作品

概要

作者ID:g5hsdrE6
作品名やけどのなおしかた
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-17 (土) 01:03:34

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 昼休み。
 普段なら谷口、国木田と共にどうでもいい話をしながら過ごすこの時間に
 俺は弁当を引っ提げて文芸部室へと足を運んでいた。

 

 昼休みでも、やはりこの部屋の主である文芸宇宙人は
 長机の隅っこの椅子にちょこんと鎮座しながら読書に励んでいる。
 その姿を見ていると心が安らぐのは、俺が長門を信頼しているからなんだろう。
 長門がハルヒなり朝比奈さんなりがする様なことをしていたら、間違いなく不安になる。

 

「長門、ここで飯食ってもいいか?」
 本に視線を落としたまま、ミリ単位で頷く長門。
 谷口や国木田と、馬鹿な話をしながら過ごす昼休みもいいが
 こうやって長門を見ながら昼食を取るのもオツなもんだ。
 昼休みには定期的に足を運ぶようにするのもアリかもしれない。

 

 しかし、放課後の文芸部室では朝比奈さんが直々にお茶を淹れて下さるせいか
 この部屋に居るのにお茶が無いってのには違和感を覚える。飯を食ってるせいもあるな。
 まあ、幸いにもこの部室にはお茶を入れるセットがある。
「長門、お茶飲むか?」
 先程と同じ動作で肯定。長門の所望でもあるし、淹れようかね。

 
 

 俺が普段この部屋でする事といえば
 ハルヒの思い付きに常識的ツッコミを入れ、古泉を盤上で痛めつける位で、
「熱ちっ」
 慣れない事をするもんじゃない。指先が熱湯の入った急須に触れてしまった。これは火傷になったかもしれない。
 ふと思い立って耳たぶを触れてみるが、当然効果なんて無い。

 

 マヌケな声を出し、マヌケな格好をしていたからか
「…………」
 長門がどうしたのかと問いたげな視線を投げてきた。
「漫画なんかだと、火傷すると耳たぶ触るシーンがあってだな。
 体の中で一番体温が低い所だから、らしいんだが、やっぱり効果は無い」
「……そう」
 長門はそれで納得し、漬物石にも使えそうなハードカバーの攻略に――戻らなかった。
 俺の自惚れかもしれないが、長門の表情には心配の色が浮かんでいる様にも見える。

 

「治す?」
「出来るのか?」
「可能。指をだして」
 右手の人差し指を出す。急須に触れた指先が赤くなっているな。軽度の火傷って所か。

 

 長門は差し出された俺の指に、躊躇無しにかぷりと噛み付いてきた。
 ああ、長門の治療ってのはやっぱりこの方法なんだよな。
 宇宙的パワーを持ったナノマシンの注入による治療のはずなんだが
 さっきから指先が長門の舌に触れているのが気になって仕方が無い。
 傍から見れば長門が俺の指を吸っているようにも――いや、考えるな。何も考えちゃ駄目だ。

 

 どこか妖美な時間は終わり、長門が口を離す。物足りないと思ったのは秘密だ。
「細胞再生促進用ナノマシンを注入した」
 見れば指先はどんどんと肌色に戻っていき、痛みも痒みも無くなっていた。
「ありがとな、長門」
「……いい」
 俺の為に言っておくが、治療に対する純粋な感謝しかありませんよ?

 
 

 そんな事があった今日は、既に21時を回っている。
 1日の残りの時間を、長門に感化されて始めた読書で過ごしていると、携帯が長門からの電話を着信した。

 

「もしもし、長門か? どうした?」
『……来て』
 電話はそれだけで切れてしまった。
 これが長門じゃなければいたずら電話の類になりそうだ。
 いたずら電話みたいな呼び出しでも、それが長門からであれば俺が断る理由は微塵も存在しない。

 

「キョンくん、どこいくのー?」
「ちょっと友達に用事が出来たんだ」
 なんて会話を妹と交わし、俺は自転車に乗って駆け出した。
 何があったのかは分からんが、待ってろよ長門。すぐに着くからな。

 
 

 長門のマンションに到着し、自転車は適当に駐輪場に停めた。
 高級そうなこのマンションに自転車は合わない気もするが、大した問題じゃない。

 

 インターフォンで708号室を呼び出す。
 慣れたもので、目を瞑っていても長門の部屋を呼び出せる自信がある。
「長門、俺だ」
『入って』
 という、これまたいたずらみたいなやり取りでオートロックが開錠される。
 後はエレベータで7階まで上がるだけだ。

 

 そうして長門の部屋へとやって来たのだが、到着した俺を待っていたのは
『あがって』
 という言葉でも、それを意図したアイコンタクトでもなく
「あの、長門さん?」
 俺の耳たぶを掴む長門であった。

 

「火傷をした。あなたが、火傷をした時には耳たぶを触ると言った」
 長門の小さな頭が近くにあり、風呂上りなのかシャンプーの甘い香りがする。
「それは効果が無かっただろ。しかも何で俺の耳たぶなんだ」
 そもそも、長門ならナノマシンだとか再構成だとかで治せるんじゃないか。
「……迂闊」
 迂闊と言いながら、長門は手を離そうとしない。
 心なしか長門の瞳は輝いていて、何処か楽しそうに見える。

 

 最近の長門は普通の女の子に近づいている。
 もしかしたら夜中に一人で居るのが寂しかったのかもしれない。
 俺も暇をしてたし、たまにはこんなのも良い。

 

 ――さて、今日の残りを、この小柄な宇宙人とどうやって過ごそうか。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:17 (1952d)