作品

概要

作者Thinks
作品名ある昼食のこと
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-08-05 (土) 11:28:49

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 また、突然だが。この中に、この状況を何とかできるヤツはいないか。
 いないだろうな、たぶん。
 なんてったって今、目の前で涼宮ハルヒと睨み合っているのは
いつもなら部室のオブジェである長門有希、なのだ。
 
 
 事の発端はハルヒのヤツが昨日の授業中に、またしても俺の襟首を引っ張り、
俺に後頭部で机に頭突きを入れさせた後、発した言葉に始まったことだ。
「悪かったわ。みんなで一緒にお弁当食べたら面白いよね!って思ってさ、思わず力が入っちゃった。わたしってさ、こういう単純な楽しさとかに、あんまり気が付かないのよねぇ」
 だからどうした。俺は授業を受けてるんだ。それと弁当くらい好きに食わせろ。ってか、またか。
「続きをどうぞ、、、」
 俺は、クラスメイトの注目の中、予想通り硬直している英語の担当教師に掌を向けて促していたわけだが、
「お弁当、お弁当♪」
 ハルヒには全く俺の努力は見えてはいない。いつもの事だが、、。
 
 で、翌日の昼休みになってみたら、なにか豪勢なことになっていた。
 ハルヒと長門、古泉に朝比奈さんはもちろん、なぜか鶴屋さんまでいる。
「やっぱ大人数のほうが楽しいからね!」
「ハルにゃん、そいつは間違いないねぇっ!まだ食べてないけどめがっさ楽しいよっ!」
 飯を食うのがメインイベントであり、それが昼休みな訳だが、
そんな中、中庭に六人でランチョンマットの上に円陣組んで、何やってんだ俺らは。
 全校生徒の注目の的なのは当然で、いつ教師が止めに来るかも解らん位、
校舎の窓と言う窓から視線を感じる状況だ。
 どうせ、あの連中がまたなんかやらかすつもりだと思っているに違いない。
 こんな緊張感のある昼飯は初めてなんだが。
 
「気にする事はないのよ!後ろめたい事でも校則違反でも、ましてや犯罪でもないんだから!」
 当然だ。逮捕される事は無かろうよ。だがこの状況で飯が食えるやつはどこの誰だというんだ。
「僕は全く気にならないのですが」
 おまえには聞いてないしそうだろうよ。しかし長門はどうか。
「………」
 全く動じることなく、バスケットを凝視している。腹が減っているだけなのかもしれない。
 では、その中身を朝早くから作っていたと思われる朝比奈さんはどうなのか。
「あの〜、え〜っとぉ、、、、その〜、、、、、恥ずかしいです」
 ようやく通常の反応が返ってきた。同意見は大歓迎だ。
 ひそひそ話がブラックホールに引き込まれるように円陣の中に凝縮され、
嫌になるほど耳に入ってくる。ますます飯を食う気にはなれん。

「まぁ〜、時間が無いのさっ!せっかくのみくるのお弁当だっ!早く食べるっさ!」
「そうしましょう!では、バスケットオープーン!」
 ハルヒの超適当なセレモニーと共に、本日のランチが姿を現す。
 内容は、ミックスサンドとおにぎりの詰め合わせ、
おまけにタコさんウインナーとから揚げが山盛りだ。

「お〜気合入ってるじゃない」
「うんうん、さすがみくる!早く良いお嫁さんにされちゃいなぁ!」
「ほう、これはまた。和洋折衷とはこの事ですね」
「………ごくり」
 古泉の台詞も良く解らんのだが、何か、長門の様子がいつもと違うことに惹かれる。
 昨日、ハルヒが朝比奈さんを今日のランチのシェフに任命していた時から、
何も食べていないような、今にもバスケットごとその口に消しそうな勢い。そんなものを感じる。
「そ、そんなことないですよぉ〜。ちょっと急いじゃったから、おかずが少なくてごめんなさい」
 いえいえ、そんなことはありませんよ。コンビニのパンだろうが、格安の米だろうが、
朝比奈さん、あなたの手にかかれば、それは三つ星どころか五つ星、
いや、星の数なぞでは計測できない何かに。
 
「さて、みんな。みくるちゃんに感謝していっただくわよ〜!」
 全員に、おっそろしく乱暴に茶を注ぎまくりながら、ハルヒがもう待てないとばかりに言う。
 俺がせっかく、そのありがたみを何とか説明しようとしていると言うのに。
「お〜、ではいただっきま〜っす、んだにょろよ!」
「いただきます」
「…いただきます」
 い、いただこうか。
「みなさん、どうぞ〜♪」
 
 そんなわけで、四十五分しかない昼休みを豪勢に三十分も使って、
今日の昼飯は始まっていたわけだ。
 
 あ、今のはシチュエーション説明だった。今からが本当の、今現在の状況説明だ。
 良い訳のようになるのは解っている。だがあえて言わせてくれ。
 俺は悪くない、と。
 
 それは、バスケットが七分半ほどで、その半分の内容を失ない、
俺が時計を気にしながらひたすらに喰い続ける面々を他所に、
箸でから揚げを摘もうとしたときの事だ。
ほっぺたにご飯粒を2〜3つけたまま、黙々とおにぎりを頬張る長門の姿が目に入ったのさ。
 
 どうかしてたんだ、俺は。
 
 だから、俺は、そのほっぺたのご飯粒を一つ、
「しょーが無ぇな、おまえは」
 そんな台詞と共に、箸でつまんで口に入れてしまったのである。
 
「ぬわにい!?」
「きゃ!?」
 校舎からは、そんな、感嘆と疑問が聞こえたような気がした。
 
 
 空気が死ぬ。そういう感覚を味わった事があるだろうか。
 俺の周りの空気はその時、確かに、死んだ。
 
「な、、、、!?」
「んぎっ!?」
「むぐ!?あわ!?」
「お〜、キョンくん、大胆だねぇ!」
「………………………………………………………」
 
 三秒ほど死んだ空気は、ハルヒの声にならない声と、古泉が何かをのどに詰まらせた音、
朝比奈さんがお茶を吹きそうになった貴重な瞬間と、鶴屋さんの何も変わらない一言で生き返った。
 訂正。約一人、周りの空気が死んでないのか殺さなかったのかしている方がいた。
 
「あ、、、あんたねぇ!?」
 ハルヒは俺のネクタイを意味も無く締め上げはじめた。
 むあ、この痛み、久しぶりだが、あいにく俺にはそういう趣味は無いぞ。
「なに悠長にボケかましてんのよあんた!?自分がなにやったかわかってんの!?」
 
 俺は、つい十五秒ほど前に脳内時空転移を施してみた。
 今度は俺の意識が飛んだ。
 
 なにやってんだ、俺。

 長門は生き返った空気の中でも、タコさんウィンナーを摘んだまま硬直していて全く動かない。 
 古泉が携帯を持って円陣から離れていく。朝比奈さんは左耳に手を当て、
長門はタコさんウィンナーを箸で摘んだまま、じっと上空を見つめる。
 何かが起こっている。俺には関係ないことだが、良く解った。しかし、
「俺は悪くないぞ」
「………あ、、、あ、っそう。よ〜っくわかったわ、、、」
 そういったハルヒは、その逆三角にした視線を長門に移し、、、。
 
 
 そして冒頭に至る、と。
 百行以上も使ったわけだから解ってくれるよな。俺は悪くない。
 批評は聞かない。あえて聞きたくないぞ。
 しがない家庭の中で、俺は、妹思いの兄貴なんだよ。解ってくれ、特にそこの二人。
 
 ハルヒと長門は睨み合っている。
 ハルヒは立ち上がっているから上から。それを受けるように座ったまま長門が下から。
 何で睨み合っているんだ、何でタコさんを摘んだままなんだ。もう止めてくれ頼むから、って、
あ、俺のせいなのか、そうなのか。
 二人の視線が同時に俺に向く。
 シリウスのように白く燃える視線と、シリウスのように黒い中に一際輝く視線。
 
 はい、そうです。詳しく説明させていただきます。
 
 俺は必死に説明をさせていただいた。
 先週、町内会の飯盒炊爨があった事。そこで見た妹の姿と、
さっきの長門の姿があまりにも似ていた。その事を。
 
 そう、そうだったのだ。
 むしゃむしゃとおにぎりを頬張るその姿、そしてその、表情。
 俺にしか解らんかもしれない。が、、、
 
 
 キーンコーンカーンコーン
 
 
「う〜ん、予鈴が鳴っちゃったねぇっ!この続きは放課後、ってことにしないかいっ!?」
 今、鶴屋さんがとても良いことを言った。
「………」
「………仕方が無いわね、授業に遅れるわけにはいかないわ」
 古泉は携帯と共にどこかに消えていったままだ。午後は早退なのかもしれない。
 朝比奈さんは「そ、そんな、あたしのせいなんですか?またペナルティですか?」とか言ってる。
 古泉はどうでも良いが、朝比奈さん、俺のせいなら、ほんっとうに申し訳ない。
 
「そいじゃ、まった放課後なのさっ!ご飯は残したら罰が当たるっ!うんうん!」
 鶴屋さんの声を合図に、感謝と哀れみを中庭にそっと置きざりにして、俺は駆け出した。
 あわてて各々が教室に走っていく中、長門が俺に、聞こえないほどの声で何か言った。
「あ、なんだって?」
 バタバタと靴の音が響く廊下で、自分の教室と全然違う方向に走る長門がこんな事をもう一度言った。
 
「もう、付いてない?」
 
 そのほっぺたには、解りやすいくらいに、でかいご飯の塊が付いていたわけだ。
 俺は、走りながらその塊を摘んで、口に放り込んでやった。
 
 さっき、おまえ、幸せだっただろ。
 
 あんなので良いのなら、ハルヒに何をされようが、古泉がどんな目に遭おうが、
俺は知ったこっちゃ無い、いくらでもやってやるからいつでも言って来い。
 朝比奈さんは例の空間が発生したとしても忙しくなる事は無いだろう。たぶん。
 
 放課後はどうなるんだろうなぁ、ま、なんとかするさ。
 そんなことを考えながら、俺は全力疾走で教室に駆け込んだ。
 
 
 言うまでも無いと思うが、ハルヒのシャーペン攻撃は、放課後までひたすら続いた。
 
 

                                        おわり。

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:21 (3090d)