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#navi(SS集)

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* 作品 [#w37596ba]

** 概要 [#o75795b9]

|~作者      |753k  |
|~作品名    |七五三と長門家 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2006-12-11 (月) 00:08:36   |

** SS [#fe321ec5]

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長らく我が国の上空で篭城を決め込んでいた残暑もいよいよ兵糧が尽きたようで、
シベリア寒気団の進軍が軽快さを見せはじめ、
この頃では冬将軍の駆る優駿の蹄の音が耳に届くようになってきていた。
沿道の並木は、夏に買いだめした秋服を着れずにいた流行り好きの女性たちのように、
われ先にとばかりに衣替えを押し進めている。
そして俺はというと、憂鬱な事にもただ今せっせと自転車を駅前に向かって扱いでいるところだ。
世間はこんなにも風情あふれる時節になっているというのに、
なぜ俺は管理職のサラリーマンでもないのに、土曜の朝から出勤しなければならないのだろうか。
誰か電話でもメールでもいいのでお答え頂きたい。
宛て先はご覧のテレビ画面の下三分の一辺りに出てるんじゃないか?
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頭の中で傍若無人団長様宛ての不満を箇条書きにしていると、
ふと目の前がいつもと違う風景であることに気が付いた。さて、どこが違うのか。
簡単だ。
親子連れをやたらと見かける。
それもビシッと決めた大人と、これまた袴や晴れ着で着飾られた子供だ。
11月中旬。なるほど、今日は七五三か。
行き先を推測するに、あの忌々しい映画撮影で訪れた神社に向かっているらしい。
そういや、ハルヒのマシンガン掃射を喰らったあの神主は怒りを収めてくれただろうか。
後で知ったところ、あの神社はなかなかに由緒深いらしく多くの信仰を集めているようである。
ここの神様の不興を買うことにでも成ったりしたら、一体どうしてくれるのだろうか。
同じ神様同士で円満に解決してくれるんだろうな、ハルヒよ。
そんな溜息混じりの中でも、こうした微笑ましい家族の姿を見るのは悪くない。
袴のガキを見ながら、俺にもそんな時代があったねと自分の幼少期に思いを馳せつつ、
細長い紅白の飴を幸せそうに舐めながら笑う妹の姿を懐かしみつつ、
俺はいつもの集合場所へ向かった。
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「遅い!罰金!!」
こちらの神様はいつも通りに不機嫌に仁王立ちだ。
駅に着くと俺はいつも通りに第五番目の到着であり、
懐から冬将軍を追い出せないままいつも通りに喫茶店での驕りを命じられた。
そして、いつも通りに爪楊枝のくじで班分けである。
今日もいつも通りのちょっと非日常な日常だったのだ。
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くじ引きの結果は俺が印付き、ハルヒと朝比奈さんに古泉は印無しだった。
そんなわけで、今俺はこうして長門と二人して駅近くをぶらついている。
ハルヒはアヒルだかカルガモだかのような口で露骨に不満気ではあったが、
俺が会計を済ませると朝比奈さんとスマイリーエスパーを連れて、
素直に担当の北側へと去っていった。
「有希に何か変なことしたらぶっ殺すわよ!ふんっ!」という置き土産は残していったが。
心配しなくても何もしねえよ。
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さて、昼の再集合まで俺はこの無表情な文学的少女と共に時間を潰さねばならんのだが、
その方法についてはすでに確定事項だ。
長門の方も暗黙の了解といった感じで俺の隣を離れずについて来る。
その目的地、図書館まではまだ少し道のりがあるわけで、
そこで俺は今朝見かけた光景のことを話題に提供することにした。
特に意味はないさ。少し退屈だったからってだけだ。
「今朝七五三の親子連れを見かけたよ。長門は知ってるか、七五三?」
長門は前を向いたまま、僅かに首を縦に動かす。
「子供の成長を神に感謝し加護を祈る行事。」
長門にしちゃ分かりやすい説明だ。
出来ればいつも、この程度の分かりやすさを提供して頂けるとありがたいんだがな。
因みに、ここで言う神とは某団長の方の神ではないことを念のため付け加えておく。
「こういう行事に興味があったりするのか?」
「観察任務遂行に必要な知識。それだけ。」
「…そうか。」
一応あるにはあるらしい。
そう言えば、いつぞやの長門の部屋での話によると、長門は生まれて三年と言うことだった。
つまり、この行事の仕来りに素直に従うならば、こいつは今年七五三であるわけだ。
長門を横目で見ながらいつも朝比奈さんでやっているように(これは禁則事項だからな。)、
脳内で長門を晴れ着に着せ替えてみた。
ふむ、かなり宜しいのではなかろうか。長門は和物こそよく似合う気がする。
長門は着たいとは思わないか。実にもったいない。
「…なに?」
「へ!?」
不意の声に思わず間抜けな声を出しちまった。
「いや、何でもないぞ?」
「そう。」
長門に不審がられるとは一体どんな顔をしていたのだ、俺。
暴走気味だった妄想に水をかけられ動揺する俺とは対照的に、
長門は何事もなかったように歩を進めている。
この万能宇宙人には俺の考えなど全て見透かされているような気がするな。
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「そうだ長門、これから神社に見に行ってみるか?」
この文学宇宙人が図書館より優先することなどそうないだろうが、
まあ、話題を変えたかっただけさ。ちっとも変わってない気はしないでもないが。
長門はゆっくりと俺に顔を向けると、
「みる。」
予想外の肯定。
図書館に行かなくてもいいのか?俺から提案しておいてこう聞くのも何だが。
「いい。」
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どうやらこの文学宇宙人も、本とハルヒ以外には興味無しと言うわけではないらしい。
そう思うと俺は何故か安堵の気持ちを覚えていた。
俺と長門はいつもと違う交差点を曲がり、神社へと向かった。
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果たして神社は親子連れでごった返していた。
主役を押しのけて参拝するのも憚られたので、俺たちは境内の隅にあるベンチに腰を下ろすことにした。
長門は黙って人々の顔を見つめている。
その顔には、朝比奈さんが森さんを見るようないつに無い真剣な眼差しが見て取れる。
この万能宇宙人少女は、彼らから一体何を学ぼうと言うのだろうか。
知識で長門に勝てる人間がこの地球上で見つかる確率は、
SOS団の市内探索で不思議が見つかる確率とさして変わるまい。
そんな何でもない思考が秋風の中を回っていた。
……
次に気が付いた瞬間には、神社の人ごみは幾分解消されていた。
どうやら眠っちまったらしい。
携帯電話を取り出して時間を確認する。どうやらハルヒにどやされるような時間にはまだ早い。
一安心して隣を見ると、
長門はまだ飽きずに七歳または五歳あるいは三歳の子供と両親という組合せの集団を眺めているようだった。
宇宙人にとってこういう家族の画というものは珍しいのだろうか。
「あなたも、ここで?」
長門はゆっくりと、しかし一直線に俺の方に顔を向け問い掛けてきた。
もしかして、この質問をするのに俺が起きるのを待っていたとか。
「七五三のことか?」
直ちに首肯。
「ああ、そうだな。と言っても俺の時がどうだったとかはあまり覚えてないな。もうだいぶ昔のことだし。」
「そう。」
妹の七五三ならはっきり覚えているがな。
あの頃はまだ「お兄ちゃん」と呼んでくれていたな。懐かしい、ああ懐かしい。懐かしい。
それはそうと、長門の家族とはどんなものなんだろう。
もちろん地球上にはいないだろうが、そもそも宇宙人の家族とはどういったものなのだろうか。
興味が湧く。
「長門の家族ってのはどんななんだ?」
「私には人間が家族と呼称するものに相当する存在はいない。」
「いや、でも、情報ナントカ体ってのはお前の生みの親なんだろう?」
「私は情報統合思念体にとって、ただの一端末に過ぎない。
私も情報統合思念体も互いにそう認識している。それ以上の感情は無い。」
不意に脳裏に、あの味気ないマンションの一室で一人食事をする少女の姿が浮かんだ。
「じゃあ、他のインターフェースはどうなんだ?朝倉の他にもいるって言ってたよな?」
「同じ。」
「……そうか。すまんかった。」
長門はゆっくりとこちらを向いた。
「なぜ?」
「なぜって、長門には面白くない話をさせちまっただろう。」
「別にいい。」
「…。」
長門はまたゆっくりと前を向いた。今度は落ちていく紅葉を見ているみたいだ。
「生み出されてから三年間、私はずっと一人で過ごしてきた。
その間寂しいと思ったことは一度もない。それが私の任務だから。」
「今もそうなのか?」
少し躊躇った様にしてから、
「涼宮ハルヒの監視を開始して、あの部屋に行くようになって、知ったこと。」
長門。
「私には必要ではなかった。」
俺が長門の頭にそうっと手を添えると、その宇宙人少女は静かに目を伏せた。
頼れる小柄な身体が、今は一回り小さく見える。
長門は小さな声で呟いた。
「あなたのせい。」
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まあ、あれだ、長門。
今はいやでも俺たちSOS団で一緒にいることになるわけだし、
それに家族のことだって分かるようになるさ。お前だっていつか家族を持つことになるかも知れん。
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どのくらいの時間が過ぎたのか。長門は俺の手を頭の上に置いたまま大人しく座っている。
俺はタイムリミットまでこのままでも良かったと思っていたのだが、
長門が手をどけるよう言うように顔を俺に向けたので、仕方なく俺は柔らかい髪から手を離すことにした。
消失していく掌の感触が名残惜しいぜ。
そしてその長門はこちらを見つめたままで、すっと口を開いた。
「……。」
長門?
「キョン!有希!あんたらそんなとこで何やってんの!?」
聞こえてきた声は目の前の少女のものではなく、探検中のはずの女団長のものであった。
…ハルヒよ、空気読め。せっかくのいい感じだった雰囲気が台無しじゃないか。
「何って不思議探しだろ。神社に来てておかしいかよ。」
いつの間にか俺の側に来ていたハルヒは、
火サスの被害者が死ぬ直前まで言い争っていた人物を見る家政婦を性悪にした様な目で俺を見下ろしている。
「ふーん。全っ然探してるようには見えなかったけど!
ま、いいわ。せっかく合流したんだし、今からはみんなで行動しましょう。」
自分で班分けしたくせに何だよ。
「団長命令!さっさと立ちなさい!」
やれやれ、と立ち上がると袖をくいっと覚えのある感触で引っ張られる。
振り返って見ると、袖の先に小さな白い手から伸びる親指と人差し指がくっついていた。
どうしたと聞くと、長門はゆっくりともう一方の手を上げ本殿を指差した。
その顔は、縁日でお気に入りのキャラクターのお面を前にした子供のようだ。
「そうだな。せっかく神社に来たんだし、参拝してくか?」
その言葉を聞いて長門は、いつもより数ミリ深くうなずいた。
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「ちょっとキョン!有希をどこへ連れて行く気!?」
団長命令を無視して鳥居に背を向ける俺と長門を、ハルヒは慌てて制止した。
「ちょっと参拝してくるだけさ。いつぞやの映画撮影では挨拶も無しだったからな。」
曇り空だったハルヒの顔は、なるほどと言うと見る見る日が差してきたようになった。
…余計なこと言っちまったかも知れん。
「それもそうねえ。来年の映画ためにも参拝くらいはしておかなきゃね!」
予感的中。
このハルヒの台詞を聞いた朝比奈さんが肩をビクつかせている。笑顔が引きつってますよ、朝比奈さん。
それよりちょっと待て、ハルヒ。来年てなんだ。
俺はそういう意味で神様にご挨拶するんじゃないぞ。
先だってはご迷惑をかけて申し訳ありませんでしたってことだ。
「誰がいつ迷惑をかけたってのよ?」
本気で意味が分からないって目をしてやがる。
あきれる俺を見て反論無しと受け止めたのか、
ハルヒは長門と朝比奈さんを引き連れて本殿の方へ向かっていった。
一体何しにこんなとこへ来たのやら。
「そうだ。そういや古泉、何でお前らここへ来たんだ?駅の北側へ行ったんじゃなかったのか?」
スマイル君は両掌を空へ向け、困ったような楽しんでいるような顔で、
「涼宮さんが急に言い出したんですよ。今日は神社があやしい気がしたんだそうです。」
何だそりゃ。ハルヒはいつもそんないい加減な探し方してるのか?
「いつもそうだという事ではありませんが。七五三の親子連れを見て思いついたのかも知れません。
それにあなた方だって真面目に探していたようには見えませんでしたよ。」
見つかりもしないものを必死に探そうなんて思わねえよ。
そして何だ、そのクスクスって笑いは。お前がやってもかわいくも何ともねえんだよ。
「ほらー!キョン!古泉くん!さっさといらっしゃいー!」
へいへい。
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「ねえキョン。この神社ってどんな神様祀ってるのかしら?」
さあて、何だったかな。なんせ、小学生の遠足と訳の分からん撮影大会で訪れただけだからな。
まあ、別に何の神様だっていいだろうがよ。
俺の発言にふざけんなとばかり、間髪入れずにハルヒが反論する。
「良くない!願い事は相手の能力に合ったものにしなきゃ叶えられないでしょ!
七夕の時といいいい加減なのよ、アンタは!」
お前にいい加減だなどと言われたくは無いぞ。それに何だ、相手の能力って。
「それに私は団長なんだから、みんなの願いが叶うように最善を尽くす責任があるのよ。」
そんな責任感は感じなくていい。
「しょうがないわ、神主か誰かに聞きに行きましょ。」
待てハルヒ。それはまずい。
動き出した団長を止めようとした俺に替わってくれたのは、長門だった。
「有希。もしかして知ってるの?」
長門はコクンと頷く。
「ここに祀られているのは産土神。」
ウブスナ?何だそりゃ?
長門は静かに本殿へ向かうと、おもむろに口を開き、
「子作り、安産の神様。」
「なっ!」
ぱん!ぱん!
全員が沈黙する中、長門が黙々と打つ拍手の音だけが響いた。
「ってちょっと待ちなさい!有希、何のお願いしてんのよ!」
長門はゆっくりハルヒの顔を見ると、続いてあろうことか俺の方に顔を向けやがった。
お前ならこの動作からどんな解釈が生まれるか分かるだろう、長門。
「やっぱりエロキョン!!」
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あの後、ハルヒに好い様に命令を下され、あちこち奔走させられた俺はへばり切っていた。
今は集合場所でもある駅前に向かっている。
そこで解散の運びと言うわけだ。
長門は俺のすぐ側を、ハルヒは朝比奈さんをいじりながら先頭を歩いている。
「有希!エロキョンなんかと一緒にいないで、こっちにいらっしゃい!」
まだ言うかハルヒ。
そもそも何で長門は、あんな分かりやすい誤解を生むような仕草を…。
ああ、そういえば。
ハルヒのもとへ行こうとする長門に尋ねる。
「長門、神社であの時何てお願いしてたんだ?」
長門は少し考えるように間を空けてから、
「秘密。」
とだけ言うと、とてとてとハルヒと朝比奈さんの所へと行ってしまった。
俺になら話してくれると思っただけにちょっと残念だな。いや、そりゃ自惚れか。
「残念でしたね。長門さんはあなたには甘いと思ったのですが。」
お前がいたから長門は話したくなかったんじゃないのか。いや、そうに決まってる。
「僕も少々興味がありましたから、残念です。」
古泉はニヤケ顔のまま、肩をすくめる。
安心しろ古泉、あとで長門が教えてくれたとしてもお前には絶対教えてやらん。
はあ。俺は大きく一息ついた。
前を歩く長門の姿が夕日の中で黒いシルエットになっていた。
そんな光景を見ながら俺は、
年頃の娘を持つ父親っていうのはこんな気持ちなんだろうかとか、
それこそどうでもいいことを考えながら、家路に着いた。
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(おしまい)
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