作品

概要

作者長門さん@お腹いっぱい。
作品名青いベンチ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-20 (火) 18:45:45

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

原曲 青いベンチ/サスケ

 

朝。
俺は布団から起き上がると、今朝の夢を思い出していた。
俺――ハルヒ――朝比奈さん――古泉――そして長門。
高校1年生から卒業までにあった出来事を、俺の夢がリプレイのように
思い出させてくれた。
あれから3年――。今俺は21歳のフリーターだが、
高校卒業から今まで毎日適当に過ごしてきた。
おそらくこれから先もだろう。
高校生活の記憶をなくすほど忙しいということはなく、むしろ
高校生に戻りたいほど今は何の面白みもない日常なのだが、
それでも思い出せるのは大まかなことだけだった。
その記憶は夢により今朝よみがえり、あのときの自分と今こうしている自分を比べると
何か妙な感覚が俺の全身に広がり、それは息を吐くと一緒に出ていくような、
そんな弱々しいものだった。
しかしなぜ今日に限ってあのころの出来事が夢に出てきたのだろうか。
そんなことを思いながら新聞を取りに玄関へ向かった。

 

もしかしたら俺には予知夢能力があるのかもしれない。
新聞と一緒に数枚のチラシなどが郵便受けに入っていたのだが、
その中の封筒が俺の目を惹いた。

 

「北高3年5組クラス会のお知らせ」

 

俺は再度高校生活を1から思い返してみた。
といっても思い出せるのはSOS団活動や団員たちのことで、
SOS団の活動内容は今では苦笑ものではあったが、
その中には俺がいて――いや俺もいて、一緒に馬鹿をして楽しんでいた、ということくらいだ。
そのSOS団の団員(朝比奈さん除く)は3年に進級したときにまた同じクラス、
3年5組になったから、そいつらとは同窓会で再開することが出来るわけで、
もちろんその再開が嫌なわけではなく、俺は同窓会の手紙が来てからずっと
それを楽しみにしていた。

 

俺はカレンダーに「同窓会まであと○日」と
まるで修学旅行を楽しみにしている中学生のように日数を書き込んでいたが、
その数字は今、1になっている。
いよいよ明日か。
俺は午後10時を差している時計を見て、
クラス会の案内を開き、内容を確認した。
今日まで何度も見ていて、内容は全部覚えていたのだが、
もう一度見ずにはいられなかった。

 

案内を大体読み終わり、寝る前に空気を入れ替えようと窓を開けると、
外ではいつのまにか粉雪が舞っていた。
「……長門」

 

「お前は来るのか?長門」
気づけば俺は粉雪に向かって問いかけていた。
落ちてくる雪を見て、あの文芸部員、長門有希を思い出したのだ。
俺は窓を開けたままベッドに腰掛け、時折部屋の中へ入ってくる雪を見ながら
長門のことを思い返した。
高校3年の時、文芸部室で長門に告白されたこと。
俺はあいまいな返事をしたが、
それからは休日に長門と出かける事が増えた。
あの川沿いの並木道で手をつないで歩くこともあった。
俺にとって長門は恋人というより良き親友という感じだった。あのときは。
少し思い出し始めると長門との思い出が次々とよみがえり、
記憶の時間は高校卒業まで進んでいった。
高校卒業――。
俺は俺の中で封印していた思い出の封を解くかどうか一瞬迷い、迷ったがそのまま封を解いた。

 

あの日、俺は長門に文芸部室に呼び出され、
「涼宮ハルヒは卒業と同時に一切の能力を失った」
という衝撃の事実を伝えられた。
と同時に、それにより情報統合……何とかは観測対象がいなくなったことで
長門を消去することに決めたということも教えられた。

 

「何でお前の親玉はお前を消去するんだ!?
今までどおりじゃだめなのか!?」
「私は涼宮ハルヒの観測のために生み出された。
観測対象がいなくなれば私の存在意味はない。」
「……お前の生きる意味は俺じゃだめなのか!?
お前は消去されたくないだろ!?」
「情報統合思念体が決めたことは絶対。私の意思は意味を成さない」

 

長門はそのまま俯き、あの時の俺はもうそれ以上何もいえなかった。
ただ長門が消える、その現実を受け止めることしか出来なかった。
俺は長門の足元へ視線を落とした。
外の奴らの騒々しい雑音など耳に入らず、
ただしばらくそうしていると、俺はある異変に気がついた。

 

「長門!お前……」
長門の足が、あのときの朝倉のように砂とも分からぬものになり
消えていっているではないか。
俺が長門を見ると、長門はゆっくり顔を上げ、俺に最後の言葉を発した。
「いままでありがとう」
長門の瞳から雫が出て、頬を伝い床に落ちた。
初めての長門の涙だったが、俺は消えていく長門に
「長門!」と繰り返し叫ぶことしか出来なかった。
北高卒業式の日、長門有希はこの世から消えていなくなった。

 

気がつけば朝になっていた。
俺の顔には涙の跡があり、それは俺が
気づかぬうちに泣いていたということを表していた。ただ、
目は覚めても起きる気にはなれず一時間ほど横になっていたが、
同窓会の開始時間が迫ってきたために、俺は準備をし、家を出た。

 

思ったより早く目的地についてしまったので、
俺は懐かしい地を適当にぶらぶらしていた。
ハルヒが高校一年の秋、桜を満開にしてしまった並木道、
朝比奈さんの未来人告白を聞いたベンチ――。
懐かしい場所を回っていると俺はいつのまにか駅前に来ていた。
――長門と出かけるときはいつもこの駅を待ち合わせ場所にしていたな……。
そんなことを思いつつ、だがそれはSOS団不思議探索の待ち合わせ回数よりはるかに多かったことを思い出させた。
……長門。
気がつけば俺はいるはずのない長門の姿を探し駅前を彷徨っていた。

 

同窓会にはハルヒ、古泉、谷口や国木田、
その他もろもろが集まっていた。
今日までずっと楽しみにしていたはずだが、
大人になった元同級生に興味はなくなっていた。
むしろここでも俺は長門を探していた。
卒業式の日、長門が消えたのは分かっている。
でもきっといる。長門はきっとここにいる。
――長門……長門!
俺は同窓会が終わるまで長門を探し続けた。
「久しぶりねキョン!あんたあんまり変わってないわね〜。ところで最近どう?」
ハルヒが今の俺の事を聞きたがり、俺がしかたなくハルヒの質問に答えたり
近況を話したりしている時でも俺の目は長門を探していた。
変わらないハンサムフェイスの古泉のくだらん話には耳も傾けず、
絶えず長門を探したが、どこにも長門はいなかった。

 

あっというまに同窓会が終わった。
時刻は夜九時、二次会に参加せず俺は帰宅の路についていた。
同窓会が終わって振り返れば、俺は存在しない記憶の中の長門を探してばかりで、大人になったクラスメイトと話していなかった。
何のために出席したんだろうかと思うが、
そんなことよりも俺は長門がいないという現実に胸を締め付けられる。
心を落ち着けるために、深呼吸をし夜空を見上げ、なぜ俺は長門を探しているのか、そう考えた時、やっと気づいた。
長門が好きだという気持ちに。

 

俺は長門に告白されたとき、長門に恋愛感情は抱いていなかったのか?
いいや違う、俺は怖かったんだ。
今の関係が崩れることが。長門に近づくことが。
だが今ははっきりと言える。
俺は長門が好きだ。
俺は長門がいなくなってからしか素直になれない大バカ野郎だ。
現に俺は長門に一度も好きだと言っていなかった。
長門に与えられるばかりで俺は何も与えてあげられなかった。
あの雪のような、触れれば消えるような儚い少女に何もできなかった。
だからこそ今長門に会って言いたかった。
「俺は長門のことが好きだ」と。

 
 
 

この声が枯れるくらいに
君に好きと言えばよかった
会いたくて仕方なかった
どこにいても何をしてても

この声が枯れるくらいに
君に好きと言えばよかった
もう二度と戻らない恋
痛みだけがちょっと動いた

 
 

fin.

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:18 (2704d)