作品

概要

作者NEDO
作品名小さなヒーロー 第五話 「警鐘」
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-06-25 (水) 01:37:39

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

 世界が崩壊するような天変地異もなく家でダラダラするという充実した日曜日を経て、迎えた月曜日。

 

 晴れやかな気分で登校していたのもつかの間、谷口に捕まって台無しになった。ゲーセンで出くわした後の事を根掘り葉掘り聞いてくる谷口に、何も無いの一点張りで通すと、「だらしねえなぁ」と駄目だしされた。お前は俺がどうすれば満足なんだ。

 

 この場で特筆することは何もなく四時限目まで終了。

 

 弁当箱を持って教室を出ようとした俺は先日の長門とのやりとりを思い出した。女相手に愛がなんたるかを語るなんて俺らしくない事をしたものだ。そんなのは年中発情期の谷口か宣教師がする事だろう。今考えると照れくさくてちょっと顔を合わせ辛いな。
 などと思いつつも、俺を待って昼食を食べずにいたら困るので部室に行く事にした。
 たまたま目が合った谷口が意味深な笑みを浮かべた。いまいましい。

 

 部室に行くと、やはりいつもの窓辺の席に長門がいた。
 俺と目が合うと長門は小さく首を傾けた。
「昨日は、ありがとう」
 改めて礼を言われるとやはり照れくさい。礼を言われるほど的確な答えを言えたわけでもない。あの雰囲気をひきずったまま昼飯を食うとさすがに消化に悪そうなので、
「まあアレだ、気にするな」
 と言って適当に誤魔化した。

 

 弁当を持って長テーブルに座ると、長門も手元の巾着袋から待ってたといわんばかりに弁当箱を取り出した。

 

 お手製の弁当だった。

 

 俺は嬉しかった。
 何が嬉しいのかというと、長門が少しずつ人間らしくなっていくのが嬉しいのだ。長門が自分の弁当のおかずを箸でつまんで俺の口元にアーンとか、別にそういうのを期待してるわけじゃないからな。

 

 水色を基調とした質素なデザインの弁当箱を開きながら長門は言った。
「この昼食を製作するために睡眠時間を三時間前倒しした」
 つまり弁当を作るために早寝早起きしたということか。
「頑張った」
 なんとも健気な言葉だ。頭をなでてやりたくなる。

 

 長門弁当の中身は以外にも普通な甘鮭を主体とした弁当だった。
「平均的な高校生のお弁当のメニューを再現」
 と、長門はコンビニ弁当の新メニュー開発スタッフのような事を言った。どう平均すると鮭弁という結論になるのか突っ込みたかったが我慢した。

 

 俺がマイ弁当箱にあるから揚げとおひたしのどっちを先に食べるか迷っていると、長門が、
「食べて」
 と長門弁当を俺の手元に差し出してきた。

 

 自分で作った弁当なんだから自分で食べるといい、と言うとすかさず反論。
「自炊しろと命令したのはあなた。よってあなたには味見をする義務がある」
 命令じゃなくて軽いアドバイスのつもりだったんだが…言いだしっぺの俺が責任を取れという意味では理にかなっているな。

 

 俺は有機生命体が口にすることのできる味であることを祈りつつ、手近にあった肉じゃがを口に放り込んだ。
「おいしい?」
 長門はわずかに首をかしげて俺の顔を覗き込みながら尋ねてきた。仕草が可愛らしかったので俺は思わず「ああ、美味いな」と肯定した。味の方はというと、正直俺の好みよりやや薄味だったのだが、眠い目をこすりながら料理する長門を気遣い黙っておいた。

 

 その後、他のおかずも勧められるがままに試食したが、早起きして頑張った長門を目の前にして不味いと言えるほど味つけの崩壊した品はなく、長門が食べる分が減ったかわりに俺の弁当を長門に分けてやるといった感じで昼食はすすんだ。

 

 そんな和気藹々とした昼食会は、ドアノブが回る音によって打ち消された。
 部室のドアを全開にして硬直する人物、それは涼宮ハルヒだった。

 

 長テーブルに向かい合って座っている俺と長門。さらに長門のおかずに箸を伸ばしている俺。見ようによってはこのまま長門の口にアーンと運んでやろうとしているように見えなくもない。

 

 ハルヒは、ドアを開けっ放しにしたまま廊下へと引き返した。まずい、と直感した俺はあわてて廊下に出て、早足で遠ざかるハルヒを呼び止めた。
「おい、どこ行くんだハルヒ!」
 俺の間抜けな調子の叫び声にハルヒは前進を止めようとしなかった。
「おいハルヒ!」
 ようやくハルヒは振り返り、
「なによ!」
 と廊下中に響き渡る怒鳴り声を上げた。
「用があって来たんじゃないのか」
 焦りつつも精一杯言葉を選びながら言うと、
「べ、別に用なんて!あ、あ、あんた達が」
 ハルヒはしどろもどろだ。発声に思考が追いついてないらしい。
「私の事なんてどうだっていいでしょ!勝手に弁当でもパンでも食べてなさいよ!」
 胸に刺さるような刺々しい口調で言い直し、ハルヒは背を向けた。
「ま、待てハルヒ、あのな・・・」
 俺の中の弁解モードを起動しながら、ハルヒに近づこうとすると
「ついて来ないで!あんたなんかどっか行っちゃえばいいんだわ!」
 そう吐き捨てて、ハルヒは走り去っていった。

 

 もう駄目かもしれない。
 俺は追いかける事も出来ず棒立ちになりながら、遠ざかっていくハルヒの足音を聞いていた。

 

 しばらくして部室に戻ると、長門にまとわり付くような目で注視された。長門が言わんとすることは分かっていた。
「どうしたらいい?」
 情けない俺の問いかけに、長門は何も答えてくれなかった。

 

 食べ残しの弁当を片付けて教室へ戻ると、俺の後ろの席にいるはずのハルヒの姿はなかった。ハルヒの鞄もなかった。近くに座っている女子に尋ねてみると、『帰る』と一言言い残して鞄を持って出て行ったらしい。相当怒っていたみたい、というのはその子の感想だ。そりゃあそうだろう。

 

 五時限目、六時限目、帰りのHR、と時間は過ぎたが、当然ながらハルヒが現れることはなかった。

 

 放課後、部室に直行してみたがやはりハルヒはいない。古泉と朝比奈さんの姿もなく、いるのは窓辺で読書する長門だけだった。去年の6月ごろ、最初の世界崩壊の危機を迎える前の俺ならこの状況に対して何も思わなかったろう。朝比奈さんまだかなぁ、程度の感想しか抱かない。しかしSOS団員として数多くの経験を積んだ今の俺は、心の中でエマージェンシーモードの警鐘を鳴らし続けていた。
 どういうわけかハルヒは俺が他の女子と仲良くするのが気に入らないようだ。俺が長門や朝比奈さんが他の男と仲良くしてるとイラつくのと同じ原理だろう。

 

 こういう時に参考になるのは古泉の意見だが、この場にはいない。今頃ダース単位の《神人》と戦ってる最中かもしれない。朝比奈さんには頼れない。そもそもあのか弱い天使を巻き込みたくはない。長門はというと、先ほどどうすべきかという質問に無回答だ。現段階ではどうにもできないのだろう。

 

 いや待て、そもそも人に頼ろうとするな、俺。情けないぞ。そうやって頼ってきた結果、長門がおかしくなったんじゃないか。
 わかってる。本当は頼りたくない。俺が発端の事で他の奴に迷惑をかけたくはない。だが、俺は見ての通りの普通の高校生だ。超能力も情報操作能力もタイムトラベル能力もない。これから世界が崩壊するかもしれないけど、まだ何も起こっていない。
 そんな状態で俺に何が出来る?

 

 などと思い悩むこと小一時間、突如俺の携帯の着信音が鳴り出した。朝比奈さんだ。出る。
「キョ、キョンく〜ん」
 朝比奈さんのうろたえた声だ。
 どうしました?今どこですか?
「その、涼宮さんがすごく怒ってるって聞いたから慰めようかと思って…あ、場所は涼宮さんの自宅の前です〜」
 それで、どうなりました?
「インターホンから何度も呼びかけたんですが全然聞いてくれなくて〜」
 やっぱり。あの愛らしい朝比奈さんがわざわざ訪問カウンセリングしてくれているという大変ありがたいシチュエーションでも直るような機嫌じゃないということか。
 はて、朝比奈さんがそうしているのは未来からの指示だろうか?
「わ、私の独断です〜。未来からはまだ何も言われてません」
 どういうことだ?この件は未来から見て取るに足らない出来事なのか?それともこの件に関して未来からの干渉は過去になかったから、歴史どおりに何もしないのか?自分で考えてわけわからくなってきた。
「一昨日の不思議探索で、私が涼宮さんに頼まれたことをちゃんと教えなかったから怒っているんでしょうか」
 ああ、そんなこともあったな。でも安心してください。朝比奈さんには一切責任はありません。
「私、この後どうしたらいいんでしょう」
 泣きそうな声になっている。俺が発端なだけに誠に申し訳ない気分だ。
 しかし、今更ハルヒをつっつくような真似をしてもどうしようもない。跳ねっ返り娘のハルヒのことだ、かえって悪くなるかもしれない。朝比奈さんには悪いが、もう何もしない方がいい。ということをなるべく朝比奈さんの心を傷つけないようにオブラートに包んで伝え、通話は終了した。

 

 頭を垂れて溜息をついていると、帰り支度をした長門が俺の前にやってきた。
 そして長門は静かに言った。
「私にはこれから起こる出来事を予知することは出来ない。でも…」
 明確な意思か込められた瞳で、
「何があろうと、あなたは私が守る」

 
 

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長門有希の思考記録(抜粋)

 

 私が側にいるといずれ彼を傷つけることになる。
 分かっていた事だ。
 分かっていた事なのに。

 
 

  −第六話に続く−

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:22 (1888d)