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#navi(SS集)

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* 作品 [#ha8cf953]

** 概要 [#y3b0eaca]

|~作者      |七原  |
|~作品名    |未知数事象の…… |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2007-01-21 (日) 22:54:26   |

** SS [#s48f6239]

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#setlinebreak(on)

「あんた達は先に帰りなさい、あたしは鍵をかけなきゃいけないから後で帰るわ」
 主語の一部が抜けたかのよな言葉を口にして、涼宮ハルヒは彼を除くわたし達団員に帰宅を促した。
 眠っている彼の背には、わたしがかけたカーディガン。
 涼宮ハルヒは気づいているのだろうか、気づいてないのだろうか。
 気づいていて、
「では、帰りましょうか」
 わたしの思考は疑問という形を成す前に、古泉一樹の言葉によって遮られる。
 わたしは、ほんの少しだけ考えて、彼からカーディガンを取る必要は無いと判断し、古泉一樹や朝比奈みくると共に帰宅することにした。
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 翌日、昼休み。
「……長門、いるよな?」
 わたししか居ない部室に、彼がやって来た。外に居ても声と気配で分かる。
 質問とも確認ともとれる言葉にわたしが言葉を返せぬままただ部室のドアを見つめていると、彼が部室のドアを開き中に入ってきた。
 手には、わたしのものと思われるカーディガン。
「これを返しに来たんだ。……昨日はすまないな、寒くなかったか?」
「……平気、わたしはこの星の知的有機生命体のあなた達と違って、自分の体温・周囲の温度などを有る程度情報操作で賄うことが出来るから」
 わたしは端的な事実を口にする。
 事実、昨日のあの時点でわたしより彼の身体の方が保温が必要と判断した。
 ただ、それだけのこと。
 ただ、それだけの、
「そうか……。ありがとな、長門」
「……」
 彼が口にした、礼のこもった言葉。
 それが、わたしに向けられる。
 嫌ではない、寧ろ、好ましいとさえ思える。
 けれどわたしは、わたしにそのような言葉が向けられる理由も、そのような言葉を向けられて好ましいと思うその理由も、分からない。
 わたしはただ、状況に応じて必要と思われることを行っただけなのだから。
「じゃあ、またな」
 彼はカーディガンを机の上に置くと、部室から去っていった。
 わたしは、彼の返してくれたカーディガンを手に取る。
 彼が手に持っていたからだろうか、その部分にまだ少しぬくもりを感じる。
「……」
 わたしは昨日、眠っている彼にこのカーディガンをかけた。
 当たり前の、ただそれだけの事実を、わたしはわたしの思考の中で反復する。
 彼とわたししか居ない部室で、疲れていた彼は、眠ってしまった。
 わたしは……、そう、わたしは、彼の質問に、答えなかった。
「……」
 理由は、分からない。
 わたしはただ『そうしたかった』だけ。
 そう、それ以上の理由は、存在しない。
 ……わたしは、彼に返してもらったカーディガンをそっと抱きしめる。
 この行為にも、多分『したい』と思う以上の理由など無い。
 ぬくもり、或いは余韻……、そんなものを感じる行為のどこに意味が有るのか、わたしは知らない。確かにこのカーディガンのごく一部に彼の毛髪や細胞の一部が付着してはいるけれども、毛髪や細胞の採取といったごく基本的な情報収集のための事項などとうに済ませているわたしに、そんな物が今更必要なわけも無い。
 では、何故?
 何故……、と、そう考えても、結論など出ない。
 わたしはただ、わたしのしたいことを、している。
 わたしのしたいこと……、そんな概念が存在すること自体、何かが間違っているはずなのに。
 わたしの役目は、観察者。
 場合によって観察以外の役目が加わることも有るけれども、基本的にその立場は揺らがない。
 観察者で有るわたしが、観察対象である彼に、必要以上の何かを感じたり求めたりする必要など、存在しないはず。
 そう、わたしは……、わたしは、情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用インターフェース。……わたしは、端末。
 端末は端末であり、それ以外の何かではない。
 情報統合思念体と連絡の取れない非常時や、知識生命体である情報統合思念体と有機生命体の形状を持つ端末との間の意思疎通の齟齬を想定して、有る程度の自立行動は認められているけれども、それも所詮、端末としての機能・役割などを優先して与えられているに過ぎない部分。
 ……そう、これは。
 これはきっと、肉体を持たない知識生命体である情報統合思念体には、分からないこと。
 『ぬくもり』という概念が意味することが正確に掴めないわたしにも、そういう判別は出来る。
 分からない、分からない……、分かりたい?
 疑問が知識欲に繋がるということ自体は、おかしなことではない。
 段階や認識レベルでの差異は有るが、情報統合思念体にもそういった一面は存在するし、そもそも、わたしが端末としてここに居る理由にも似通った部分が存在する。
 知らないことを知ろうとするのは、知的生命体で有る以上、当然とも言えること。
 だからわたしも『知りたい』と思うのだろう。
 このカーディガンを抱きしめるという一見無意味な行為に繋がるまでの未知数事象の全てが、一体何を意味するのかを。
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#br
 終わり


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