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#navi(SS集)

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* 作品 [#h3bfe8c0]

** 概要 [#rabf8233]

|~作者      |輪舞の人  |
|~作品名    |機械知性体たちの輪舞曲 第14話    『閉鎖空間』 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2007-01-27 (土) 19:59:17   |

** SS [#rb7a61b1]

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#setlinebreak(on)

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YUKI.N>また図書館に
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―ある情報端末からの次元断層を超えた想い―
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5月27日。火曜日。深夜。
目の前で電話が鳴る。ほんの一瞬だけ。
わたしの部屋で、電話機がコール音を発信する状況というのはとても珍しい。
でも知ってる。彼が電話をしてくることは。
『…長門さんですね』
古泉一樹の声。
『さすが、というべきでしょうか。ワンコールもさせていただけませんでしたよ』
「状況は深刻」
わたしは、彼の言葉に応える機知というものを知らない。ただ事実だけを述べる。
「あなたの力が必要とされる」
『理解しているつもり、と言えればよいのですが』
彼の声は普段とあまり変わりはない。だが、その奥底ではどう感じているのだろう。
人間の知るもっとも強い感情のひとつとされる、恐怖。それがあるのだろうか。
『実情はパニック状態です。いや、ここだけの話ですが』
「『閉鎖空間』への侵入は」
『試みています。ですが、現状はきわめて、そう、楽観的と捕らえるにはあまりに厳しい状況かと』
「あなたしかいない」
わたしは告げる。明確な言葉での意思伝達はわたしでは不完全。直接接触できる、彼の力が必要。ただ問題はある。
「でも、今回の状況下では、あなたたちの能力は本来のものとしては使用できない」
『お見通しという訳ですね』
「事実」
『…僕も含めた、能力者の能力喪失が確認されています。少しずつですが。もはや、これまでのように普段の我々の方法では侵入はできません。対応に追われています。あなたに助言をいただければ、と思ったのですが』
「あなたの仲間の協力が必要。聞いて」
わたしは大まかな手順を伝える。コンバインド。能力の集中使用方法の概念。
古泉一樹の理解力は高い。二言目には、同意の言葉が得られる。
『了解しました。試してみます』
「こちらも独自の行動を取る」
わたしは受話器を持つ手に、少しだけ力が入るのを感じる。
「彼らの帰還を、支援する」
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その前日に遡る。5月26日。水曜日。
朝倉涼子消失の翌日、早朝5時。彼女の転校という情報操作は、問題なく実行される。
結局、その日は505号室で夜を明かした。なにかを考えていたわけではない。
ただそこに居たかっただけなのかも知れない。とにかく、わたしはそこに居続けた。
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5時になった時点で処理を開始。完全に情報操作を終えた後、学校に行く前に居宅の内部にあった全ての家具は、わたし自身が消してしまう。部屋の中に舞う、粒子の粒。彼女が消えたときと同じ。一瞬で消えてしまった。
わたしが708号室に初めてやってきた時のように、今度は彼女の部屋にこそ、なにもない。
でも、それでいい。
少なくとも、わたしの記憶の中には、ずっと残り続けるものがあるから。
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ただ、ひとつだけ。回収したものがあった。
それは、彼女が3年前に持っていったままだった4冊の絵本。
わたしは一度しか目を通していなかったはずだが、その4冊の絵本は、明らかに何度も読み返した形跡があり、少し不思議に思う。彼女のいない今、何を思って読み返し続けたのか、その真意はわからないままだろう。
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その日の早朝。いつもより早い時間に登校したわたしは、文芸部の部室の窓辺に座る。
まだ6時30くらい。早朝練習のために学校に来ている者たち以外では、職員も含めてほとんどいない、静かな学校。
ほの暖かなやわらかい朝の空気の中、現在ではSOS団の拠点たる場所、その一室で本を読む。
やがて来客があることを知っている。この時間平面に、別の時間平面からの来訪者。
目的は”彼”。わたしはここで彼女を待つ。
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部室のドアの前に人がやって来て、しばらくためらった後、室内に入ってきた。
3年前の7月7日に「2度目の”彼”」と共にやって来た、朝比奈みくるの異時間同位体だった。
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「お久しぶりです、長門さん」
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落ち着いた印象の声は、今の彼女からどれくらいの時間が経過したのかを思考させる。
どの時間平面から来たのかは、時空振動の波の揺らぎの大きさから推測できるが、今、それは大きな問題ではなかった。
目的。彼女はこれから、非常に重要な情報をわたしにもたらしてくれる。
すでに、知っていることなのだが。
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「お話があります」
窓辺のわたしと、ドアを閉めてそこから動かない彼女。ふたりの距離は遠い。
警戒されている、のだろう。はっきりとした理由はわからない。存在する時間に関わらず、朝比奈みくるはわたしに対して距離を置いている。
彼女たちの組織と、わたしたち統合思念体との組織相関の問題なのか、それともただ個体同士の相互理解不足なのか、または、「相性」と呼ばれる、きわめて分析の難しい、感情も含めたさまざまな情報の介在するなにか、なのか。
今のわたしには判断できないものだった。
「明日のことです。あなたはご存知かもしれませんが」
「それで」
わたしは彼女から視線をそらすと、読んでいた本に向ける。
彼女は一瞬だけひるんだようだが、言葉をつなげる。
「”彼”と涼宮さんは、明日の夜、閉鎖空間内に隔離されます。この、学校で」
そう。涼宮ハルヒは”彼”を選ぶ。すでに選んでいるというべきだが、今回の選択はさらに重大。
“彼”のみを傍らに置き、わたしたちすべてを含めた世界そのもの否定し、再構築する。
「これは観測が確認されている規定事項です。本来であれば、この時間平面の人間に教えることは禁則事項に抵触しますが…」
「わたしはヒトではない」
本を閉じる音。そのまま顔を上げる。
「だから、へいき」
「…です、ね」
朝比奈みくるの声は掻き消えてしまうかのよう。警戒ではない。怯え。
わたしに対して? 理由はわからない。
「わたしはこれからキョ…」
視線を彼女に戻すと、朝比奈みくるはなぜか訂正する。
「し、失礼しました。今日のお昼休みの時間帯、わたしは、”彼”に対して、わたしの可能な範囲内で助言を与えます」
「助言、とは」
「…涼宮さんは、この世界そのものに対して、それは絶望といっていいほどの、激しい想いを抱いています。退屈で憂鬱な毎日。自分の思い通りにならないことに」
朝比奈みくるはうつむいて言う。両手で自分の体を抱きしめるような姿勢。寒いのだろうか。
「新しく、世界を再構築して、彼女の望むままの日常を手に入れること。あくまで無意識下にですが。それでも、ただひとつだけ、今のままでいて欲しい存在があります」
「それが”彼”」
涼宮ハルヒと彼の関係性。自分で出したはずの回答に、またもやもやとした解析できない情報が発生。処理できなくなる。
そんなを考えているときだった。
そんなことを考えているときだった。
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―嫉妬。
また、なの。
―その解析できない情報ってのはね。嫉妬っていうの。
意味がわからない。
―そろそろ解ろうよ。
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この声がどこから来るのか、理解するようになってきていた。
ただのエラーではない。朝倉涼子の残した情報因子。それが、少しずつ、わたしの中で成長を続けている。独立した意識のように、擬似的ではあるが、意思を持つかのように。
彼女はわたしに、なにをしたかったのか。
ただの機能破壊行為、ではない。きっと、なにかもっと他のこと。
…なぜ。
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「…あの、長門さん?」
「へいき」
わたしは意識せずに床を見ていた自分に気づく。
「続きを」
「…この危機に際して、今回”彼”が彼女の側にいるという事実。これを最大限に活用する必要があります」
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朝比奈みくるの説明によれば、世界の改変を防ぐ最良の方法とは、”彼”が、涼宮ハルヒに対して「この世界はこのままでいいこと」を理解させる必要がある、という。
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「それは、彼女を、今の彼女のままで受け入れてくれる存在が、すでにあなたの側にいる、という事実を、涼宮さんに認識してもらう事が絶対条件なんです」
「具体的に」
「…つまりですね」
ここから朝比奈みくるの説明は要領を得なくなる。
「…その、なんというか。これからも、絶対そばにいる、そのための誓いというか」
「具体的に」
「……相手のすべてを受け入れる証明というか…」
「具体的に」
「………えーと、その、具体的に… 彼女にとっても、わかりやすい行動、というか……」
「明確に」
「…………キス、してもらうんです」
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―笑えない。
黙って。
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「まじめな話なんです」
「了解した」
朝比奈みくるは安堵のため息をつく。よほど緊張していたのだろうか。
「この時、古泉君や、長門さんも、きっと独自の動きを取ってくれると思います。そのときに、今のわたしの説明をよく理解していただいて、行動してくださると… その」
「だいじょうぶ」
わたしは正面を見据えたまま、ゆっくりと立ち上がる。
「”彼”に賭ける」
「………」
朝比奈みくるのいるドアの方へと振り向くと、表現のしにくい表情でこちらを見ている彼女。なにか複雑なものだった。
わたしは彼女の後ろにあるドアに向かって歩きだす。自分の教室に戻ろうと思った。
「昼休み、この部屋で”彼”と接触するといい。席は外す」
「…その、ごめんなさい」
通りすがろうとしたときに、言葉がかけられる。
「今回のこの件については、「わたし」にも責任の一端が…」
「謝らなくて、いい」
わたしはドアを開けながら言う。
「そのことで謝られるのは、辛い」
「…え?」
ドアを閉める。朝比奈みくるの、おそらく浮かべているだろう驚きの表情は、見ることはなかった。
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こんな言葉を彼女にかけた記憶はない。
まだ、わたしはこのとき、「未来の彼女の行為」を知っていないのだから、こんな言葉が出るはずがない。パソコンの前で、マウスをにぎやかに奪い合うふたり。それが原因のひとつだと、「彼女」は言っていた。
言えるはずのない言葉を口にする。規定事項を超えた言葉。
そもそも、自分自身で発言の意味を理解していない。
また、始まっている。
あの声と共に。時間の上書きが。
いや、これはそういったレベルの問題ではない。
―時間を、越えている。
何が起こっているのだろう。
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…こうして、翌日の夜、わたしの部屋の電話が鳴るのだった。
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「あなたに、頼みたいことがある」
昨日の朝比奈みくるとの会話を思い返しながら、古泉一樹にひとつのメッセージを託す。
「パソコンの電源を入れるように。そう”彼”に伝えて欲しい」
『承知しました。もっとも、”彼”の元に辿りつけるかどうか、はなはだ心もとない状況ではあるのですが』
「あなたが行けなければ、世界の終わり」
わたしは事実だけを淡々と伝える。
「だから。かならず」
『…そうですね。個人的にも、まだ、涼宮さんと”彼”とは、いろいろとお話したいことがありますし』
「それはわたしも同じ」
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―あ、言えた。
…そう思ったから、言った。なにか問題が。
―ううん。全然。ちょっとだけ、見直した。
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電話の向こう側の古泉一樹は、少しだけ言葉を止める。
なにが不自然?
『…あ、いや。失礼しました。最後にひとつだけ確認が』
「なに」
『”彼”への伝言ですが。それだけでよろしいのですか?』
「………」
電話の向こうの声には、微妙に違うなにかが含まれていたように、このとき思う。
『…いえ。ひょっとすると今生の別れになるかも、と縁起でもない考えが頭をよぎったもので。すみません』
何が言いたいのか、わからない。失敗することを予想した行動など無意味だというのに。
これに失敗すれば、世界は終わる。その後のことを考えてどうしようというのだろう。
こうして彼との会話を終えたわたしは、この直後にやってくるものの為にドアの鍵を開ける。
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喜緑江美里。
彼女はすでにこのマンションに向かっていた。

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「状況の確認を」
わたしは室内にいる喜緑江美里に要求する。ふたりとも立ったまま。
「はい。最重要観測対象と、準観測対象のふたつの有機個体は現在、反応を完全に消失しています。ほぼ確実ではありますが、北高を中心としておよそ半径300mほどの周囲に、次元断裂現象が確認されています。範囲については、正確には揺らぎを観測していますので、変動はあるかと。彼ら『機関』が呼称するところの『閉鎖空間』です。かなりの強度で形成されつつあります。その中心点に彼らは居るはず」
静かな、淀みのない声だった。
「わたしたちの思考リンクでは、彼ら有機個体に連絡を取ることはできません。その上、できたとしても、この新たなタイプの次元断層を超えての意思伝達は困難かと」
「方法は、ある」
わたしは、すでに想定し、古泉一樹に託したことを説明する。
「部室内にある電脳端末。そこにダイレクト・リンクを確立する。かなり原始的構造物ではあるが、対象を我々同様のものとして見立て、そこへ擬似的な思考リンクを張る。そのためにはあなたの協力も必要」
「危険では。対象の置かれている地点のクリアランスが確認できません。何があるか予測できない未知の事象点への相互リンクの開放は、思考汚染の可能性もあるかと」
「やらなければ、世界が終わる」
“彼”も戻らない。
なにより、この日の、この時のために、わたしはあの教室で彼女と対峙したのではないのか。ほんの数分でいい。今の”彼”になら、わたしの言葉はきっと届く。かならず。
「”彼”はわたしを信じてくれる。それに賭けるしか、ない」
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喜緑江美里はわたしの言葉に、あの静かな微笑みで応えると、優雅に一礼した。
「御指示に従います。プライマリ・ドライバ」
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―終―
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