作品

概要

作者長門さん@お腹いっぱい。
作品名生まれ変わり
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-06-21 (土) 14:27:29

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「キョン、あんた生まれ変わりってあると思う?」
ここは文芸部室。
団長机でネットサーフィンをしていたハルヒがいきなり立ち上がり、
クイーンで古泉のキングを追い詰めていた俺にそう問いかけてきた。
古泉にも前そんなこと言われたような記憶がある。
「さあ?俺は無いと思うが…」
俺がそう答えるとハルヒは顔に満面の笑みを浮かべた。
「そうよね、あたしもそう思ってるわ!
人生は一度しかない、だから私は毎日たっぷり楽しみたいのよ!」
なるほど、道理でいろんなイベントをするわけだ。
「それでね、キョン。その一度きりの人生に悔いを残したらもったいないじゃない?
ああしとけばよかったって思ってももう遅いのよ!
ハルヒにしちゃあ珍しくまともな事を言うな。俺もそれには同感だ。
「あでも、みくるちゃん、有希、古泉君、あなたたちは心配しなくてもいいわ。
あたしが後悔するようなことを未然に防いであげるから!」
俺は入ってないのかよ。古泉と俺を入れ替えて欲しいね。
「つまり後悔するしないっていうのはとても重要なことなの。
だからキョン?あたしと付き合いなさい!」
ふんふん……俺がハルヒと付き合っtt!?何言ってんだお前!
正気かハルヒ!?
「失礼ね!あたしはいつも正気よ」
「じゃあお前今何つった!?」
「あたしと付き合いなさいって言ったの!
言っとくけどこれは団長命令よ!拒否は許されないわ!」
そんな理不尽な……。
「ええ!?キョンくん涼宮さんと付き合うんですかぁ〜!?」
いえいえ朝比奈さん、俺はハルヒなんかと付き合いませんって。
「お言葉ですが涼宮さん。
あなたはこのような男性と付き合うべきではないと思います。
涼宮さんは美人ですし、もったいないですからね」
このような男性…っていうのは少し気に障るがナイスだ、古泉。
「うーん、そうかしら…いいえ、
それでもあたしはキョンでいいわ!」
「そうですか……」
古泉はがっかりしたような口調で言った。
こうなったら長門、頼れるのはお前だけだ。
「…………」
長門は俺をじっと見ている。
俺は小声で語りかけた。
――どうすりゃいい、長門?
長門はしばらく俺を見つめていたが、
俺が再度長門に問いかけようとする前に、持っていた本をパタンと閉じた。
それを合図に――早すぎるような気もするが――ハルヒは団活を終了させた。
「今日はこれで終わりにするわ!キョン、一緒に帰りましょ!」
俺はハルヒに引っぱられ、
団員達に別れの挨拶を告げる間も無く連れて行かれたのだが、
その直前に俺は長門からのメッセージを受け取った。
「涼宮ハルヒと分かれた後、私の部屋へ来て欲しい」

 

「…………」
「俺だ」
「…………」
玄関の施錠が解除される。
俺はエレベーターに乗り込み七階のボタンを押した。
エレベーターは静かに上昇する。
七階に到着し、俺は幾度も訪れた708号室へ行き、
ベルを鳴らすと一秒も待たないうちに扉が開いた。
「長門、お前の言う通り来たぞ」
「入って」
俺は靴を脱ぎ、
先にリビングのテーブルの際に座っている長門の向かいであぐらをかいた。
待っていても長門から話を切り出すとは思えないので、
俺は長門に用件を聞いた。
「単刀直入に言おう、俺をここに呼び出した目的は何だ?」
「涼宮ハルヒがあなたに告白したのは予想外の出来事。
告白することはあっても本来ならまだ先のはずだった……」
いきなり何だ、長門?
俺にわかるように一からきちんと説明してくれ。
「……あなたは今日涼宮ハルヒの告白を受け入れた。なぜ?」
「ちょっと待て、話が変わったような気がするぞ。
ハルヒが俺に告白したのが予想外だとか言っていたが、
それはいったい何なんだ?」
「それは……妄言?聞かなかったことにして欲しい。
それよりもあなたが涼宮ハルヒの告白を受け入れた理由を教えて欲しい」
俺はOKしてないぞ。
「今日涼宮ハルヒと帰宅した。それがあなたが告白を承諾したという証拠。
ではなぜ承諾した?」
それは……団長命令だから、か?
いや、正直になれ、俺。本当の理由は……
「『本当の理由は、受け入れればカップルが成立し、モテない人生からおさらばできて、
しかもハルヒはあれでも見てくれは美人だから
OKして得をすることがあっても損をすることは無いから。』違う?」
いいえ、長門さん。一字一句違いません。
「これによると告白されれば誰でもいい、ということになる。違う?」
それは違うぞ長門。誰でもいいわけじゃない。
自分が好きな奴じゃないとOKなんてしないさ。
「ということはあなたは涼宮ハルヒに好意を抱いている。違う?」
「そんなわけ無いだろ長門!俺がハルヒの告白をOKしたのは……
それを断ればもう告白されることは無いと思ったからだ」
「では涼宮ハルヒ以外の人間から告白されれば」
「OKするだろうな、ハルヒよりまともな奴だったらな」
「……そう」
そうそう、そういうことなんだ。
分かってくれたか、長門?
「…………」
長門は少しだけ俯いた。
「それなら…………しと…………合っ…………」
何だ、聞こえないぞ長門。
もう少し大きな声で言ってくれ。

 

「……私と付き合って欲しい」

 

「私はあなたを愛している。付き合って欲しい」
な、長門?本気で言っているのか?
「…………」
長門は無言だが、それを聞くまでもなかったのは俺が一番よく分かっている。
長門はいつでも本気だ。
「…………」
「えーっとだな、その……お前の告白は大変嬉しいのだが……何というか……」
「…………」
長門は悲しそうな顔をしてこちらを見ている。
「じゃあ、一日だけ俺に時間をくれ。じっくり考えたいんだ」
「…………」
長門は何も言わず、ただ俯いているだけだった。
「じゃあ……長門、また明日な」
俺は無言の長門に言うことだけ言って、部屋から逃げるようにして出て行った。

 

――ハルヒか――長門か――。
ハルヒに振り回されるのはごめんだが、
長門は喋らないから少し物足りない。
でも長門は俺が殺されそうになったときにいつも助けてくれた。
彼女にするなら――いやでも長門は人間じゃない。
それなら少々うるさくてもハルヒのほうがましか?
いや、あいつも人間離れした能力を持っている。
どうする……?
うるさい奴が良いか、静か過ぎる奴が良いか。
俺は家に帰ってからずっとそんなことを考えていた。
……だが、明日まで俺が悩むことはないだろう。
何故かって?
たった今、どちらを選ぶか決まったからさ。

 

翌朝、俺は教室にかばんを置くと文芸部室に向かった。
無論、昨日の告白に対する返事を言うためである。
文芸部室に行く途中、一応長門の教室を見てみたが予想通り長門はいなかった。
長門に早く返事をしたい、いや返事はまだしたくない、
そんな相反する二つの気持ちが俺の中で戦っている。

 

『返事をしたらどうなるか分かってるのか?』返事しない派の意見。
『長門だって早く返事をしてもらったほうが良いに決まっている』これは返事する派。
俺の中で一進一退の攻防を繰り返していると――俺は文芸部室に着いた。
『ここまできたら返事しないとな』勝ち誇った返事する派。
『おい、俺!そのまま引き返すんだ!
お前の返事で傷つく者が出てくるんだぞ!』返事しない派の悪あがき。
「俺は……」
返事する派としない派、どちらが勝ったのか、
最終的に決定権を持つ俺が結果を示した。
――俺はひんやりとしたドアノブを握り、ゆっくりと回してドアを開ける。

 

長門はパイプ椅子に座って本を読んでいた。
『ここに長門が来てなければよかったのにな』反対派は負け惜しみを言い残し、どこかへ消えていった。
「……長門」
俺が呼びかけても本から顔を上げない。かまうもんか。
「昨日の告白のことなんだが……」

 

「お前がくれた時間で、俺は散々悩んだ。ハルヒか、長門か。
ハルヒはうるさくて、傍若無人で、傲慢で、わがままで、
他にもハルヒに対するかなりの不満を俺は持っている。
だから長門を選ぼう、俺はそう思った。
だがな、そのときハルヒの笑顔を思い出してな。
俺はハルヒを選ぶことにした。だから長門、お前とは付き合えない。すまん!」
言い切ると同時に頭を下げた。
告白を断ったことは悪いと思っている。本当にすまん、長門。
しばらくそうしていたが、反応が無いのを不思議に思い、
俺は頭を上げ、長門を見た。
と同時にショックが俺を襲った。

 

――長門は変なものを見るような目で俺を見ていた。

 

長門がそんな風に俺を見たことは今までに一度もなく、
その分俺が受けたダメージは大きかった。
なんでそんな目で俺を見るんだ、長門?
「私は……あなたに告白などしていない」
…………?
どういうことだ、まさかまた世界が改変されたのか?
「長門、お前朝倉が転校した理由を知ってるか?」
俺は慎重に聞いた。
「知っている。正確に言うと転校はしていない。
それは表向きの理由」
「じゃあもうひとつ。
お前は情報なんとかに造られたなんとかインターフェースだよな?」
「そう。情報統合思念体に造られた
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
よかった……長門はそのままだ。
ってことはなぜだ?
俺に告白した事は確かなのになぜ告白して無いなんて言うんだ?
「長門、昨日俺がハルヒに告白されただろ?
あの後お前の家に行って、俺はお前にも告白されたんだ。忘れたのか?」
長門は少しだけ首を傾げた。
「……私はあなたを呼び出していない」
繋がらない。一体どうすれば……。

 

長門はこちらをじっと見ている。
俺はとりあえず状況を整理しようと思い、近くにあった椅子を引き寄せて座った。
しかしその瞬間に部室のドアが勢いよく開いた。
「やっぱりここにいたのね、キョン!探したのよ!」
何だハルヒか……。今はお前にかまっている暇は無いんだ。
「あんたに用事があるって人が教室に来てるのよ。
3年だけど……浮気じゃないでしょうね?」
するか、そんなこと。
それよりもお前、その人を教室で待たせてるのか?
「そうよ。すぐに呼んで来るからって言って待ってもらってるの。
だから早く来なさい」
そういうとハルヒは俺を教室へ引っ張っていった。

 

教室の前で俺を待っていたのは、以外にも生徒会書記の喜緑さんだった。
「久しぶりです」
彼女はそういうと軽く会釈をした。
「涼宮さん、失礼ですが席をはずしていただいてもよろしいですか?」
「……どうして?」
ハルヒは俺がハルヒ以外の女と二人きりにさせまいとしているらしい。
今までのハルヒは詮索なんてしなかったからな。
「生徒会長の個人的な依頼です。特定の人以外には内密にと言われておりますので」
「そう、それならしかたないわね。
キョン、浮気しないのよ!」
ハルヒはそういうと教室の中へと入っていった。
「それで、喜緑さん。その以来ってのは何なんです?」
「それは涼宮さんに会話を聞かれないようにするために言ったんです」
「そうなんですか。じゃあ本当の用事は……?」
「長門さんの事です。
もう気づいたかもしれませんが……。
彼女はあなたの知っている長門さんではありません」

 

…………。
「どういうことです?」
「彼女は今日の午前零時、情報統合思念体によって
外見と記憶を除く全てのものが造られた時の状態に戻されたんです。
正確には彼女の記憶も書き換えられました」
「確かにそう言われると納得できることがいくつかある……んですが、
なぜ記憶を書き換えられたりされたんです?何のために?」
「責めるつもりはありませんが……あなたも関係しているんです」
俺が関係している?俺はここ最近何もしていないし、されてもいない。
いやまてよ。そういえば俺は昨日――。
「そうです、彼女があなたに告白したのが原因なんです。
それを知った情報統合思念体は激怒したわ。
インターフェースが有機生命体ごときに恋をするとは何事か、って」
「しては……いけないんですか」
「インターフェースは対象を観測するために造られたんです。
有機生命体ごときに恋をしては仕事に支障が出るでしょ?
それが情報統合思念体は許せないみたい」
……そうだったのか。確かに長門は観測が仕事だといっていた。
俺は長門が人間に近づくことをいい事だと思っていたが、
あいつの親玉はそうは思わなかったってことか。
「喜緑さん、もし長門がこれからまたそんな感情を持ったらどうなるんですか?」
「情報統合思念体が彼女の監視をしています。
彼女の中でエラーとされるものはすべて排除されるでしょう。
なのでそのような感情を持つことはもう無いと思います。
もしかしたら喜怒哀楽さえも……」
喜怒哀楽さえも。
ということは……長門は生徒会に無期限休部を言い渡されて怒ることも、
見たことは無いが悲しむことも、コンピ研との戦いでゲームを楽しむことも、
あの世界で見せてくれた――こちらの世界ではまだ見せてくれていないが、
いつか見せてくれるだろうと思っていた――あの微笑みも、
これからはもう一生見れなくなる……ということか。
「そうです。そして万が一の為に、情報統合思念体は彼女が人間と接点を
持たないように必須事項以外は喋らないようにしています。
今日はまだ大丈夫です。あなたは以前の長門さんが一番親しかった人ですから。
情報統合思念体の配慮です。ですが多分……あなたとも喋らなくなるのは時間の問題です」
俺とも喋らなくなる――。
俺にショックが襲い掛かる。ダメージは文芸部室の比ではない。
「長門は……俺の知っているあいつは帰ってこないんですか!?」
結果は見えている。ここまでやる長門の親玉が画竜点睛を欠くはずが無い。
「彼女は、もう元には戻りません。
これから先も……戻ることは無いでしょう……」
なんてこった、もう打つ手は無いのか――。
――そうだ、俺には切り札がある!
それでハルヒを炊きつけて、長門の正体や今起こっていることを話し、
ハルヒの能力で長門を元に戻してもらえば……。
「……彼女はこうなることを分かってあなたに告白したんです。
今回……情報統合思念体に処分を言い渡されたときに
彼女は異議を唱えることもせず承諾しました。
それは彼女の意思です。私達は何も出来ません。でも……」
喜緑さんは初めて哀しそうな表情を浮かべた。
「以前の彼女に戻って欲しいと思っているのは……あなただけではないんです」
そうか……喜緑さんも俺ぐらい……いや、俺以上に
長門が変わってしまった事を悲しんでいるんだ。
それでも必死に悲しみを押し殺して……それなのに俺は……。
「教えてくれてありがとうございました、喜緑さん。
このことは古泉たちには内緒にしておきますね」
「ええ、よろしくお願いします。では……」
教室に帰っていく喜緑さんを見えなくなるまで見送った。
喜緑さん、本当に感謝します。
心の中でそう呟き、俺は教室の中へ入った。

 

「チェックメイトだ、古泉」
ここは文芸部室。
俺は昨日途中で団活が終わったため勝敗のつかなかったチェスをやっていたが、
さすが古泉、ものの数分でキングとポーンとナイト以外全滅してしまい、
俺にチェックメイトをかけられ、負けを認めることを余儀なくされた。
チェスは飽きたので他のをやろうという提案に、
もう一回だけと懇願する古泉に根負けした俺が駒を並べている時、
団長机の上に置いてあるパソコンを団活とは関係なくいじっていたハルヒが俺を呼んだ。
「キョン、ちょっと来なさい!」
ハルヒは俺を手招きした。あの世へ……ではなければいいが。
「そんなわけ無いでしょ!いいから」
何がいいんだろうと思いつつ、俺はハルヒの横に移動した。
「ここ!今度の休みにここにデートしに行かない?」
ハルヒが指差したディスプレイには今風のテーマパークのホームページが表示されていた。
「なんで休みにこんな所まで行かなければならんのだ?
せめて近場にしてくれ」
「何言ってんのよ、デートスポットといえばここでしょ!」
「そういえば前に、お前が『人と同じ事をするのは面白くない』とか
言ってたのを聞いた記憶があるんだが……」
「うぐ……でもそれはそれ、これはこれよ」
なんつー低レベルな言い訳だ。
「ねえ?みくるちゃんも有希もデートするならこんな所がいいと思わない?」
いきなり自分に話を振られて戸惑う朝比奈さん。
「えっ……あ、はい。わ、私もデートするならそんな所がいいな……」
あなたが望むのなら俺がどこへでも連れて行ってあげますよ、朝比奈さん。
「…………」
「あれ……?有希、どうしたの……?」
ハルヒがパイプ椅子でいつものように本を読んでいる長門に問いかける。
俺は一瞬ドキッとした。気づいたのか……?
「どうしたんです、涼宮さん?長門さんがどうかしましたか?」
古泉がよけいな疑問を持つ。お願いだから黙っていてくれ。
「いや……有希がなんか……うまく言えないけど、
いつもと何かが違う感じがして……」
「気のせいではないですか?
僕にはいつもと変わらないように見えますが」
「いえ、気のせいじゃないわ!きっと何か」
「ハルヒ、長門は今日はちょっと風邪気味なんだ。
熱も少しあってな……たぶんハルヒの違和感はそれだろう」
俺はハルヒがこれ以上長門に対して疑問を持たないように、
ハルヒの言葉を遮りでっちあげの嘘話を言った。
「そうなの、有希?」
「そうなんだ」
俺は何も答えない長門に変わって答えた。
というより長門に答えさせなかった。
そうしなければ俺が嘘をついていることをハルヒに言うだろうからな。
「そう、私は早く風邪を治して
いままでと同じような元気な有希に戻ってくれるように祈っているわ」
元気な長門……想像もつかん。
ハルヒにとっては今までの長門は元気だったらしい。
感性は人それぞれだと本当に思う。
「それはそうとキョン、今度の土曜はここに行くからね!」
なぜそうなる!
俺は休日のテーマパーク行きを阻止しようとハルヒと口論、
古泉は一人でチェス、長門は傍目からはいつもと同じように読書をし、
朝比奈さんはそんな団員達にお茶を淹れたりして――。

 

今日のSOS団活動が終わった。

 

『彼女は今日の午前零時、情報統合思念体によって
外見と記憶を除く全てのものが造られた時の状態に戻されたんです』
『彼女は、もう元には戻りません』
俺は自室のベッドに腰掛け、考えた。
――今までの長門は……もう戻っては来ない……。
今日、長門は普通に部室で読書をしていた。
古泉や朝比奈さんは違和感はなかったらしいが、
でもあの長門は俺の知っている長門ではない。
今までの俺の長門ではないんだ。
くそ……なんでこんなことに……。
『彼女があなたに告白したのが原因なんです』
俺に告白したのが原因――。
そういえば……俺に告白する前にハルヒが俺に告白したのが予想外だとか、
本来ならまだ先だとか言っていた。
もしかしたら長門は、告白したら自分が処分されることを知っていたから、
俺には告白しなかった。でもハルヒが俺に告白したから、あいつは俺が
ハルヒにとられると思って処分を覚悟で告白したんじゃないか。
もしそれなら俺に言った意味不明な事は意味明快に変換され、
告白をなかなか言い出せないでいたのにもつじつまが合う。
『じゃあ、一日だけ俺に時間をくれ。じっくり考えたいんだ』
――――!
俺は返事をしなかった。
長門が長門でなくなることも知らずに。
くそ!あの時の俺は大バカヤロウだ!
なんで返事をしなかった?
なんで覚悟を決めて告白したあいつを抱きしめるなり
俺も好きだと耳元で囁いてキスするなりしなかった?
あいつは後悔を残したまま処分されたんだぞ。
あいつを悲しませないとか言って俺が一番悲しませてるじゃねえか。
――――長門……帰ってきてくれ……。

 

ふと想った。
なぜこうも長門のことを考えるのか、と。
俺は考えた。
考えて、考えた。
考えて、考えて、考え抜いて――ある気持ちに気づいた。
――俺は長門が好きだ。
その気持ちに気づいたとたん、新たな後悔が生まれた。
自分の気持ちに素直になれずに、長門に悲しい思いをさせたという後悔。

 

俺は泣いていた。
しかし俺は涙をこらえようとはしなかった。
こらえるどころか、思いっきり泣いた。
泣くことで後悔がなくなるわけではない、
そんなことは分かっていて、それでも泣いた。
泣いたところで俺の長門が戻ってくるわけではないのに、
世界が変わるわけでもないのに、俺は泣いた。
いなくなった少女を想って。

 

今日ほど学校を休みたいと思った日は無い。
しかし当然そんなことは親が許さず、俺は学校行きを余儀なくされ、
俺は今通学路の坂道をゆっくり歩いている。
時間ギリギリに学校に着けばいいのだが。
そして学校が終わったら即刻帰ろう。一番長門と会いたくないからな。
俺がハルヒに話す言い訳を考えていると、
坂の上から――あの人はもしかして喜緑さん――が、走ってきた。
そんなに全速力ってわけじゃなさそうなのだが、かなりのスピードが出ているらしい。
喜緑さんはすぐに俺の元についた。
「どうしたんですか、喜緑さん?」
「長門さんが……」
喜緑さんは相当興奮しているようだ。
「落ち着いてください、喜緑さん。長門がどうかしたんですか?」
俺が聞くと、喜緑さんはハルヒのような――いや、ハルヒ以上の笑顔で言った。

 

「長門さんが……元に戻りました!」

 

喜緑さんに連れてこられたのは文芸部室だった。
先に部室にいたのは……他ならぬ長門である。
喜緑さんは元に戻ったといったが、俺にはよくわからない。
「本当に戻ったんですか?」
「はい。今日の午前零時に」
「なんでまた……あなたたちの親玉の気まぐれですか?」
「違う。処分を受けたにもかかわらず、
私が今、処分内容と異なった状態であるのは、涼宮ハルヒの能力」
ハルヒの能力?どういうことだ?
「昨日の会話を思い出して欲しい。涼宮ハルヒは、
『私は早く風邪を治して
いままでと同じような元気な有希に
戻ってくれるように祈っているわ』と言った。」
ハルヒの言葉を棒読みで言う長門。
「重要なのは『いままでと同じような元気な有希に
戻ってくれるように祈っているわ』という部分です。
そこに涼宮さんの能力が働いたんです」
「でもそれは風邪が治ってくれ、って言う意味じゃないんですか?
ハルヒの能力がハルヒの言った事と
違う働きをするのはおかしくないですか?」
「もしかしたら……涼宮さんは意識下で、
長門さんの異変を察知したのではないでしょうか」
そういわれてみれば、ハルヒの言い回しは少しおかしい。
風邪が治って欲しいのなら「私は早く風邪が治る事を祈ってるわ」でいいはずだ。
わざわざ「いままでと同じような元気な有希に戻って」なんて言ったのは
ハルヒが本当に意識下で気づいたからなのか?
「すごい人ですね、涼宮さんは」
喜緑さんはやわらかく微笑んだ。
でも……。
「また長門が変わったら……」
もう戻ることは無いかもしれない――。
「確かに、涼宮さんのこの能力だけでは、情報統合思念体によって
また書き換えられるでしょう。でも、彼女の能力はそれだけではないんです」
「二日前に涼宮ハルヒが言った、
『あたしが後悔するようなことを未然に防いであげるから!』
この言動に対しても能力が働いた」
ということは、長門はやっぱり処分を受けたことに後悔してたのか?
「正確には私が私でなくなり、本来の私があなたと一緒に過ごせなくなる事への未練。
『後悔するようなことを未然に防いであげる』能力によって私の後悔、未練の原因となる『処分』は
実行することが出来なくなった」
「つまり、彼女はもう変わることは無い、ということです」
「そういうこと」
長門が変わることはもう無い……。
それを理解するなり喜びが俺の体中を駆け巡る。

 

「それでは……私は用事があるので、失礼します」
喜緑さんは生徒会の用事があったらしく、そういうと部室を出て行った。
ドアの閉まる音が部屋に響く。
「…………」
「…………」
長門は何も言わず、ただ俺を見つめている。
この長門は、間違いなく俺に告白した長門だ。
今は二人きり。
言うなら今しかない。
言いたくて、言えなかったあの一言を。
長門がいなくなって気づいた、
もう伝えることは出来ないと思っていたあの気持ちを。
「長門……」

 

「好きだ」
そういうと俺は小さく微笑む小柄な少女を抱きしめた――。

 
 

fin.

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:21 (3094d)