#navi(SS集)

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* 作品 [#xa281d25]

** 概要 [#d6af9db7]

|~作者      |輪舞の人  |
|~作品名    |機械知性体たちの輪舞曲 第8話    『戦闘知性体』 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2007-01-21 (日) 15:06:34   |

** SS [#ped2686f]

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赤ちゃんって、何で産まれるときに、あんな大声で泣くか考えたことある?
あれはね、きっと苦しかったからなのよ。
とっても痛くて、辛くて、ひとりぼっちで寂しかったから、だから泣くの。
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お母さんも大変だったかもしれないけど、
でも赤ちゃんはほんとうに小さくて、何も知らないから。
お母さんのお腹の中から、見たこともない世界に出てくるときに、
とっても怖くて、不安だったに違いないのよ。
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だから、もしもよ? もしも、わたしが赤ちゃんを産むようなことがあったとして、
初めてその子の顔を見たら、きっとこう言うの。
がんばったね! 辛かったし、怖かったし、苦しかったんだよね!
でも、もう大丈夫。あなたはひとりぼっちじゃないんだからって。
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そしていっぱい抱きしめて、いっぱいキスしてあげて、いっぱい微笑んであげる。
それで、その子が産まれたことを全世界に自慢して…
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…わたし、なんか変なこと言ってる? どうしたのよ、有希?
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―ある情報端末より、11月某日の最重要観測対象の発言報告―
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「…朝倉涼子」
わたしは振り返り、彼女と対峙している。
ここで彼女と出会う事は、規定事項ではない。
あの声の発生から、同期した記録からズレが生じつつある。
時間の上書きが始まっている? どういうこと。
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目の前には、3年前とまったく変わらない、あの笑顔と姿。
制服姿は初めて見るが、少しの違和感もない。とても、よく似合っている、と思う。
彼女がよくわたしにかけてくれた言葉。
でも、今、かけられた声はわたしの知っている、あの時の彼女のものとは違う。
ほんの少しだけ。指摘することはできないが。それが今のわたしには、わかる。
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「何をきょろきょろしているの?」
わたしの疑念には気づかない彼女は、軽く首を傾げる。笑みを浮かべたまま。
「しかも、ずいぶん物騒ね。スタンドアローン? 無支援状況下を想定した。完全自律戦闘でもするつもり? こんな場所で?」
そう言ってゆっくりと近づいてくる。わたしは警戒を緩めない。
同じ情報端末同士で、このような警戒感を抱く事態に、戸惑う。
すでに3年前に得た記憶も、それを補強材料としているのは確実だった。
彼に突き立てられたナイフの鋭さ。右手に刃の感覚が蘇る。
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「今、わたしの意識野に音声情報を侵入させたのは、あなた?」
「…なんのこと?」
彼女の脚が止まる。その声から、虚偽を含んだような、そんな感触は感じられない。
では今の声は、いったい誰のものなのか。いや、まだ欺瞞の可能性は捨てきれない。彼女のすべての機能を把握しているわけではなかった。
なんという、もどかしさ。
現状を打開するべく、すぐにもスタンドアローンを解除し、思考リンクを「味方」である彼女と繋げ、支援を受けるべきだと、状況判断支援システムが警告する。でも、それはあまりにも危険。
今の彼女を信用するのは、ためらわれる。
急進派の作り出した、インターフェイス。わたしとは、違う。
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「そのことは、いい」
ひとまず、この問題は保留。わたしは、彼女の態度を問いただす。
「なぜ、わたしに…」
「声をかけたかって?」
朝倉涼子の声は笑っている。それを聞いてはっきりと認識する。やはり3年前のものとは、違う。
「同じ任務についているわたし達が、現場で連絡を取るのは不自然かしら」
「接触は最低限度に抑えられると言ったのは、あなたのはず」
「ずいぶん警戒しているのね」
彼女はそれ以上近づこうとせず、わたしの顔を静かに見つめている。その笑みには、以前感じた温かみ、というものはまったくなかった。冷たい笑み。整ってはいるが、心地よさは微塵もなかった。
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「眼鏡、変えたんだ」
「今、話すべき問題とは思えない」
「わたしには問題。あなたがしっかり自己紹介できたのか、どうか、とか」
わたしは言葉に詰まる。静まり返った教室と、生徒たちの好奇の視線。
彼女は眉をひそめる。
「ちゃんとできたの?」
「…大きな問題は発生しなかった。伝達した情報に欠落はない」
「情報欠損の話じゃない。わかっているでしょう。問題は齟齬が発生するかどうかよ」
「なぜ、あなたが、そんなこと」
「わたしが教えたことが実行できているか、関心があるのはあたりまえでしょう」
「…失敗を認める」
「…やっばり」
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わたしは顔を上げる。
「なぜ、あなたがそこまで関心を示すのか、理解できない。あの時から―」
「3年間、あなたがどう過ごしてきたか。そう、興味があるから」
たったひとりで過ごした、待機時間。ただ眠り続けた3年間だった。
その原因の彼女が、興味がある、という。頭が熱くなる。理解できない感覚。
「あなたの意味不明な行動に、これ以上、機能を乱されたくない」
未だに増殖し、わたしに蓄積され続ける、恐ろしいデータ。もう、取り除くことはできない。
わたしが機能停止する要因となるもの。あなたがわたしに植え付けたもの。
このままいけば、12月に、わたしは宇宙全体すらを巻き込む、時空改変を行う。
統合思念体までも、消滅させてしまうという、あの恐ろしい行為をわたしは実行してしまうのに。
その原因のあなたがそれを言うのか。
朝倉涼子。あなたが。
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気がつくと、わたしは明らかに普段の自分なら言わないことを口にしている。
「まだ、わたしに対する機能破壊行為を行うつもりなら、あなたを実力で排除する」
「機能破壊行為? 排除? ずいぶん怖いこと言うのね」
まったく動じない。朝倉涼子のその態度に、わたしは― 「苛立ち」を感じる。これが、そうなのか。実感と共に、思考が鈍ってゆく。また、彼女の策略なのかもしれない。
「排除なんて、できるかしら、あなたに」
「必要があるなら、そうする」
「本当にできると思うの?」
「情報操作と改変能力は、わたしの方が上。端末単独では、公開情報上、わたしに拮抗しうる個体は存在しないはず。情報戦闘ではあなたに勝ち目はない」
「そうとは限らないかも」
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朝倉涼子にはまったく動揺の様子がない。我々3人の特殊端末には、まだ未知の情報があるのかもしれない。彼女の言葉を完全な虚偽情報と断定することは危ない。
本当は、彼女と戦うことなど、考えたくもなかった。
もうすでに経験している、あの記憶。あの未来を回避したいのに。
わたしは気を取り直す。話したいのは、こんなことではない。
もっとも気にしていた、あの日のことを、今、もう一度訊きたい。
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「では、3年前のあの時に、反応消失した本当の理由を、改めて訊かせて欲しい」
「嫌だと言ったら?」
「プライマリ・デバイスの権限において命じる」
わたしは使いたくなかった言葉を口にする。命令。
彼女に対してなんて、考えたくもなかったのに。
「セカンダリ。バックアップのあなたは、わたしの指示に従うことが定められているはず」
「ずいぶん強くなったみたいね」
強くなんて、ない。あなたが一番良く知っているくせに、なぜそれを言うの。
「…もう一度言う。個別コードS-02Bは、プライマリ・デバイスの指揮権限内に、配置されている。今、現在もその配置に変更はない。指示に従うことを要求する」
「チームリーダーを気取るつもり?」
「これは任務。わたしは、わたしに与えられた任務を完遂したいと考えている」
「それはわたしも同じよ」
「本当にそう考えているのなら」
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わたしと朝倉涼子につながれた視線は、まったく動かない。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
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「再度、要求する。要請ではない。上位権限者からの、これは命令」
「…ほんとうに強くなったのね」
「無視するというなら、統合思念体にこのことを報告する。その上で処分を受けるべき」
「わかったわ」
彼女は肩をすくめる。わたしはほんの少しだけ、脱力する。
彼女と争いたいなどとは、本当に思っていなかったから。
まだ、わたしは、彼女を信じたいのだろうか… おそらく、そう。
それも次の言葉が聞こえるまでだった。
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「でも、拒否する」
どうして。
命令指揮に逸脱するほどの何かがあるというのか。
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「なぜ」
「言えないから」
初めて朝倉涼子の声に力が失われた。
「そのことは、3年前にも示唆した通り、言えない。報告するというなら、処罰は受ける」
「………」
「後で思考リンクによる報告をするわ。ちゃんと受けてね」
朝倉涼子はわたしの横を通り過ぎようとする。
一度立ち止まると、軽く息をついて、言った。
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「仕事の話をしようと思ったけど、今は少し、無理みたいだから」
再び歩き始める。わたしは彼女の姿を見るために振り返ることができない。
彼女がなにを考えているのか、理解できないままでいる。
きっと、なにか理由がある。なぜそれを言ってくれないのだろう。
「またね、長門さん」
彼女の別れの挨拶は、ずいぶんぼんやりとしたものに聞こえた。
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ほんとうに、わたしは彼女の重荷になっていた、それだけなのだろうか。
本当にそれだけの理由なのだろうか。
そして、このまま、あの未来は変えられないのだろうか。
規定事項。わたしが彼女を消してしまう、あの光景。
わたしは、朝倉涼子が居なくなった廊下に、しばらくの間、立ち尽くしたままだった。
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帰宅した後、朝倉涼子から第一次接触時の観測データが思考リンクによって送られてくる。
わたしの主任務である観測。当然してはいたが、データの補完材料として記録する。
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「ただの人間には興味はありません」
ここから始まる、わたしが聞いてもかなり驚かされる「自己紹介」は、すでにわかってはいたものの、改めて聞くと、やはり衝撃的だった。
わたしの自己紹介の方が、いくらかまともに思える。いや、どちらも、反応としては似たようなもののような気もする。
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改めて聞きなおす。すでにわたしに対する呼びかけが始まっている、と思う。
「宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
この順番で、彼女はすべてかき集めてしまう。大きな、不思議な力。それを持つ者。
わたしの最重要観測対象。涼宮ハルヒ。
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もうひとり、気になっていた対象。彼。
その自己紹介の声を聞く。日中の、朝倉涼子との接触で不安定化した思考状態が、楽になっていく。もうすぐ、会える。それを考えると、ひどく落ち着かない。どっち、だろう。
わたしはふと、自分の体に意識を向ける。
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すでに彼とは同じ学校に通っている。妙な時間の上書き現象まで確認されている今、わたしの記憶に頼ることは危険。
つまり、いつ彼に会うかわからない。
わたしはしばらく部屋の中央で思索を続け、ある回答に達する。
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おもむろに立ち上がり、衣服を脱ぎ始める。
リフレッシュ機能により、体表面の衛生状態は常に保たれているにも関わらず、だった。
風呂に入るのは、情報端末の行動としては、たぶん普通ではない。
でも、今のわたしは、なぜかそうする必要があるように思える。
これも、彼女が教えたこと。
すでに敵なのかもしれない、彼女が教えてくれたことだった。
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ひさしぶりに入った風呂は、心地よかった。
湯船に肩までつかり、わたしは軽く息をつく。
大変な1日だった、と言えるだろう。わたしにとっては。
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湯船のお湯を、意味もなく手の平ですくいながら、とりとめもない考えに浸る。
今は、ひどく彼に会いたい。そんな思いが強まる。
朝倉涼子との事は、もはやどうにもならないのかもしれない。
彼を助ければ、彼女に情報連結の解除を施さなければならない。
一方で、彼女の行動を座視すれば、彼の死という、機能停止は免れないだろう。
もはや二者択一の問題にしかならないのかもしれない。
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ただ希望はあった。
あの、謎の時間の上書き現象。はっきりとした原因は不明のまま。
統合思念体も調査するとは返答してきたが、すぐに特定はできないと思われる。
これが一時的なものでないのだとしたら、未来は変えられる可能性がある。
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誰にも機能停止などしてほしくはない。
しかし、わたしひとりで、それが可能なのだろうか。
彼と、彼女を、秤にかける。そんなことがわたしにできるだろうか。
もうひとつの問題。わたしの未来。
目を閉じる。世界を壊してしまうかも知れない、自分という存在。
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朝倉涼子、彼、そして自分。
破滅の時が近いのかも。それを知るのは自分だけ。
なんとしても、回避したい。どんな困難が待ち受けていたとしても。
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まだ湯船に浸かっている。
朝倉涼子に教わったことを思い返す。わたしは風呂という存在と、その意味すら知らなかった。すると、彼女は「しっかりと教える必要がある」と言って、強制的に一緒に入浴。
それはかなり「恥ずかしい」ことだった。身体の個体差が気になっていた頃だったからなおさら。ましてや、衣服をすべて脱いだ状態で、彼女の前に出るのは、ひどく抵抗があった。
なにか、意味不明のことを言っていたように思う。よく覚えているのは、胸のこと。
これはいろいろ言われた。
その時のことを思い出し、下を向く。彼女には敵わない。
そして、彼女はいつもの先生の口調で、こう言うのだ。
『はい、ちゃんと肩までつかるんですよ。出るのは、あと30数えてから』
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「いち、に、さん、し…」
ひとりでつぶやき、数を数えてみる。
もう、ひとりでできるようになった。わたしは、彼女にいろいろなことを教わったのだ。
そのことが機能破壊工作につながるとは。今でも信じられない。でも、事実。
彼女との5ヶ月は、本当に何だったのだろう… いや、今はもう、いい。
わたしは湯に頭まで浸かる。
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明日も、また学校。
彼と出会う、その日はもうすぐ、そこまで来ていた。
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―第8話 終―
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