作品

概要

作者ナナッシィ
作品名ポニーテール・パニック!
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-29 (木) 21:35:03

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 ◆ 1 ◆ 

 
 

 ハッキリ言って俺はポニーテール萌えだ。

 

 あー、いやいや。待て。落ち着け。そんなに慌ててテレフォンナンバー110を押さないで欲しい。あと119も間に合っている。
 ポニテ萌えとはいっても、これはあくまでも嗜好レベルの話であって、どこぞの馬面を着けた変質者のように夜な夜な女子高生を襲っては無理矢理髪を丁寧に梳り、接着剤と針金でガチガチにホールドしたポニーテールを作った上で、可愛らしいリボンでトドメをさす――なんて真似はしない。信じて欲しい。そんな変質者は小説とかアニメ化した映像の中にしか存在しないのだ。

 

 落ち着いて説明しよう。俺はポニーテール萌え……というかまぁ、ポニーテールが好きだ。
 好きな理由だと? そんなものを今更理由を説明する必要性があるだろうか?
 結い上げられた髪の毛は頤(おとがい)と耳を結んだ延長線上に結い上げられ、単体だけでもファンが多いという『女性のうなじ』を、これでもかとアピールする。
 その上で、結い上げられた先には、一筋にまとめられた長く揺れる髪があるのだ。
 しなやかに揺れる、光沢を持った幾筋もの細い黒。長く美しい髪は男の浪漫だ。そんなものは平安時代から変わっていない命題だ。古典が苦手な俺でも、そこだけは知っている。試験には出やしないがな。
 ともあれ、ショートカットとロングヘアの2つの魅力を持っているのがポニーテールなわけだ。
 加えて言うならば、そもそも長髪とは清にして楚な印象があるもの。それをひとまとめに結い上げることで、清楚とは相反する活動的な印象を与えてくれるのだから、そうした意味でもダブルパンチなわけだよ。

 
 

 ◆ 2 ◆ 

 
 

「わかるか? 古泉」
「え、ええ。まぁ……」

 

 いつもの曖昧な微笑ではないことだけはわかった。
 なんだお前、いつもは必要以上に近づいて来て息まで吹きかけてくるくせに、微妙に間合いを広げやがって。
 俺の心の目には、今お前の後ろに「ズサッ…」とかいう擬音の書き文字まで見えたぞ。別にお前にどう思われようと構わんが、ちょっと傷つくぞコノヤロウ。

 

「い、いや、そんなことはないですよ。ご高説ごもっとも。貴方の熱意は十分に伝わりました」
 むう。相変わらず芝居がかったヤツだ。ハンカチでかいてもいない汗を拭う真似までしやがって。大体お前が聞いてきたことだろうが。

 
 

 放課後の文芸部室。別名SOS団本拠地。
 長机を挟んで向かい合っているのは俺と古泉の2人だけだ。珍しい組み合わせだって? まぁ確かにその通りだ。
 だが団長のハルヒ曰く、

 

「我がSOS団の辞書に休みなんて文字はないわ! 年中無休! 五里霧中! 無我夢中なのよ!」

 

 という後半ワケの分からない事になっているアジテーションに従い、放課後になると回遊魚の如く集まってしまう我ら団員であるからして、こうした組み合わせも、たまーに無い事はないのだ。あんまり歓迎したいもんではないがね。

 

 ともあれ、こいつのニヤケ面と2人きりであるということは、麗しのマイエンジョーォル(ルは巻き舌で発音すると良いぞ)朝比奈さんの御手からなるお茶も無いわけで。
 まぁ実に味気ない空間の中で、俺は例によって例の如く、ロートルなテーブルゲームを持ち出してきた古泉の誘いに応じて、現在一戦交えているというわけだ。他にやることもないしな。

 

 だがn適当になサイコロを転がしたりカードをやりとりしていると、コイツの中でどんな連想が起きたもんだか、突然聞いてきたわけだ。

 

「貴方にとってのポニーテールの魅力とはどんなものなんですか」

 

 とな。

 

 それでまぁ、さっきの説明になるわけだ。無論、解説したのは俺の中のポニーテールに対する魅力論の一部に過ぎんがな。

 

「しかし、世をスネているようなスタイルの貴方が、こんなにも熱く語るモノがあるとは……若干の驚きを禁じ得ませんね」
 んなこたぁないぞ。他にもコダワリのあることだってあるにはあるんだ。聞くか?

 

「ま、まぁそれはまたの機会に」

 

 む、また間合いが広がった様な気がするぞ。

 

「気のせいですよ。しかしなんとも大した情熱ですね。なにかしら貴方の心に楔となって食い込んでいる幼児体験でも、お持ちなのではないか……と思ってしまうほどです」

 

 よせ。お前はハルヒの精神分析専門家であって、俺の精神とか萌えについてまで分析する必要はないんだからな。
 そもそも俺のポニテ萌えは純粋なこう……パトスとかリビドーとかそういうものなんだ。

 

「まったく……その情熱を衝動を、もう少し団活動に向けていただければ、僕のバイトも随分と楽になるんですけどねえ……」

 

 なんだ? またぞろあの空間で神人とやらが暴れてるのか?

 

「いえいえ。このところ閉鎖空間の出現率も、またそこに現れる神人も、極めて少ない状態ですよ。涼宮さんも安定していらっしゃるようですから」

 

 じゃあ関係ないじゃないか。俺の情熱や衝動の矛先なんか関係なかろうよ。

 

「そういうわけにもいかないんですよ。なにも閉鎖空間での仕事だけが、僕のバイトじゃありませんから。お忘れですか? 涼宮さんがこの現実世界に退屈して、愛想をつかしてしまわぬよう、色々企画立案したりケアする……それもまた僕の仕事なんですよ」

 

 あーそーか。まぁせいぜい頑張ってくれよ副団長殿。俺は普通に怠けるからな。

 

「全く……処置なし、ですね。せめて貴方の性へ……失礼、嗜好を涼宮さんに改めて伝えてみてはいかがですか? 場合によっては高確率で、貴方の願望が日常化するかもしれませんよ。パラダイスじゃないですか」

 

……確かに入学当初、まだロングヘアーだったころのハルヒのポニーテールは、そりゃあもう反則的なまでに似合っていた。
 どれぐらい反則かっていうと、かつての全日本プロレスマットの最強タッグリーグでスタン・ハンセンとビッグバン・ベイダーがタッグを組んだくらいの反則っぷりさ。
 だが、曜日によって変化する髪型について尋ねてみたら、翌日にはバッサリだ。そりゃあ今でもポニーテールに出来ない事はないだろう。何度か見てるしな。
 しかしな、ありゃあ、その、なんだ。
 うん。まぁ俺の理想とするポニーテール基準からすると、若干短いんだよ。
 うん。そうだ。短い。
 やはりポニーテールは結い上げたときに、テールの先端が肩胛骨のあたりまで来てくれないとな。そこが最低ラインだ。うん。
 例えば朝比奈さんなんかは割と理想的な長さだ。我が名誉顧問であるところの鶴屋さんの見事なロングヘアは、若干長すぎな感は否めないが、それでも基準値を大幅に超えた素晴らしさがあるな。ほら、古泉、お前も覚えているだろ? あの野球大会の時だよ。鶴屋さん
「野球をするなら、髪は邪魔になるからねっ! みくるもちょろーんと縛らないっかいっ?」
 なーんて言って、ポニーにしていただろう。あれはあれで素晴らし……どうした古泉? 能面のモノマネか? 翁だっけ? いつものはりつけた様なニヤケ面が、完全に固まってるぞ?

 

 俺は頭の上に疑問符を浮かべながら、古泉の様子をうかがう。どうした、突発性の顔面神経痛か?
 と、視界の片隅に、テーブルの上で組んでいた古泉の指が、ちょいちょいと動いているのを見つけた。なんだ? どうやら部室の扉の方を指し示しているようだが……。

 

「……」

 

 視線をそっちに向けると、音もなく(?)開けられた部室のドアの向こうに、長門がいた。
 いつもと変わらない艶消しブラックのような瞳が、俺を見据えたまま二・三度瞬く。
 どうした? 入らないのか長門?
 問いかけも空しく、ふいと視線を外すと後ろ手に扉を閉めた長門は、いつもの定位置に向かった。後ろを通り過ぎる速度が、いつもより若干速く感じたのは気のせいだろうか。

 

 古泉に視線を戻すと、樫材かなんかで作られたような笑顔を少しずつFRP製・ラバー製と硬度を落としながら、ちょっと顔を俯けて溜め息なんか漏らしてやがる。器用なやつだな。新しい芸のつもりか? 当分宴会の予定はなさそうだぞ?

 

 さらに重ねられた古泉の溜め息に質問を投げつけようとしたところで、朝比奈さん、ハルヒと続けて部屋の主達が現れ、俺の質問と古泉とのゲームは有耶無耶の内に中断された。

 
 

 ◆ 3 ◆ 

 
 

 明くる日の放課後。

 

「ねぇキョン。有希は?」
「ああ、今日はお隣さんのところだ。部室に入る前にすれ違ったよ」
 俺は読みかけのマンガ雑誌から視線をあげるとハルヒに応えた。

 

 別に今日もやることないんだろ? 気にしないでネットの不思議系ブログの更新でもさらってろよ。こないだ教えたニュースサイトなんか、結構面白いと思うぜ?

 

 現代日本の特異点に突如として甦った絶対君主の質問に、正直に応えながらも、華麗にその矛先をズラした。
 これまで何度かあった有事に際して頼りっきりだった長門の、息抜き的娯楽に水を差さないように配慮したわけだ。本を読むのも確かに娯楽だろうが、あいつのアレは最早呼吸とかと同じ行為だからな。
 せっかく興味を持った現代地球の情報端末いじりなんだ。そっとして、思うままにさせておいてやるのが、普段世話になりっぱなしな有機生命体からの、せめてもの恩返しってもんだろう?

 

 ちなみに本日、朝比奈さんは鶴屋さんとの予定があって欠席。古泉はバイトだ。閉鎖空間がどうこうではないらしいが“機関”のなんだろうな。
 従って、今部室には俺とハルヒの2人だけってわけだ。……特になにもねーぞ。

 

「あーあの都市伝説系のね。結構記事が多くて楽しいは楽しいんだけど、なーんか今更感が多い話題が多いのよねー」

 

 ハルヒはといえば、うまいこと矛先にあったモノに食いついてくれたらしい。
 まぁそんなもんだろ。宇宙人の解剖フィルムの記事なんか、俺は面白く読めたけどな。体毛まで作り込むなんざ、数十年前のSFXにしちゃ大したもんじゃないか。

 

「それよそれ! あたしも随分前に特集番組見たけどね、あんな紛い物にいつまでもこだわってんじゃないっていうのよ! 新発見や新情報はないわけ?!」
 まぁなぁ。ハリウッドがその気になりゃいくらでも新しいフィルムでもなんでもできるだろうけどな。あの白黒よりももっとスゴイのがさ。ただカラーになると地上波じゃ放送できないかもしれんけどな。すぐにネットの動画サイトとかに出回るだろうよ。

 

「ちーがーうーわーよっ! このバカキョン! ニセモノの新情報なんかどうでもいいの! そもそも映像なんかじゃダメなのよ! もっとこう……リアルっていうか、やっぱ生身よね! 生きた宇宙人でないと! そういう情報が欲しいのよ! やっぱあたしが直接とっ捕まえるしかないわね!」
 とっ捕まえてどうする気だ。解剖でもするのか。

 

「そんな勿体ないことしないわよ! ……でもそうね、あの解剖フィルムじゃないけど、サンプルとして体毛の一本や十本くらいは欲しいかな? 解析して遺伝子とか抽出したら……なんか色々楽しそうじゃない!」

 

 俺は「じゃあ、お前の目の前のパイプ椅子周りを調べてみろよ。20センチくらいの猫っ毛が落ちてたら、それを解析すりゃあいい」という言葉を、ぐっと飲み込んだ。
 代わりに、付き合ってられんねという仕草で肩をすくめてみせてから、読みかけの漫画誌に目を落とす。

 

――そういえば我が団の宇宙人の髪の毛ってのは、どうなってるんだろうな?

 

 脳裏にランダムなシャギーの入ったショートカットを思い浮かべる。およそヘアーサロンだのカットスタジオだのという場所には縁がなさそうな、おさまりの悪い細い髪。
 考えてみれば、あいつの髪型が変わったところをみたことがない。それどころか、伸びてるところも見たことがない気がするぞ。いや、毎日見ているから余計に気づかないだけのかもしれないが……。

 

 ふと、あのポンチョ(?)を被せられて、美容院のイスにちょこんと収まっている長門を想像してみる。
――本日はどのようにいたしましょうか?
 あいつはなんて応えるんだろうね? それとも美容院なんかにはいかないのだろうか。
 再構成……とかなんとかの宇宙的なアレでナニしてるとか?
 色々想像してみて、結局のところ疑問は振り出しにもどった。

 

――そもそも……長門の髪って伸びるのか?

 

 俺は頭の中で、長門の髪を5cmずつ伸ばしてみた。
 もちろん前髪はキープな。あの読書の虫の視界を前髪が遮るようになってみろ。今度は度入りの視力矯正眼鏡が必要になっちまう。あのくらいの長さで丁度いいのさ。

 

 さて、シミュレーションを続けてみよう。
 まず5cm。大した変化はないな。「長門、髪伸びたんじゃないか?」ってな程度だ。
 さらに5cm。そろそろ襟足が隠れるな。ハルヒと同じくらいか。ちょっと毛先を整えてみる。おお、なんかアレだ。市松人形みたいだぞ長門。
 プラス5cm。毛先が肩に触れるほどになった。うむ、こんな長門も悪くないな。図書館で詩集とか読んでいたら、隠れファンが増えそうだ。まぁ詩集を読む長門ってのは、あまり想像できんが。
 もういっちょプラス5cm。制服のセーラーカラーの上に艶やかで柔らかな曲線が描かれる。極細で色素の薄い髪は、ハルヒの黒髪とも、朝比奈さんの栗毛とも、鶴屋さんのカラスの濡れ羽色とも違う印象だ。

 

……長門、ちょっと、髪、縛ってみないか?
 あーいや、そこでじゃなくてだな。うん、このあたりだな。

 

――気がつくと俺の脳内スクリーンには、ポニーテールを結い上げた長門が映し出されていた。
 おまけに、いつだかの孤島合宿の王様ゲームの時みたいに、振り返って無表情に

 

「……だいすき」

 

 とか言いやがる。

 

 揺れるウマノシッポ。
 うなじの後れ毛。
 漆黒の瞳には俺が映り込んでいて……。

 

 あああああああほかっ!! なーにを想像たくましくしているんだ俺はっ!!

 

 あわてて妄想スクリーンを全選択、消去、ええい消えろ消えろ! 顔が熱い、熱いぞ。なんだ、また風邪か?! いや原因はわかってる、わかってるんだが、これはいかん。いかんぞー。自重だ。自重しろ。自重するんだ俺っ!!

 

「……アンタなにやってんの? マヌケ面して……」

 

 寝起きに富士の雪解け水をぶっかけるようなハルヒの声に、飛び上がるような反応をしてしまう。えーと、あー、うー、その、なんだ。つまりこのマンガがだな……。
 慌てた俺は、開いてはいたものの、まるで読んでいなかった連載作品の誌面をぺしぺしと叩く。ごまかせっ。ごまかすんだっ。

 

「なによ、そんな面白いの? ちょっと寄越しなさいよそれ」

 

 あーいや、うん。まぁな。構わんぞ、俺にはちょっと刺激が強すぎたようだ。

 

「はぁ? なにいってんのよ? ……あんたこういうのに興奮するわけ……?」

 

 団長指定席から俺の後ろに回り込んだハルヒが覗き込んだ先には、スクール水着を着た超科学強襲揚陸潜水艦の美少女艦長が、頬を染めて照れている大ゴマがあった……。
 暖房器具のないSOS団部室にシベリア凍土に吹き荒れるそれと同じような強風が吹きつける。主に俺の周りにだけな。

 

 た、大佐どの……ッ! 申し訳ございませんッッ!!

 
 

 ◆ 4 ◆ 

 
 

 我がSOS団部室に、お隣の大陸北部から押し寄せる寒波に、ささやかな抵抗と温もりをもたらす文明の利器が設置された日から、3日後。

 

 蛇足ながら付け加えれば、ハルヒに、
「あんた一体なんなの? みくるちゃん見て鼻の下伸ばすメイド萌えかと思ったら、コレで興奮って!? スクール水着萌えなの?! ロリコンなの?! それとも天才少女が鼻血出しながら『彼女は最高よ!』とかいう特殊なシチュエーション萌えなの?!
 い、いっとくけどね! 我がSOS団から特殊な性犯罪者を出すなんて許さないからね! わかってんの?! バカエロリフェチヘンタイキョン!!」
……と、様々な肩書きを加えられて罵られた日から一週間後の事だ。

 

……なんかもう俺の呼び名は一体なんなんだろうね。このままいくとハルヒに罵られている間に頭のコブが治ってしまいそうじゃないか。
 それも、ありがたくもなんともない侮蔑を重ねられた呼び名というのが情けない。

 

 今更ながら思い出しても溜め息が出る。いや、確かになんとも形容しがたいバッドタイミングの出来事だったからな。
 弁解のロジックを組み立てようとなんとかしたんだが、ハルヒの大攻勢は凄まじく、これはもう硯と墨と紙を用意していただいて、辞世の句をしたためるしかないかと思ったくらいだ。

 

 まぁ詰め寄るハルヒが
「まったく……あのときはポニーテール萌えだとかいってたくせに……なによこれ、ポニーテールの上に三つ編みじゃないのよ……」
 などと、ブツブツ言っているのを耳敏くキャッチした俺は、
「……そんなこと言ったっけか?」
 とツッコミを入れた。悪いか、確信犯だ。

 

「はぁ? だってあんた前に夢で……」
 と言いかけて、慌てて口をふさいで顔を真っ赤にしながら、
「う、うるさいわね! とにかくこんなのあたしは認めないからね! 今日はもうおしまい! 帰る!」
 という捨て台詞とともに突如軍勢を引き上げて部室を去っていった突撃隊長の背中に心の中で謝罪しつつ一命を取り留めたわけだが……。

 

 翌朝、久しぶりの出動の後遺症で顔色を悪くした古泉に平謝りに謝ったのはいうまでもない。スマン、古泉。今度肉まんでも奢ってやるから許せ。

 
 

 まぁそんなこんなで、今の俺は白い息を吐きながら自転車を漕いでいる。コートにマフラー、手袋と防寒装備を調えても、やっぱり寒いもんは寒い。
 夕食後にベッドでくつろいでいた俺を呼び出した相手は、急を要するわけではないとの事だったが、寒さを内燃熱で紛らそうと立ちこぎに切り替えた俺は、間もなく指定の待ち合わせ場所に到着した。

 

 北高校区内の高級分譲マンション。俺だけの通称では別名・宇宙人マンション。平たくいえば、長門の自宅であり、かつて朝倉涼子が住んでいた建物だ。
 自転車に鍵をかけると、手袋をコートのポケットにねじ込み、すっかり指紋の馴染んだボタンを数字順に手早く押す。ややあってインターフォン越しに無言の応答。

 

「長門。俺だ」
「……入って」

 

 すっかり日常風景の一部と化した、未知との遭遇へのエントランスへと踏み込み、エレベーターで7階へ向かう。
 部屋の前まで来ると、チャイムを鳴らすまでもなく内側から開いた扉の向こうに、制服姿の長門が立っていた。

 

「どうぞ」
「あ、ああ」

 

 6文字+αのやりとりの後、俺は情報統合思念体謹製対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースのテリトリーに身体を滑り込ませた。

 
 

 数十分前に俺のケータイに着信履歴と通話履歴を残した相手は、急須と湯飲みを載せた盆を持ってくると、コートとマフラーを外してコタツに座った俺の正面に、ちょこんと座った。

 

「それで……用件はなんだ?」
 未だかじかんだままの両手に湯飲みからの熱を心地よく感じながら、俺は切り出す。

 

「今から来て欲しい」
「見せたいものがある」
「あなたの協力が必要」

 

 数十数分前の通話内容はこれだけだった。宇宙人から「見せたいもの」と言われても、なんのことやらさっぱり見当がつかないが、協力が必要と言われたら、一も二もなく駆けつけるのが当たり前だ。それくらいコイツには世話になってる。なにしろ命の恩人だしな。

 

 音を立てずにお茶を飲むと、長門はコトリ、とコタツの天板に湯飲みをおき、俺の目を真っ直ぐ見返して言葉を紡ぎ出した。

 

「今、私の中にエラーがある」
 エラー? なんだいそりゃ?

 

「論理的に処理できないまま、蓄積されたデータ。処理不能、または処理の必要性がないジャンクデータとして強制的に消去処理をすることも可能。だけど、私はそれを望んでいない。論理的、経験的に解決し、処理をしたい」
 よくわからんが、お前にも解決できないデータなんてのがあるのか。

 

「ある。有機生命体の様々な概念は、書籍や原始的ネットワーク情報媒体から収集することが可能。また涼宮ハルヒや古泉一樹、朝比奈みくるや、他の北高生などから直接収集することができる。あなたからも」
 ハルヒはともかく、俺たちから取れるデータなんて、大したもんじゃないだろうよ。

 

「そんなことはない。情報統合思念体は涼宮ハルヒの観察記録からデータを収集するだけではない。あなた達同年代の有機生命体から収集したデータとの比較検証も重要。そして私という端末が、より涼宮ハルヒやあなた達を理解するためにも重要なこと。そして理解することを、私という個体も望んでいる」

 

 俺はちょっとした感動を覚えていた。ハルヒを観察するためだけに作られただけの情報端末……であったはずの長門が、それ以外の人間に対して興味を示し、その上で理解したい、と、そう言っているんだ。こりゃ大した進歩じゃないか。お父さんは嬉しいぞ。

 

「つまり、お前が今理解できないなにかがあって、それを理解するために、俺の協力が必要……ってことなのか?」
「そう」

 

 古泉、というか機関とやらのお墨付きの一般ピーポォであるところの俺に、このスーパー宇宙人モドキに、教えられることなんかあるわけもないと思うんだが、それでも頼りにされるってのは悪くない。いや、嬉しい。正直に言おう、嬉しいぞ長門。
 今更言うまでもないが、俺はお前に助けられっぱなしだからな。朝倉の時も、ハルヒが閉じこもった時も、コンピ研の部長がカマドウマになっちまったときも……数え上げりゃキリがねえよ。
 そんな俺がお前に少しでも借りを返せるチャンスなんだからな。よし、なんでも聞いてくれ。応えられることなら、なんでも応えるぜ!

 

 そう胸を叩いてみせると、長門は例によってほんの少しだけアゴをひいてみせて、それから少し考えるような表情(といっても多分俺にしかわからんだろうが)をして、質問をまとめているようだった。

 

 数秒の間。その後で長門の抑揚のない声で発せられた質問は、俺をのけぞらせ、それからコタツにつっぷさせるに十分な威力を持っていた。

 
 

 ◆ 5 ◆ 

 
 

「ポニーテール萌えってなに?」

 

……長門さん……。長門、長門さんや。お前さん、どこでそんな言葉聞いてきたんだ。コンピ研か? あのオタクどもの巣窟で悪いインターネットに毒されたのか?

 

「違う。情報源はあなた」
……俺……?

 

「今から八日と4時間48分前、あなたと古泉一樹が行っていた会話に頻出したターム。また涼宮ハルヒが新しい空間世界を作り出そうとした時、あなたが涼宮ハルヒに言ったターム」

 

 俺は再びのけぞった後つっぷした。もののついでに額をコタツの天板に軽く打ち付けてみる。痛い。痛いが額よりもどういうわけかこう、心臓が痛い。
 長門は今、なんて言った? ポニーテール萌え? いやその後だ。古泉との会話、確かにそんな話をした覚えがある。長門が入ってきて、その後ハルヒと朝比奈さんが来て、で、その話は終わったんだ。

 

……まさか長門……部室前で聞いてたのか?

 

「その表現は正しくない。聞いていたわけではなく、聞こえてきただけ」

 

……というか……その前に、その、ハルヒとあの変態空間に閉じこめられたときのも……。

 

「あなたが涼宮ハルヒと粘膜接触を行う前後、今のこの世界と、情報の連結が断続的に回復していた。情報端末を介さずとも情報を収集することは可能」

 

 3回目だ。俺はあらん限りの背筋力を使って仰け反り、反動と腹筋力をつかって突っ伏し、コタツの天板に額を打ち付けた。湯飲みが数ミリ浮き上がって音を立てる。

 

「お茶、気をつけて」

 

 ううううう……なんということだ、古泉が察していたあたりで、予想していたとはいえ。あの……その、なんだ、アレを長門も知っていたのか。
 くぅっ……だが考えてみたら、白雪姫のヒントをくれたのは朝比奈(大)さん、Sleeping Beautyの方は……誰あろう、俺の目の前で、コタツの天板を台ふきんで拭いているコイツだったんだ……。

 

 迂闊だ。なんとも迂闊だ。
 っていうか長門、粘膜とか言うんじゃありません。粘膜とか。色々おかしな誤解を招きそうじゃないかっ。

 

「おかしな誤解ってなに?」
 なんでもない、ただの妄言だ。一時的にパニックになって言語的情報伝達に齟齬が発生しているだけだ。気にしないでくれ。っていうかあんまりもう、そのことには触れないでくれ。頼む。頼みます。お願いします。

 

 俺の渾身のヘッドバッドの衝撃で溢れたお茶を注ぎ直して、長門は再び、ちょこんと座っている。瞬きを数度、ミクロン単位で小首を傾げたようにも見えたが、きっと気のせいだろう。

 

「話の続きを」
 あ、ああ、そうだったな。って……続くのか……。
 俺は長門が新しく注いでくれたお茶を一口飲み、落ち着きを取り戻そうとした。ちょっと前までの「どんと来い!」な気分は、今頃南太平洋でシュモクザメにでも喰われている。さらば俺の「どんと来い!」。謹んで冥福をお祈りします。

 

「ポニーテール萌え。あなたと古泉一樹との会話の断片から、『萌え』とはある種の性的嗜好であることは理解した。ポニーテールとは、ある一定の長さの頭髪を、後頭部正中やや上方で結束した状態の俗称であることも理解している」
 誰か口に含んだお茶を吹き出さなかった俺を誉めてくれ。な、長門……せ、性的嗜好ってあのな……。

 

「そして、あなたがその性的嗜好の持ち主であり、並ならぬ執着を抱いている事も理解している。あなたの言葉を借りれば、ポニーテールは性的情熱と性的衝動の対象。性的興奮や性的情動を引き起こす対象」
 俺はこのまま天板と額が永久に剥離しないんじゃないかと思ったね。長門、頼むからあんまり、性的性的って繰り返さないでくれ。頼む。

 

「でもそれは事実。野球大会のときのこと。朝比奈みくるが涼宮ハルヒの手によって擬似的にポニーテール形態となったとき、あなたには無視できない性的情動反応が確認できた」

 

 もう、いっそ殺してくれ。
 焦点のあわせようもない近距離で、俺は天板の木目と睨めっこしながら、これは一体なんという拷問なんだと考えていた。
 いやむしろ、俺の記憶にないだけで、長門の親玉が求めているハルヒの滅茶苦茶な能力の秘密とやらを、俺が知っているんじゃないか、なんて考えていたりもした。だって白状しちまえば、この拷問から解放されるじゃないか。はははは。……なんで俺はその情報を知らないんだっ……。あーこの木目、いい仕事してるなー(絶賛現実逃避中)。

 

「それからもう一つ。三日と3時間12分前のこと」

 

 まだあるんですか長門さん。
 っていうか、もういいじゃないか! ポニーテール萌えってのは、ポニーテールに対する性的嗜好だよ! あーそうだよ! んでもって、お、俺はその性的嗜好の持ち主の異常性愛者だよっ……ううっ……お父さん、お母さん、妹よ……なんかもう先立つ不幸をお許しください……。

 

「違う。おちついて」

 

 落ち着けないわっ!

 

「聞いて。今、私に蓄積しているエラーは、ポニーテール萌えに対しての理解だけではない。エラーそのものは、三日と3時間13分前にあなたが発言した内容に起因する、私自身のこと」

 

……長門自身のこと? っていうか三日前って……なんだっけ?

 

 俺は天板から額を引きはがすと、天井を見上げ(とてもじゃないが長門と目を合わせられる精神状態じゃない)、記憶の引き出しをガタガタと引っかき回しはじめた。
 三日前っていうと……ストーブもらいに行ったときか。時間はえーと……4時半ちょい前くらいか?

 

 あのクソ寒い雨の日を思い出す。
 あ、そうだ長門。あのときはカーディガン、ありがとうな。

 

「いい。あのままでは、あなたが風邪を引くと思ったから。暖房器具があるとはいえ、気温・湿度ともに、睡眠に相応しい環境ではなかった。今後は改めるべき」

 

 う。ス、スマン。気をつけます……。

 

「その時の事。私があなたにカーディガンをかけようとすると、あなたが何度か発言していたタームがある。それが引き金となって、今、私の中にエラーを蓄積させている」

 

 繰り返し言ってたっつっても……俺は寝ていたんだろう?

 

「そう。あなたはREM睡眠状態にあった。その状態での発言、つまり寝言。いくつかのバリエーションを含みつつ、発言した回数は4回」
 えーと、俺はその、寝言で……なんて言ってやがりましたか?

 

 超弩級のイヤな予感。そうだな、喩えるならば朝倉にナイフを向けられて、その上身体が動かなくなった、あの時のような感覚に身を凍らせながら、俺は長門の応えを待った。

 

「長門、ポニーテールにしてみないか。長門、ポニーテール似合ってるぞ。長門、ポニーテール可愛いな。長門、ポニーテール触っていいか。以上。発声が不明瞭で判別しにくかった部分は音声波形を補完し、聴覚インターフェースから記憶した」

 
 

 ◆ 6 ◆ 

 
 

「…………」
「…………」
「…………」
「……(ずずーっ)……(コトン)……」

 

 ふう。お茶っておいしいよね。カテキンがたまらんよな。あーところで長門。どこか丈夫な枝のある木を知らないか? あと出来れば丈夫なロープも欲しいんだが。
 あ、そう、ないか。ああ、そんな顔しなくていいよ長門。冗談だから。うん。いや、割と本気だったんだけどね。あーいや、うん、冗談だよ。冗だ……ぬおおあおあおあおあおあおえおえあおえおああおいあいあおあおあおえおあーーーーーーーーッッ!!
 死なせてくれっ! 殺してくれっ! 長門! 今すぐ俺の情報連結とやらの解除申請をお前の親玉にしてくれっ! 跡形もなく消し去ってくれっ! それと遺言だっ! 頼むからその寝言の事は忘れてくれっ!
 短い付き合いだったが、お前には感謝してるぞ! あとのことは頼んだっ! シャミセンはお前に懐いているから、たまには遊びに来て可愛がってやってくれっ!!

 

「……おちついて」

 

 イメージ的には顔中の穴という穴から血を吹き出している俺を尻目に、長門は湯飲みを口にすると、ゆっくりと置いた。
 長門ぉ……勘弁してくれ……来月の小遣い入ったら、ココイチのカレー全部のせをおごるから……ライスも600gMAXまでいってかまわんから……。

 

「協力を要請しているのは私。報酬は必要ない……でもカレーは食べたい。おごらなくていいから連れて行って。約束」

 

 うう、なんでお前、嬉しそうなんだ。いや、そっか、カレー好きだもんな……。俺はもうズタボロだよ……ズタボロ雑巾だよ……こぼした牛乳を拭いて放置されて四日目くらいのズタボロ雑巾だよ……。

 

「それは洗濯するか、廃棄すべき」
 ううっ……割と冷たいのな……。

 

「……今のは冗談。でも、本題はここから」
 まだなんかあるんでしゅか……。

 

「ある。私の記憶上では、あなたにポニーテール形態の頭髪を見せた事はないはず。むしろ、私の頭髪の長さではポニーテール形態結束をすることは不可能。また私の頭髪は生み出されてから3年間、気圧や湿度などによる膨張や収縮以外には変化していない」
……ああ、やっぱり伸びないのか、お前の髪は。

 

「それは正確な表現ではない。私を構成する体組織は、基本的にはあなた達有機生命体のそれを模倣して構成されている。頭髪も同じこと、代謝活動ルーチンの中で毛髪を伸長することは可能。ただし、私はこの外見的形状を維持する為に、毛髪の代謝活動を停止させている。それだけのこと」

 

 話の流れが変わって、イメージ上の七孔噴血を止めた俺は、長門の説明に聞き入っていた。いつぞやの疑問に対する明確な回答だ。なるほどね。やっぱりコイツは宇宙人的なアレでナニしていたわけか。
 しかし長門、じゃあお前も髪型を変えようと思えば変えられるわけか。

 

「可能。でも、その必要性をこれまでは感じなかった」
……まぁ実際のところ、あんま気をつかってない俺でも定期的に床屋いってるしな。あれはあれで面倒っていやあ面倒なもんなんだよな。俺は相槌を打ちながら、ふと長門の発言にひっかかりを感じた。

 

 これまでは?

 

 じゃあなにか、今のこいつはヘアスタイルを変えようとか考えているってわけか? へぇ! お前も洒落っ気がでてきたってわけか! ハルヒに編まれたり結われたりと色々髪の毛をいじられてる朝比奈さんの影響かな?

 

「半分」
 ん? なにがだ?

 

「あなたの解釈は、半分正しく、半分は正しくない」
 どういうことだ?

 

「私が頭髪の形状を変更しようと思ったのは、あなたの発言があったから。涼宮ハルヒの観察において、その外見変更は必要ではない。それに有機生命体の頭髪伸長は極めて緩やか。私が自分の頭髪に急激な変更を加えて、それが周囲の目に触れれば、多くの者は私の外見変化に異常性を感じると推測できる」
 うん、まぁそりゃあ突然髪型かわってたら驚くよな。まぁ時々あるんだがさ、休みが開けたらパーマかけてた、とか、髪の色が変わってた、とか、髪が無くなってた……とか。

 

「でも、急激に頭髪が伸長することはありえない」
 んーまぁ確かにそうかな。カツラっつーかウイッグとかエクステンションとかもあるっちゃあるけど、長門が突然そうするってのは、ちょっと考えつかんよな。お前の正体を知らないヤツらにとっては特にさ。

 

「そう。だから、あなたにだけ見せたいと思う」
……ほーそりゃ、ありがたい。珍しいものが見られるわけだな。

 
 

……って、なんですと? 長門、今お前なんていった?

 
 

「私の髪型の変化を、あなたにだけ見せたいと思う」
……なんで?

 

「8日前以降にあなたの性的嗜好を理解した私は、3日前のあなたの発言を受けて、エラーが蓄積された。それはあなたの欲求に応えたいという、私の欲求。あなたがREM睡眠時に描いた、想像上の私の髪型を実現したいという欲求。情報統合思念体の端末としてではなく、私という個体の欲求。それが今、私の中にあるエラー」
……えーと……?

 

「だから私は、あなたの前で頭髪を変化させてポニーテール形状結束を行い、それをあなたに見せたいと思う。それが私の見せたかったもの」
……もしもーし?

 

「その上で、あなたに触れさせて、あなたの好意的評価を得る事で、私のエラーを経験的に処理したいと思う。それにはあなたの協力が必要」
……長門さん?

 

「協力の、許可を」
「……」
「……」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ考えをまとめっから」

 

 俺は驚いていた。いや、そりゃ驚くってもんだ。同じ部室でいつも本を読んでいた宇宙人モドキの長門。谷口にいわせりゃAマイナーだっけか? そんな美少女の長門。
 それが俺の「ポニーテール萌え」なんていう属性を気にして、いつぞやの妄想幻視が後を引いたんだろうな、俺自身は覚えちゃいないが、夢にまでみた「ポニーテールの長門」に対する文字通りの寝言を気にして、それを見せたいって言ってるわけだ。

 

 しかも自宅に呼び出して、俺のために、俺だけに。
 目の前に座っている、長門が。

 

「……」

 

 今の三点リーダーは長門の沈黙だ。
……? お前、ひょっとして……なんかこう、照れてんのか? いや、なんでもない。気のせいだよな?

 

 よし、俺落ち着けー。落ち着け俺。
 そりゃ俺はポニーテール萌え野郎だ。ポニーテールの可愛い女子を見れば癒されたり盛り上がったりする。性的嗜好っていうか、まぁその、なんだ。好み、だよな。うん。
 で、長門がそれを見せてくれるっていう。

 

……これは、その、喜ぶべきなんだろうか? いや、多分そうなんだろう。絶対そうだ。
 長門がどんな感情(?)で、こんなことを考え出して、こんな風にエラーを抱え込んで、こんな結論に至ったのかはわからん。
 わからんが、考えようによっては、これはかなり男冥利につきるし、ポニテ萌え冥利に尽きるってなもんじゃないだろうか。

 

 長門のポニテが見たいかって? そりゃ見たいよ。
 俺の妄想の中じゃ、そりゃあ似合ってたんだ。谷口評価のAマイナー?
 ポニテの長門だったら、そんなもん、あっつー間に覆すね。
 確か朝倉がAA+だっけか? 俺的には間違いなく対抗馬として踊りでる(というか朝倉は銃刀法違反に俺殺人未遂で激しく減点だしな)。

 

 よし、心は決まった。イチポニテ萌えスト(?)として、俺は長門の覚悟を酌もうじゃないか。
 他の連中に見られるとヤバいから、今だけなんだろ?

 

「そう」
 うん、じゃ話は決まった。とっくり、しっかりと拝ませてもらうぜ長門!

 
 

 ◆ 7 ◆ 

 
 

 結論から言おう。

 

 長門のポニーテール姿は、そりゃあ可愛かった。
 正直、俺の脳内妄想なんかで描いた姿なんぞ比較になんかなりゃしなかったね! あれほどの破壊力を秘めたポニテは、なかなかないぜ。俺が保証する。

 

 ただ、ポニテになった長門をぼーっと見つめてた俺に、長門はちょっと困っていたようだった。いや、またその表情が、な。多分俺にしかわからない表情だろうけど。

 

「……さわる?」

 

 とかいわれて、心臓がおかしくなるかと思ったぜ。

 

 え? そりゃもちろん触らせていただいたさ。本人のオススメだし了承つきだしな。
 軽くて、ハリがあって……。
 そうそう、意外だったことに、髪を伸ばした長門は、少しくせ毛だったんだ。だからポニーテールに結わえた毛先が、すこし散らばっていて、それがまた妙に俺のポニテ心を刺激して……。
 背中側からポニテをつついたり、つまんだり、くるくるしたりして楽しませてもらったんだが、そういえば、なんかポニテ越しに見える長門の耳が、どんどん赤くなっていたような気がしたんだよな。あれはなんだったんだろうね?

 

 まぁ最後は長門も飽きたのか

 

「……おしまい」

 

 って言って、いつものショートカットに戻っちまったわけだが。時間も時間だったしな。たっぷり2時間はポニテ長門を堪能させてもらったと思う。いやはや、眼福眼福。

 

 マンションのエントランスで、俺を見送る長門の表情が、少しこう……名残惜しそうというか、ちょっと赤かったような……なんていうのは、多分俺の錯覚だろう。

 
 
 

 さて、今、俺の隣には長門がいる。もちろんいつものショートカット姿で、だ。

 

 どういう風の吹き回しかしらんが、SOS団恒例の市内パトロール当日になって、古泉も朝比奈さんも、こともあろうか呼び出した張本人のハルヒまでもが、急用で来られなくなってしまったのだ。
 待ち合わせ場所に15分前に着いた俺は、それぞれからケータイに連絡を受けて、既に集合場所に来ていた長門と2人で途方に暮れていたんだが、このまま帰るのもアレってことで、あの夜の約束を果たそうってことになったわけだ。

 

 そんなわけで今、俺たちはココイチに向かっている。恒例の遅刻罰金に備えて、幾ばくか財布の重量を加算してきた俺にとって、ココイチのカレーを御馳走するくらい、どうということもない。
 や、いつも世話になってるからな。ほんの礼だよ。あ、でもフルトッピングはさすがにカンベンしてくれよな。お手柔らかに頼むぜ、長門。

 

 昼飯にはまだ早かったから、ついでに繁華街のショップを覗いて、俺はちょっとした買い物をした。
 レジから戻ると、ファンシーな雑貨が陳列された棚を興味深そうに見ている小柄な宇宙人の後頭部に、ふと幻視が揺れる。

 

 あの夜、俺だけがみた長門のポニーテール。

 

 きっとあのコズミックポニーテールには、この淡いブルーのリボンが反則級に似合うと思うんだ。
 いつかまた長門にエラーを起こしたときに、これもって駆けつけるからさ。

 
 

「……はずかしいから、当分おあずけ」

 
 

 ん? 長門、なんかいったか?

 
 

「……なんでもない」

 
 

<了>

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:19 (3090d)