作品

概要

作者名無しさん
作品名青いベンチ 〜アナザーストーリー〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-20 (火) 19:13:37

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 俺は長門のことが好きだ。

 

 気がつけば簡単なことだった。
 身を挺して俺を守ってくれた長門。
 何も出来ない、ちっぽけな俺を信頼してくれた長門。
 そんな長門を心から信頼していたし、それだけじゃなかったんだ。

 

 今すぐこの気持ちを伝えたかった。俺はお前を愛している。
 あいつの思いを知りたかった。お前は本当に幸せだったのか?
 あいつの痛みを知りたかった。あの小さな双肩に、どれほど重い物を担っていたんだ?

 

 しかし既に事は遅すぎて。
 俺はただ、独りで泣くしか出来なかった。

 
 

 長門が居なくても時は過ぎていく。
 特に何をすることもなくだらだらと毎日を過ごしていたある日、懐かしい奴から電話があった。

 

『もしもし。キョンの携帯、でいいのかしら?』
「ああ、電話を掛けてくるのは久しぶりだなハルヒ」
『よかったわ。番号変わっていたらどうしようかと思ってたのよ』
 こいつの声を聞いていると高校時代を思い出す。
 あの頃は5人で馬鹿なことをいっぱいした。
 孤島や雪山に行った。映画を撮った。小説も書いた。夏休みはどうやら600年近かったらしい。
 日々が楽しかったのは、色々やっていたからってだけじゃない。
 今はもう会えない小柄な少女を思い出し、不意に胸が締め付けられた。

 

「それで、何の用だ? 俺だってそれなりに忙しいんだ。用が無いなら切るぞ」
 本当は、当時と調子の変わらないハルヒの声を聞くのが辛かった。
『もちろん用はあるわよ。ねえキョン、タイプカプセルを埋めたのって覚えてる?』
 タイムカプセル。そういえばそんな物を埋めたこともあった。
 5年おきに20年先まで手紙を書かされたんだよな。
 これといって書くことも思いつかず、「元気でやってるか?」とか「出世はしたか?」とか
 当たり障りがないが、中身もなく下らない内容で便箋を埋めた覚えがある。
『覚えてるのなら話は早いわ。それの5年目が、なんと明日なの!
 だから明日は久しぶりに駅前に9時に集合ね。遅れたら罰金だから!』
「……そうか。まあ大丈夫だ、行くよ」
『あったりまえじゃないの。来ない、なんて言わせるつもりはないわ』
 ふと、タイムカプセルを埋めた時のハルヒの言葉が蘇る。

 

「これから5年おきの今日には絶対に皆で集まること。いいわね?
 来れないなんて言い出したら、例え海外に居ようと宇宙に居ようと
 探し出して引っ張って行くから覚悟しておきなさい」

 

 だがなハルヒ。朝比奈さんは未来から来れるとしても、それでも4人しか集まれないんだ。
「大丈夫だ、俺は行くから安心しろ」

 

 電話を切った後、俺はまた泣いた。

 
 

 翌日は雲ひとつ無い晴れだった。
 長門の居ない現実を突きつけられる悲しさはあるが、久しぶりの団活が楽しみでもあるのも確かだ。

 

 いつの間にか乗らなくなった自転車に替わり、バイクに跨り駅前を目指す。
 このペースだと20分前には到着するが、どうせ俺が最後で奢らされるんだろう。
「やれやれ」
 不意に口から出た言葉は懐かしい文句だった。

 

 駐輪場にバイクを停め、駅前に居る『4人の』集団を見て、時が止まった。
 今の俺は馬鹿みたいに口を開けているかもしれない。

 

 ハルヒが居る。
 胸くらいまで伸びた黒髪にリボンは無くなっていて、大人の女性って感じがする。
 俺を見つけると、100ワットの笑顔を向けてきた。久々で眩しいぜ。

 

 ――そうじゃない。

 

 古泉が居る。
 これから穴掘りに行くっていうのにスーツでいるのは、多分後で仕事があるんだろう。
 相変わらずのニヤケ具合だが、それが様になってるのは心の底から笑っているからか。

 

 ――古泉なんかどうでもいい。

 

 朝比奈さんがいる。
 昔見た朝比奈さん(大)にそっくりだ。その姿は地球人類の半分を虜にする為に産まれてきた様にも見える。
 道行く男共のなかには、振り返って見てる奴までいる。例外なく古泉を見て落ち込んでるが。

 

 ――違うだろ。お前が驚いたのはそこじゃない。

 

 長門がいる。
 身長は少し伸びただろうか、それでもまだ小柄である。髪型は相変わらずのショートカット。
 白いワンピースは丈が短く――こういうのはチュニックっていうんだっけか――黒いパンツに合っている。
 そいつは俺に気づき、嬉しそうな表情で小さく顎を引いた。

 

 気がつけば、俺は信号が変わるのも待ちきれずに走り出していた。

 
 

「よう、久しぶりだな」
「何よキョン、驚いたと思ったら急にニヤニヤしながら走り出して。そんなに早く有希に会いたかったの?」
 挨拶もなしに、ハルヒはニヤニヤしながら問うて来た。
 お前だってニヤニヤしてるじゃないか、とは言わない。それを言う時間すらもったい。
 この小柄な女性は長門でいいのか。ハルヒは有希と言ったが、本人に確かめたいんだ。

 

「長門、でいいんだよな?」
 問いかける声が震えている。声だけじゃない。体全体が震えている。
「いい。……ずっとあなたに会いたかった」
 抑揚の無い声。無表情に浮かぶ僅かな感情。全てが記憶どおりの長門で、
「俺もお前に会いたかった」
 人前だとかそんなのは関係なく、長門を抱きしめた。

 

 ハルヒと古泉はいたずらを思いついた子供みたいな顔で見ている。朝比奈さんは可愛らしい顔を真っ赤にしている。
 それだけじゃない。名前も知らない道行く人達も皆、俺と長門を見ている。
 気にするもんか。それよりも伝えたいことがあるんだから。

 

 ひとつ咳払いをし、長門の瞳を見据えて言った。
「おかえり、長門。――俺、お前が大好きだ」
 長門はかすかに目を見開く。白皙が朱にそまっている様にも見える。
「わたしも。あなたがすき」
 そうして長門に口付けをした。

 

 歓声どころか、拍手まで沸きあがる。
 ハルヒも古泉も朝比奈さんも、それどころか知らない人達までも、皆が俺と長門を祝福している気がした。

 
 

 その後は馴染みだった喫茶店で軽く食事をした。未だに営業しているのが嬉しい。
 一番遅かった俺のおごりだったが、まあいい。その方がSOS団らしいからな。

 

 そして今、俺は長門と2人で座っている。先に店を出て行った3人の心遣いに感謝だ。
 長門が居るのはこの上なく嬉しいが、聞かなければならないことがふたつあった。

 

「なあ長門。どうして戻って来れたんだ?」
 言うまでもないが、長門が居るのが嫌だってことじゃない。
 長門はその黒い瞳で、俺をじっと見据えながら、
「原因は涼宮ハルヒ」
 またハルヒか。しかし今のハルヒにはなんの力もないんだろ?
 だから長門は帰らざるを得なくなったんだ。
「そう。この時間平面上の涼宮ハルヒには何の力もなく、情報統合思念体も興味を持っていない。
 原因はこの時間平面上の涼宮ハルヒではなく、5年前の涼宮ハルヒ」

 

『これから5年おきの今日には絶対に皆で集まること。いいわね?
 来れないなんて言い出したら、例え海外に居ようと宇宙に居ようと
 探し出して引っ張って行くから覚悟しておきなさい』

 

 くそ。そういうことかよ。
 なあ古泉。お前昔ハルヒが神かもしれないと言っていたよな。……俺もそう思うぜ。

 

「なるほどな。5年前のハルヒが望んだから、お前は戻ってこれたのか」
 長門の髪が揺れた。頷いたんだろう。
 だが、ハルヒの望みはこの日に皆が集まることだとしたら、それは今日限りなんじゃないか?
「それは違う」
「今日限りじゃないってことか」
「そう」
 長門は続ける。
「情報統合思念体はこの事実に驚愕している。最初はわたしの情報連結の解除を試みたものも居た。しかしそれは成功しなかった。
 そこで情報統合思念体はひとつの任務を私に与えた。内容はこの惑星で有機生命体として生活し、報告すること」
 長門にしては分かりやすい説明だ。
「つまり、今度はずっと居られるってことか?」
 長門は誰にでも分かる程度に力強く頷いた。そして
「あなたとずっと一緒」
 いつか見た、改変された世界と同じように微笑んだ。

 

 そうさ。これからはずっと一緒だ。もし長門が嫌だと言っても、この手は離さないからな。
 俺は長門の手を取り、会計を済ませて店を出た。

 

 さあ、まずはタイムカプセルを掘り出しに行こう。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:18 (2781d)