作品

概要

作者ながといっく
作品名長門さんとカレーまん
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-12-30 (火) 17:46:23

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 それは、ある冷えた冬の日のことだった。

 

 走り回るほど忙しいのは師だけでなく俺達も同じであって、なぜそんなに忙しいのかというと、それはもちろん涼宮ハルヒのおかげである。
 俺がパラレルワールド2泊3日旅行から帰ってきて間もなく開かれたSOS団主催のクリスマスパーティ。
 その余韻さめやらぬうちに今度は大晦日の雪山で合宿をするらしい。やれやれ。

 

 さて、SOS団は冬休みという長期休暇に左右されないらしく、本日も昼間から通常営業だったわけだが、正直何もすることがない。
 大掃除をするにはまだ早いし、合宿関係は古泉に任せっきりであるからして、俺はノータッチである。
 ハルヒは団長席でネットサーフィン、朝比奈さんは毛糸で何か編み物をしていらっしゃる。
 もちろん長門は窓際の指定席で絶賛読書中。厚物好きの宇宙人には珍しく、薄めの小説か何かを読んでいるようだ。
 そして俺は朝比奈さんの入れてくれたお茶を飲みながら古泉とボードゲーム。
 そんな何の変哲もない、いつもの団活だった。

 

 長門と二人きりで下校するってこと以外はな。

 
 

 事の顛末はこうである。
 ネットサーフィンをしていた唐突にハルヒが合宿に必要なものを買いに行くだとか言いだした。それに朝比奈さんもついていった。なんでも新しいお茶の葉を買いたいらしい。
 まぁ、全員が揃わない下校なんてのは珍しくはない。
 今日みたく朝比奈さんが街に買い物に出かけたりするのはよくあることだし、ご機嫌メーターが斜め方向に振り切れたハルヒが勝手に休んだり、それに伴い古泉がバイトと称した巨人狩りに出かけたりで面子が揃わないことも多々ある。
 まぁ、後者二つに関しては俺が原因であることが多かったりもするのだが、俺が古泉のようなイエスマンにはなりきれない以上、仕方がないこととも言える。

 

 さて、俺と古泉の勝負はキリのいいところで持ち越しとなった。無論、俺の圧倒的優勢であったことは言うまでもない。
 そろそろ帰るかと思ったところで、古泉が意外なことを言いだした。
「少々用事があるので先に帰らせていただきます。校門に車を待たせておりまして」
「用事って機関のか?」
「ええまぁ。ご心配いりませんよ。多丸兄弟と雪山合宿の打ち合わせに行くだけですから」
「そうですか。それは残念です」
 ちっとも残念に見えない顔でそんなこと言われてもな。
「見たところ、長門さんもその本を読み終わるまでもう少しかかるようですし、お二人で下校なさってはいかがでしょう」
「俺は別にいいが…じゃあ一緒に帰るか、長門?」
 長門は視線を手元の本から俺の方へと移す。しばしの沈黙後、
「いい」
 それは肯定なのか、否定なのか。
「肯定」
「よしわかった。じゃあそれ読み終わったら帰ろうぜ」
 長門はわずかに頷き、すぐに目線を本に戻した。
「ふふっ。それでは失礼します。また会いましょう」
「おう、またな」
 不可解な笑みを残してスマイル野郎は去っていった。長門と一緒に下校しろ、とは一体どういうつもりなんだ?
 俺と長門に気を使ってるつもりなのか何なのか、全く食えない野郎だ。
 ふと思い出す。クリスマスイヴに聞いた古泉の一言。

 

 ――あなたが見ていたのはどちらのユキでしょう。空から降るほうですか?それとも――

 

 ふん、忌々しい。

 
 

 女子と肩を並べて下校、なんてのに憧れた時期が無かったと言えばウソになる。
 そしてありがたいことに、高校生になって俺は何度かその機会を得ている。誰かさんに朝倉捜索に引っ張られた時や、部室に暖房器具が仲間入りした雨の日などがそれにあたるわけだ。
 嬉しかったかと問われると、まぁ否定はしないが素直に肯定もできないな。
 しかしながら、この宇宙人謹製の読書娘と二人で帰るのは初めてである。
 全てが変わってしまった世界で、性格まで丸ごと変わってしまった長門とならあるのだが、俺が慣れ親しんだ世界の長門、つまりは俺の長門とはまぎれもなく初めてなのである。

 

 俺と長門がペアになるときの法則。
 基本的に無言である。互いに喋ることはほとんどない。決して仲が悪いとか気まずいとか言うわけじゃないぞ。
 長門は自分から何かを話そうとするキャラではないし、俺とて本来おしゃべりではないからな。普段は誰かさんのせいでツッコミキャラみたいになってるが、元々出しゃばるタイプではないのだ。

 

 仮にハルヒや朝比奈さんが相手で、これほど会話がなかったらさぞかし息苦しいことだろう。
 しかし、相手が長門であるときに限っては、沈黙が支配する世界も悪くないと思える。息苦しさなど感じないし、むしろ心地よさすら感じる。

 

 ほとんど会話を交わさないまま長門のマンションの近くまで歩いてきてしまった。
 いつもならここら辺でお別れするところだが、俺は長門にある提案をした。
「長門、ちょっと公園で休んでいかないか?」
 ちょっと寄り道したい気分だったし、少しこいつに聞きたいこともあったしな。
 長門はこくんと少しだけ首を傾け、
「わたしは構わない」

 
 

 光陽園駅前公園、通称、宇宙人パーク。俺達は備え付けのベンチに腰かけている。
 ここは長門が俺に正体を明かした際の待ち合わせ場所であり、朝比奈さんと初めてタイムトラベルした時の到着地点でもあるのだが今日に限っては朝比奈さん(大)が後ろの茂みから出てくるってことはないだろう。

 

 ベンチの脇の電燈の淡い光が俺と長門を照らす。照らされた長門の顔からはこれといった表情は読み取れない。
 だがそれでも、半年前にこいつと出会ったころとは大違いだと俺は思っている。
「なあ長門」
 長門の整った横顔が少しだけ揺れる。
「なに」
「少し前に、俺がハルヒの使いで商店街にストーブ貰いに行ったことあっただろ?」
 前を見据えたまま頷く長門。
「あの時は寒かったよな」
「……そう」
 呟くように言う。
「あの時は疲れてうたた寝しちまったな。…カーディガンかけてくれたのって長門だろ?」
「……」
 長門が無言でこちらを向き、1秒ほど俺の目を見た後、再び前方へと目線をもどした。肯定の合図かね。
「ストーブを俺の近くに置いてくれたのも、多分長門なんだろ?」
「……」
 わずかに首を傾ける。やっぱりこいつは優しい宇宙人だな。
 何故か、長門を直視するのは少し恥ずかしかった。俺は淡い光を放つ電燈の方を向き、
「ありがとうな」
「……そう」

 

 俺は長門にもうひとつ聞きたいことがあった。
 俺の記憶が正しければ、あの日俺が目覚めた時、テーブルの上に長門の本が置いてあった。そしてこれまた俺の記憶が正しければ、長門の忘れ物など後にも先にも例がない。
「あの時は本を置きっぱなしで帰ったのか?お前が本を忘れて帰るなんて珍しいな」
 空気が変わった、気がした。
 長門はゆっくりと顔をこちらに向け、
「……」
 三点リーダを放つ。またしても沈黙。しかし長門の変化を俺は見逃さなかった。

 

 一見するとただの無表情、いつもの長門だ。
 だが長門表情の見極めについては第一人者であることを自負する俺にはわかる。
 こいつは悩んでいる。それは、このことを言うべきかどうか迷っているような仕草だった。
 だが、なにを?

 

 しばらくの沈黙の後、長門の口から出た言葉は意外なものだった。
「違う」
「違うっていうと?」
 ――今思うとこんなバカな質問はないだろうな。
「あの時わたしは帰宅していなかった」

 

 黒曜石のような目が、俺を見つめていた。
 そこに浮かぶ感情はまだ俺も見たことがないもので、俺はなぜかその目をまともに見れなかった。
 戸惑いを隠せない俺に向って、長門はゆっくりと口を開いた。
「あなたが眠りについた時点で、あなたの体温は低下しており、衣服や髪も濡れたままだった。このまま放置しておけばあなたが風邪を引くと考え、ストーブを移動し、カーディガンをかけた」
「ああ、助かったよ。ありがとうな」
「しかしそれだけではあなたの体を暖めるのには不十分と考えた。何か温かい物を摂取するのが最良と判断し、わたしは温かい飲料水と温かい食物を購入することにした」
「しかしあの時間じゃ購買はとっくに閉まってるだろう」
「坂の下のコンビニエンスストアなら24時間物品を購入することが可能。財布と一緒に鞄は持っていったが、再び部室に戻る予定だったので本はそのままにしておいた」
 坂の下のコンビニまでは20分以上かかる。往復となればその倍だ。
「時間が時間だし、長門が返ってくる前に俺が起きるかもしれないじゃないか」
「そう。学校とコンビニエンスストアの往復の間にあなたが目覚める可能性は高かった。また、涼宮ハルヒや朝比奈みくる、古泉一樹があなたを起こす可能性もあった。
 わたしが戻ってくるまであなたが部室に滞在し続ける可能性は低かった。しかし、これは何故だかわからないが、わたしはわたしの意思で当該行動を遂行した」

 

 そうだったのか。
 長門は俺のためにわざわざ坂を下って買い物を……

 

 ……ん?

 

 ここまで考えて俺は気付いた。俺が起きた時に本は置きっぱなしだった。
 そして長門は外に買い物に出ていたという。その頃俺は何をしていた?

 

「な、なぁ長門。じゃああのとき俺と……いや、俺たちと長門は…」
「……わたしが」
 珍しく声を詰まらせる長門。
「長門、お前もしかして……」
「わたしが学校へ戻る途中、涼宮ハルヒと下校するあなたを見た」
「……」
 この三点リーダは俺の分だ。
 あの日の雨は冷たかった。そのことは俺が一番よく知っている。
 長門は傘なんか持ってなかったはずだ。それに俺にカーディガンをかけて、ひとりで外へ…

 

 ―――気がつくと、長門を抱きしめていた。

 
 

「ごめんな、長門…」
「……」
 抱きしめられたことに驚いているのか、怒っているのか、それともいつもの無表情なのか、俺からは見えない。
「あなたが謝る必要はない」
 俺の背中に手が伸びてきた。温かい。
「わたしが戻る前にあなたが帰宅する可能性は非常に高かった。涼宮ハルヒと帰ったことも、必然的な行為。わたしは…気にしていない」
 背中に伸びる手に少しだけ力がこもった気がした。長門をさらに強く抱きしめる。
 人目があるかもしれない。紆余曲折を経てハルヒに伝わるかもしれない。
 そうなったら大変だろう。でも、知ったことか。今の俺にとって一番大事なのはこの小柄な宇宙人だ。
 感情の高ぶりが抑えられず、俺は知らぬうちに涙を流していた。

 

「なぜ、泣いているの?」
「……」
「あなたは、悲しいの?」
「……」
「泣かないで、欲しい。あなたが悲しむことをわたしは望まない」
「……」

 

 俺を抱きしめる長門の力が強まる。今度は気のせいじゃない。
 おい、女の子の前で泣きじゃくるカッコ悪い俺よ、気持ちは落ち着いたか?
 オーケイ。だったら長門に言うべきことがあるだろ?それを言ってやればいい。

 

「長門よ、人間がどんなときに泣くか、わかるか?」
「……」
「人間はな、痛いときや悲しいときだけじゃなく、嬉しい時も泣くんだ」
「……」
「長門の気持ちが嬉しいんだ、だから、泣いてるんだ」
「……そう」
 抑揚がなく感情に乏しい声。だが、その声は確かに暖かかった。

 

「外、寒かっただろ?」
「……寒かった」
「雨、冷たかっただろ?」
「……冷たかった。――でも、いまは暖かい」
 俺も暖かいぞ、長門。

 

 さて、いつまでも抱きあってるわけにはいかないし、長門の方から離れる気配もないようだから、俺から離れる。なるべく優しく。
 心なしか、長門が名残惜しそうにしていたように見えた。気のせいじゃないなら嬉しい。

 

 ここで俺はあることを思いつく。今思い返すと相当恥ずかしいが、あの時は名案だと思ったんだよ。
「なぁ長門、何を買ってきてくれたんだ?」
「……カレーまん」
 カレーまんか。肉まんやピザまんじゃないところが長門らしいな。
「よし、ちょっと待ってろ」
 そう長門に言うと、俺はベンチから腰を上げ、小走りである場所へと向かう。俺の記憶が正しければこの近くにもあるはずだ。

 

 数分後、俺が公園に戻ると、長門は先ほどと変わらぬ格好でベンチに腰かけていた。
 隣に座り、公園を出たときには持っていなかった白いビニール袋から、ある物を取り出す。
「……それは?」
 横に首を傾げる仕草が可愛らしい。
「カレーまんだ」
 そう、俺はコンビニでカレーまんを買ってきたのだ。宇宙人御用達のコンビニがこの近くにあるからな。
「月末で金欠でな。1つしか買えなかったが…」
 実のところ、いくら金欠とは言ってもカレーまんを2つ買う程度の金はあった。じゃあ何で二つ買わなかったかって?
 そういう気分だったんだよ。

 

 先ほど袋から取り出した、湯気が立つ程度に暖かいカレーまんを半分に割る。
「ほら、はんぶんこだ」
「はんぶんこ?」
「同じ食いもんを分け合う仲っていうのは、親しい証拠なんだよ」
「親しい…?」
 そうだ。俺と長門の仲だ。長門が望むならカレーまんどころか、命だって分けてやる。
「そう…はんぶんこ…」
 片言のように呟きながらカレーまんを見つめる長門。
 ちきしょう。可愛いぜ。まるで現世に舞い降りた天使だ。
 今日ばかりは朝比奈さんも顔負けだ。

 

 半分に分けたカレーまんを完食した俺達は公園を後にした。
 いい加減遅い時間帯になってたしな。

 

「うまかったか?」
 すぐ隣を歩く長門に問いかける。
 俺にだけわかる程度に、満足げに頷く長門。
「おいしかった」

 

 さて、名残惜しいが長門のマンションの前まで来てしまった。
 ここでお別れだな。
「そう……さよなら」
「おう、また来週な」
「また」
 長門は俺を少しだけの間だけ見つめ、やがて背中をむけ去っていった。
 その姿が見えなくなるまで、俺は動く気がしなかった。
 悲しい言葉であるはずの「さよなら」は暖かみに満ちていた。

 

 薄暗くなった道を一人で歩く。隣に誰もいないというのが少し寂しい。
 さっきまでいた「長門の隣」という空間が懐かしく思える。
 不思議なことに、この「長門の隣」という場所を独占したいという気持ちが俺に芽生えていた。

 

 古泉がいつだか言っていた言葉を思い出す。
 ハルヒも古泉も、朝比奈さんも長門も、そして俺も少しずつ変化している。
 今の俺の気持ちも、その変化の表れなのかもしれないな。

 

 まぁ、心配しなくてもあの無口宇宙人の隣にいたがる奇特な人間はそうはいないだろうが。

 
 
 
 

 ――そんな奇特な野郎が現れるのに、さほど時間はかからなかったのだが、それはまた別の話。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:31 (1921d)