作品

概要

作者ナナッシィ
作品名おまけのポニーテール・パニック!
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-29 (木) 21:48:22

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

◆ 6.5 ◆

 
 

「そう」
 呟くように言うと長門は音もなく立ち上がった。
 それから、ちょっと天井を見上げる様にして、いつだかの聞き取れないような音――呪文を口にする。

 

――どよん。

 

 なんとも形容しがたい圧迫感が部屋に充満する。長門、なにしたんだ?
 っていうか、どっかで前にもこの感覚をどこかで体験したような……。

 

「空間閉鎖完了」
……なに?

 

「この空間の時間的進行を現在時間平面から切り離した。今、この部屋の時間は停止している」
……おいおい、ポニーテールを見せるってだけのに、なんでこんな大袈裟なことやってるんだ長門?

 

「頭髪を自然に伸ばすため」
 悪いが、全然わからん。

 

「側頭部後面、後頭部全域、頭頂部後域の時間連結を当該空間から解除。さらに同部位の毛根代謝及び頭髪の伸長を加速する」
 えーと、つまり、横と後ろの髪を伸ばすってことだな?

 

「そう。加速率は通常成長の250000倍に設定する……見て」
 なんかスゴイ桁になってるけど、大丈夫なのかそれ? 一気に増えるワカメちゃんみたいに「もぞっ!」なんてのは、ちょっとホラーだぞ?

 

 それは不思議な光景だった。長門の収まりの悪いショートカットが、まるで植物の成長記録VTRを早送りで再生しているかのように、じわじわと伸びていくのだ。
 俺はその様子を見ながら、あーこいつって本当に人間じゃないのなー……などとやくたいもないことを考えていた。

 

「伸長、完了。……代謝加速を停止」

 

 そう言い終えた長門の髪は、セミロングになっていた。本人はというと肩にかかった髪を不思議そうにつまんだりしている。
 うわー、なんか新鮮だぞオイ。この時点で、今日は十分に珍しいものを見せてもらったよ、うん。

 

「失敗……したかも」
 伸びた自分の髪を触りながら、長門は俺にだけわかる怪訝そうな表情をして呟いた。
 なんでだ? 十分伸びてるじゃないか。

 

「髪の栄養状態が不良。納得がいかない……」
 不謹慎とかいうなよ。俺はおかしくってちょっと笑いそうになっちまったんだ。
 だって、自分の髪の毛をつまみながら、自分の髪質に不満をいう長門は、まるで枝毛を気にする、どこにでもいる女の子みたいに見えたんだからな。
 あの長門が、だぜ? 俺でなくてもニヤけたくなるだろう?

 

「……栄養状態を良好にする組成因子が不足」
 んー? なんだ、海草でも食べるか? ワカメとか。

 

「違う。構成する物質としての因子は充足している。不足しているのは、有機生命体が体内で組成する物質」
 ごめんな、長門。化学なのか科学なのか理科なのかわからんが、まるで理解できない分野の話だ。なにしろ授業ですら古代インカ語かなんかにしか聞こえないからな。まぁ古代インカ語自体しらんのだが。

 

「女性ホルモン。その分泌量が不足している」
 あーそういえば、なんかテレビで見たことあるな。女性ホルモンが活性化してると、髪がつやつやになったりするとかいう……あれか。
「短絡的だけど、結論としては間違っていない」
 しかし、どうすればいいんだ? 医者でも栄養士でもない俺には協力することなんかできないわけだが……。

 

「大丈夫。これはある程度予測できていた現象。解決策はある」
 どうするんだ?

 

「女性ホルモンの分泌を促進する方法はいくつかある。外部の直接的投与、類似因子の摂取、精神活動の活性化による刺激など。私は第三の方法を採用したい。そしてそれには、あなたの協力が必要」
 精神活動の活性化……っていわれてもなあ。お前の精神活動ってのもよくわからんし。頭の体操とかでもすりゃあいいのか?

 

 俺がそう返すと、長門は少しだけ俯いて、毛先を指でいじりながら、言葉を探しているようだった。なんだろうね、これは俺の妄言だが、ちょっと可愛いぞ長門。

 

「……恋をすること」

 
 

 地球が、静止した。

 
 

 待て待て。なんだってー? なにが起こったんだ。ワッツハプン? えーと長門は今なんていった? 恋をする? 精神活動の活性化? 女性ホルモンの分泌?
 んでもって、それに俺の協力が必要? ホワーイ? 何故? それは今俺がここにいるから? ポニーテールを見せるために?
 あーもうクエスチョンマークだらけで、考えが全くまとまらないぜっ……って長門? いつの間にこんな近距離に?!

 

「『キョンちゃん、朝だよ〜起きて〜(棒読み)』」

 

……は?

 

 いつの間にかこたつの差し向かいから俺の隣に来た長門は、下から覗き込む様に俺の眼を見て、突拍子もないセリフを放った。

 

……おい、長門? なんなんだソレは一体?

 

「情報統合思念体には有機生命体の恋愛の概念はわからない。それは不要なデータだから。だけど私という個体は、これまでのあなた達やクラスメイトなどの観察データ、また書籍などからも人間の情動を観察、データを蓄積してきた。だからある程度、恋愛の概念というものは理解しているつもり」

 

 わかるようなわからないような……って顔近いぞ長門! びっくりしたっ!
 慌てて、後ずさる俺。なんなんだー?

 

「でも、恋愛関係の構成にはプロセスが必要。そしてそのプロセスの進行には時間的累積も必要。この場合は適当ではない。だから私は即席的な方法を模索し、そしてそのモデルデータを取得してある」

 

 なんだって? その、なんだ、噛み砕いて言うと、つまりインスタント恋愛みたいなのの方法をどっかで調べてきたってのか?

 

「そう。モデルデータはコンピューター研にある各男子部員の情報端末から取得した。情報端末にインストールされていた、それらの数多い物語では、様々な擬似的人格をもった女性キャラクター達が、極めて短期間で男性と恋愛関係を構築していた。ユニーク」

 

 コンピ研!! お前ら学校の備品でなにやってんだっ!! っていうか、ウチの長門にナニやらせてんだっ!!!

 

「入手した膨大な情報から、その物語の登場人物に私とあなたを置き換えて、恋愛関係を構築するシミュレーションをしてみた。結果、通常の代謝活動からは考えられないような女性ホルモンの分泌が期待できることがわかった」

 

 にじり。ずさり。

 

 前者は俺の隣に座った長門が、獲物をとらえようとするネコのように間合いを詰める音。後者はその長門から微妙に距離を取ろうと後ずさる俺の音だっ。

 

 待てっ長門! 言いたい事はなんとなくわかったが、やりたいことがよくわからん!
 っていうか、わかるような気もするんだが、わかってしまうとなんか色々マズいような気がするんだ! だからまず落ち着け! 落ち着こう! 俺もお前もビークールだ!

 

「おちついて。『私もはじめてだから(棒読み)』」

 

 にじり。ずさり。

 

 お、落ち着けるかっ! 大体なんなんだ、そのさっきからボソっと入る棒読みセリフは!

 

「収集したデータに含まれていたターム。プロセスには欠かせないと判断。『私、キョンくんが初めての人でよかった(棒読み)』」

 

 意味がわからないし、まだなにもしてない!

 

 俺は後ずさりをやめて、長門に背を向けると四つんばいのままにリビングから出るドアを一目散に目指した。長門はエラーを起こしてるだ、自分でそう言ってたしな! なんかもう、このままじゃ俺までなし崩し的にエラーとか間違いとかを起こしそうだ! 申し訳ないし、なんかもったいない様な気もするが辞去させていただくっ!

 

 ドアノブに飛びつく俺。開かないっ?!

 

「……無駄なの」
 どっかで聞いた事あるようなセリフだなぁ長門。それっていわゆるヒューマノイド・ジョークってヤツなのかぁ?

 

「この空間は先ほど閉鎖済み。私の承認がなければ、出る事も入る事もできない。『キョンくんの好きにしていいよ。でも、やさしくしてね(棒読み)』」

 

 頼む長門、お前の頼みの大概の事なら聞いてやりたいが、なんか今のお前は明らかに変だ。悪いインターネットというか、悪いエロゲーというか、悪いギャルゲーというか、悪いコンピ研文化というか、とにかく、そういうのに毒され過ぎている!
 間違いが起こるといけないからなっ! このドア開けてくれっ!

 

「それ…無理…」
 またまたどっかで聞いた事あるセリフだなぁ長門。微妙にトラウマをえぐられているような気さえしてくるぞー。

 

 振り返ると、棒読みのセリフを呟きながらセミロングの長門が一歩一歩近づいてきていた。わずかに頬を上気させているような気もするし、瞳も潤んでいるように見えるが、そんなことよりもなによりも、俺の視線を釘付けにしたのは、長門の髪だ。
 どういう原理かわからんが、肩にかかった髪が生き物のようにツヤツヤと蠢いている。
 元気のいい髪だなぁ長門。まるで生きてるみたいじゃないか……って身体が動かないっ?! 嘘だろっ! インチキだっ!

 

「じゃあ…抱いて…♪」

 

 人間は死の瞬間、走馬燈のようにこれまでの人生が脳裏によぎるという。
 今の俺がまさにそれだった。といってもわずか16年の人生。
 あっという間にくるくると風景が回って、俺はちょっと前の雨の日の記憶で走馬燈の回転軸を止めた。

 

 俺に向かって舌を出して笑ったハルヒ。
 その表情を思い浮かべ、何故かハルヒに謝りつつ――俺は胸に飛び込んできた長門の柔らかい感触を否応なしに受け止めた――。

 
 

◆ 6.75 ◆

 
 

「ちょっと、待ってて」

 

 脱力しきった俺から、ふいと眼を逸らすと、長門は立ち上がって、あっさりとリビングのドアを開けた。どうやら洗面所に行ったらしい。まったくインチキ宇宙パワーってヤツは……。
 まだ胸に残る長門の体温に、色々なモノモノを持てあましながら、俺は十数秒前の出来事を反芻した。

 
 

「女性ホルモンの分泌、頭髪への栄養充填を確認」

 

 俺に抱きかかえられた長門は、しばらくそのままでいると、不意にそう言って俺から身体を離した。
 まだ微妙に揺れている視界の中に、所在なさ気に座っている長門は、珍しく俺と視線をあわせず、またぞろ俯き気味に自分の髪を指で触っていた。
 蛍光灯の下でもわかる天使の輪、いわゆるキューティクルってやつだ。
 さっきまでの長門の髪とは全然違う、俺みたいな素人の目にもわかる艶とハリのある質感に変わっていた。

 

 正直なにがなんだかさっぱりわからん。
 わかるような気もするのだが、わからないでいい、わからない方がいい、と俺の脳内会議で決まったからな。わからないでいいのだ。
 あー、髪にもとい、神に誓っていうが、俺に飛びかかってきた長門に対して、俺は特になにもしていない。本当だ。嘘じゃないっ。
……ものはずみで、ちょっとだけ頭を撫でたりした様な気がしないでもないが、悪いゲームに毒されたような真似はしなかったぞ! 本当だ!
 密着したまま棒読みで繰り返される長門の大攻勢に、その程度の抵抗しかできなかっ……もとい、しなかった、俺の無抵抗主義を誉めて欲しいね。
 今ならマハトマ・ガンジーとにこやかに糸車を回せそうな気がするぜ。
……色々持てあましたのは事実だがな。

 

 溜め息を吐きつつ、かゆくもない頭をかきながら着衣の乱れを直した俺は、這いずる様に、数分前まで座っていたこたつに戻り、すっかり冷め切ったお茶を飲み干した。
 なにやってんだかなぁ……俺は。

 
 

 その数十秒後、洗面所から戻った俺の前に現れた長門は、そのセミロングに伸びた艶やかな髪を後頭部のちょっと上の方で一つにまとめていた。
 ぼうっとして、空の湯飲みを落としそうになった俺に向かって、長門はぽつりと口にした一言。
 それはコンピ研秘蔵ゲーム集から寄せ集めた棒読みセリフのどれよりも、俺の脳髄に突き刺さった。

 

「……似合う?」

 

 俺の返答? そんなもん決まってるだろ?

 
 

<了/ポニーテール・パニック!★ 7 ★へ>

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:19 (3090d)