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作者 | NEDO |
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作品名 | 小さなヒーロー 第一話 「微笑」 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2008-06-24 (火) 00:54:38 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
それは、休み明け独特の空気も冷めやらぬ三学期初頭の話だ。
この冬休みは中学時代の旧友がアメフトの試合中に大怪我をしたり、雪山で遭難しかかったりと色々厄介ごとがあったが、俺はこうして五体満足で新学期を迎えることが出来た。俺は優雅に頬杖なんかをつきながら授業を聞き、束の間の平和な学生生活を満喫していた。
四時限目終了の合図とともに、ハルヒはいつものように学食へと飛んでいき、俺も負けじと弁当箱を鞄から取り出して教室から抜け出した。俺が目指すのは文芸部部室、兼SOS団室、お目当ては三度の飯より本が好きな文学少女・長門有希だ。といっても、長門と親密度を深めてどうこうなりたいとかそういう谷口みたいな邪まな目的じゃない。
年末に世界が転覆しかかって以来、窓辺で本を読むいつも通りの長門を見ていない。冬休み中に何度も長門とは顔を合わせているが、それとはまた話が別だ。長門がいつも通り本を読んでいれば世界は安泰だが、そうじゃない場合は往々にして何か悪い事が起こる。そう認識してる俺は、普段どおりの長門を久々に拝見して世界の安泰ぷりを確認したかったのだ。
部室のドアを開けると、はたして平和の象徴はそこにいた。
「よう、久しぶり。冬休みはどうだった?」
「普通」
「何か変わりはなかったか」
「問題ない」
変わりない長門との簡素な挨拶を交わし、俺は安心して弁当を広げた。
俺が気にしているのは、例の涼宮ハルヒ消失事件だ。
あれがあって以来、長門の様子が気になるのだ。下心あってのことじゃなくて世界平和のため、SOS団がハルヒのご機嫌取りに必死なのと一緒だと考えて欲しい。特に長門の場合、朝比奈さんや古泉とは組織間の関係もあって普段から仲良しとはいかず、ハルヒに至っては長門のストレスの元凶だ。つまり俺が長門のことを気にかけてやらなきゃいけないのだ。
世界のために。
から揚げを口に運びながら、ちらりと長門に目をやる。長門は相変わらず本に視線を釘付けにしている。俺がこうして熱い視線を送り続けても、『この長門』は平静さを崩さない。ふと、俺の視線に顔を紅潮させていたあの初々しい長門が思い浮かんだ。あれが本当の長門で無い事はわかっているが、あれはあれで可愛いものだった。いや、こっちの本当の長門も顔のつくりは同じだから、照れたり笑ったりするときっと可愛いのだろう。
俺は長門が変わらないでいてほしいと前述したが、同時に変わって欲しいという願望も持っている。人間らしい方向への変化。負の方向でなく正の方向への変化だ。それは俺の願望だけでなく恐らく長門の願望でもある。
小説の笑えるシーンとかを見て、クスリと笑ったりしないかな。
なーんてね、するわけねえか。
などと長門鑑賞しながら思っていると、長門は左手で口元を押さえ、小さく首を傾けて『クス』と声をあげた。
俺は驚愕のあまり箸を床に落とした。
「おい長門、お前今笑ったのか!?」
俺は興奮して思わず長門の両肩を掴みながら問いただした。
「小説に思わず笑っちゃうユニークな描写があったのか!?それとも思い出し笑いか!?」
俺の興奮を冷ますように、長門は淡々と言った。
「今のは、くしゃみ」
くしゃみ?
「そう、くしゃみ。鼻孔から無視できないレベルの埃が侵入したので、最小限の動作で排出した」
なあんだ。随分と可愛らしいくしゃみで。長門もくしゃみをするんだな。
「たまに」
俺はお年玉懸賞の一等賞を一桁違いで逃した残念さを感じながら、床に落としてしまった箸を拾った。
特筆するような事でもないが、その日は長門とそんなやりとりを交わした。
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長門有希の思考記録(抜粋)
私のくしゃみを見た彼は何故か極度の興奮状態に陥った。
彼はたまに私の理解を超えた言動をする。
今日読んだ本よりもユニーク。
−第二話に続く−