#navi(SS集)

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* 作品 [#j8ec6d55]

** 概要 [#baf0885b]

|~作者      |輪舞の人  |
|~作品名    |機械知性体たちの輪舞曲 第5話    『すべてを失う日』 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2007-01-21 (日) 14:22:31   |

** SS [#waa7d13e]

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#setlinebreak(on)

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もう、あきらめた方がよろしいのでは。すでに手遅れかと。
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彼女と約束したの。だから、それ、無理。
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何度やっても同じことだと思うのですが… お付き合いはしますけど。
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―ある情報制御空間における、情報端末たちの会話−
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誕生して5ヶ月後。7月7日。
想定しない事象が発生する。
朝倉涼子は、完全にその存在を消失していた。
これまでに、そんな事はあり得なかったのに。
何度走査しても、反応が検知できない。
可能性としては、現空間に彼女の存在そのものが消滅しているという事。まさか。
わたしは、やむなく第3の端末である、喜緑江美里にコンタクトを取る。
結果、こちらも反応消失。
…どういうこと。
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支援を受けられる望みはなさそう。わたしは、単独での哨戒任務に移行。
意識を時空間シフトしてきた2体… いや、さらに1体のシフトを確認。女性。
先にシフトしてきた女性の異時間同位体。状況はさらに混乱の様相を呈している。
わたしは3体の有機生命体に集中させる。
反応は3体のうち、1体が男性、2体は女性(同個体)。
いずれも生体年齢は若い。そのうちに、女性1体の意識が消失。
その後、男が、意識を消失している女と共に移動を開始。
その方向は―
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涼宮ハルヒの通う、東中。
わたしは自分のミスを自覚する。涼宮ハルヒの動向を完全に見失っていた。朝倉涼子のあの言葉に、自分の意識が集中していたせい。あまりにも迂闊。涼宮ハルヒの反応を再度走査。
その結果は驚くべきもの。まさか、東中に涼宮ハルヒがいるとは。
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さらなる観測で、異時間よりの来訪者たちは、涼宮ハルヒと接触を果たしている。その時の精神状態に観測開始後、初めて見られる波形も検出された。
いったい、何の目的で、彼らは涼宮ハルヒと接触を図ったのか。今の状況からでは、推測しかできない。未来からの来訪者が、なんの目的で。その意図も、何もかもが不明。データがあまりにも少ない。判明しているのは、まったくの未知の因子が突然、紛れ込んできたという事実だけ。
こんな時に、朝倉涼子も喜緑江美里にも、誰とも連絡が取れない。
わたしは最終手段として、統合思念体への直接支援要求を開始。コンタクトを試みる。
しかし、その返答はただ一言だけ。
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【独自の判断により行動せよ】
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それだけだった。
気がつくと、わたしは、完全に孤立無援の状態におかれていた。
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               *
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インターホンの音が室内に響き渡る。
わたしは、結局、なんら有効な手段を講じることができないまま、彼らがここに来るのを許してしまっていた。独自判断による行動など、これまで一度もしてきていない。
全て、朝倉涼子の支援があったらこそ、ここまで人間のように偽装して生活できていたに過ぎない。あまりにも不完全な存在だったのに。
なぜ、今になって、この困難な状況に、ひとりで対抗することになったのか。わたしは混乱していた。
最大の混乱の要因は、彼ら異邦者が、明らかにここを目的地として、ためらうことなく移動してきたという事実。彼らは、わたしという存在を知っている。
そして涼宮ハルヒのことも。
…わたしが派遣された際に受け取ったデータにある、「地球人の能力者の機関」がそれに該当するかもしれないが、それの裏づけをとることもできない。事態は切迫していた。
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「長門有希さんのお宅でしょうか」
インターホンから知らない男の声。まったく初めて聞く。わたしは返答のしようがない。
なぜ、わたしのパーソナルネームを呼ぶのだろう。
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「…………」
「あー。何と言っていいものか俺にも解らんのだが……」
「…………」
「涼宮ハルヒの知り合いの者だ―って言ったら解るか?」
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わたしはその言葉に、全身の身体機能が停止したような感覚に陥る。衝撃と言っていい。物理的なものではないが、実際にそう感じるほどの、強いショック。
この男は、完全に涼宮ハルヒと、わたしたちとの関係を知っている。なぜ。
返答に窮する。この事態を、わたしはひとりで解決しなければならない。
依然として、朝倉涼子との接触は絶たれたままだった。
わたしは決断する。直接接触を、図る。情報制御空間の構築も視野に入れて。
「入って」
わたしは玄関の鍵を開ける。
ドアが開くと、その向こうには、見たこともない男と女がひとりずつ立っていた。
わたしと同じ、北高の制服を着た、男女。
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その後、彼らの説明を聞く。
涼宮ハルヒのこと。彼のこと。隣に座る朝比奈みくるのこと。能力者である古泉一樹のこと。閉鎖空間。神人。
そして、わたしのこと。
2人は、自分たちが3年後の時間平面からやって来たと主張している。
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わたしは黙って彼らの話を聞いている。話自体には、真偽はともかく矛盾になるような事項は含まれていない。しかし、それを立証する証拠、裏付けるための情報が完全に不足している。
彼らの口頭での、主張しかない。完全に信用はできない。
「…で、だ。3年後のお前はこんなものを俺にくれたんだ」
それは1枚の紙片にしか見えない。普通であれば。
しかし、そこには圧縮された情報が書き込まれている。わたしはごくかすかな逡巡のあと、指をその上に滑らせ、スキャニングを開始する。情報の読み込みはスムーズ。
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そこには「3公転周期後、現在の時間平面に存在する我と同期せよ」という、”わたし”からの指示が書き込まれてあった。
未来の”わたし”からの、指示。虚偽情報ではない。他の何者か、一番恐れられるのは、広域宇宙存在のトラップデータというものがあるが、それではなさそう。
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同期。異時間同位体との情報平均化とでもいうべきもの。実行すれば、その時間に存在する自分が、そのまま自分に上書きされる、というイメージ。
人間には観測ができないであろうごくわずかな時間で、わたしは”わたし”からの同期指示を検討する。
どうする。しかし、これが実行されれば、彼らの主張は立証できるのだろう。
今、この局面を打開するのは、それしか方法はないと思われた。
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異時間同位体への、当該メモリへアクセス許可申請。許可が下りる。
わたしはただちに、時間連結平面帯の可逆性越境情報のダウンロードを開始。
現時刻から3年後の7月7日。彼らがやって来たという時間平面から、”わたし”をわたしへと同化。
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【ダウンロード、開始】
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瞬間的に、次々と時間が流れていく、ようなイメージ。めまぐるしく、状況が過ぎ去っていく。
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―この後の朝倉涼子との会話。
―その直後から始まる、孤独な待機時間。
―北高への入学。
―文芸部の部室。
―彼との再会と、涼宮ハルヒとの出会い。
―古泉一樹。
―栞のメッセージ。
―彼の訪問。
―探索ツアー。
―くじびき。
―図書館。
―貸し出しカード…
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そして。
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―手に握るナイフ。
これは。
―わたしの手から、滴り落ちる血液。
なに。
―わたしの胸から伸びる、体液にまみれた槍。
やめて。
−わたしが知る、あの声が、死を告げる。
違う。これはあの人の声じゃない。違う。
−光る、あの人の腕。貫かれる、わたし。
違う。違う。違う。
−光輝く情報の粒子が、舞う。
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―…じゃあね
―・・・・・・・・・
―・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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【ダウンロード終了。個体識別コードS-01Aは、以後S-01Bへとコード変更される】
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”わたし”からわたしへ。書き換えられる。
そして、わたしはここへ「戻ってきていた」。3年前に。
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               *
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ただちにエマージェンシーモードに移行。彼と朝比奈みくるを、本来の時間に帰還させるべく、時間凍結作業を行う。
そして、この後に、もう一度来訪者が来ることは、今のわたしにはわかっていた。
3年と5ヶ月後、12月18日に起こる未来を告げるために。
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来訪者がすべて立ち去る。
隣の部屋には、彼と朝比奈みくるが、3年後の覚醒の時まで、時間凍結されている。
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今のわたしは、これまでのわたしではなくなっていた。
全てを知ったあと、ゆっくりと立ち上がると、今夜、最後に会話を交わすべき相手の元へと向かった。
すでに反応を取り戻した彼女のいる、505号室。
そこまでの足取りは重いものだった。
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               *
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「長門さんね」
朝倉涼子の声。
知っている。あなたは505号室のドアの向こう側で、そうつぶやく。
「入れて欲しい」
わたしはあなたに要請する。無意味な発言。
なぜなら、それは拒否されることがわかっているから。
「だめ」
「なぜ」
「今後、あなたとの接触は最低限に抑えられる」
そう。だがあなたはその理由を教えてくれない。
「急進派の方針が変更されたのか」
「そうじゃない」
そして、聞きたくないあなたの言葉。
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「あなたと、会いたくない」
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「理解できない。あなたのバックアップは必要とされる。今後も」
生まれて初めて沸く、疑念。
突然の事態に、あなたも喜緑江美里も、反応を消失していた。
派閥間の対立が突発的に発生したために起こった、計画の方針変更ではないのか。
「違う」
「理由が明確ではない」
「もう疲れちゃったの。あなたの面倒をみるのが」
あのときの公園の、あなたの言葉を思い返す。そう。このときに、思い返す。
虚偽、嘘だったのか。わたしを混乱させるためだけの。
あの言葉のために、わたしは適正な判断をくだせないまま、緊急事態の対応にも、遅れた。
なにより、肝心なときに、あなたはわたしの側にいてくれなかった。
機能の混乱。判断能力の低下。なぜ、このときに。
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これまでの、あなたのしてくれたことを、すべて振り返ってみる。
情操を与えるつもりの、あなたの支援行動。
本来、我々端末群に無意味なはずの、食事、睡眠、入浴、「人間らしい生活」。
そのおかげでわたしは戸惑い、自身の機能に対する信頼を失い続けてきた。
これは、急進派の仕組んだ、サボタージュなのではないか。
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「これは計画されたことではないのか」
「違う」
「もう一度、訊く。これは計画されたことではないのか」
「・・・違う」
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二度訊き、二度否定される。これも規定事項。なにも変らない。
そして、わたしはこれ以上の言葉を交わすことなく、彼女の部屋を後にした。
たぶん、もう行くことはないのだろう、と考えながら。
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               *
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部屋に戻ると、わたしは隣の寝室に目を向ける。
彼は機能停止する。わたしが制止行動を取らなければ。確実に。
欺瞞だったのか。すべて、わたしを混乱に陥れるための。
主流派と、急進派。2つの派閥が、1つの任務に対してそれぞれの端末を送り込む。
想定されていたのかもしれない。その思惑にわたしは踊らされていたのだろうか。
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データの個別削除。すべての記憶を保持したままでは、わたしの機能低下は免れない。
ただ、重度の高い情報のみを個別選択し、メモリに残す。
消失する涼宮ハルヒと、彼。わたしが送るメッセージ・・・ 7月7日までの、記憶。
その中で、彼女が振るうナイフの鈍い光がの印象が、わたしの中で強く残る。
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なぜ。
あなたはなぜ、彼を。
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―涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
―またとない機会だわ。
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それが、あなたたち、急進派の最大の目的だったのか。
わたしたち、主流派の意向を無視し、5ヶ月もの時間をかけて、わたしの機能低下をしかけてまで。信じられない。
今のわたしには、12月18日に至る、その過程までわかる。
朝倉涼子との生活でも感じられた、困惑、つまり処理しきれない、解析できない情報群。
蓄積され続けるエラーデータ。
これがわたしを狂わせていくことになる。
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すべて、最初から、そのつもりだったのか。
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わたしは照明を消した暗闇の中、床に座り込むと膝を抱く。
そして静かに目を閉じ、本来あるべきである姿の待機モード。冬眠状態への移行を開始した。
涼宮ハルヒのデータを、拾い続けながら、眠りにつく。あと2年と6ヶ月。
…すべてが一瞬にして、失われてしまった。そんな感覚だけがあった。
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そう。完全にシステムを切り替える前に、ひとつだけ実行することがあった。
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―わたしは、長門有希を愛する。
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【当該音声情報を消去】
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―第5話 終―
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