作品

概要

作者ながといっく
作品名長門さんの告白
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-12-28 (日) 03:46:12

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「午後六時半、文芸部室にて待つ」

 

 こう書かれた栞が教科書に挟まっていたのを見つけたのは、未だ眠気覚めやらぬ1限の授業中であった。
 名前こそ書いていなかったが、差出人はあいつで間違いあるまい。
 栞を連絡手段に使う人間の心当たりなんぞ、俺には一つしかないからな。

 

 この栞のせいか、やけに長く感じた授業と、いつも通り適当に遊んで終わる団活を終え、ハルヒたちには教室に忘れ物をしたと言って部室に戻ってきた俺を待っていたのは、やはりこの寡黙な文学少女だった。

 

「どうした長門。また何か厄介事が起きたか?」
 長門・栞。この二つが合わさったときは大抵の場合は俺にとって良くない兆候だ。
 マンションに連れ込まれ壮大なカミングアウトをされたり、過去に飛ばされて時間ごと凍らされたりな。

 

 長門はいつもの無表情に、ほんの少しだけ緊張の色を混ぜたような顔をしていた。
 しかし淡々とした口調で、まずは俺を安心させてくれた。
「特に問題は起きていない」
「そうか、ならいいんだ。じゃあ今日は何の用なんだ?」

 

 長門の黒曜石のような目が俺を見る。
 そこからはいつものような冷たさは感じず、むしろ温かみを感じた。
「わたしは……」

 

「わたしはあなたのことが好き」
 ……はい?
 長門さん、今なんて。俺の聞き間違いじゃなかったら、俺のことを好きだとかなんとか――
「聞き間違いではない」
 そうか、俺の耳もまだ遠くはなっていないようだな。
「わたしはあなたが好き」

 

 正直、わからん。なぜ長門が俺を?
 長門はこう見えてなかなかの美少女だ。付き合いも長いし、信頼もしている。付き合えるとなれば諸手を挙げて歓迎しよう。
 だが、俺の検索機能をフル活用しても、長門が俺を好きになる理由は見つからない。
 あまりに動転した俺の口をついて出たのは、
「長門、その、なんだ。また例のエラーとかか?」という言葉だった。
 長門がまた疲れて、何かよくわからない感情に踊らされて、こんなことを言っているのではないか。
 俺はそう思ったのだが、長門の小さな唇から返された返答はその推測を打ち砕いた。
「プログラムによって作られた擬似の感情ではない。だからエラーと言えばエラーになる。でもこれはわたしの本当の気持ち」

 

 そう言われても、俄かには信じられない。
 自慢じゃないが俺は自分が女性に好かれるような人間だとはこれっぽっちも思っていない。
 俺は半ばヤケクソ気味に、ジョーク説やらドッキリ説を提唱したが、そのどれもが長門によって即座に否定された。
 そして、その一つ一つを否定するたびに、長門の声は小さくなり、ついにはうなだれてしまった。

 

 しまった。長門の目はいつもの冷たさを取り戻している。
 余計に焦ってしまった俺は、場の空気をなんとかしようと――
「もしかしてハルヒが仕込んだドッキリか?」
 ――言ってはならないことを言ってしまった。
 この場にNGワードがあったとしたら、まさにこれだったのだろう。

 

「………………もういい」
 目の前にいなかったら、俺はそれが長門の声だとわからなかったに違いない。
 だってそうだろ?
 例えここが猫が喋り出すような狂った世界だとしてもだ。
 ――長門が声を震わせて喋るなんて、誰が予想できるだろうか。

 

「……わたしは…伝えたかっただけ…だから…」
 そう言い残し、長門はトボトボと文芸部室を去って行った。
 俺の横を俯いて通り過ぎる長門の横顔を見て、俺は自分の目を疑った。
 ――涙?

 

 長門が初めて見せた人間らしい表情。
 それは笑顔でも怒り顔でもなく、泣き顔だった。
 そして、長門にそんな顔をさせたのは、まぎれもなくこの俺なのだ。

 

 振り向いた先にある長門の背中は、まるで俺の全てを拒否しているかのようだった。
 俺は声をかけることも、追うこともできず、ただ、呆然と立ち尽くしていた。

 
 

 あれからどうしていたか、よく覚えていない。
 気がついたら薄暗くなっていて、飯や風呂もそこそこにベッドに転がり込んだ。
 いつも過労気味の睡魔が今日はストライキを起こしているらしく、なかなか眠りにつけなかった。
 瞼を閉じると、長門の顔が浮かんでは消え、頭の中に長門の震えた声がエンドレスで流れた。

 

 翌日、結局ほとんど眠れなかった俺は、日中の授業をほぼ寝て過ごすこととなった。
 ハルヒのシャーペン攻撃に鬱陶しさを感じる余裕すらないまま、遂に放課後を迎えた。
 無論、部室に向かう足取りは重い。長門は来ているだろうか。来ているとして、どう顔を合わせたらいいんだ。

 

 ノックをする。
 朝比奈さんの麗しい天使ボイスが俺を迎えるが、いつもは俺を天国へと導くその御声すら、今日は虚しく感じるのはなぜだろう。
 ドアを開けて部室を見渡す。
「おっそいわよキョン!」
「どうも。遅かったですね」
「掃除当番だったんですかぁ?」
 いつものメンツが全員揃っていた。どうやら俺は最後だったようだ。
 そう。つまりは長門もいた。いつもの指定席に。

 

 しかし、いつもなら顔を上げて無言で俺を一瞥する長門が、今日はピクリとも動かなかった。
 ――無視…か。
 まぁ仕方ない。それだけのことを俺は……

 

パタン

 

 唐突に長門が本を閉じ、帰り仕度をはじめた。
 当然だが、部活はまだ始まったばかりで下校時間には程遠い。
「ゆ、有希?どうしたの?」
 ハルヒがキョトンとした顔で長門に尋ねる。
「今日は体調が優れないのでこれで帰る」
 長門はいつも以上の無表情に、いつも以上の淡々とした声で言った。

 

「お、おい長門…」
 声を絞り出す俺の横を一目だにせずに通り過ぎ、長門は部室を去って行った。
 またも呆然とする俺。長門があそこまで自己主張をすることは滅多にない。
 だからこそ重みがあり、その行動は俺を絶望の淵に叩き落とした。
 それは明確なる拒絶。同じ空間にいることを拒むほどの。
 
 茫然自失とする俺を現実世界に引き戻したのはハルヒだった。
「あんた、有希になにしたのよ?」
 いつにも増して真剣な眼差しで俺を睨むハルヒ。
「……」
 俺は何も言えずにいた。ハルヒに言っていいものかわからなかったし、言いたくもなかった。
「言えないならまぁいいわ」
「……」
「でもね、あんたが有希に何かしたんなら、あたしが絶対に許さないからね。それだけは覚えておきなさい」
 そう言うと、今日は解散と告げ、ハルヒにしてはおとなしい足取りで部室を出て行った。

 

 しばらく棒のように突っ立っていた俺だが、古泉の声で我に返った。
「失礼ですが、長門さんと何があったのか話していただけますか?」
 古泉までもがいつもの無料スマイルを少し曇らせている。
「なんでお前に話さなきゃならん」
「もちろん涼宮さんのこともありますが…SOS団の副団長として、あなた方の一友人としても、ぜひお聞きしたいですね」
「あの、あたしも聞きたいです。今日の長門さん、まるで昔に戻っちゃったみたいで…」
 朝比奈さんも深刻そうな顔で俺を見る。
 ――仕方無い。
 俺は昨日の出来事を話した。

 

「……」
「……」
「……」
 この3点リーダは俺達3人それぞれのものだ。
 なんか長門が3人いるみたいだなぁ、などと下らないことを考えていると、

 

バン!

 

 朝比奈さんに殴られた。グーで。
 痛い。未来では平手じゃなくグーで殴るのが主流なのだろうか。

 

「キョンくんは人の気持ちがわからないんですか!?
 長門さんがどんな気持ちでキョンくんに…。鈍感で済む問題じゃないです!
 長門さんが、あの長門さんが、どれだけ勇気振り絞って告白したと思ってるんですか!?」
 目に涙を浮かべて怒りをあらわにする朝比奈さん。
 この天使をここまで怒らせるようなことを俺はしてしまったらしい。
 俺がしばし呆然としていると、朝比奈さんは我を取り戻し、
「あ、あの、叩いちゃってごめんなさい… でも、今日は、その、帰りますね…」
 そそくさと仕度をして、朝比奈さんは部室を後にした。

 

 部室には俺と古泉だけが残された。
 普段なら絶対に遠慮して置きたいシチュエーションだが、今は助かる。
 少なくともスマイルと冷静さが売りのこの男に殴られることはないだろう。
 しかし、古泉はいつもは見せない真剣な表情で、
「失礼ですが、僕も朝比奈さんと同感です。
 長門さんはあなたを心から信頼していたし、あなたも長門さんを信頼していた。前にも話しましたが、長門さんは変わりました。少しずつ普通の少女に近づいているように思えます。
 今の長門さんなら、あなたへの信頼が恋愛感情に変わることも、むしろ当然だったのかもしれません」
 その当然のことが、あの時の俺には信じられないことだった。
 長門の告白なんて、それこそ夢でも有り得ないと思っていたんだ。
「僕はあなたが長門さんの告白を受け入れるべきだったとは言いません。
 我々の組織としては別の事を望んでいるのも事実ではあります。そしてそれ以前に、誰を好きになり、誰と結ばれるか、それはあなたの自由です。
 しかし、どういう結論を下すにせよ、あなたは長門さんの想いを真摯に受け止めるべきだった。あなたは長門さんの一大決心を冗談で流してしまったのですよ」
 言われなくともそんなことは分かっていた。分かっていたはずだったのに。
 結局、俺は長門を普通の少女として見てやれてなかったのかもしれない。
 長門なら、長門に限って、まさか長門が。そんなレッテルを張って、本当のあいつを見てやれてなかった。

 

 一息おいて古泉が続ける。
「もちろん、あなたは当然おわかりでしょう。そして、これから何をすべきかも、わかっているはずです」
 そうだ。
 俺は長門の気持ちに答えていない。長門は自分の気持ちを俺にぶつけてくれた。
 だったら、俺も自分の気持ちを長門にぶつけなきゃいけない。
「古泉、ありがとよ。目が覚めた」
「いえ、出過ぎた真似をして申し訳ありません」
 古泉は既にいつもの笑顔に戻っていた。
「部室の鍵は僕が閉めておきますから、ご安心を」

 

 ああ、わかってる。
 俺は鞄を取って部室を飛び出した。

 

 ――長門、待ってろよ。

 

 どれだけ走っただろうか。気がつけば俺は長門のマンションの前まで来ていた。

 

 入口のインターホンで708号室を呼び出す。
 ――反応なし。いないのだろうか。いや…
 俺の直感が告げている。長門はここにいる、と。

 

 いつだかのハルヒのように、住人の外出に乗じてマンションのロビーに入り込んだ。少し気は引けたが人目を気にしている場合じゃない。
 △ボタンを押しエレベーターを待つ。
 ――来ない。というより、動く気配がない。故障か?
 仕方無い。階段を使うことにする。
 長門の部屋は7階だ。階段で登るのは結構しんどい。学校から走ってきた俺の足は、既に感覚が無くなりかけている。

 

 どうにか部屋の前までついたところで、俺の体力は限界を迎えた。
 玄関の前にへたり込む。
 708号室。今まで何度か訪れたこの部屋。初めて来たときは長門の正体を明かされた。
 二度目は4年前の七夕、朝比奈さんと一緒に来たな。あの時は時間ごと冷凍保存された。
 三度目は――
 いや、回想はこの辺にしておこう。今はこの部屋の主に、俺の気持ちを伝えることが先決だ。
 そう、俺の気持ちを――

 

 立ち上がりインターホンを鳴らす。
 反応なし。
 再度鳴らす。
 反応なし。

 

 しかし、俺は長門がここにいることがわかっていた。
 推測ではなく確信。なぜだかはわからない。
 古泉風に言えば、わかってしまうのだから仕方ない、といったところか。
 長門は確実にここにいる。それも、このドアのすぐ向こう側に。

 

 覚悟は決めた。俺は意を決して言葉を紡ぐ。
「長門、聞いてくれ」
 ――今度こそ、伝えるから。
「昨日はすまなかった。俺、お前に告白されたのが信じられなくてだな」
 ――今になって思えば、あれだけ俺を見ていてくれたのにな。
「だから、お前の気持ちに正面から向き合えなかった。俺は本当に臆病者で卑怯者だ。俺はお前の告白から逃げたんだ」
 ――今度は逃げない。伝えるんだ。
「俺にとって長門は、かけがえのない仲間だ」
 ――もちろん、ただの仲間じゃない。
「誰よりもお前を信頼している」
 ――何よりも信じれる奴だと思っている。
「困ったとき、いつでもお前がそばにいてくれた」
 ――本当に頼りっぱなしだった。
「一人で抱え込まないで頼ってほしいと思ったのも本当だ」
 ――長門を泣かせた大馬鹿野郎だけどな。
「そして、何よりも、お前は俺を信じてくれた」

 

 ――世界を作り替えた時だって、俺に選択権を委ねてくれた。

 

「あの冬の日以来、俺はお前のことが気になって仕方無かった」
 ――中河との一件も、雪山の事件もな。
「最初は、親心みたいなものだと思ってた」
 ――そうやって自分をごまかしていた。
「情けないことだが、お前の涙を見て、やっとわかったんだ」
 ――遅すぎるんだよ、馬鹿野郎。

 

「長門、好きだ」

 

 一瞬の沈黙の後、静かにドアが開いた。
 長門の顔は、一昨日と同じく涙で濡れていた。でも、受ける印象は一昨日とは正反対だった。
 なぜかって?
 それは俺が初めて見る、長門有希の笑顔だったからさ。

 
 

 放課後の文芸部室。
 いつもの場所にいつもの5人がいる。
 ちょっと違うのは、この中の一般人と宇宙人が、ちょっとした恋仲ってことだ。

 

「あら、あんたたち仲直りしたの?」
「ああ。俺のちょっとした勘違いで長門を怒らせてたみたいでな。あれから長門の家まで行って誤解を解いたら許してくれたよ」
 俺はあらかじめ考えていた言い訳をハルヒに述べた。
「そう。なら良かったわ。SOS団内で喧嘩なんて馬鹿らしいしね」
 どうやら納得してくれたようだ。しかし、変なところで勘の鋭いハルヒである。それだけで終わる訳がなかった。

 

「ところであんた、有希の家の中まで入ったわけ?」
 嫌な予感がする。まぁ、ここは正直に答えておいた方がよさそうだ。
「あ、ああ。成り行き上あがらせてもらったが」
「ふうん…あんた、有希にいやらしいことしてないでしょうね?」
「するわけないだろ、そんなこと」
 実はあれから俺たちは一般的なカップルがするようなことをしている。Kから始まってSで終わるあれだ。
 まぁ、あれは"いやらしいこと"には入らないだろう。入るとすれば、俺はハルヒにもいやらしいことをしたことになるしな。
 ……あの、長門さん?睨んでるような気がするのは気のせいでしょうか。

 

 一方のハルヒは全く納得していないようで、
「怪しいわ。女の子の部屋で二人きりだもの。しかも可愛くておとなしい有希と。いくら根性無しのキョンだって、間違いがあるかもしれないわ。どうせあんたなんて、女の子の家にあがることなんてほとんど無かったでしょ」
 ハルヒの中で俺はそういう風に思われていたのか。
 まぁ、事実俺はヘタレだし、女の家にあがったことなんぞほとんど無い。悪かったな。

 

「そんなことはない」
 沈黙を守っていた長門が突然口を開いた。
「へ?有希、それどういうこと?」
 ハルヒも長門の急な発言にキョトンとしている。
「彼は少なくとも私の部屋には数回来ている」
 一瞬にしてハルヒの顔が邪悪に歪む。おい、いきなり何を言い出すんだ長門。一体何のつもりだ。
「ふーん。そうなの。知らなかったわ」
 ハルヒ、鏡を見てみろ。それで笑ってるつもりか。怖すぎるぞ。
「うるさい。ねぇ有希、詳しく聞かせてもらえる?」
「了解した」
 するな。
 そうメッセージを込めて俺は目で長門に必死で訴える。だが長門は俺の視線を見なかったことにしたようだ。

 

「初めて彼がわたしの部屋に来たのは去年の5月ごろ。彼と二人きりでわたし自身の話を聞いてもらった」
 ああ、懐かしいなぁ。あの時は――などと言っている場合ではない。
 目の前のハルヒが顔をヒクヒク言わせている。間違ってはないが語弊がある言い方をしないでくれ、長門よ。
「それってあんたが有希と出会ってすぐよね?キョン、ずいぶん手が早いのね」
 わかったから足を踏むのは辞めてくれ。
 逃げないから。多分。

 

「有希、それだけ?他にはないの?」
 ハルヒは全てを聞き出す気だ。
「少々昔のことになるが、彼は私の家で寝たことがある」
 前言撤回。今すぐ逃げたい。
「おい長門、それは――」
「あんたは黙ってなさい」
 はい。黙ります。
 ハルヒは泣く子も笑う子も黙らせる鬼のような形相で俺を睨んだ。俺の足にかかる圧力は今この瞬間も大きくなり続けている。
 長門さん、確かにそうですけど、そんな誤解を招くような…

 

「ふーん……まさか、一緒に寝たとは言わないわよねぇ…?」
「寝ていない」
 そうだ、一緒に寝てなんかいない。これなら何とかごまかせるか?体調が悪くなったとか言えば…
 などという俺の思惑は、この小悪魔系宇宙人によって粉々に砕かれた。

 

「彼と同じ部屋で一緒に寝たのは朝比奈みくる」

 

 ハルヒはもはや表面上ですら笑ってはいなかった。俺の足は悲鳴を上げている。
 横目で朝比奈さんを見ると、顔を真っ青にしてガクガクと震えていらっしゃった。
 古泉?残念ながら俺にはそこまで気にする余裕はない。
 そして、騒動の張本人の長門はいつもの無表情……ではなかった。俺にはわかる。

 

 こいつ、楽しんでやがる。

 

「ほーう…有希の家でみくるちゃんとねぇ…あんたにそんな甲斐性があるなんて知らなかったわ…」
 漫画だったら確実にゴゴゴゴゴといったような効果音が付きそうな顔をしているハルヒ。
 やばい。これはやばい。完全に誤解している。長門、やっぱりまだ怒ってるのか?
 ちきしょう、どうする。このままじゃ間違いなく俺は目も当てられないほど残酷な目にあうのは規定事項だ。とはいえ、本当のことは言えないし、そもそも言ったところで信じて貰えるわけがない。
 第一、長門の言っていることは、ニュアンスこそ異なるが全て真実だ。
「あたしの知らないところでそんなことしてたとはねえ…SOS団の団員に手を出して、ただで済むと思ってるのかしら?
 キョン。絞殺と刺殺と撲殺のどれがいい?電気殺や溺死でもいいわよ」
 俺が言い訳を考えているうちに、ハルヒは俺の処刑方法を考えていたようだ。
「ま、待てハルヒ!俺は断じて長門にやましいことはしていない!!」
「有希、本当?この馬鹿にいやらしいことされなかった?」
 俺の言葉を無視して長門に聞くハルヒ。どうやら俺の証言は虫けらほどの信用性もないらしい。

 

 長門は俺を横目でチラリと見たあと、淡々と話し出した。
「いやらしい行為を性的嫌がらせと定義するなら、彼にそのような行為をされたことはない」
 そうだろう。実際にしていないんだからな。長門は嘘だけはつかない。
 頼む長門、どうにかハルヒの気を沈めてくれ。
「しかし、誰もいない放課後の教室で彼に抱き寄せられ、眼鏡がないほうが女性としての魅力が増す旨を告げられたことはある」

 

 記憶はそこで途切れる。気がついたら外は暗くなっていた。
 どうやら文芸部室でのびていたようだ。一体俺は何をされたのだろう。体中が痛い。
 俺の身体には部室付属の毛布がかけられていた。おそらく目の前のこいつがかけてくれたんだろう。
「長門、これ、お前か?ありがとよ」
「いい」
 こんな時間まで待ってくれて、毛布までかけてくれる。
 やはり長門は優しい。だが俺にはそれとは別に聞きたいことがあった。
「しかし、何のつもりだ。酷い目にあったぜ…」
「あなたはあの時、わたしの告白を真面目に受け取らなかった。悲しい、と感じた。
 その後、あなたはあなたの気持ちをわたしに伝えてくれた。嬉しい、と感じた。
 しかし、あなたが最初にわたしにした行為に対して、わたしは何の対抗措置もとれなかった」
「だから、仕返しをしたと」
「そう」
 ごもっともだ。
 告白は告白。俺が長門を泣かせたことの報いは別なんだろう。
 そう言われてはどうしようもない。俺にも長門にあんな顔をさせた弱みがあるしな。

 

「しかしな、あんな言い方したら、俺とお前が…なんだ、そういうことをしたみたいに思われるじゃないか」
 俺がそう言うと、長門は少し首を傾けた。
 そして俺を上目使いで見つめ――

 

「……したい?」

 

 どうやら、俺がハルヒに本当に殺される日は、そう遠くはないようだ。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:30 (1805d)