作品

概要

作者エイレイ
作品名ハルメタ1!『彼女は舞い降りた』
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-10-26 (日) 13:47:14

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

  本作品は『ハルメタ!』の題名が示すとおり谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』と賀東招二『フルメタル・パニック!』の両作品を面白おかしくコラボさせることを目的としたSSです。基本は『ハルヒのキャラ』で『フルメタ短編のドタバタ(アニメ版のふもっふ?がメイン)』を書いていきます。
  なお、話を盛り上げる都合上『ハルヒのキャラ』は『フルメタのキャラ』に完全には対応させていません。なるべくはするつもりですが。例としてハルヒキャラAがフルメタキャラBにもCにもなります。またキャラの行動が(面白くするため・名キャラクターのイメージを壊さないようにするため)フルメタ原作からずれている場合もあります。ご容赦の程を。更には放送順とリンクしていません。かなりいじってます。
  基本的にSOS団の五人は固定キャラです。
  キョン…かなめ(ツッコミ)
  長門…宗介(ボケ)
  ハルヒ…林水生徒会長(本編と変わらない)
  みくる…お蓮さん(生徒会書記)
  古泉…椿一成(本作には登場しません)

 

最低限の必要事項
・舞台は「陣代(じんだい)高校」、東京都調布市
にある設定の公立高校。最寄り駅は「泉川(せんがわ)駅」。キョンは電車通学をしている。
・光陽園駅は京王線の途中に割り込ませているということにしてください。
・キョンも長門も光陽園駅の公園近く、多摩川にも近いマンションの上下の部屋で一人暮らし。
・キョンは長門の昼弁当と夕食を作っている。
・ハルヒ他は昼弁当だけだと思っている。
・生徒会メンバーはキョン、長門、ハルヒ、みくるの四人。
・第4話『晴れやかなウォーターバブル』並びに第5話『混迷のインディペンデンス・デイ』の記述から曜日と日付の配列が最近では1995年と2006年が該当しますが、年代は全く意識していません。実は何も考えずに第4話の日付を記述したことが原因たんなる偶然です。おかげで7月のスケジュールがえらいことになっていますが、気にするほどでもないと思います。彼らの体力に期待します。

 
 

リアル陣代(モデルは神代)高校の方へ
・容赦なく校舎を破壊しますが、ご了承ください。ご自分のクラスがセムテックスで吹っ飛ばされても笑って下されれば幸いです。
・学校の構造や部活動、教科名などで矛盾が生じるかもしれませんが、無視してください。物語に影響を及ぼすほどでは無いと思われます。僕が通っていた高校の影響もごく一部にあります。

 
 

第7話『月下のグレイブディガー』とそれ以降の話について
  作者が2009年5月現在、最初の話を書いていた頃には予想もつかないくらい忙しくなっています。グレイブディガーは文章量でいえば約七割が出来上がっているので、6月末までには投稿できるかと思います。また、その後の投稿も超不定期になると思われます。
  なおグレイブディガー投稿の数日前にストラテジーを改訂します。ストラテジー読了後にグレイブディガーをお読みください。
  こんな作品でも楽しみにしてくださっている読者諸氏には、大変申し訳ないです。

 
 

  それでは本編いきます。基本的には笑って読めるような不真面目な作品ですので、そこをご了承の上でお読みください・・・・・・。
  フルメタ原作『南から来た男』

 
 

■1

 

  今日もうららかないい天気だ。泉川駅の改札を通って徒歩登校途中の俺は明らかに睡眠が充足していない体を初夏の日光の中で伸ばして全身に酸素を取り込み、大あくびをした。

 

「おはようキョン。珍しく寝不足気味だね」

 

  後ろから改札を抜けてきたらしいクラスメイト兼友人の国木田が話しかけてくる。ああ、おはよう。

 

「昨日長門が貸してくれた本が面白くてな、結構読み進めちまって……」
「へえ。キョンにしては珍しいね」
「んな風に言うな」

 

  軽くどつく。他人としゃべって少しは眠気も消えたか。まだ眠いことには変わらんが。こりゃあ一時間目の家庭科は睡眠学習ってオチになりそうだ。国木田、後でプリント写させてくれ。

 

「もちろん、オーケーだよ」

 

  サンキュ。持つべきものはやっぱり授業をきちんと目覚めた状態で受けられる友人だな。ああ学校が見えてきたってのに眠気が襲来してくる。
  だが、この後に襲来したことにより俺の無尽蔵を誇る睡眠欲は吹っ飛んでしまった。かすかな、何かが高速で体の脇を通り抜けたような感覚がした後―――愛すべき高校の生徒玄関からもうもうと黒煙が立ち上り、校旗が爆風にたなびいていた。横で国木田が尻餅をついてしまったのが妙におかしい。

 

「な、何だいこれは……あっ、キョン」

 

  国木田よ、間違いなくあいつの仕業だ。それぐらいは断定しようぜ。第一こんなことが日常茶飯事の日の字以前に常態化してるような学校の敷居を入学後少なくとも二ヶ月はまたいだ者としていちいちそんなオーバーリアクションを取っていたらきっとお前は夏休みまでに身体壊すぞと俺は断定する。
  ようやく立ち上がった国木田を尻目に、俺は毎度おなじく頭をかきつつ走り出し毎度同じく甘ったるいにおいを存分に吸い込み毎度同じく端に位置する俺の靴箱の前で毎度同じく戦果確認をする主犯の姿を見つけ毎度同じく取り出したピコピコハンマーで毎度同じく不揃いな短髪の頭を叩いた。見慣れた小柄なショートカットが口をへの字に曲げて振り向く。

 

「痛くはない。しかし朝から叩かれる理由がわたしには見当たらない。説明を求める」
「その台詞そっくりそのままで返してやる。長門、お前は何回不審物がどうのこうの言って朝から俺の靴箱を吹き飛ばしてなおかつ誤報騒ぎを引き起こせば気が済むんだ?」

 

  長門有希は不満そうな顔をする。右手で焼け残ったらしい紙切れをひらひらと俺に見せた。ほとんど黒焦げだ。文字が書いてあっても読み取れるかどうか。

 

「まだ二桁にも達していない。それに誤報騒ぎというのは間違い。今回は本物。書状らしき残存物を確認」

 

  え、本物? 通算えーと今のを入れて八回目にしてか?

 

「内部の不審物があなたの生命に危機を与えてしまうような物品、例として手紙爆弾かもしれないと思って」

 

  それを聞くのは今回で八回目だ。もう一度ピコハンで叩いてやる。

 

「これまででそんなことがあったか?」
「あなたは甘い。今度は安全という保障はこの世のどこにもない」

 

  そんな俺の正気を疑うような目で見られても、平和な現代日本に生きる高校生である俺の疑問は微塵も揺るがない。残念だったな。

 

「で、今回はどうだったんだ」
「さっき話した通り。書状と思しき紙片を確認した。回収し復元する」

 
 

■2

 

  先程の爆発事件後、放送により生徒会室への出頭を命じられた俺達はパイプ椅子に座っていた。一応俺は指定席を持つ副会長なんだがな。ちなみに我が校の誇る可憐にして美麗なる書道部所属専属書記朝比奈みくる様はお手ずからお茶を入れて俺達に振舞ってくださるのが通例だ。まああのお茶が頂けるのなら、パイプ椅子だろうと電気椅子だろうと座ってやるさ。

 

「えっと、被害報告は……く、靴箱一つが全壊、二つが半壊、それと……内履き外履き八足ずつ全損、傘二本、ま、窓ガラス五枚、最後に電灯が二つです……」

 

  最近は専ら長門のせいで書記らしい行動をされている朝比奈さんのスウィートボイスが狭い部屋に響く。ああ素晴らしく舌足らずな御声だ。

 

「ありがと。ついでにみくるちゃん、お茶を入れてあげて。有希からよく見えるようにね。さてキョン、何があったのか説明しなさい」

 

  朝比奈さんとは対照的な、こちらも我が校の誇る名目上生徒会長、実質はヒトラー並の支持率と横暴さを併せ持つ独裁者、涼宮ハルヒの尋問の声が長机を挟んで俺の脳髄に直撃する。何故一年生が入学早々生徒会長のポストに就けたのか俺には宇宙の真理よりも理解できない。選挙活動を手伝っただけの俺を副会長に指名した理由もだ。ついでに(お前のせいで)公式な役職についてんだから本名で呼んでほしい。説明の必要もないと言いたい。

 

「いや、見たまま八回目のばく」
「わたしが言う」

 

  長門、俺の台詞を遮るな!

 

「聞くわ」
「今朝登校時に彼の靴箱が何者かにより開閉されて不審物の置かれている痕跡を発見した。光度感知による起爆方式を取った爆発物という可能性もあり、偵察行動より先に安全な処理を施した」

 

  不審物と爆弾をイコールで繋げるお前の思考回路こそが不審物だ。それにあれで安全な処理と言うのなら、危険な処理はどんなレベルになるんだ。対艦ミサイルの直撃ぐらいか?

 

「処理?どうしたの?」
「高性能プラスチック爆薬、セムテックスを二パッケージ分使用した爆破処理」
「爆破?」

 

  聞き返す必要も無いと切に思うのだが。こいつには学習機能が無いのか? セムテックスなる爆薬の名称も、その後に続く言葉も俺には聞き慣れたというより聞き飽きた言葉だぞ。

 

「なるほど、それなら今回も安全確実100パーセントね」

 

  俺は漫才コンビのボケの様にパイプ椅子から転がり落ちた。長門も朝比奈さんも条件反射的にすかさず支えてくれようとするのが少し悲しい。ハルヒ? あいつはこんなもんぐらいで動じるようなタマじゃない。

 

「きゃっ」
「しっかりして」
「あんたも騒々しいわね」
「ハルヒ!少しは異常だと思ってくれ!学校で爆弾起爆させる奴がどこにいるって言うんだ!」

 

  そしてリアクションキャラとしての苦悩と苦労も一緒に理解してくれ。

 

「ここにいるじゃん。靴箱一つで人命が助かったんなら良かったしね」

 

  ベテラン刑事に真相をずばりと突かれた犯罪者のような気分だ。それが事実であるのは間違いない。返す言葉もない。ああ、お茶ですか、どうも。

 

「それで、不審物は?」

 

  それで、の一言で済ませるな。会長閣下。明らかに現行法をいくつも無視してるぞ。仮にも学校の自治組織のトップなのだから、少しは法律の重要性を知るべきだ。斬新な人権保障を明記したヴァイマル憲法とかな。

 

「詳細は不明。書状のような残存物を確認。これから復元作業に入るつもり」
「そう。大体分かったわ。生徒会は通信の機密という人権に基づきその手紙の内容には関与しません。ハンドボール馬鹿はあたしが抑えとくから安心なさい」

 

  こいつはテレパシストか。たった今俺が考えた言葉が口から飛び出したぞ。

 
 

■3

 

  今朝の爆発事件の犯人は、教室で俺が座る席から一つ後ろ、窓際最後の席に腰掛けて眉間にしわを寄せつつ腕を組むという美術家ロダンの代表作品を体現したポーズを取っていた。俺はといえばいつも真実を知っているのに笑って吹き飛ばす豪快な鶴屋校長のご要望に従い、他の教師と教育委員会向け改竄済み報告書をまとめてきた帰りである。そんな俺の苦労を知ってか知らずか、長門は発見もしくは捕捉するなり手招きをして近くへ呼び寄せた。今日はよく呼び出される日だ。
  俺が近づくと長門は机の上に綺麗に並べた数枚の黒く焼け焦げた紙くずを指差した。ああ、確か手紙らしき不審物だっけ。よく焼け残ったもんだな。称賛に値するぜ手紙。

 

「どうだ?読めそうか?」
「文章の大半が焼け焦げてしまったため完全に解読することは困難。しかし文脈から大体の文意を推測することは可能」
「ほう?」
「焼け残った紙片の文字が文法上自然な流れになるように並べてある」

 

  そう言われて俺は紙片に目を落とした。書かれている文字はどうも同年代の女子の字らしい。朝比奈さんが書くような感じだ。ちなみにこいつはプリンターが印刷したような見事としか言いようの無い明朝体しか書かないが。これは生身の人間の字だ。

 

「どれどれ・・・・・・」

 

『いつも遠くから見てい』
『のことを』
『考えただけで』
『とうとう今日』
『心に決め』
『放課後』『誰もいなくなった』
『一年五組に』『一人で来』
『待ってい』

 

  考えただけで、放課後、一人で来て、待っています・・・・・・そしてこの元手紙は下駄箱に入っていた。ラブレターだ恋文だきっとそうだ。短絡的な俺の思考回路は不審物でもなんでもない。一般的にして健全な男子高校生の常だ。
  ところが長門は日本海海戦前夜、戦艦三笠の艦橋に立ちバルチック艦隊の来航を予測している東郷平八郎や秋山真之のような複雑な表情で、

 

「これはかなりの高確率であなたを抹消しようとしている者か者達の犯行。おそらく本来の文は」
「『いつも遠くから見てい』るぞ。貴様『のことを』『考えただけで』はらわたが煮えくりかえる。『とうとう今日』貴様を殺すと『心に決め』た。戦え。
『放課後』『誰もいなくなった』『一年五組に』『一人で来』い。『待ってい』るぞ」

 

  今度は仕事を完璧に終えた狙撃手か? 微妙に唇の端が動いてるぞ。

 

「んなわけあるか」

 

  第一この字はどう見ても女子のそれだ。ちょうどさっきの生徒会専属メイド兼書記の朝比奈さんがお書きになられるような……。こりゃラブレターだ。

 

「ラブレターってなに?」

 

  うぉぉ、特大の墓穴掘っちまった! 落ち着け、落ち着け俺。長門とはいえ女子いや逆か、女子とはいえ長門にラブレターの概念を伝えるだけだ。それだけの作業だ。

 

「ええとだな、つまりは恋文だ。誰か俺のことを好きな女子がいて、想いを手紙に託したんだ。……お前が燃やしちまったこの手紙にな」
「……」

 

  そんな地球は平らだと信じて疑わない地球平面説一筋の人間がマゼランと一緒に航海を終えて真理を知った後を思わせる目で見ないでくれ。そんなに俺がラブレターを貰ったことを認めたくないのか。やすりで一往復削ったように少しは傷つくぞ。

 

「まあそれはともかくとし……長門?」
  俺と視線を合わせてくれ。頼むから。怒ったお前は怖いんだよ。初弾を含めて弾丸フル装填のシグサワーP230拳銃を抜きそうで。

 

「戦闘の基本は先手必勝」

 

  普段と変わらぬ無感情ボイスでそう言って長門は席を立ち去り教室を出て行った。まあそれはそれで全世界共通の認識だとは思うのだが。

 
 

  背後の戦争馬鹿こと長門有希は早退してしまったらしく、俺は束の間の安息を味わっていた。これなら授業中にうっかり眠ってしまっても後ろからP90なる変わった形のサブマシンガンで突付かれるという地獄の目覚ましを味わうこともあるまい。午前午後合わせて叩かれたのは家庭科の教科書の背表紙のみだ。素晴らしく平和だ。
  ただ、誰かから常に見られているような気がして安眠とまではいかなかった。女子からならノープロブレムだけどな。

 
 

■4

 

  日没直前の無人の教室というのもなかなかいい趣だ。なにかあらぬ疑いをかけられそうにないこともないのだが。ああ、俺はもちろんあの手紙の内容に従って今現在『放課後』『一人で』『一年五組の』教室に来ている。条件は全て満たした。
  誰が来るんだろうな。あの字からして長門という線は全く無い。あいつには筆跡偽造なんかお手の物そうだが、用件があるなら直接言うだろう。同様の理由プラス放送以外呼ばれたことがないということからハルヒでもない。それでは麗しの朝比奈さん? いやあのお方なら靴箱に仕込むなんて先の見えることはなさらないで茶碗の下に忍ばせるとか、俺宛の連絡用紙の裏に貼り付けるとか、もっとこうエレガントな方法を使うと思う。
  なら誰だ? 自慢でもなんでもないが俺には他の女子なんて思いつかないぞ。国木田の悪戯? いくら今朝も尻餅を着いてしまったとはいえ国木田も下駄箱に入れるなんて馬鹿な真似はしまい。となると谷口のほうが線が濃いか。今頃掃除用具入れか廊下にでも隠れて俺のことを笑っているかもしれん。
  まさかと思い俺は教室のドアを開けてみた。夕焼けの光量に慣れていたのか非常に暗く感じる。やっと目が慣れてきたのか、たとえかのノストラダムスでも予言していなかったであろう人物の姿が視神経を通って脳に到達した。

 

「お前か」

 

  朝倉涼子。五組の学級委員長。谷口いわくAAランクプラスの美少女。だが俺との接点は無し。互いに何か役職についてはいるとはいえ、自分で言うのもなんだが地方自治体の首長と中央のナンバー2には直接関係は無いぞ。

 

「なんの用だ?」

 

  教室に身体を戻しつつ問いかける。朝倉はもじもじとしながら俺についてきた。

 

「用があるのは確かなんだけどね……、ちょっと訊きたい事があるの。長門さんのことね、……どう思ってる?」
「賑やかな戦争馬鹿」

 

  包み隠さず言ったつもりだ。なんせあいつが入学して以来生徒会の予算は圧迫気味だからな。ハルヒがどこからか予算獲得をしてくれるので助かるが。ハルヒは一応現行の日本の法律上では合法な手段だと言っていた。ちなみに俺はそれ以上聞いていない。一応とか現行法ではとはどういうことだとか、アメリカでならどうだとか。巻き添えを食らうのは御免だからな。

 

「ふうん」

 

  朝倉は我が意を得たりとばかりに満面の笑みを披露してくれた。

 

「人間はさ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうがいい』って言うよね。これは、どう思う?」
「よく言うかどうかは知らんが、言葉通りの意味じゃないか?」

 

  俺が答えると、朝倉は数歩俺に近づいてきた。なにか不吉な予感がする。なんとなく窓際の自分の席を背にする。朝倉の全身像が順光になってよく見えるようになった。

 

「わたしはね、あなたのことが・・・・・・」

 

  俺はその後の言葉を聴き取れなかった。背後で本日二回目となる窓ガラスの割れる音が聞こえてきて俺の聴覚を塞いだからだ。野球部のホームランボールか? 俺は思わず窓側に目をやった。朝倉もだ。野球ボールではない、何か黒っぽいものが一つ、窓ガラスを突き破って教室に乱入してきた。重力に引っ張られて床に近づいていくそれは、しかし床に達する直前―――見えなくなった。
  見えなくなったと言っても消滅だとかそんなSF的なことじゃない。無茶苦茶な光を放出したらしい。らしい、つまりは断定が出来ない。双眼鏡でうっかり太陽を見てしまったような感じだ。ついでに体も動かない。そういえば長門から聞かされたことがあるな。軍や警察の特殊部隊では、突入する時囚われている人質の人命を確実に保護するため、殺傷能力の無い特別な手榴弾を放り込んでその場の人間の感覚を麻痺させるとかどうとか。スタングレネードやら言ってたか?
  そんなことを全力で目を瞑って考えていたら、先程よりも大きくガラスの割れる音が聞こえてきた。むしろ蹴られたという感じだ。窓から誰かが教室に入ってきたらしく、床を踏み鳴らす硬い音が聞こえてきた。ジャキリという金属音もついでに。
  恐る恐る目を開いてみる。目前にあったのは黒とも紺とも判断のつかない、特殊部隊が使っていそうな戦闘服。それを着込んでいるそいつの構えているのは、俺から一つ後ろの席に座っている奴が、俺がうっかり睡眠モードをオンにした際に俺の脇腹か背中に突きつけるP90。これを携帯しているような奴は俺の知り合いには一人しかいない。そんな俺の交友関係を狭いとか言わないでほしい。それは普通なことだと思うぜ。

 

「長門!?」
「一つ一つのプログラムが甘い。天井部分の空間封鎖も、情報封鎖も……」

 

待て! それは本家の話だ。テイク2行くぞ。

 

「長門!?」
「あなたを守ることがわたしの仕事」

 

  俺の日常生活の妨害しかしていない気がするが? 後照準を外してやれ。演技抜きで怯えてるぞ。

 

「了解した」

 

  それでも安全装置は解除したままか。わずかに苦笑した。長門が視線を朝倉に固定したままでしゃべり始める。

 

「解読終了時から屋根裏に潜伏し、監視と護衛を行っていた。手紙の送り主が不明な以上、受け取ったあなたに張り付くのが確実」

 

  まさか、朝に教室を出てから天井裏でひたすらヤモリのように? ずっと頭上から俺を見張ってたのか? 体育の着替えの時も? 嘘だろ?

 

「・・・・・・あなたの授業態度の悪さは目に余るものがある。教育は財産。大事にすべき」

 

  すまん。昨日から寝不足気味で。貸してくれた本が面白かったんだ。まさかお前が普通の小説を貸してくれるとは思わなかった。

 

「本、面白かった?」

 

  声色の変化は失敗だと思っていた実験結果からノーベル賞ものの大発見をした科学者のようだ。

 

「ああ」
「あの、キョン君、私の手紙はもしかして・・・・・・」

 

  朝倉の存在を忘れていた。というか朝の事件を知らなかったのか。いやまあその・・・・・・こいつがな。

 

「あの手紙なら今朝爆破した。不審物かと思った。出来れば今朝使用した分の爆薬の代金を払ってほしい。最近爆薬の使用量が著しく増加している。いまのわたしはいわゆる金欠状態」
「爆破!?請求!?」
「金欠になるまでするな」

 

  ピコハンで長門の頭を獲物を見つけたヘビクイワシばりに叩き続ける。一方の朝倉が世界の全てに失望したかのようにくず折れた。長門とは対照的な長髪が床に着く。ああもったいない。髪は女の命っていうぜ。

 

「連打は止めてほしい」

 

  珍しくピコハン攻撃に根をあげた長門が暗視装置越しに目を向ける。目線が合ったのかどうか良く分からん。お前からは分かるんだと思うが俺は一般人だぞ。

 

「お前って奴は……」

 

  ピコハンを収納しつつため息もつく。当の朝倉は大分復活したらしい。すでに立ち上がってハンカチで目元をぬぐっていた。泣かせちまったんなら謝るよ。すまない。

 

「いいわ。長門さんとお幸せに。じゃあね」

 

  朝倉涼子は次の瞬間には笑顔になっていた。気丈な奴だ。

 

「妙な人」
「お前がな。まあそろそろ暗視装置はずせ。怖いから」

 

  ごついバイザーをあげ、長門は少し潤んだ目で俺を見上げてきた。空気の通りが悪そうだから、蒸れていたのかも知れない。

 

「うぃ〜っす」

 

  いきなり教室のドアが開き、誰かが俺と長門の二人しかいない教室に入ってきた。危ないぞ! こいつは条件反射で動いてるようなもんだから!

 

「A・A・A・朝倉が〜」
「NA・NA・NA・長門さんと〜」
「O・O・O・お幸せに〜」

 

  繰り返さんでいいと思うが谷口よ。それより銃口を向けられていることを自覚しておいたほうがいい。こいつが威嚇射撃する前に。長門も俺の前に立つんじゃない。間違えられるだろ。

 

「どういう意味だ? 今朝のラブレターがらみか? なっ! ごゆっくり〜!」

 

  完璧に誤解された!

 

「どうすっかな……」

 

  俺は一日何回悩めばいいのだろう・・・・・・。

 

「任せて。誘拐は十八番」
「するな」

 

  そして何回こいつを叩けばいいんだ。

 
 

■5

 

  翌朝。谷口に携帯で一応昨日の放課後何があったを懇切丁寧に説明し結局通話料を無駄にした後俺はある文書をしたためて自分の靴箱に仕込んだ後、死角からあいつが到着するのを待っていた。お、来た来た。

 

「・・・・・・」

 

  長門有希はわずかに落胆した顔で、鞄のサイドポケットからごそごそと白い粘土のような、昨日もここで爆発したセムテックス爆薬を取り出して俺の靴箱の扉に接着した。更に何か針と糸らしき物体をセムテックスに差し込む。あれが噂の雷管というやつか。

 

「するなっつーの」

 

  後ろから声をかけてずんずんと近づき、大仰に靴箱を開けようとする。危険物が入っているはずがない。なんせ早朝から見張り続けたからな。

 

「危険。下がって」

 

  長門は長門で俺の制服の袖をかなりの力で引っ張っており、死にたいのかと問いかけるような目を向けていた。俺としてはもっとこう、微弱としか言いようの無いぐらいで俯き加減だといいんだが。まあ夢は夢だ。あきらめよう。

 

「ほれ。安全だったろ。読んでみろ」

 

  俺はちゃんと中に入っていた昨日ペンを走らせた手紙を、身を屈めて対衝撃姿勢を取っている長門のほうに放った。安心しろよ。怪しいもんじゃないぜ。じゃな。先に行く。やっと立ち上がったか。
  今頃長門が読んでいるであろうあの便箋には昨日俺が書いた、普段の感謝の辞が書いてあるはずだ。ちなみにリップサービスはほとんど含まれていない。

 

  長門、いつもありがとな。

 
 

―――状況終了

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:28 (3084d)