作品

概要

作者NEDO
作品名小さなヒーロー 最終話 「決別」
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-06-27 (金) 00:03:04

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

 平和とは程遠い悪夢の一夜が過ぎ、迎えた翌日。
 天変地異に巻き込まれるのに定評がある俺は、何事もなかったかのように支度をしていつもの通学路を歩いていた。どうやらあの空間内での肉体的影響は継続するらしく、パンパンに張ったふとももが心臓破りの上り坂に悲鳴を上げていた。
 この疲労が取れたら、今後に備えて体力作りでもしようかな。

 

 教室に着くと、ハルヒが自分の席に突っ伏していた。
 俺が自分の椅子を引くと、ハルヒはピクリと体を反応させたが、決して顔をあげようとはしなかった。昨日の今日だからな、まだ俺の顔なんて見たくないんだろう。

 

 今の俺は正直、ハルヒのことをあまり恨んでいない。
昨日の俺がこいつの中の破壊衝動の権化に死ぬほど追い回されて、長門が死ぬほど痛めつけられたにも関わらずだ。
 なぜなら、仲間を殺してしまうほど傷つけるなんてことを、こいつは本心では望んでいないはずだ。仲間が病気や怪我をしたら、過保護なくらい全力で看護する。ハルヒがそういう奴だと、俺はよく知っている。そんなハルヒが自分の無意識が知らず知らずのところで他人を傷つけている事を知ったら、どれ程いたたまれない気持ちになるだろう。
 難儀な力を持ってしまったハルヒに、俺は同情していた。

 

 疲労と考え事で授業はすっかり上の空で、気づくと昼休みになっていた。いつもはさっさと食堂に消えていくハルヒだが、今日は突っ伏したまま席を立とうとしない。まさか授業中もずっとそうしてたんじゃないだろうな。
 長門に会って昨日の礼などを言いたかったが、長門と一緒にいるところをまたハルヒに見られて閉鎖空間送りにされるのは御免なので、仕方なく谷口、国木田コンビと昼飯を食うことにした。
「今日のキョンはお疲れみたいだね」
 と国木田が言い出すと、
「どーせこいつのことだからアレだろう」
 谷口がうっかり口を割りそうだったので、足を踏んで警告した。色ボケ谷口のことだから『あの長門有希と濃厚な一晩を・・・』とか言って俺を冷やかすつもりだったんだろう。まあ、ある意味その通りだがな。

 

 午後の授業が始まっても、ハルヒは相変わらず机に顔を伏せたままだった。肘をついたままウトウトしてる俺が教師に注意されたのに、どう見ても熟睡中のハルヒが何も言われなかったのはどういうカラクリだろう。

 

 放課後、長門と昨日のことを話したかった俺は早めに部室へと向かった。SOS団開始の前に話してるのを見られるぐらいならギリギリセーフだろう。って、なんでこんなにハルヒの目を気にしなきゃならんのだ。まったく。

 

 部室のドアを開くと朝比奈さんが着替え中だった。俺は完全に油断してノックを忘れてしまったのだ。ごめんなさい朝比奈さん。どんな下着をお召しだったかなんて俺は見てませんよ!

 

 廊下で朝比奈さんの着替え待ちをしていると、古泉が現れた。昨日の閉鎖空間での古泉の人を小馬鹿にした捨て台詞を思い出して、時価0円の古泉スマイルがいつもの百倍憎らしく見えた。
「昨夜はお疲れ様でした。ご無事でなによりです」
 何がご無事だ、白々しい。昨日はよくも言ってくれたな。頭を冷やすどころか、危うく死ぬところだったんだぞ。長門の分も怒りをぶつけたかったが、こいつに言うと話が面倒になるので自粛した。
「あれはあなたへのあてつけではなくて、ヒントのつもりで言ったんですよ。そのヒントを解いたから、こうして閉鎖空間を打ち破る事ができたんでしょう?」
 お前の言ってる事がサッパリわからん。あの空間に脱出方法なんてあったのか?
「涼宮さんに対して謝罪の意思表示をする事、それがあの空間からの脱出方法だと僕は確信していたのですが、違いましたか?」
 ハルヒに謝るどころか心の中で恨み言を復唱してたぐらいだ。大体謝ろうにもハルヒと連絡する手段なんてなかっただろうが。
「あれ?おかしいですね。僕の感覚によるとあの空間は内部から消滅させられたように感じたんですが…何か別の方法があるとも思えないですし…」
 古泉は顎に手を当てて考える古泉のポーズをした。どうやら古泉は俺が閉鎖空間を消滅させたと思い込んでたらしい。俺は何のアテもなく無様に逃げ回ってただけだ。まったく、思い出したくもない。

 

 あの空間を消滅させたのは誰かと問われると、考えられるのはやはり長門だろう。
《神人》を一体ずつ消去する裏で、空間ごと全削除するようなプログラムを仕込むなり何なりしていたのだろう。あの時の長門にそこまでの余裕があったかは怪しいが、俺は当然何もしていないし、ハルヒがあのタイミングで都合よく機嫌を直したとも思えん。
 ま、俺も長門も無事だったわけだから、細かい事なんてどうでもいいか。

 

 まもなく、着替えを済ませた朝比奈さんがドアを開けて俺達を招き入れた。古泉の奴にはお茶を飲ませなくていいですよ。

 

「あの、キョン君。今回は協力できなくてごめんなさい」
 お盆で胸を押しつぶしながら、朝比奈さんは可憐に謝った。いえいえ、こうして勝利の美茶をご馳走してくれるだけで充分ですよ。
「それで、涼宮さんの様子は…」
「ええ、今のところ閉鎖空間を発生させる兆しはありませんが、精神状態は不安定なのでなんとも言えない状況です」
 朝比奈さんは俺に向かって話しかけてるのに割り込んで来るな、古泉。

 

 ハルヒ談義をしていると、部室のドアがゆっくり開いた。
 噂をすればなんとやら、ドアを開けたのはハルヒだった。ハルヒは俺達と目を合わせようともしないで団長席に座り、パソコンとにらめっこを始めた。

 

 今朝からずっと、ハルヒの様子は普通じゃない。いつ怪しげな空間を作り出して俺を閉じ込めても不思議じゃない。朝比奈さんもそう思ったのか、ハルヒにお茶を出したり肩を揉んだりし始めた。今、世界の行く末はあなたの双肩にかかってます。多分。
「みくるちゃん」
 ハルヒの本日第一声に、朝比奈さんも俺も思わずビクっとする。
「悪いけど、ほっといて」
 トーンダウン気味にハルヒは言った。攻撃的な口調じゃないだけまだマシなんだろうか。
 朝比奈さんは「はうう」と言いながらパイプ椅子に腰をかけた。めげないでください。あなたは充分頑張りました。

 

 部室内はハルヒの操作するマウスのクリック音だけが支配する気まずい世界になっていた。遅ればせながらやりそびれた朝の挨拶でもした方がいいだろうか、などと考えていると、ドアが開いて今度は長門が現れた。長門はどういうわけか決意を秘めたような深刻な表情をしていた。先程までの気まずい世界以上に、何か嫌な予感がした。

 

 長門は俺の方を見向きもせず窓側へと歩いていき、いつもの定位置に腰掛けるのかと思いきや、意外にもハルヒの前で立ち止まった。そして、ごそごそと鞄から封筒を取り出して、ハルヒに差し出した。
「え???なにこれ…」
 ハルヒは信じられないような顔で封筒と長門の顔を見比べた。俺含む全員の視線がハルヒと長門に釘付けになった。
「な、何て書いてあるんです?」
 朝比奈さんが恐る恐る尋ねた。
 ハルヒが無言でこちら側に向けた封筒には、整った文字でこう書かれていた。

 

『退団届』

 

 俺は自分の目を疑った。
 驚きすぎて言葉が出なかった。
 ハルヒも朝比奈さんも古泉も絶句していた。

 

 沈黙を破って、長門は事務的な口調で言った。

 

「私はもう、ここには来ない。今後あなたに干渉することはない」
 そして、小さく頭を下げて、
「さようなら、涼宮ハルヒ」
 長門はあっけなく部室から立ち去った。

 

 長門が、SOS団を辞める?
 何故?

 

 我に返った俺は部室から躍り出て、長門の両肩を掴んで制止した。
「いきなり何を言ってるんだ長門!どうしてお前が辞めなきゃならない!?」
 叫ぶような声でそう言って強引に前を向かせた。動揺しすぎて声も手も力加減が曖昧になっていた。長門は顔をそむけたまま、震える声で言った。
「私は、あなたの側にはいられない。私と側に居ると、あなたが傷つけられる。あなたが傷つくのは、私には耐えられない。だから…」

 

 俺が長門と一緒にいるところを見られた結果、俺の命が危険に晒された。

 

 でもそれは長門が悪いわけじゃない。
 ハルヒが悪いわけでもない。
 誰に責任を問えることではない。
 それでも…

 

 他に解決する方法がない。

 

 事実、今日、俺は長門と会わなかった。会うことが出来なかった。

 

 長門の肩が震えていた。いや、震えていたのは俺の手かもしれない。思わず緩めてしまった手から、長門はすり抜けていった。消え入りそうな声で「さようなら」と言い残して。

 

 俺は長門に拒絶されたことがショックで、走り去っていく長門を見送ることしか出来なかった。古泉の手が軽く俺の肩を叩いた。癪に障るその手を払う気力も無かった。

 

 長門、俺はもうお前と会えないのか?
 もうお前の力になってやる事も出来ないのか?

 

 呆然と立ち尽くしていると、突然背中に強烈な衝撃が加えられて前のめりに倒れた。古泉の奴も巻き添えで転んだ。
 涼宮ハルヒのドロップキックだった。

 

「何しやがる、この」
「あんたこそ、何ボケっと突っ立ってるのよ!」
 俺が文句を言おうとすると、いつもの威勢のいいハルヒの声に遮られた。
「本当にアンタって男は!そうやって何回女の子を泣かせれば気が済むわけ!?」
 いや、泣かせた記憶なんて一度もないんだが。
「追いかけなさい!団長命令よ!」
 い、いや、しかしだな…

 

「有希はあんたに追いかけてきて欲しいのよ!そんなことも分からないなんて、バカじゃないの?」

 

 俺はハルヒの言葉が信じられなかった。言わんとしてる意味はわかる。だが俺が長門と飯を食ってるのを見ただけで閉鎖空間送りにしたハルヒの言葉とはとても思えなかった。
「お前…」
 俺や朝比奈さんはもちろん、ハルヒ心理学スペシャリストの古泉まであっけに取られている。
「だって有希は、貴重な無口キャラなのよ!私達の大切な仲間なのよ!」
 ハルヒの言葉は、俺が閉鎖空間で叫んだ言葉とよく似たものだった。
「それにあたしは、有希のこと…」
 ハルヒは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 俺はようやく理解した。
 もしかするとハルヒは、自分の深層心理がやったことを、無意識のうちに理解しているのかもしれない。あるいは、あの島のどこかに隠れて俺達の事を見ていたか。昨日の閉鎖空間を消滅させたのは、ハルヒ本人なのかもしれない。自分の嫉妬が仲間を傷つけてしまったという、罪の意識に苛まれて…

 

「わかった、行ってくる」
「さっさと行け、バカキョン」

 

 俺は部室棟から出て、長門の姿を探しながら校門へと向かった。周囲に長門の姿は見当たらない。長門のあの俊足ならとっくに下り坂のふもとまで行っててもおかしくない。

 

 行き先はどこだ?長門が行きそうなところといえば、まず自宅だろう。もしかしたら途中で追いつけるかもしれない。走りながら携帯にもコールしてみるが、一向に出てくれない。頼むから早まった真似はしないでくれよ、長門。

 

 長門の自宅から最寄の光陽園駅に差し掛かった時、見慣れた公園が目に入った。長門との初めて待ち合わせに使った場所だ。
 駄目もとのつもりで覗いてみると、見慣れたベンチに長門の姿があった。

 

「長門!」
 大声で呼びかけても、長門は座ったまま顔を向けようとしない。俺は長門を刺激しないよう、なるべく柔らかい物腰で歩み寄った。
「ここに居てくれてよかったよ。お陰で町中を探し回らずに済ん…」
 ベンチの側まで近寄った時、俺は異変に気づいて足を止めた。

 

 長門の表情はいつもと変わらない無表情だ。しかし…
 長門の頬には、ひとすじの涙が流れていた。

 

 俺は動揺した。
 涙は女の武器という言葉通り、長門の涙にも男心をくすぐるような魅力があった。だがそれ以上に、感情を露わにしないはずの長門が涙を流してるという事実に驚いたのだ。
 足を動かす事も言葉をかける事も忘れて眺めていると、長門は身をピクンと震わせてこちらを向いた。どうやら俺がここにいる事に今まで気づいてなかったようだ。

 

「何故来たの?あなたはここに来てはいけない」
 視線を元に戻して事務的に言う長門の拒絶オーラに、俺は物怖じせずに言った。
「いいんだよ。俺がここに居るのは団長命令だ。この意味がわかるか」
 長門はようやく顔を上げてくれた。やはり長門も信じられないという顔をしていた。俺は長門を安心させるように、柔らかい口調で続けた。
「つまりお前がSOS団を辞める必要はなくなったんだ。もうどこにも行かなくていいんだ、長門」
 長門の瞳から大粒の涙がひとつ零れ落ちた。
 このまま長門の涙を見続けていたら俺の男心がヤバいことになりそうだったので、目線を少し逸らしてハンカチを差し出した。すると長門はしばらくハンカチを眺めてから、ぺたぺたと自分の頬を触って確認し始めた。自分が泣いていた事にも気づいていなかったようだ。

 

「…泣くのは初めてか?」
 俺が娘の成長を見守る父親のような口調で尋ねると、長門はハンカチも使わず手で涙を拭いながら、こくりと頷いた。泣いていた長門には悪いが、その涙は長門が少しずつ人間らしくなっている証であり、長門がそうなっていっている事が俺には嬉しかった。
「初めて泣いてみて、どんな気持ちになった?」
「…上手く言語化できない」
 こういう時に堅い文語表現が出るあたり、多少の人間らしさを見せても長門は長門なんだと思い、少しだけ可笑しくなった。
「あなたはどんな気持ちだった?」
「俺?」
「あなたは昨日、私の目の前で泣いていた。その時の気持ち」
 いかん、忘れてた。昨日俺は泣いてるところを長門に思いっきり見られたんだった。流れだったとはいえ俺が女に涙を見せてしまうとは、不覚だ。
「う…上手く言語化できない」
 オウム返しでその場を凌ごうとする俺に長門のジト目が突き刺さる。頼むからそんな目で見ないでくれ。

 

「あ、そういえば…」
 懸命に話題を逸らす俺だった。
「長門、昨日はありがとな。あんなへんぴな所までわざわざ助けてに来てくれて」
「私はあなたを守りきれなかった。お礼を言われる資格はない。」
 礼を言われるのに資格か、長門らしいが難しく考えすぎだ。もっと楽に生きないと疲れちまうぞ。
「そんなことはない。もう充分すぎるほど助けられた」
「あなたの足も引っ張ってしまった」
「たまには俺にも助けさせろ。俺にも男のプライドってもんがある」
「そう…」
 それでいい。好意は素直に受け取るのが人情ってもんだ。
「なら私も、あなたに…」
 長門は目線だけをそらして、頬を染めてこそいないが照れくさそうな仕草で言った。
「ありがとう」
 言われた俺も照れくさかった。今のこの雰囲気はなんか色々アレだな。うん。

 

 ふと、長門はベンチから腰を上げて、
「あなたに伝えなければいけないことがある」
 ややかしこまった感じで言い出した。俺はつい襟を正して、何を?と尋ねた。

 

「誰かを好きになるという感情…」
 おま、それをこの空気で言うか…
 俺の動揺を他所に、長門は静かに語り出した。
「以前の私には分からなかった。でも、今の私にはわかる。
 大切な人を失いかけて、初めて気づいた。
 もっと側にいたいと願うこと。
 何に代えても守りたいと思うこと。
 いつも心の中から離れなくて、それでも想いを止められないこと」
 長門の切なそうな細い声が、俺の心臓を高鳴らせた。
「今までの私の中にもあった感情…それらすべてが、きっと、人を好きになるということ…」
 俺が硬直して何も言えなかったせいか、長門は『かもしれない』と自信なさそうに付け加えた。

 

 まったく、何をやっているんだ俺は。女に身を護られて、女にエスコートされながら前を走られて、挙句は告白みたいなことを先に言われる体たらく。まったくもって情けない。男ならビシっと決めろ。

 

 俺は小さな肩に手を置いて、長門と向き合った。
「長門、俺もお前に言う事がある」
 澄んだ瞳が、まっすぐ俺を見つめている。
「以前の俺にはよくわからなかった。だが、今ならハッキリと言える」

 

――ハルヒはここまでしろとは言わなかったが、まあいいだろう。

 

 頭の中をよぎった想いをなあなあに丸め込んで、ついでにもう一言『ごめん』と付け加えた。そして、勇気を振り絞るように深呼吸を一つして、きっぱりと言い切った。

 

「長門、お前のことが好きだ」

 

 長門は驚きの表情と共に頬を薄く紅潮させて、それから喜びがつい表情に出てしまったかのように少しだけ口元を緩ませた。見ているこっちまで嬉しくなるような愛らしい笑顔だった。あの時のもう一人の長門の笑顔とも違う本当の長門の笑顔、俺がいつか見たいと願っていた人間らしさに満ちた笑顔だった。
 そして俺は、あの長門と本当の長門、両者の違いを明確かつ簡潔に伝えた。

 

「やっぱりお前は眼鏡が無い方が可愛いぞ」

 

 長門の返事を待たずに肩を引き寄せて、唇を重ねた。
 長門は体を一瞬強張らせたが、俺を受け入れてくれるかのように少しずつ力を緩めていった。
 瞳を閉じて感じる長門の感触は頼りないほどに小さくて、柔らかった。これからもこの小さな少女の力になってやりたい。そんな庇護意識に駆り立てられて、彼女を強く抱きしめた。

 
 

 これから俺達はどうなっていくのだろう。
 ハルヒの目を盗みながら騙し騙し付き合っていくのだろうか。
 今回ほどの惨事とはいかないまでも、また厄介事に巻き込まれるかもしれない。
 まあ、それもいいだろう。
 この先何があろうとも、俺の中で芽生えた確かな気持ちは揺らぐ事はないはずだから。
 それより今は、もうしばらくこのままでいさせてくれ。

 
 

 そんな事を思いながら油断していると、長門は俺の腰に腕をまわしてきた。
 やるな、長門。

 
 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
長門有希の思考記録(抜粋)

 

 彼の腕の中は、包まれそうなくらいに大きくて、優しかった。
 このままずっと甘えてもいいように思ってしまうほど。
 でも彼は、この五感から感じられる生身の力しか持たない。
 この非日常が支配する世界ではあまりに脆く、頼りない。

 

 だから、これからもこの儚い存在を守っていきたい。
 私の中に芽生えた確かな気持ちと共に。

 

 心の中でそう誓って、彼を抱きしめた。

 
 

  −終−

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:23 (1950d)