           また、採算性を第一とすれば、他に候補が存在する。」
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そこまで口にして、長門は言葉を切った。
いつもの無表情に―ほんのすこし―困惑が浮かんでいた。
必死に考えているように見える・・・うまく説明できる言葉が見つからないのだろうか。
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だが俺には、長門の言いたいことが、なんとなく理解できた気がした。
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「要するに、こじんまりとした本屋がやりたかったんだな。」
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大型の書店で店員がすることと言えば、在庫の整理とレジ打ちくらいで、
客は客で好き勝手に本を選んで、それをレジに持っていくだけだ。
長門は長門なりに、それだけではつまらない、と考えたんだろう。
本を通じて、もっと客と話がしたい。いや、むしろ話を聞きたい、というのが正解か。
それには小規模で、その分内容の濃い店舗が都合がいい。
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本が好き。本を読む人間も好き。つまり、そういうことだろ?
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「・・・・・」
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長門は何も言わない。
相変わらず困惑が一滴混じった無表情で、俺の顔を見ている。
長門の黒く透き通った瞳に、だいぶおとなしくなった夏の日差しが差し込んでいる。
きらきらしていて―琥珀色とでも言うんだろうか。そんな目が、俺の目を、じっと見つめていた。
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・・・って、俺は何を言ってるんだろうね?
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「・・・ま、そういうことにしておけ。」
「・・・・・(うなずく)」
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しかし、どうやって元手を用意したんだ? 
これだけの物件を借りて、これだけ沢山の本を集めたんだから、相当金がかかっただろう。
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「賃貸ではない。この建築物は購入したもの。」
「なおさらだ。」
「店舗の用意に関しては、情報統合思念体に申請。
          特例的に資金、および必要書類を調達した。
 書籍は私が収集したもの。
    主に廃棄処分となったものを譲り受け、時間軸を個別に修正することで修復した。」
「家はお前のパトロンの物で、商品はお前のコレクションってわけか。」
「そう。」
「しかし、『家一軒』なんていう無茶な希望がよく通ったな。理由も理由だし。」
「申請が却下される事態も想定した。しかし受理された。」
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もし、お前を造った思念体がお前の親父みたいなもんだとしたら、相当な親バカだな。
娘の願いをほいそれと聞いちまうんだから。
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「・・・・・・・・・・」
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・・・あれ? 俺、何か悪いこと言ったか?
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さて、そろそろ行くとするかな。
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「待って。」
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俺を引き止めると、店の奥へと入っていく長門。
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細長く、薄暗い店内。蛍光灯が頼りなく、青白い光を放っている。
蔵書の密度に関して言えば、そこらの書店の比ではなかった。狭い空間を、大量の書物が圧倒している。
それでいて、それらがきっちりと整理されているのが、なんとも長門らしい。
店舗のいちばん奥に、年代物のレジスタが置かれたカウンターがあり、
さらにその奥には―ノレンがかかっている―ちょっとした生活の場があるようだった。
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長門は、縦列に並べられた本棚の奥のほうから一冊の本を取り出し、俺の前へ戻ってきた。
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「これ。」
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―「風力鉄道に乗って」―
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「・・・なんで分かったんだ?」
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確かに俺は、この本を探していたのだが。
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正確には、妹の探し物だ。
夏休みを間近に控え、読書感想文の題材に困っていた妹に、
俺もかつて読んだことがある、この本を薦めてやった。
しかし、学校の図書室には所蔵されておらず、図書館のものは貸し出し中。
そこで、もし本屋に行くことがあれば、注文しておいてほしいと頼まれていたわけだ。
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結局、目ぼしい書店にはどこにも置いておらず、
直接問屋に行ってみたのだが、そこでも一週間待ちとなった。
―ちなみに、野暮用とはこのことだ。
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「また、魔法でも使ったのか。」
「・・・・・(首を横に振る)」
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「あなたの言動、および周囲の環境より、現在の興味の対象を予測した。」
「言動って・・・」
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それらしい話は一切していなかったと思うが。
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「私の経験が導いた結果。」
「経験?」
「私の役目は涼宮ハルヒの監視。
 しかし、あなた達と出会うことで、私はより多くの人間と接する機会を得た。」
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対象となるヒトを取り巻く状況と、そのヒトが起こす行動を分析、
その結果を蓄積することで、確度の高い行動予測を可能にする。
ヒトの精神分析の手段としては、ごく一般的なもの。
超人的な情報掌握、改変は行なっていない。
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情報統合思念体より情報の提供を受ければ、同様の分析を瞬時に行なうことは可能。
今回はその手段は用いず、私という個体のみで情報収集を実施した。
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「どちらの手段で情報の取得を経験しても、得られる情報そのものに差は無い。
                  即時性に関して言えば、圧倒的に前者が優れている。
                       しかし後者には、時間と言う密度がある。」
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そこでまた、長門は喋るのを止めた。
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―つまり、外部からの入れ知恵ではなく、自分自身で手に入れた力だ、と言いたいのか。
 ある種の誇りを持っているのは、間違いないだろう。
 長門の無表情から、静かな自信が滲んでいるような気がした。
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しかし、いくら普通の分析と言ったって、
素人がそれを完璧にこなすってのは、十分超人的だと思うが・・・
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「・・・これからもちょくちょく寄らせてもらうよ。おもしろい本を教えてくれ。」
「そう。」
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長門はおもむろにエプロンのポケットに手を入れ、何かを取り出した。
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「これ。」
「長門書店・・・会員証?」
「提示すれば、特典として粗茶を進呈する。おかわりも自由。」
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そして、自分が座っていたチェアを指差し、
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「座って。すぐに用意する。」
「え? 今からか? 気は使わなくていいぞ、もうだいぶ遅いし・・・」
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言い終わる前に、長門はまた、店の奥へと引っ込んでいった。
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空の模様は、夕暮れへと変わりつつある。
・・・ま、一杯くらい飲んでいってもいいだろう。
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―しかし、SOS団の仲間内には、宣伝しておいても問題ないだろうに。
  どうせそのうちバレるだろうが・・・
   この手のことには抜群に勘の良い女を、俺は知っているからな。
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 少なくともあの3人は、秘密にしておいてほしいと言えば、それを守るだろう。
  ハルヒも長門の言うことは、割と素直に聞くからな。
   鶴屋さんはちょっと不安だな・・・
 ・・・あ、そうそう、本の注文をキャンセルしておかなきゃな。
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急須と湯飲みを盆にのせて戻ってくる長門を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
心地よい夏の風が、涼しさを残して吹き抜けていった。
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完
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