作品

概要

作者NEDO
作品名小さなヒーロー 第三話 「告白」
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-06-24 (火) 01:25:18

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 

 土曜日、久しぶりのSOS団不思議探索ツアーの日だ。

 

 罰金刑が嫌な俺は集合10分前にいつもの場所に到着すると、珍しく古泉の姿がなかった。しかし久々に罰金をまぬがれたと思ったのも束の間、
「古泉君は今日もバイトで来られないって電話があったわ。というわけでキョン、今日もあんたのオゴリね」
 したり顔のハルヒに罰金刑を宣告され、俺は逃れられない運命を嘆いた。

 

 それにしても、古泉のことが少々気がかりだ。
 間隔をおいて一日だけならさほど珍しくもないのだが、連日バイトというケースはここのところあまりない。また厄介ごとが発生してなければいいが。

 

 恒例の喫茶店での班分けのくじ引きは、幸運なことに朝比奈さんとペアになった。もっとも、不幸と呼べる組み合わせは古泉と俺という色気のない野郎二人ペアぐらいであり、今は古泉がいないから不幸になる可能性はゼロなのだが。
 赤のつまようじを持っているハルヒが不敵な笑みを浮かべてる。何の笑いだ。

 

 俺と朝比奈さんはいつぞやも通った小川沿いにある並木道を肩を並べて歩いていた。退屈させないように俺の方から日常的な話題を振ってはいるが、どうも生返事ばかりだ。今日の朝比奈さんは妙にそわそわしている。

 

 また未来から厄介ごとでも、などと考えていると、
「あの、キョン君……」
 朝比奈さんは立ち止まり、顔を伏せてもじもじとしながら言った。
「へ、変な事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
 いいですとも。相手が朝比奈さんならどんな事でも瞬時にお答えしましょう。
「キョン君って、今…」
 はい、何でしょう。
「好きな人はいますか?」
 前言撤回。

 

 俺は固まった。

 

 これは一体どういうことだろう。
 まさか俺のことを異性として気にかけていて俺の返答しだいでは朝比奈さんルートに突入して、数々のデートイベント等をこなした後、伝説の樹の下で告白して二人は晴れてカップルに、ということなのか?

 

『僕が好きなのは朝比奈さん、あなたです』
 などと言えればいいのだが、SOS団きってのヘタレである俺はそんなこと言えるはずもなく、口も手足も硬直させてフリーズ状態になっていた。
「できれば…正直に聞かせてください」
 朝比奈さんは恥ずかしそうに口に手をあてて視線を逸らした。いよいよ曖昧な返事ではぐらかせる空気ではなくなってきた。

 

 正直なところ、どうなのだろう。

 

 言うまでもなく、俺は朝比奈さんが好きだ。
 例えば今ここで朝比奈さんに俺への愛を告白されて抱きつかれたとしたら俺は欲望が理性を超えてしまう自信がある。そういう展開はまずないが。
 朝比奈さんも俺に対して友好的に接してくれている。しかしそれは、友人としての範囲内だ。
 ハルヒを気にしてなのか、過去の人間との恋愛が禁則事項だからなのか、朝比奈さんは俺と極度に親密になる事を避けているふしがある。未来から来た朝比奈さんは言っていた、『私とあまり仲良くしないで』と。俺が朝比奈さんと恋人同士になる未来はこの先存在しないんじゃないか?そんな予感がして、俺の彼女への気持ちはいつも妄想止まりになる。

 

 俺にとっての朝比奈さんは、高嶺の花のような存在なのかもしれない。ここで好きなのは朝比奈さんですと答えられるかというと、残念ながらNOという結論になってしまう。

 

 朝比奈さんではないとしたら、俺は誰が好きなのだろう。

 

 もう一人のSOS団、長門はどうだろう。
 最近の俺は長門の事を気にかける事が多い。だがそれは好き嫌いという次元の話じゃない。長門の事を前より少し理解してやれるようになった結果だ。
 以前の俺は何か困った事がある度に長門を頼っていた。知らず知らず長門に厄介事を押し付けていた。長門の気持ちを考えもしないで。
 その結果、あの事件が起こった。
 長門は万能なロボットなんかじゃない。悩んだり、迷ったり、苦しんでいたらちゃんと気遣ってやらなきゃいけないんだ。命を救ってもらった恩もあるし、俺の出来る限りのことはしてやりたい。
 でもそれは、異性に対する好意とはまた違う。

 

 残ったハルヒはというと――

 

 ふと、俺はくじ引きの時のハルヒの不敵な笑いを思い出した。
 いや待て、これは孔明もといハルヒの罠かもしれない。

 

 俺が迂闊な返答をした瞬間にハルヒがプラカードを持ってそこの茂みあたりから飛び出してきてドッキリ宣言をするかもしれない。そしてデジカメに録画された俺の狂態をネタに三年間奴隷の刑を宣告されるかもしれない。現状でも半分奴隷のようなものなのはさておいて。

 

「まさかハルヒが隠れてるなんてことは…」
 周囲を確認しながらの俺の独り言を聞いて朝比奈さんは、シャンプーを片手に持った俺を察知したシャミセンのようにビクッと身を震わせた。
「い、いえ、隠れてはいませんけど」
 ははあ、なるほど。『いないけど』に続く言葉が『ハルヒに命令された』なのは容易に想像できる。
「ごごご、ごめんなさいキョン君。私、涼宮さんの言う事は断れなくて」
 手をバタバタとさせて申し訳なさをアピールする朝比奈さん。いいんですよ。あなたが被害者なのはいつものことなのでちっとも怒ってません。
「本当にごめんなさい。涼宮さんには私が責任をもって『聞けなかった』って言っておきます」
 この上手に嘘もつけない純真な心の持ち主が、情け無用の女ことハルヒに任務失敗の軍法会議にかけられるのは心苦しいことだが、今回ばかりは俺が出て行って仲裁できるような類のことじゃない。せめて被害が軽く済むように祈ろう。

 

 朝比奈さんとはその後何も話すことはなく、昼食のためにハルヒ長門ペアと合流した。ハンバーガーをオレンジジュースで流し込むハルヒは、時折俺と朝比奈さんの顔を探りを入れるように覗き込んできた。
 残念だがお前の企みは既に俺に漏れている。

 

 午後のクジ引きを始めようとしている時に古泉が現れ、スト2のチュンリーのゴメンネスマイルの男バージョンをしながらこう言った。
「バイトが思いのほか早く片付きましてね、遅ればせながらSOS団員としての責務を果たしに馳せ参じました」
「うんうん、忙しい時もSOS団の活動を忘れないなんて流石副団長ね。あんた達も見習いなさいよ!」
 古泉の露骨な点数稼ぎにまんまと乗せられ、得意げなハルヒ。
 まったくいいコンビだ。お前ら付き合っちまえよ。だいたいなあ古泉、こんな趣旨を見失ったわけわからん集会なんてサボっていいんだぞ。お前がいると男二人ペアというハズレを引く確率がゼロじゃなくなるんだよ。

 

 予感通り、午後のくじ引きで俺は古泉と俺の男二人ペアになった。だから言わんこっちゃない。
「面白い組み合わせですね。よろしくお願いします」
 古泉の爽やかスマイルが俺の最悪感をいっそう引き立たせた。

 

「あなたに付き合って頂きたい場所があるんですよ。むしろ突き合う、と言った方が早いかもしれません。一度あなたとやってみたかったんですが機会がなくて…」
 などと古泉は貞操の危機感をおぼえるような台詞をのたまった。

 

 俺は躊躇いながらもどうせ行く所がないので古泉にホイホイついていき、連れてこられた場所は普通のビリヤード場だった。
 そういう冗談は本気でやめてもらいたい。

 

「ルールはご存知ですか?」
 知らん。
 初心者でもわかりやすいという古泉の勧めで、ナインボールというゲームをやることになった。

 

 キューを構える古泉はなかなか様になっていたが、実力の方は初心者の俺相手に1勝1敗という駄目っぷりだ。

 

 俺はキューと呼ばれる棒で白い玉を素人丸出しの構えでつつきながら、例の巨人狩りのバイトについて古泉に尋ねてみた。
「あなたが僕のことを気遣ってくれるとは珍しい」
 お前のことはともかく、世界の行く末は気になるからな。
「心配には及びません。昨日今日のはわりと楽な仕事でしたし、涼宮さんのご機嫌ナナメは午前中のうちに解消しましたからね」
 上機嫌なニコニコ顔で喋りながら、最後に残った9番に狙いをつける古泉。
「ただし、今のところは、ですが」
 古泉の白玉がサイドポケットに落ちた。

 

 ゲーム代を古泉に支払わせて、俺達は寄り道せず集合地点に向かった。ほどなく、右手に朝比奈さん、左手に長門という両手に花状態で満足そうに腕組みしているハルヒ達と合流した。
 なるほど、古泉の言うとおりご機嫌なハルヒだ。ご機嫌ついでにその場所を変わってもらいたいものだ。
「だーめ、この場所は団長の特権なの」
 いつからSOS団はお前のハーレムになったのか。まったく、朝比奈さんも長門も嫌そうにしてるじゃないか。
「私は別に、気にしてませんから」
 どこまでもお人よしな朝比奈さんだ。嫌なら嫌ってビシっと言わないとそのうちハルヒが舞踏会に行ってる間に部屋の掃除を押し付けられますよ。
 長門も何か言ってやれよ。
「……」
 長門は何も言わず、うつむいていた。

 

 今日はここまで、というハルヒの号令で俺達は解散した。

 

 駐輪場に向かいながら、俺は今日のことを振り返っていた。
 朝比奈さんから好きな人を聞かれた時は驚いたが、それがハルヒの仕業だとすぐ気づいてよかった。気づかずに変な事をハルヒに報告されたら今頃どうなってたことか。
 …ん?そういえばハルヒは俺がたくらみを見抜いた割にはご機嫌だったな。他に何か面白い事でもあったんだろうか。古泉の話では、ハルヒの機嫌が直ったのは今日の午前中らしい。長門と何か面白い事でもしたのだろうか。ハルヒが面白い事をした場合、大抵他人が振り回される決まりだ。
 別れ際の長門のそぶりが少し引っかかるな。

 

 立ち並ぶ自転車の中からマイ自転車を発見した後、俺は長門に電話をかけた。

 
 

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長門有希の思考記録(抜粋)

 

 涼宮ハルヒはいつも正しい。
 私の性質は彼女によって決定されたと錯覚してしまうほど。
 とめどなく押し寄せてくる不安感。
 思索すればするほど積み重なる不安感。

 

 助けて欲しいと、私は願った。

 
 

  −第四話に続く−

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:22 (1834d)