#navi(SS集)

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* 作品 [#je6dfe4c]

** 概要 [#f286e56a]

|~作者      |ナナッシィ  |
|~作品名    |検温は正確に |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2008-05-23 (金) 07:41:47   |
|~キョン    |登場    |
|~キョンの妹|不登場  |
|~ハルヒ    |不登場  |
|~みくる    |不登場  |
|~古泉一樹  |登場 |
|~鶴屋さん  |不登場 |
|~朝倉涼子  |不登場 |
|~喜緑江美里|不登場|
|~周防九曜  |不登場   |
|~思念体    |不登場  |
|~天蓋領域  |不登場  |
|~阪中      |不登場|
|~谷口      |不登場|
|~ミヨキチ  |不登場    |
|~佐々木    |不登場  |
|~橘京子    |不登場   |

** SS [#v1759af2]

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#setlinebreak(on)

 頭が痛い。
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 いや、痛いというより重いといった方が正確かもしれない。
 いつもの放課後の文芸部室。つまりSOS団のたまり場。
 そこでコートも脱がずに、いつぞや電器店からスポンサー料の前倒しでいただいてきた電気ストーブの前で、丸くなっているのが今の俺である。
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 普段からハルヒの我が儘というか傍若無人というか傲岸不遜というか天上天下唯我独尊というかな要求やら要請やら脅迫やらに頭を抱えている俺だが、今日の頭痛は、いつものそれとはちょっと違う。
 どこがどう違うかといえば、情緒的に頭が痛いのではなく肉体的なものだってところが違う。
 ついでに言えば頭以外のところも痛い。鼻の奥が痛いし、唾液を飲み込めば喉が痛い。身体中の節々が痛い。うん。基本的に全滅だ。腹痛がないのが幸いといったところかね。 まぁここまで並べればわかっていただけるだろう。
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「……風邪」
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 そう風邪。まごうことなき風邪。今の俺は風邪真っ盛りなんである。どのくらい真っ盛りかっていうと、寒気が止まらなくて膝が震えているくらいだ。多分発熱もかなりのところまでいってるんだろうな。
 朝から喉がちょっと痛むかなーとは思っていたんだが、昼休みまでに、ここまで急速悪化するとはね。あーつらい。
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 ……って長門、いつの間に来たんだ?
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「……今」
 そ、そうか。あーいや、長門。対なんとか…えーとインターフェースのお前には、あまり関係ないかも知れないが、今の俺にはあまり近寄らない方が良いぞ。感染するかもしれん。
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「気管支・咽頭の炎症が原因。発熱による全身の衰弱……今のあなたの状態は有機生命体の疾病、総合感冒。通称風邪と呼ばれるものと判断した。私には感染しない。平気」
 ああ、やっぱりそうか。あれか、やっぱり身体のつくりとかちょっと違うのか? それとも数十年前の火星人とかみたいな事にならないように、あらゆる抗体があるとか。
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 長門はミリ単位で顔を左右に振って否定する。おさまりの悪い髪がわずかに揺れる。
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「……それは違う。あなたの罹患・悪化の原因は、体力の低下が原因」
 う……ここのところ、ちょっと夜更かし続きでな……。
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「不摂生。栄養状態もよくない」
 ズバリと言わんでくれ。両親が法事で妹連れて田舎にいっちまってるからな。一人で留守番なもんだから、メシもインスタントで済ませちまってたから。
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「遅くまで……なにを……?」
 いや、まぁ、その、なんだ。色々だ、色々。居間のテレビで深夜放送やらDV…え、映画のDVDをみたりだな。うん。
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「……」
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 長門は表情を全く変えずに瞬きを二回ほどする。いや、他の連中にはわからないだろうが、長門表情解析選手権があれば優勝候補の一角にくいこむこと確実であろう俺にはわかる。
 長門は今、ちょっと呆れた様な目で俺をみているのだ。あと疑い成分も小さじ1杯分くらい含有されているっぽい。
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 うう……なんかこう、いたたまれないんですが。長門さん。
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「……今のあなたには安静が必要。水分と栄養の補給も」
 あ、ああ、その通りだと俺も思う。うん。
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「ここの環境は、あなたの体調に良好な影響を与えるとは思えない。保健室に行くか、早退すべき」
 全くその通り。そりゃそうなんだがな。保健室行ったら先生いねーんだよ。昼飯でも食いに行ってんのかね。無断でベッドに潜り込むのもなんだしな。探し回る元気もねーし。教室は弁当のニオイがもうダメでな……。で、仕方なくここにきたってわけだ。
 5時間目になれば戻ってくるだろうから、チャイム鳴ったら保健室に行って休むか、早退届出して帰るよ。
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「懸命な判断」
 ありがとよ。そんなわけだから、ちょいとほっといてくれ。返事するのも辛くなってきちまった。それにやっぱり万が一ってこともあるしな。
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「……待ってて」
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 長門はそう言うと、音もなく部室から出て行った。まぁ待つもなにも動く気ないんだがな。
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 遠慮がちに閉められたドアの音が妙に遠く聞こえる。あーこれは本格的にダメかもしれんね。久しぶりに高熱をマークしていそうだ。38℃のK点を越えてるかもしれん。
 痛みを覚悟しながら唾液を飲み下し、溜め息を吐く。息が熱い。自然に声が漏れそうになった。悲しい事があったわけでもないのに滲んだ視界の向こうで、電気ストーブの赤い光がぐらぐらと揺れている。まいったなこりゃ。
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 ぼーっとしていると、突然目の前に何かが差し出された。
 ん……? スポーツドリンクのペットボトルだ。
 顔を上げると、いつの間にか戻ってきていた長門が白い右手で持ったそれを差し出していた。
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「……飲んで」
 こいつ、わざわざ購買まで行って買ってきてくれたんだろうか。
 ありがとよ。なんかもう人の優しさが身に染みるね。
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「これも」
 のろのろとペットボトルを受け取ると、今度は左手を差し出してきた。その上には半分が優しさでできているという噂の、見慣れた白い錠剤がある。
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「応急処置。少しでも効果があるかもしれない」
 ありがたいけど、こんなもんどこから持ってきたんだ? 保健室か? ってことは先生戻ってきてるのか? てかこんな短時間で保健室と往復できるもんか?
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「違う」
 んじゃ、どこから? まさか宇宙的なアレでナニしたとかか?
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「違う。常備している女子生徒から分けてもらった」
 なんだそりゃ。お前んとこのクラスにゃ、ナイチンゲールみたいな子がいるのか?
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「他にも鎮痛剤を持っている女子生徒はいた。だけど今のあなたにはこの成分が有効と判断した。でも、これらの薬品を所持する女子生徒達の用途は、現在のあなたの症状とは類似しない。別の用途」
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 そこまで説明されれば、さすがの俺も理解した。発熱でとぼけてはいるものの、一般常識を失うレベルまでは堕ちちゃいない。
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 なるほど。じゃあお前は教室まで戻って、その女子に話しかけてもらってきてくれたわけか。すまんな。いや、ありがとう。
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「……いい」
 しかし、お前がクラスメイトに頼んでるところって、想像ができないな。
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「クラスメイトではない。この薬剤を私に与えてくれたのは喜緑江美里」
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 口に含んだポカリを思わず吹き出しそうになってしまった。
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 喜緑さんって、あの喜緑さんかよ。っていうか彼女もお前と同じ対なんとかかんとかの宇宙的なアレじゃないのか? そういうの必要なのか?
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 疑問と好奇心がぐるぐると頭の中を駆けめぐったが、さすがに口には出さなかった。発熱中であっても俺の辞書には一応「デリカシー」って項目が明記されているしな。
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 冷たい液体が喉を通り、一緒に白い錠剤も飲み下される。液体が通過する瞬間の喉の痛みに、つい顔をしかめるが。熱をもった身体の中を、すうっと冷気が通っていくのは結構心地良い。
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 もう一口、二口とボトルを傾ける。あー喉乾いてたんだな俺……。
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 熱く乾ききった身体が潤された様な感覚に、安堵の溜め息がでる。少し楽になったような気分だ。まぁそんなに早く薬が効くわけもないだろうから、プラシーボ効果ってやつかね。
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 長門、本当にありがとうな。助かったよ。恩に切る。
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「……大袈裟。気にしないで、いい。当然のこと」
 また借りがどうこうとか言うなよ。感謝してるんだ。とっといてくれ。
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#br
 若干力の入らない指でペットボトルのフタを閉めると俯き、俺は再びストーブの光とのにらめっこに戻る。 この調子なら保健室まで行くくらいの体力は戻ってきたかな……。
 と、突然冷たい感触が俺の額に触れた。
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「んあ?」
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 見上げるまでもなく、長門がその白い掌を俺の額に当てていることがわかる。……長門? なにを?
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 普段の俺なら、突然こんなことをされたら、慌てて飛び退くところだが、今の状況じゃされるがままだ。それに……こう、なんだ。長門の冷たい手が、殊の外気持ちいい。
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「……熱い」
 あ、ああ。うむ、そりゃ熱いだろう。結構出てると思うしな、熱。
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「37.892℃」
 コンマ3ケタかよ。お前の手は精密温度計みたいだな。
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「正確ではない」
 いやいや、十分だろ。
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「私の掌の温度と、あなたの額部表皮の温度との差分を計測した結果。正確な体温ではない」
 ふうん? まぁ確かに体温は普通額じゃ計らないけどな。
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「……どうするの?」
 んー。一般的には口……ベロの下な。とか、あとはワキの下とかだな。最近じゃ耳とかでも計れるのもあるらしい。あとは……。
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 そこまで説明して、俺は言い澱んだ。まぁこれは説明する必要ないだろう。つまり、またぞろ俺辞書の「デリカシー」の項目を開いたわけだ。いくら相手が長門でも、直腸検温の説明はなぁ……。
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 って、長門。なに書いてるんだ?
「早退届」
 なんだ? やっぱり保健室にいったのか?
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「違う。これも喜緑江美里が用意した」
 なんでも持ってるんだな、あの人。生徒会だからか?
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「わからない。これにあなたの症状の情報を記入しろといわれた」
 そっか。なんかもう、なにからなにまでスマンなあ。まぁ適当でいいよ。風邪って書いておけばいいだろ。体温もさっきのでいいんじゃねえか。早退理由にするには十分だし。あ、コンマ3ケタはいらんぞ。1ケタでいい。
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「……情報は正確に記入すべき」
 いやまぁ、そうかもしれないけどな。普通の体温計はデジタルでもコンマ1ケタまでなんだよ。
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「そうではない。額での体温の計測は不正確」
 そういうと長門は俺の前に立つと、左手の人差し指を立て、すっとその手を伸ばしてきた。
 ぼうっとしている俺に構うことなく、その手は俺の顔の横を通り、俺の右耳に到達。そして俺の耳の穴に差し込まれた。
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「んなあぁっ?」
 なななながとっ? なにするんだなにをっ?
 さすがに驚いた俺は瞬間的に頭を振ると、長門の指から逃れた。こそばゆいというかなんというかその、ゾクっとしたぞ。おい。
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「動かないで。正確に計測できない」
 あの、長門さん? 別に適当でいいんですよ? 耳で検温とかしないで。その。
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「……それでは書類に記入ができない……あなたを早退させることができない」
 えーと……なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。いや、他のヤツらにはわからないだろうが、長門は今、明らかに悲しさと困惑を混在させた表情をしている。比率でいうと6:4くらいだ。
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 こいつがこんなにわかりやすい表情をするのも珍しい。細い眉毛が1mmも下がっているじゃないか……本当に困っているのか……?
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「正確な計測の許可を」
 まったく……融通が利かないというか、なんというか……えーと、じゃあ、その。よろしくお願いします……。
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 諦めた俺は、おずおずといった感じで少しだけ顔を長門に近づける。なんだ。薬効いてないのか。また熱が上がってきたんじゃないのか。顔が熱くて仕方ないんだが。
 ゆっくりと伸ばされた長門の左手が、俺の頬を横切り、少し髪を梳る様に耳に届く。そして再び耳の穴に冷たい感触。思わず首をすくめる。発熱によるものとは違う悪寒。長門! まだか! なんかもう色々限界だ!
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「……計測完了。耳部体温37.956℃……約38.0℃と確認」
 ふぅ。やれやれだ。思わず自分の耳たぶをぽりぽりと掻いてしまう。
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「……次……」
 ……次?
 こくり、と長門が頷く。頷きながら、どこから取りだしたものか、ウエットティッシュで指先を拭いている。部室内にわずかにアルコール臭が漂う。えーと、長門、それどこから持ってきた? っつーか、俺の耳はそんなに不潔だってのか。ちょっと傷つくぞ。
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「違う。次は舌下の体温を計測する。その為に消毒を施しただけ」
 あーそう。それなら納得だ……ってオイ! 舌下ってどういうことだよ!
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 ……まさかお前、指をく、くわえろってのか?
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「その表現は正確ではない。私は人差し指の先端に感温機能を集中し、あなたの舌下に挿入するだけ。あなたは、口を開けるだけでいい」
 いやいやいやいやいや! なんかもう色々無茶だろう! お前の指先がどれだけ高性能なのかはわからんが、人の指を口の中にいれるなんてのは、普通はしないんだ!
 それに、そもそもが、もう検温済んだだろう! 一箇所でいいんだって!
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「先ほどの額での計測と耳での計測に差違が認められた。体温の上昇があると認識する。最新のデータとの比較が必要。それに正確な体温を算出する為には複数部位からデータを取得し、平均化するのが最適」
 理路整然とスラスラ言ってるが、俺は世界条約で絶滅寸前認定を受けた保護動物の最後の一匹とかじゃないんだぞ。
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「計測の許可を」
 またその表情でそんな事を言う……。だが、こればっかりはダメだ。大の男が女の指をくわえたりとかしゃぶったりとかってのは、こう法律的にダメ。ダメなんだ!
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「そのような法律は、この国家には存在しない……」
 だああーっ! 変なところで理屈出すなっ! ただでさえ俺はもう頭が痛いし熱はでてるし身体はダルいしで、お前にちゃんとした事情説明とかはできないんだっ!
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「……心配だから」
 っぐ……長門の表情が曇る。
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 さっきの表情に「悲しみ」の要素が10くらい加算されてる感じだ。見ろ、眉毛なんか1.5mmも下がってる。長門。お前さんね、そういう表情で、そんなことを言うのは反則だろう。さすがにそれは俺でなくても読み取れるぞ。
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「……」
 ……あーもう! わかった! わかったよ! 気の済む様にしろ!
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「そう」
 長門の白い指(消毒済み)が、俺の鼻先に差し出される。ええい、なんなんだこれは一体。どうすりゃいいんだ。口を開ければいいのか。自分から噛みつけばいいのか。ああもう、熱がどんどん上がってるような気がするぞ。
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 既に唇の数ミリ手前に迫った白い指先――左手の人差し指だ――に、ごくりと喉を鳴らしてしまう。あいてててて。
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「……あーん」
 長門よ、どこで覚えたふぉんふぁほ(そんなの)。
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 冷たい指が俺の唇に触れ、そして歯と歯茎をなぞる様に、ゆっくりと侵入してくる。口をだらしなく開けていると、自然に瞼を閉じてしまう。とてもじゃないが長門の顔なんか見られない。これでいいのだ。
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 だが……ううっ、舌、どうすりゃいいんだ。上あごか、上あごに押しつけてりゃいいのか。
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 やがて、俺の口の中の冷たく細い指は、目的地を見つけたのか、侵入を止める。
 舌を硬直させすぎていたせいで、舌下の唾液腺が刺激され唾液が飛び出しそうになり、あわてて俺は口を閉じる。だが、生理機能は止められず、俺の唾液腺は勢いよく、飛沫を飛ばしてしまった。
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 しかも結果として、俺は舌と唇で、長門の指を挟み込んでしまった。なんかもう、完全に指しゃぶり状態だ。
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「ふ、ふやん! なはほ!(す、すまん! 長門!)」
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 反射的に謝ったものの、それは同時に口の中で舌を動かす事になったわけで、口の中には長門の指があるわけで。つまるところ、俺は細く白く冷たく――そしてどういうわけだか少し甘い――長門のそれを、舌でねぶりつくしてしまった。
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「……くすぐったい」
 ……!!!……。
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 ちゅぽん。
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 そんな擬音とも実音ともつかぬ音を立てて、長門の指は俺の口からようやく開放された。ん……? 逆か……? いやもう、どっちでも、どうでもいい。なんかもう、ダメだ。色々ダメだ。明らかに熱があがってる。絶対そうだ。幻覚まで見えてきた。
 だって薄く開けた瞼の向こうで、早退届けに記入しているらしい長門の顔が、照れているように見えるんだぜ? おまけに顔がちょっと赤いようにも見える。
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 こりゃもう重症だ。明らかに重症だ。あーだめだ、もうだめだ、長門、救急車呼んでくれ。なんなら都市伝説の黄色いヤツでもかまわん。
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 半ばヤケ気味にそうつぶやきながら、妄想と幻覚を振り払おうと、思い切りかぶりを振って項垂れると、頭の動きに視界が少し遅れてきて……それから、ぐらりと傾いた。
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 あ……これは、マジでヤバいかもしれん……。
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 次に気がついたのは独特のにおいのする白い部屋だった。どうやら仰向けに寝ているらしい。ここは……どこだっけ……?
 真上に見える蛍光灯をぼうっとしながら眺めて、白いカバーのかかった薄い掛け布団から身をよじり、身体を起こそうとする。うわ、汗でぐしょぐしょじゃねーか……。
 白いカーテンの向こうに人の気配。どうやらあちらの人物も俺が目覚めたのに気づいたらしい。そこで、ようやく理解した。保健室じゃねーか。
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「気がつきましたか」
 見慣れたニヤケ面がカーテンを少し開けて俺を覗き込む。
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「ああ、まだ起きない方がいいですよ。今、先生にタクシーを呼んでもらいますから」
 ……今、何時だ?
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「ええっと…2時過ぎですね」
 もう、そんな時間か。大分寝てたみたいだな……。っつーか古泉、お前授業は?
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「付き添いですよ。どうせ自習でしたしね」
 ホントかよ。ところで俺はどうやって保健室に来たんだ? 記憶がどうもないんだが。ひょっとして……。
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「それはもう、ご想像通りですよ。階段はちょっと大変でしたけどね。バイトで鍛えている成果でしょうか。それほど負担ではありませんでした」
 お前のバイトは肉体労働っちゃ肉体労働だが、別に筋肉は使わんだろ。あーいや、それより先に礼を言うべきだったな。すまん、古泉。迷惑かけたな。
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「いいえ、とんでもない。部室に行ったら、貴方が倒れ込んでいたものですから、驚きましたけどね。これぐらいはSOS団副団長として当たり前ですよ。そうでなくても、人間として当然のことじゃないですか?」
 今回ばっかりは、お前のニヤケ面も素直に受け取っておくよ……ありがとうな。
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「どういたしまして。ですが、お礼でしたら彼女にも言ってあげてくださいね。一人では貴方を無事にここまで運べたか、少々心許なかったですからね」
 彼女? あ、ああ、長門か。
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「ええ、彼女は授業に戻っています」
 そっか。なんか言ってたか?
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「特には。僕が5時間目が自習だからと伝えたら、そのまま教室に戻っていきましたよ……気のせいでなければ、少し名残惜しそう……というか心配そうでしたけどね」
 多分8割くらいの可能性で気のせいだろ。
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「そうかもしれません。僕は貴方ほど彼女の表情を読む事には長けていませんから」
 ……まぁな。後で礼を言っておくよ。直接言えるのは明日になるか、明後日になるかわからんから、とりあえずメールでも打っておくさ。
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「そうしてあげてください。っと、そろそろタクシーが来る頃ですね、先生が戻ってきたら行きましょうか。起きあがれそうですか? 乗りかかった舟です、校門まで肩くらいお貸ししますよ」
 や、なんとか大丈夫そうだ。随分汗をかいたみたいだし、薬が効いてるのか、さっきよりゃ大分楽になったみたいだ。
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「それはなにより。ですが無理はしないでくださいね。なにしろ最後の記録では38.5℃だそうですから。これはかなりの高熱ですよ」
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 身体を起こした視線の先には、古泉が早退届らしき紙を気障っぽく指に挟んでヒラヒラとさせている。まぁな、俺もこんな発熱は久しぶりだよ。
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#br
「十分に安静にしてくださいね。しかし……」
 なんだ?
#br
「いえ、この早退届は長門さんに渡されたんですけどね。色々モノがある我が部室……ですが、僕の記憶が確かなら、体温計などはなかったように思うんですが。どうやって検温したんです?」
 う……まぁ、そのなんだ。あ! ほら、いつぞやの殺人事件寸劇の時に長門が触れもせずに圭一さんの体温を言っただろ。アレだよ。宇宙的パワーというかなんというかの。
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「まぁ、そんなところでしょうね。『口腔内』とカッコ書きしてあるのが気になるところではありますが……」
 そんなもんは気にせんでいい。俺がマヌケ面であくびしてるところに赤外線センサーでも当てたんだろうよ。
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「額、耳、というのもありますが?」
 古泉。俺は具合が悪いんだ。そりゃあもう悪いんだ。なにしろ部室でぶっ倒れてお前と長門に保健室まで運んでもらうくらい具合が悪いんだ。そんな俺に、ぶっ倒れる前の記憶を、しかも長門の様子をつぶさに語れといわれても、正確に応えようがない。そうだろう? うん、納得できるな? いや、納得してくれ。これ以上、その話題はもうナシだ。
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「ふふっ……わかりました。病人に負担をかけるほど非常識であるつもりはないですからね」
 ああ、是非そうしてくれ。そうしたら俺も一両日くらいの間は、純粋にお前に感謝することができるからな。
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 養護教諭が戻ってきてタクシーが到着した事を告げ、俺たちの会話は終わった。立ち上がるとまだフラついたので、結局古泉の肩を借りて、まだ授業中の廊下を通り過ぎ生徒玄関へと向かう。
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 タクシーの前まで来た俺は、何度目かの礼を古泉にいい、思い出したように付け加えた。
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「ハルヒと朝比奈さんにも、早退したこと伝えといてくれ。特にハルヒは後でうるさそうだしな」
「そうですね。彼女はきっと今頃、前の席の団員兼クラスメイトが不在なことに疑問とか……その他色々な感情を抱いていそうですしね。ひょっとしたら先生方から早退した旨は伝わっているかもしれませんが」
 まぁ、それならそれでいいがな。それじゃ、な。本当に助かったよ、古泉。
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「あんまり聞き慣れないセリフを繰り返されると、少々くすぐったいものですね。ですが、くどいようですが長門さんへのお礼をくれぐれも忘れないでくださいね」
 ああ、わかってるって。
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「なにしろ彼女は右手を負傷していたのにも関わらず、貴方を運ぶのを手伝ってくれたんですからね」
 ……負傷? あいつ怪我なんかしてたのか? それともあれか、まさか俺が倒れたときに怪我させちまったとか……。
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「そこはわかりません。ですが左手の人差し指にハンカチを巻いていましてね。ずっと庇っていたようですので……」
#br
 左手の人差し指……。
#br
 その言葉を聞いた瞬間、部室での……その、なんだ、珍事の光景が俺の頭の中にスライドの様にフラッシュバックした。お、俺は噛んだりしてない……よ、な……?
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「そもそも怪我かどうかもわからないんです。まぁ長門さんなら切り傷程度ならハンカチなど巻かずとも止血どころか傷ごと消してしまうでしょうし。突き指の処理としてもおかしいですし……だとしたら、あのハンカチはなんだったんでしょう?」
 知らん。わからん。想像もできん。
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 顔が熱い。風邪の熱とは多分無関係に。熱い。
#br
「おや、これはいけませんね。熱があがってきたんじゃありませんか?」
 うるさい。黙れ。いや、その通りだ。うん、熱がその、ナニなんだ。
#br
「急いだ方がよさそうですね。運転手さん、それではよろしくお願いします。くれぐれもお大事に。必要なモノがあれば連絡をください。おそらく本日の団活動は『風邪を引いた異世界人と遭遇した場合の対処方法シミュレーション』という名目でのお見舞い、というところになるでしょうから」
 あのな……いや、なんでもない。運転手さん、出してください。
#br
 そう言うと俺は古泉のうさんくさい笑顔に見送られて学校を後にした。
#br
 ぐったりとした俺は車の振動に身を任せて目を閉じる。
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 すると瞼の裏にぴんと立てた左手の人差し指に、リボンのようにハンカチを巻いた長門の姿が浮かび上がってきて、俺は「なんのつもりなんだー!」と叫びながら悶絶し、運転手さんに心配されたりした。
#br
#br
#br
(了)
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