作品

概要

作者名無しさん
作品名青いベンチ 〜長門視点〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-20 (火) 19:06:09

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

高校生活最後の年、三年生になったわたしは
現在SOS団本部となっている文芸部室で、彼に想いを告げた。

 

この時すでに、自分が今後どうなっていくのか、
なんとなくではあるが予感していた。
いずれ間違いなく訪れる、涼宮ハルヒの能力消失。
観測者として生み出されたわたしは、観測意義を失うとともに存在意義も失う。
そしてその日が、そう遠くないということも。

 

焦りや不安は無かった。わたしが誕生した瞬間から運命付けられていた既定事項。
ただ、何も残さずに消えていくこといやだった。
何かしていたかった。
ふと思い出される"彼"の顔。
せめて最後の時までに、もう少し彼と過ごしていたい。
今ははっきりと、自分の感情を自覚できていた。

 

彼は戸惑っていたようだった。
わたしからの告白を受けることが予想外だったのだろう。
しばらく困ったような照れたような顔をしていたが、
結果的に承諾してくれた。と思う。

 

うれしかった。

 

付き合うようになったといっても、
今までより一緒にいる時間が増えたという程度で
進展といえば、ようやく手をつないだくらいのものだったが
わたしといる彼は終始優しい顔をしてくれていた。
わたしを大事にしてくれていた。
多分彼は、自分がそんな表情をしていたとは思っていないのだろう。
そういう人だったから。
手をつなぐ以上のことがあったわけではなかったけれど、
二人で過ごすたわいも無い時間が
何よりも大切な思い出になっていった。

 

しあわせだった。

 
 

ゆるやかに月日は過ぎて、
高校を卒業するその日に。
その日に。その時は来た。

 
 
 

涼宮ハルヒの能力が完全に消失。
同時に、わたし自身の任務と情報連結解除。
覚悟などとうの昔にできていた。
だが、いざその時がきたとなると急に、わたしの意志が覚悟に抵抗をし始める。
何をいまさら。抵抗しようがしまいが同じこと。
この決定はわたしの意思に一切左右されない。
自分に言い聞かせて、落ち着かせる。
問題ない。
わたしは彼を文芸部室に呼び出し、告げた。
彼は目を見開いて、しばらく呆然としていた。
信じられない、という顔。

 

「何でお前の親玉はお前を消去するんだ!?
今までどおりじゃだめなのか!?」
私は涼宮ハルヒの観測のために生み出され、
その目的の為だけに今まで存在を永らえさせてきた。
観測対象に観測する意味がなくなれば、私自身にも存在し続ける意味は無い。
今日この時までの、仮初の命。それだけのこと。
でも、
「……お前の生きる意味は俺じゃだめなのか!?
 お前は消去されたくないだろ!?」
されたくない。
もっとあなたと話をしていたい。
あなたと一緒にいたい。
あなたのために、生きていたい。
でももう、終わり。
「情報統合思念体が決めたことは絶対。私の意思は意味を成さない」

 

いつの間にか視線が床に落ち、俯く。
彼は何も言わない。
窓の外では、卒業式の後の予定を話す
生徒達の声が響いている。
あれからいろんなことがあった。

 

わたしは彼から、たくさんのものを貰った。
感情の無かったわたしに芽生えた心。思い出。
貰ってばかりだった。
わたしは彼に、何かを残すことができただろうか。
彼の中に、わたしは残っているのだろうか。

 
 

「長門!お前……」
彼が声を上げる。
みると、わたしの足もとから、情報連結の解除が開始されていた。
砂のように消えていくわたしのからだ。
わたしが消えても、有機生命体でいうところの死ぬというわけではない。
わたしはわたしという個を失い、統合思念体という全に戻る。
ただ、あなたのことを考えることは、わたしにはできなくなる。
最後に彼に伝えておくこと。
何を言うのかは、決めてあった。
もう一度、彼との記憶を思い出す。
うれしかった。しあわせだった。
たくさんの思い出をくれたあなたに、
いまは感謝の言葉しか、出てこない。
だから、
「いままでありがとう」
彼は再び、驚いた顔でわたしを見つめている。
わたしもまた、彼の顔を見つめている。
繰り返し繰り返し、わたしの名前を呼び続けながら、
彼は涙を流していた。
彼は、やはり自分が泣いていることに気づいていないようだけど。
それが彼の中にあるわたしの証明だと思うから、
わたしは彼の涙を抱いていこう。

 
 

わたしが消えても、世界は続いていく。
そこには涼宮ハルヒも古泉一樹も、時代は異なるけれど朝比奈みくるもいる。
わたしはもう、あなたの為に何もすることができないけど、
あなたの中にきっと、わたしは残っているから。
だからどうか、

 
 

どうか、幸 せ に … 

 
 
 

                    おしまい

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:18 (2710d)