#navi(SS集)

#br

* 作品 [#l6668f89]

** 概要 [#a26b3f89]

|~作者      |輪舞の人  |
|~作品名    |機械知性体たちの輪舞曲 第7話          『物語のはじまり』 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2007-01-21 (日) 14:54:48   |

** SS [#ked192c3]

//////////

#br

#setlinebreak(on)

#br
彼女が種を蒔き、彼が育み、わたしが収穫する。
でも、その実はどこへ?
#br
―ある情報端末のつぶやき―
#br
娘たちの輪舞曲(ロンド)は続く。
あまりに滑稽。あまりに不器用。あまりに無残。
聴くに堪えぬ未熟な技量。
しかし、その哀しいまでの純粋さには、耳を傾けるに足る価値がある。
#br
―深宇宙のどこかで―
#br
#br
情報統合思念体が主導する、比較的規模の大きい情報制御による、個体偽装の解除が開始される。
わたしたちの活動地域に限定された、印象操作。生体年齢の偽装を解除。
これまでの生活で、わたしたちの接触した人間たちは、それぞれ、年齢相応の印象と記憶を植え付けられてきた。たとえば、生まれたその年、周囲の人間には、わたしは13歳の姿として見られていたということになる。中身は変らず、16歳のままで。
#br
あくまで、生体年齢に対してだけ。限定された措置だった。
3年前から、わたしたちは成長はしていない。怪しむ人間は怪しむだろうが、社会に出るには、人間との接触は回避するわけにもいかない。その為のもの。
その際のコミュニケートは、各個体が得る経験値として認められている。
待機時間は、現地での調整が主な目的だったのだから当然ともいえる。
もっともわたしには、それこそが最大の問題であり、だからこそ彼女と… 
#br
いや、今は、それはいい。
#br
現在まで、わたしたちの生体年齢に変更は施されていない。
今後、どうなるのかは不明。個体の独自の成長が認められれば、人間のように成長はするのだろう。もしくは、完全な再構成を検討しているのか。
統合思念体の思惑は、末端のわたしにはよくわからないものだった。
#br
【現時刻をもって個体コード「S-01B」、「S-02B」の個体偽装解除実施を確認】
#br
個体コードの「S-01B」はわたし。「S-02B」は彼女。朝倉涼子。
この通達をもって、正式にわたしたちの任務は開始される。
「S-03B」、喜緑江美里は1年先行して北高に入学している。
任務の詳細は相変わらず知らされていないが、いずれ会うこともあるだろう。
#br
とにかく、わたしの初登校。失敗は許されない。
わたしは、桜の舞い散る坂を上り、校門をくぐる。
ここに、わたしにとって重要な意味をもつ、全ての人々が集結する。
彼も、ここにいる。まだわたしを知らない彼。
そして、朝倉涼子も。
#br
               *
#br
「長門有希」
#br
その後、虚偽の出身中学の名前を続けて、着席する。
他の皆は唖然としてわたしを見ている。予想された事態。周囲は沈黙している。
入学式の後、各クラスに分かれて最初のホームルーム。氏名、出身中学、他データを口頭にて公示する、クラスの自己紹介。自己のプロフィールを公開し、これからの学校での交友関係をスムーズに行うためのセレモニーだという。
交友関係? 社会的に認められるために、ともだちは必要。
彼女は何度となく、そう教えて… いや、今は、それはいい。
#br
とにかく、今の自分に可能な限りの自己紹介を実現した。
パーソナルネームの公表。虚偽の出身中学名。ほかになにが言えるのだろうか。
#br
想像してみる。
#br
「出身は深宇宙のどこか。いや、現在のあなたたちに言語で説明しても、理解を得られるとは思えない。忘れて。学歴なし。年齢は地球人類で言えば3歳に相当。正確を期すのであれば、自分は銀河を統括する情報統合思念体に生み出された、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェス。以後、よろしく」
#br
…言えるはずがない。
#br
―言ってみればいいじゃない。
#br
論外。第1にこれは最優先機密情報であり、第2に無用の混乱をきたす恐れがあり、第3に、言ったところで信用してもらえるどころか、社会的にも奇特の目で見られ注目を浴び、周囲から孤立すると容易に推察できる。いくらわたしでも、それは理解できる。
#br
「あー、長門よ」
意識が教壇に戻る。担当の教諭が、なんとも言えない表情でわたしを見ていた。やはり、不満があるらしい。苦しい状況。
すでに、この事態は規定事項のはずだが、重度の高い情報として認識されていなかったようだ。破棄された形跡がある。
破棄した当時の自分に異議を申し立てたい。この状況のどこが、重度が低いものだというのだろう。わたしは追い詰められる予感に軽く身震いする… 身体機能が、少しおかしい。
#br
…いずれにせよ、規定事項を覆すのは容易ではない。記憶があってもなくても、おそらく変化はしないだろう。自分の選択を信じることにする、しかない。
おそらく、彼であれば、今のこのわたしの思考を「やけくそ」などと表現したと思う。
#br
「ほかに何かないか。普段していることとか、夢とか希望とか」
他の生徒も、じっとわたしを見つめている。期待されているようだ。期待されているのであれば、可能な限り応えたい。
わたしは過去の情報を検討する。普段していること、というより、していた事。該当する行為を確認。椅子から立ち上がる。
#br
「本を読む」
#br
着席。静まりかえった教室は、しかし、元には戻らなかった。
本格的なコミュニケーションというものがこれほど困難な道であるとは、さすがに予想はできなかった。やはり、地球人類をあなどることは危険だと再認識する。迂闊。
#br
「…まぁ、とにかくだ。彼女は読書が好きなようだ。緊張もしているようだし、仲良くしてやってくれ」
担当教諭が、明らかな同様の気配を浮かべつつ、周囲に勧告している。周りの生徒は目くばせや、ひそひそと会話を始め、わたしから視線をそらさない。
…これなら、存在が未確認ではあるが、広域帯宇宙存在端末と直接決戦をした方が、よほどよい。
つまり、逃げたい。
#br
「いや、先生はおとなしい子が好きだぞ。長門も周りとよく話をして、仲良くするんだ」
教師の命令には、従うこと。これも彼女が教えて… いや、今は、それはいい。
とにかく、最後はしっかりとした対応をして、信用を勝ち取るのだ。わたしは決意して、慎重に発言を選ぶ。
そして、言った。
#br
「わかった」
はっきりと肯定の意思を伝える。わたしにも、できた。恐れることはない。
ひとりでもできるのだ。
#br
しかし、教師の顔は完全固定化された。
コールタールで塗りこめられたような、いや、凍りついたというべきか。
再び沈黙する教室。
わたしは自然と視線が下に向く自分を感じる。
#br
こうして、当初の目的である「目立たない文学少女」というパーソナリティ確立計画は、開始30分も持たずにあえなく崩壊した。
#br
なんということ。
#br
               *
#br
初日は、学校のシステムについてのレクチャーが続く。部活の説明には充分な注意をさく。文芸部。わたしが所属するべき場所のため。しっかりと傾聴し記憶に留める。
その後、解散。わたしに話しかけてくる生徒は皆無。すでに周囲は、人間たちがグループを形成し、会話を始めていた。
わたしは帰り支度をすると、人間たちの輪から抜け出し、廊下へと移動する。
背中に聞こえる笑い声に、わたしは自身の寂しさを感じる。寂しい?
#br
この後、どうするべきか検討する。まずは、わたしの仲間との接触を図るべき。
第2学年には喜緑江美里がいる。だが、今、ここにいるかは不明。
そのうちに会えるとは思うのだが。
#br
―彼女には会わないの?
#br
…いや、会う必要がある。朝倉涼子には。
わたしはまだ、彼女の真意をしっかりと問いただしていない。
あの時に受けた衝撃は、やはり大きかった。
わたしはまともな質問もすることができずに、引き下がってしまっていたのだから。
はっきりとした形で、あの時の反応消失と、あの態度の理由を訊いてみたい。
もし、本当に、「わたしの面倒をみるのが嫌になった」というのであれば… やむを得ない。
#br
しかし、あのタイミングで、あの言葉はあまりにも不自然。それまでの態度とかけ離れている。なぜ、もっと、時間をかけて彼女と向き合おうとしなかったのか。今、3年という時間を置いてから改めて考えた時、そのときの対応のミスを認めざるを得ない。
#br
―勇気がなかったからでしょ。
…そう勇気が…? 勇気? なに?
―いくじなし。馬鹿みたい。
…これは、ノイズ。わたしの言葉ではない。違う。
―愛してる、なんて言われて、戸惑って、どぎまぎして。その意味もわからないくせに。
#br
意識野に、何者かの声が響く。誰のものだろう。喜緑江美里か。
しかし、これは思考リンクのものではない。そもそも、確立を確認できていない。
承認した記録も。思考リンクにかなり近いものだったが、違う。
言葉の意味も不明。誰が、誰に対して愛しているなんて… 愛?
#br
―とても可愛い。ふてくされて、その勢いで消してしまうなんて。
―あんな大切な言葉を。
#br
発信源の特定。どこからの発信かをつきとめる必要がある。
わたしは周囲を警戒。廊下を早歩きで移動しつつ、全警戒防御体制へシフト。
思考汚染の可能性も考えられるが、侵入経路が不明。
すでにわたしは、情報統合思念体に対し、わたしの権限で可能な最優先順位で警告を発令している。
その後、各種思考リンクを完全切断。スタンドアローンモードへ。
任務の開始と共に、なんらかの勢力の攻撃が開始されたのかも知れない。
#br
いったい何が起こって… そう考えてから、気づく。
「こんなことは、規定事項には記録されていない」のだ。
#br
同期したわたしには、7月7日までの記録はすべて把握しているはず。
優先度の低い記録は破棄していたが、このような危機として認知できる事態を破棄しているはずがない。
#br
―びっくりしちゃったね。でもこれから… ああ、時間がきた。
…意思の疎通ができる? 無為な言葉ではない。明確な意思がある。
―今はここまで。そのうちに、また会える。
#br
消失する。形跡は残されていない。記録にも残らない。
#br
わたしは廊下に立ったまま、周囲の警戒を続ける。
自分のクラスからは、かなり移動してしまっていたようだ。
ここは、どこだろう。学校内の地図を検索。その時。
#br
「こんにちは、長門さん」
不意に後ろから声がかかる。
「久しぶりね。道に迷った?」
その声には、今までの彼女とは明らかに違う成分が含まれていた。
#br
3年ぶりに聞く、朝倉涼子の声。
#br
#br
―第7話 終―
#br

//////////

#setlinebreak(default)

#br

----
トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS