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#navi(SS集)

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* 作品 [#n5fcf993]

** 概要 [#weae3e25]

|~作者      |n  |
|~作品名    |ナガトの空、KYONの夏 |
|~カテゴリー|長門SS(一般)|
|~保管日    |2006-08-17 (木) 15:56:22   |

** SS [#hf6b8526]

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「かかってこい!!」
 俺は絶叫する。
「俺が説得すると思ってたんならお生憎さまだ!!
 長門は戦わせないからな!! 絶対に死なせないからな!!
 長門が生きるためなら人類でも何でも滅んでしまえばいい!!」
 情報統合思念体に立ち向かう。武器なんて何もない。それでも、長門を守りたかった。ただ、守りたかった。
 そして俺は振り返った。心配するな、俺が守ってやる。そう、長門に言おうとしたのだ。
 すぐ目の前に、長門がいた。
 長門は、静かに泣きながら柔らかく笑っていた。
「いい」
 長門は立ちすくむ俺を見つめながら、いつもの呪文のようなものを呟いた。大きな黒い瞳に夕暮れの赤が映る。
 まったくの突然に、周囲の地面が上昇を始める。
「やっとわかった、あなたのこと。だからもういい。だいじょうぶ。へいき」 
「――長門?」
「わたしも他の人なんか知らない。みんな死んじゃっても知らない。
 わたしもあなただけ守る。わたしも、あなたのためだけに戦って、あなたのためだけに死ぬ」
 そして長門は、俺の胸に身体をあずけてきた。
 俺は、長門の匂いと体温と体重を感じ、汗ばんだ夏服の胸元に吹き込まれるようなささやきを感じた。
 わたしも、あなただけでいい。
 長門の体重にそっと押されて、背後に一歩だけよろめいた。目の前に、地面の壁が出来上がった。
 俺は、戦うべき場所からはじき出された。
 何も考えられなかった。
 しばらくの間、目の前の壁を呆然と見つめることしかできなかったし、古泉が声をかけなければいつまでもそうしていたかもしれない。
 地面が上昇して壁を作ったのなら、まだ開いている場所もあるはずだ――そんな昆虫なみの思考がやっと湧き上がってきて、壁の周りを走った。
 どこが開いてるかもわからないし、もとから開いてる場所なんてないかもしれない。そんなことを考えながら、走るしかできなかった。
 遅い足がもどかしい。もっと速く。速く。速く。どこまでも壁は続いた。
 壁の終わりがわからず、苛立ちと絶望で気が狂いそうになって、突然壁の切れ目を見つけて、
 視界がひらけた。
 長門がいた。そこに、消えかかっている長門がいた。
「長門ぉっ!!」
 すぐにでも身を投げ出して助けようと思ったが、もう何もかも間に合わないということを直感してもいた。
 叫び声に気が付いた長門が、こっちに顔を向けた。もう首から下が消失していた。
 少し驚いた顔をした後、柔らかく、笑った。ただ、嬉しそうに笑った。
 地面が上昇して、長門は見えなくなった。
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 いま、長門は自由なのだと俺は思う。
 ハルヒの観測という任務を課せられ、いつも俺達の気づかないところで頑張ってきた。
 いつも、俺達を危険から守ってくれた。
 雪が、雪に見える情報の光が、空から降ってくる。
 なあ、長門。俺は駄目なやつだよな。守ってもらってばかりで、守ることができなかった。
 長門だったら、そんなことはない。とか言って許してくれそうだけどさ。
 俺はな、長門。お前をただ守りたかったんだ。
 長門有希だった雪が、全て止んだ。
 長門が空に帰っていく。
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 あれから何週間過ぎただろう。
 世界は変わらず平和で、いつものようにハルヒのとんでも行動につき合わされていた。
 日常はそんなふうにして戻ってきた。以前と比べて、一人足りないSOS団とともに。
 最後に、改変したのだろう。誰も長門を覚えているものはいなかった。俺しか覚えていなかった。
 そういうもんだと、割り切るしかできなかった。
 それでも世界は廻っていく。
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「なあハルヒ、俺は考えたんだがな、今回の不思議探索は――」
 そこでハルヒが何も持っていないことに気づいた。
「ハルヒ、」
「何よキョン」
「――道具は? ハルヒが持ってくるんじゃなかったのか?」
 ハルヒは眉をひそめて、
「道具――って、一体何の道具のことよキョン」
「だから、不思議探索で使う道具だよ。スコップとかダウジングとか、」
「不思議探索、って一体何の話をしているのキョン」
 今度は俺が眉をしかめる番だ。あのな、ハルヒ。
 宇宙人の謎を探してやるとかなんとか自分で言ったのを覚えてないのか?
 そもそも不思議探索はお前が言いだしっぺだろう。
 ハルヒは、呆気にとられたような顔をして、
「――不思議探索? 宇宙人?」
 誰かに聞かれたら外聞が悪いとでもいうように、ハルヒはやっと聞き取れるほどの囁き声でそう言った。
 そしてハルヒは突然溜息をつき、文芸部部室がある学校を覆いつくす空へ向かって絶叫した。
「おっくれてるぅ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
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 ああ――。
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 終わったのだ、と俺は思った。
 心からそう思う。
 この世の不思議も、非日常な出来事も、そして宇宙人も、ハルヒの中では終わったのだ。
 それじゃあ、せめて、俺だけは覚えていようと思った。
 あの雪のような儚い少女の事を。
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(元ネタ:イリヤの空、UFOの夏 四巻より)
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