作品

概要

作者エイレイ
作品名ハルメタ6!『見覚えのサイキック』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-12-28 (日) 22:15:24

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子登場

SS

 

フルメタ原作『純で不純なグラップラー』

 
 

■1

 

  突然だが俺は見知らぬ町の裏路地を蕎麦茶の2リッターボトルを持ってノートの時や午前中の長門捜索時よりも必死で走っている。理由? オーケー、単純に言おう。お台場で揉めたあいつらと出くわした。それだけだ。

 

「待たんかい!」

 

  山登り後のクッタクタになった体、しかも負荷付きで駆けているんだ、待つ待たないではなくもう無理。というよりは行き止まり。土地勘無き遁走者の先は見えた。あの優秀なボディガードはどうしたのかって? いつも俺に張り付いてるわけじゃない。別行動を取ることだってあるさ。千円札を持たせて八百屋に行かせたりな。

 

「追い詰めたぞ」

 

  何色の発言か分からないがそれは事実だ。四色が獲物(俺)を狩るべく近づいてくる。甚振られるってこういうことかな。俺は飢狼と鉢合わせてしまったウサギの気持ちを疑似体験していた。

 

「さて、覚悟しなこの野郎」
「袋のネズミですね」と穏やかな声。

 

  まったくその通りだよ。ん? 新たなる敵キャラか?

 

「な〜にスカしてんだぁ? ふがあっ!」

 

  陣代高校の夏服を着た長身のハンサム男が、目にも止まらぬ早業で茶髪をのしていた。顔立ちもいいしアクション映画の俳優に向いているんじゃないか? ナイスガイは続く赤と金銀もどうやったのか一瞬以下で倒して、服を直していた。

 

「さて、お怪我は?」
「かすり傷一つ無い。助かったぜ。ありがとう」
「いえいえ、人として当然のことをしたまでです」

 

  それでは、と如才ない微笑で会釈を返してその男は名前も名乗らずに去って行った。おお、どこか格好いいぞ。

 
 

■2

 

  という話(実話)を次の日の教室で終礼間際に長門有希にしてみたところ、元々の白皙を更に白くさせた。俺を守れなかったことに別に感じなくてもいいのに多大な重責を拘泥しているようで、JTSTとかいう所属元の組織に送る報告書作成のためにノートパソコンのキーボードを叩いていた(意外と人並みの速度で)手を震わせて俺の目をじっと本物の穴を開けるぐらいに見つめて口を開いた。

 

「ごめんなさい。今後もっと気をつけるから今日のゆ・・・・・・」
「分かった。そういうのは後でゆっくり聞いてやる」

 

  一応他のクラスメイトには黙ってるんだ。飯作ってるってことは。恥ずかしいだろ? で、どう思う?

 

「わざわざ格闘戦に持ち込んだのは不可解。わたしなら長距離狙撃で片をつける」
「飛び道具を持ってなかったんだろ。第一ここは日本だ。銃社会アメリカとは違うんだよ」

 

  こいつに話したのは間違いだったなと反省して俺は外の景色を眺めた。昨日の今日だ、何も事件は起こるまい。さっさと帰宅して飯作って寝るに限る。俺の魂に安らぎあれ。
  目を向けた窓の外では付近の中学生が軽快にラジコンへリを飛ばしていた。ヘリの操縦は難しいと聞くが中々の腕だな。

 

「時に長門、あのヘリの飛びっぷりをどう思・・・・・・」

 

  俺が後一文字というところで呼びかけを中止した理由を説明するべきだろう。何故かというと、校庭の外れから飛び出した小さめの打ち上げ花火のような物体が件のラジコンヘリ上空で爆発の火花を咲かせ、見事に撃墜する一連の過程を俺は一瞬たりと見逃さなかったからだ。犯人を疑うまでも無い。俺の目の前にいる。

 

「あれは不審機の侵入を防ぐためにわたしが仕掛けた対ヘリ地雷による爆発。おそらく飛行していたラジコンヘリコプターを感知、起爆した。有人無人を問わず航空機に爆発物を搭載して目標に突入する手法は911テロで・・・・・・」

 

  やはりお前か。もうそろそろ突っ込む気力も失せ始めたぞ。が、ペンタゴン突入時の防空体勢がどうのと解説を続ける長門の言葉を断ち切る大音声が大気を震わせた。

 

(ちょっとキョン! 聞こえる!?)

 

  俺を本人の意見無視で副会長に指名しやがった生徒会長、涼宮ハルヒだ。放送室を乗っ取ったか脅迫でもしたのか。どっちにしても穏やかな話ではない。

 

(えっとね、超能力同好会ってのがあるのよ! 校地の外れに! んでもって、建物の耐久性がヤバイから取り壊さなきゃいけないわけ! 消防署から何度も通知が来てるけど強硬に反対してんの! つまりあんたの出番! いきなり行って書類見せてあげなさい!)

 

  宣戦同時攻撃を行うなら防諜のために直接口頭で言え。 つまり、の意味を詳しく教えてくれ。大体放送で書類を渡すというのは無茶、ではなく無理だ。最後に、俺は断るぞ。今日は水曜つまりはタイムサービスが。ああでも超能力か。見てみたいな。

 

(言い忘れたけど、書類はみくるちゃんに託したから! その方があんたもやる気でるでしょ!? じゃ、頑張ってね!)

 

  流石ハルヒ。俺の思考をパーフェクトにトレースしてやがる。放送終了のメロディにシンクロするように朝比奈さんが何とポニーテールという俺の精神的高揚点に核爆発的刺激を与える姿で書類を抱え男子共の視線を集めながら一年五組に粛々と降臨した。これで断れる男は絶対にいない。いたらホモだ。朝比奈さんは優雅にテールを揺らして、

 

「涼宮さんからこれをキョン君にって。無くさないようにね」

 

  俺に向かってまっすぐに歩きてとびきりの笑顔で俺に書類を渡してくれた。別れ際にキリスト・ユダヤ・イスラムその他を交えた悪魔の連合軍団でさえも一発で浄化されそうなくらい眩しいウィンクをかまして、

 

「それじゃキョン君、頑張ってくださいね。今日は玉露を用意しますから」

 

  無論ですポニテ朝比奈さん。ハルヒなら一蹴するところですが貴女の頼みとあらば不肖このキョン、地獄の果てまでもお付き合いいたします。

 

「キョンは今日ももてるねえ」

 

  国木田、それは今日欠席した谷口の補完のつもりか? よっし長門、行ってくるぞ。

 

「キョン君、職務熱心なのはいいことだけど終礼がまだよ」

 

  ドアに手をかけたところで美人な委員長朝倉涼子に止められた。うっかりしていたぜ。

 
 

■3

 

  ちょっと用事を済ませてくると一時離脱した長門と合流し、俺達は超能力同好会という胡散臭い名称を持つ建物へといざ足を進めた。所在地は朝比奈さんが持ってきてくれた書類に明記してあり、探すのに困難は無かった。見た目ですぐに分かる。
  一言で言おう。ボロい。崩れそう。地震でも来たら一発で崩壊しそうだ。

 

「見るからに倒壊の恐れがある。何ならダイナマイトかセムテックスで・・・・・・」
「壊すなよ。俺達は話し合いに来たんだ。アルフレッド・ノーベルが泣くぞ」

 

  コイツには逆平和賞を贈りたい。俺は新たな賞を考えつつ壊さないように慎重に引き戸を引いた。どうせ取り壊すのに壊さないようにするのは面倒この上ないが。建物の中は畳敷きで、空手か柔道場のような雰囲気だった。
  上座には三人の生徒。襲撃予告を聞きつけ迎え撃つ準備に追われていたのだろうか。内訳は昨日の好青年とは正反対の見るからにキザな男子一人と、ツインテールの可愛げな女子一人。そして最後に波打つゾウの耳のような超長髪を持った無機質な女。超能力者、と言われて一番分かりやすいタイプだ。
  さて、本題に入ろうか。朝比奈さんのお茶を美味しく頂くために。

 
 

  自己紹介によると男子は藤原、ツインテールは橘、無機質は周防というらしい。一応下手に出ておくべきか。俺は下座に正座して、消防署からの告知書を提示した。

 

「生徒会副会長です。この建物は老朽化と耐久性の問題で取り壊すんですよ。ですから早いトコ立ち退いてくれませんかね」

 

  でないといつの間にか甘いにおいを漂わせてガラクタになっているということになりかねないのである。これは職務というよりかは親切心からなる行動だと明言できる。

 

「それは残念でした」と橘。
「僕らは流浪の民だった」と藤原。
「どこか―――他の部室を・・・・・・開け渡してほしい」

 

  まどろっこしく周防が締め括り、ハルヒが俺を遣わした理由が分からなくなった。まさかあの野郎、揉め事は面倒だからって一人朝比奈さんで遊んでるんじゃないか? 忌々しい。今すぐにでも救援部隊を組織して乗り込みたい。

 

「それはちょっと・・・・・・俺の一存では決められない」
「それでは無理です」
「どうしても立ち退けというならそれ相応の代償を払うべきではないか?」
「でなければ・・・・・・力ずくで―――奪いに来て」

 

  やれやれだ。超能力同好会ならスプーン曲げの角度とか、ゼナーカード的中率とかそういうので決めろと提案したい。テレポートの飛距離でも可だ。俺が更に新しいのを考えていると、右側に姿勢よく座る長門が俺の制服の裾を引っぱった。

 

「郷に入っては郷に従うべき。暴力もまた論理の一つ」
「おい長門」

 

  俺の言葉より早く、三人の眉がピクリと動いていた。あああ戦闘モードだ。

 

「貴女みたいな女の子が私達を倒せると思うの?」
「事実。あなた達を観測する限りわたしは勝てる」
「そろそろ止めとけ」
「いいでしょう。丁度退屈していたところです」
「僕達の中から一人を指名したまえ。それでそちらさんが勝ったら大人しく尻尾を巻いて出て行こう。ただし」
「そっちが―――負けたら・・・・・・」

 

  デジャブのある光景。二日連続だ。やっぱり俺の喉仏目がけて三本の人差し指がまっすぐ伸ばされていた。

 

「その人をください」
「その男を貰おう」
「貴方が・・・・・・欲しい」

 

  まったく息が合っていない。それより内容がおかしい。少し考えさせろ、俺をください? 貰う? 欲しい? 恋人の父親にあった若い男性の言う言葉ベスト3じゃねえか。

 

「丁度男子部員が欲しかったんです」渡りに船か。
「実直そうな青年だしな」そりゃどうも。
「同感―――良い・・・・・・子供を―――作れそう―――だと・・・・・・思う」ホワット?

 

  俺を馬車馬のようにこき使った後はスタリオン(競馬の種馬のことだ)にする気かコイツらは! 長門、分かった今すぐ戦おうなんて絶対に言うなよ! もしそうしてみろ、今後一ヶ月飯を作ってやらんぞ!

 

「了解」
「ちょっと待て!」
「心配しないで。あなたには髪の毛一筋たりとも触らせない。昨日のようなことは、二度と起こさない」

 
 

■4

 

  第一戦の相手はツインテールの橘だった。律儀に畳二枚(縦換算)を挟み挑戦者と対峙している姿は、超能力者には似つかわしくない。

 

「まず始めに言っておきます。私達が目指しているのは真のバーリトゥード。超能力まで交えたルール無用の真剣勝負です」
「結構なこと」

 

  合戦の合図に用いられる蟇目鏑矢を藤原が屋外に向けて放ち、俺の危懼不安一切合切を無視して何たることか戦端は開かれた。ルール無用というのは戦いに限ったことではないらしい。
  橘が一瞬で間合いを詰めて長門に近づく。長門もスカートの左ポケットに手を突っ込み同じ動作をした。どこがエスパーバトルだ。肉弾戦だろこりゃ。これで長門がKOでもされたら種馬キョンが生まれるところだったが俺はしばらくトラックを走れることになった。

 

「ちょっとこれは反則気味・・・・・・」

 

  戦闘の様子をかいつまんで描写する。長門がどこで習ったのか橘に大外刈りをかけて地面に横臥させ、ポケットからハンカチを取り出して橘の顔を覆いつくした。橘は30秒ほどでグッタリとし両目を閉じ手足を投げ出した。保健室に連れて行ったほうがいいか? まあ今必要なのは長門に対するピコハンアタックだろう。

 

「このアホ! 誰が睡眠薬なんか使っていいって言った!」
「睡眠薬ではない。JTSTに所属する生物化学兵器のエキスパートが開発した新型の超即効性吸入麻酔薬。濃度は5倍に希釈したので人間に使っても無害。開発者から『使ってみます?』と勧められたので・・・・・・」
「理由になってない!」

 

  残った二人もアンビリーバブルな顔して俺に共鳴してるぞ。その顔といったら、コルテス軍の装備を目の当たりにしたアステカ人だ。

 

「不吉な・・・・・・感じが―――する」
「何だそれは。薬品とは卑怯な」
「卑怯?」と長門から疑問形が返ってきた。

 

  昨日の水星の時同様、意味を取り違えている可能性は120パーセントだ。ずるい、手段が汚いとかそういう意味だ。が、長門は薄い胸を張ってこう答えた。

 

「無血の勝利ほど尊いものは無い」
「江戸城とは違うんだ! もうそんなものは使うな!」

 

  そして、新聞紙のページを一枚めくるほどの時間が挟まれた。

 

「分かった。薬は使わない」

 
 

■5

 

  第二戦の相手は唯一の男、藤原だった。全身から目障りオーラを噴出し傲岸不遜な態度をとる構えは、やはり超能力者らしくない。

 

「僕の出番だ。過去で戦うなど趣味ではないが止むをえない。既定事項だ」
「禁則でもあるが」

 

  口を滑らせた藤原を諌めた俺は対する長門を眺めた。薬は使わないと言っていたが、制服の裏地に仕込んだポリカーボネイト製のナイフを取り出すとかそういう危険性がある。最悪俺が止めに入らにゃいかん。流血沙汰になったらもうどうしようもない。
  建物の端っこに立っている周防がモップ髪の間から出ているような腕に持った法螺貝を吹き、二回目の戦いは幕を開けた。・・・・・・閉じてたらよかったのに。

 

「僕は過去の事件を熟知している。間合いを下手に詰めたら橘の二の舞だ。弓に頼らせてもらおう」

 

  後ろに下がりながらの禁則すれすれ超能力どころか何百年前の合戦だオイ発言は長門によってかき消された。いや、厳密には手にしているスプレー状の・・・・・・やっぱスプレーだ。それのノズルから猛烈な勢いで吐き出された無色透明の液体が鳩尾に直撃して藤原は宙を舞った。痛みで暴れている様子から大丈夫そうだ。よし、ピコハン準備。

 

「次は何だ!?」
「フランス陸軍後方支援司令部が一方的に送ってきた個人携帯型放水銃。取扱説明書を一読してみて、使いたいと思った」
「思うな!」

 

  俺は、またあの組織か・・・・・・と頭を抱えた。長門に頼めば即日で使用したりしてくれると認識してるんじゃないか?

 
 

■6

 

  橘、藤原の両名を倒して(一方的に)、更に周防戦を控えている長門にはその前にここでの交戦規定を叩き込んでおくべきだろう。

 

「基準が分からない」

 

  解読表を無くした途端に暗号を傍受したオペレーターが滅失の事実を上司にどう報告するか悩んでいる顔で相談された。

 

「こいつらには超能力者なんだ。そうは思えないが。で、お前は素手でしか戦っちゃ駄目だ。もちろん銃や薬は抜きだぞ」
「そんなROEは初耳。ここはただの木造家屋。火気厳禁の石油施設や原油を満載したタンカーではない。発火の危険性はゼロに近い」
「規定で定められた問題じゃない、俺がそう決めた」
「でも、あなたがここで・・・・・・」
「四の五の言うな!」

 

  なおも抗弁しようとした長門は俺の勢いに僅かにたじろぎ、俺は少し言い過ぎたかなと反省した。唇を尖らせて、

 

「分かった。銃は使わない。素手で戦う」

 

  結果から言うと、心配は杞憂に過ぎなかった。喜んでいいのか悲しんでいいのか。

 
 

■7

 

  最終戦、周防戦。外見は徹底的に相反する要素を持った二人が真正面で立ち会う姿は、傍目には決闘ってところだろう。実際にもそうだしな。
  俺が道場(もうこれで通すことにする)の隅っこに置いてあった銅鑼を撥で叩き、もうどこの国なんだか分からなくなってきた中で戦いの火蓋は切って落とされた。銃器を封じられた長門がどうするのか見物だ。
  二人が互いの虚無的な目を合わせ続ける。開戦から一分はしたか。空間が歪んでいる気がする。俺は見るのも退屈な、テレビならとっくにチャンネルが変えられるであろう心理戦がまどろっこしくなり首を左右に回した。うう痛い。
  ジャストその時、ガラス窓を突き破ってそこらの模型店で売っていそうなラジコン飛行機が道場に突入した! そして脊髄反射で視線を向けた長門が手にしているのはアンテナを伸長したプロポだ!

 

「これは―――なに―――囮・・・・・・?」

 

  超能力者期待の星、周防がイライラするぐらいゆっくりと動きで割れたガラスの方に目を向ける。してやったり顔の長門は注意の逸れた一瞬を逃さずに周防の腕を掴み、鮮やかな腰投げを見舞った。俺の感想はこうだ。

 

「何て卑怯な」

 

  やたらと長い黒髪が俺の視界を席巻する。文字通り真っ黒になった視界が回復すると、一本勝ちした長門が勝利の余韻を味わう素振りすら見せずに俺達の入って来た玄関を凝視していた。そこにいたのは―――。

 

「おやおや」

 

  なんと、昨日の俺を助けたスマイリー男だった。制服で同校だとは分かったがまさかこんなとこでバッタリとは。そういえば名前も聞かず終いだった。

 

「何者か」長門の鋭い誰何の声が飛ぶ。
「名前は古泉一樹。ここの責任者とでも言うべき立場の人間・・・・・・いえ、超能力者です。僕がここに着いたのは橘さんが惨敗を喫したところからですね。これは僕の推測ですが」

 

  俺が横にしておいた橘、不満げな藤原、いまだ長門が捕らえている周防とボロい道場を交互に見て、

 

「ここにいたメンバーと戦いそちらが勝てば直ちに立ち退く、といったところですか? ええと、長門有希さん? お噂はかねがね承っています」
「そう」少しは恥ずかしがれ。
「それは僕を倒してからにしてください。僕達がユダヤ人だとすれば、ここはイスラエル国家なんです。苦難の末にようやく手に入った自分達の土地を、みすみすと他人に渡すわけにはいきません。どんな手を使っても結構ですよ」

 

  分かりやすい比喩だが、そんなこと言っていいのかよ。俺は自前の頭で戦争馬鹿対超能力者の戦いをシミュレートしてみた。・・・・・・ゴールデンタイムには放送できない内容になりそうだ。あ、そんなことよりも。

 

「なあ、昨日は助かったぜ」
「これから気の抜けない戦いなんです。僕に宿った力は陣代高校の敷地内でしか使えないのですから、貴方は黙って観戦していてください」

 

  目すら合わせずに古泉は使い勝手の悪い能力の解説をして、本格的に戦闘準備に入った。コイツに対するイメージを「好青年」から「いけ好かない野郎」に一新することを公式決定する。古泉の周りにバチバチと擬音を立てて球体の赤いシールドらしいものが展開された。こういうのを見たかったんだよ俺は。対戦相手長門は周防から手を離して何が入っているのか分からないポケットから流麗な外観のまだ見慣れたP230拳銃を取り出し、マガジンの確認をしていた。

 

「・・・・・・」

 

  ところで科学と超能力、二つの相反する概念が激突する前にさっさと避退しておく必要があるな。頭をさすっている橘と藤原、周防を連れてさ。俺は結果的には長門がどんな手段を使っても九分九厘勝つと思っている。巻き添えを食らうのは御免だ。

 

「どうなったのです?」とまだ眠そうな橘。
「すぐに逃げろ」

 
 

■8

 

  非戦闘員四名が外に避難してから、道場の中から銃声が連続して聞こえてきた。ここで戻ろうとするのは愚か者以外の何者でもない。

 

「ここを守ろうとする古泉の意地は驚異だ」藤原が感嘆した口調で言った。
「私にはわかる。そういう場所ですもの」橘がしみじみと答えた。
「いずれにせよ―――負けるのは・・・・・・嫌」周防が率直に漏らした。

 

  ラジコン飛行機が割った窓から爆炎が立ち上った。焼夷手榴弾か? 言いかけると屋根瓦を吹き飛ばして赤い小球が青空に飲み込まれた。小球が見えなくなった頃に長門が窓から脱出してきた。P230を右手に、導火線に火のついたダイナマイトの束を左手にして。すいませんノーベル先生。こんなことに使っちまって。

 

「皆伏せろ! 耳と目を塞いで、口を開け!」

 

  でないと爆風で眼球が飛び出し鼓膜が破れるらしい。もう自分の身は自分で守るしかない。セムテックスに限らず爆薬の起爆は陣代高校では長門に次いで俺が詳しいつもりだ。伊達に靴箱を壊され続けてない。内履きはもう生徒会室に置きっぱなしにしてある。でないと俺の家計簿の支出欄を靴が埋め尽くしそうな気がするんでね。
  俺(達)はセムテックスとは異なる圧倒的としか言いようの無い衝撃波を全身で受け止め、気を抜けば吹っ飛ばされそうな爆風に耐え、爆発が佳境を過ぎるのを待った。
  音が消えたので目を開けると、赤いシールドを失った古泉が虚空に舞い上がっていた。おいおい落ちるぞ。俺は何を考えるでもなく数秒後の未来を予測して走り出していた。船乗りが要救助者を見つけたら海に飛び込んだり救命浮輪を探すのと同じだ。人間の本能だ。

 

「そのまま!」

 

  橘のガイダンスに従い地面にしっかりとつけた足に力を込めて、落ちてくる古泉を受け止める。普段想定もしない過負荷に両腕がビリビリとしびれ膝をついたが、俺の両腕は役目を存分に果たした。よかった、古泉に外傷は無いようだ。

 

「大丈夫か!?」
「ええ。おかげさまで。おや貴方は昨日の・・・・・・」

 

  自分の足で立ち上がりつつ古泉は、無礼な対応は申し訳なかったと非礼に謝辞を述べた。いいってもう気にするなって。昨日助けてもらったし。

 

「・・・・・・道場もあんなことになっちまったしさ」
「・・・・・・ですね」

 

  あんなこと、が指し示す内容はもちろん、廃墟どころか空爆跡になってしまった道場跡地である。古泉は俺には丁寧に接していたが、さすがに首謀者長門にはそういう態度はとらなかった。整った顔にサワヤカスマイルが浮かんではいたが。

 

「長門さん。こうなってしまっては僕としても黙っているわけにはいきません」
「そう」

 

  だからどうした何時でもかかってこいとでも言いたげだ。今日の勝負は見た感じ長門の全勝だった。来るべき戦いに向けて予備のマガジンを取り出している。

 

「彼の身体と新しい練習場所。それらをかけて再び勝負しましょう。メンバーには手出しさせません」
「したくもないわ」と橘。
「そんな勇気、僕には無いからな」と藤原。
「勝てる―――気は・・・・・・しない」と周防。

 

  異口同音に答えた三人は、もう長門と戦おうとは思っていないようだ。平和が一番さ。そうだろう? 長門とノーベル先生。

 

「この次は僕のほうから戦いを挑ませていただきます。正々堂々戦いましょう。この無残な練習場所についてはクレームを出しません。真剣勝負の結果に過ぎませんから」

 

  お前心広い奴だな。分かった、ハルヒに早いトコ代替案を出させるように心得ておく。俺と長門は、仕事を解体まで終えた旨を報告して朝比奈さんのお茶―――今日は玉露だったか―――を味わうため、ハルヒが今か今かと待ち構えているであろう生徒会室に足取り軽く向かった。

 
 

■9

 

(飛行中、警報が鳴り厚木基地に緊急着陸したF‐15E編隊の内一機には、エンジン周りの油圧パイプに亀裂が発見され、あさって、後発の輸送機に搭乗している整備員により調べられるとのことです。F‐15Eは大型爆弾を搭載して飛行していたとの未確認情報もあり、早期解決が望まれます。周辺の平和団体が一時デモを行うなどの騒ぎも……)

 

  一応勝利の晩餐時に、白うりの漬物(俺のお手製だ)をニュースを左から右へ聞き流しながらバリバリと齧っている時だった。俺の真向かいでこの世にこんな美味いものがあったのかと感動したような顔で蕎麦茶を飲んでいた長門が出し抜けに口を開いた。

 

「困ったことがある」
「どうした」
「昨日の写生会での最後のこと」
「ネットにかかった谷口か? 今日休みやがったな」
「あなたは『携帯にかかってくれば助けに行く』と言った」
「確かに言った」
「わたしはあの時電波妨害装置を作動させていた」

 

  蕎麦茶が一息で俺の咽頭を突破して呼吸器に入ろうとした。ちょっと待て、ティッシュ取ってくれ。

 

「ゴホゴホ! ・・・・・・要するに、携帯がかけられないってことか?」
「そういうこと。あなたの指示を仰ぎたい」
「飯食い終わったら助けに行くぞ。すぐにだ」

 
 

  その後、鶴屋自然公園でネットをハンモックにして熟睡していた谷口が発見された。いっそ放っておこうかと思ったが夜分失礼して管理者である鶴屋校長に電話を入れたら「それは災難だったね」と笑ってくれた。頭痛の種が出芽することはなかった。谷口にしてみれば一日堂々と休めたことになる。ええい腹立たしい。近いうち天罰が下るぞ。

 
 

―――状況終了

 
 

 

「次回! ハルメタ第7話! 『善意のトレスパス』!」
「落ち着けハルヒ! それは原作だ! 正しくは『月下のグレイブディガー』お楽しみに」
「ねえキョン、一人で大丈夫・・・・・・?」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:30 (2704d)