作品

概要

作者ID:g5hsdrE6
作品名無題1
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-15 (木) 20:53:47

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 サンタクロースを信じていなかった俺だが、だからといって好奇心を失っていたわけではない。
 今でも人並みの好奇心は持っていると思っているし、確認のしようは無いが、恐らくそうだろう。
 そして、その好奇心によって危険地帯に突入し、地雷を踏んでしまう事もある。

 

 地雷は地雷だった。
 が、嬉しくはなかったかと聞かれたら、イエスと答えるしかない。

 
 

 特筆することも無い、いつもの日常。
 変化がなさすぎて、そろそろハルヒが何か言い出さないか不安を覚える程度にいつも通りだ。

 

 授業が終わり、突拍子もないハルヒの思いつきに対する大きな不安と
 それを何処か楽しみにしているひとつまみ程度の淡い期待を持って文芸部室へと足を運ぶ。
 勿論、部室に入る前にノックを忘れてはいけない。
 朝比奈さんの着替えを見てしまうのは嬉しいアクシデントだが、その後ハルヒに何をされるか分からんからな。
 大いにプラスになろうとも、それがマイナスで打ち消されては無意味なのさ。

 

 返事は無言。
 どうやらまだ、文芸部室の主、長門しか来ていないようだ。
 そういえば長門が俺より遅く来た事はないな。掃除当番とかは無いのかね。
「よう長門、お前だけか」
 長門は本に向けていた視線を上げ、俺を一瞥する。
 知らない奴が見たら、挨拶も出来ない人になるんだろうが、これが長門流の挨拶だ。
 長門は既に視線を戻していた。立っている理由も無いし、いつの間にか決まっていた定位置に座る。

 
 

 暇だ。
 古泉みたいに一人ボードゲームをやる趣味は持ってない。
 お茶を入れるにも、暫くすれば朝比奈さんが直々に入れてくれる。
 俺が入れたお茶と、朝比奈さんの入れたお茶じゃ雲泥の差だ。雨水とアルプスの天然水くらいに。
 アルプスの天然水があるのに、何が悲しくて雨水を飲まなきゃいかん。

 

 多分、この暇が俺に魔の手を差し出したんだろう。
 長門に冗談を言ったらどうなるのか、ってな。

 

 とはいえ、どんな冗談を言えばいいんだ。
 大げさな事を言うつもりは無い。長門に通用するとも思わないが、万が一って事もある。
 長門を無意味に心配させるなんて言語道断だ。あってはならない。
 かといって面白い冗談も通用する気がしない。
 あの、『少年Nの悲劇』を読んですら頬の筋肉が動かない長門だからな。
 俺なんか今ですら思い出し笑い出来るというのに。

 

 そこでひとつの案が浮かんだ。
 なんだろうね、これ。我ながら、何の冗談のつもりだ。

 

「長門」
「なに?」
「実は俺、女なんだ」
 一体何を言ってるんだ。俺は。
「……そう」
 長門の反応は、実に長門的だった。
 見上げた黒い瞳に感情の揺らぎは無く、その瞳も既に、鈍器にもなりそうなハードカバーを映している。
 もっと何かリアクションがあっても良いとも思うが
 ハルヒがする様に馬鹿にされるのも、古泉がする様に心配されるのも困る。

 

「…………」
 沈黙がいたたまれない。古泉でも良い。誰か来てくれ。

 
 

 そうこうしている内にノックがあり、古泉がやってきた。
「おや、まだお二人だけですか」
 やあ、来てくれたか。
 お前に感謝などしたくないが、今だけは感謝してやる。
 さあ古泉、今日は囲碁か? 将棋か?

 

 古泉の希望でチェスの準備をしている間も、長門は相変わらずの本の虫っぷりである。
 おかげで俺の愚行を古泉に感付かれる事も無い。長門の無表情にも感謝だ。
 ハルヒにばれたら、本気で馬鹿にされるだろうしな。真顔で「アンタそこまで馬鹿だったの」程度は軽い。

 

 古泉に遅れること数分、朝比奈さんとハルヒが部室に到着した。

 

 そうして始まった今日の団活だが、ハルヒが何かを言い出す事も無く、あまりにもいつも通りであり
 帰る頃には長門にわけの解らない事を言った事すら忘れていた。

 
 

 長門が本を閉じ、解散となった。下校姿はいつもとは少し違う。
 ハルヒと朝比奈さんが先頭を歩いているが、今日は古泉もそこに加わっている。
 どうせハルヒのイエスマンか、知りたくも無いウンチクの披露をしてるんだろうな。

 

 必然的に俺と長門で並んで歩いているのだが、長門との間に会話はない。
 それが長門であり、俺もそっちの方が安心出来る。

 

 春。日中は暖かいのに、夕方になってくると肌寒さを感じる日もある。
 薄着をした方が良いのか、それとも上着を持った方が良いのかの判断に迷わなくてすむ制服に
 ほんの少しの感謝を抱きながら歩いていると、
「…………」
 黒い宝石、オニキスを嵌め込んだ様な瞳で長門が俺を見上げていた。

 

「どうかしたか?」
 長門は5秒程度の沈黙の後、
「……今日、家に来て」
 長門からのお誘い。その目的を考えると自然と背筋が伸びる。
 またハルヒ絡みで何かあったのか?
「違う。涼宮ハルヒは関係していない」
 なら何だ? 考えたくも無いが、また朝倉みたいな奴が現れたとかか?

 

 長門はそれ以上言うことが無くなったのか、俺の疑問には答えず、少し先をとてとてと歩いていた。

 

 そんな長門の態度には少し安心する。
 朝倉戦を思い出すと、俺に何かが出来るとは思わないが
 長門の負担を減らす努力くらいはしなければ。

 
 

「悪い、待たせたな」
「問題ない。呼んだのはわたしだから」
 その後、皆と別れるフリをして長門と合流した。
 長門だって女の子だ。それも一人暮らしの。
 その長門の家に行く事がバレたら、ハルヒにどやされるに違いない。
 あいつはあいつで長門を大切に思ってるみたいだしな。

 

 長門の家に向かう途中でも会話は無く、呼ばれた理由を表情から伺おうとしても
 その無表情にはこれといって感情が見受けられなかった。
 俺の力量不足なのかもしれないが、俺が分からなければこの地球上の誰もわからないだろう。

 

 無言の長門を観察している内に長門のマンションに到着した。
 長門の家には何度も足を運んでいるが、長門と一緒にエントランスを通ったのは初めての時以来じゃないか?
 オートロックを開錠する長門を見るのは、何処か新鮮である。
 幸いにもエレベーターに待たされることも無く、長門の部屋にはすぐに着いた。

 

「さあ長門、話してくれ。今度は何だ? 一体、何が起こってるんだ?」
 長門の返答は小首を傾げるだけである。
「あれ、問題が起こったんだと思ってたが」
「……あなたは勘違いをしている。問題が発生したから呼んだのではない」
 そう言った長門は少し立腹している様に見えるが、一先ずは安心した。
 ああ、安心したら腹が減ってきたぜ。普段ならそろそろ夕食の時間だしな。

 

「夕飯、食べる?」
「いいのか?」
「問題ない」
 制服にエプロン姿で台所に消えていく長門。
 写真を撮って谷口にでも売りつければ結構な収入になりそうだ。
 この姿を他の男に見せたいとは思わないが。

 

 長門が戻ってくるまでの間に、家に電話をして飯が要らない旨を伝えた。
 「友人の家で飯を食ってから帰る」と言っただけなのに、母親の声が妙に弾んでいたのはなんなんだろうね。
 後ろで妹が有希ちゃんがどうこうと騒いでいたのは気のせいであって欲しい。

 

 それから10分位だろうか。さほど時間もかからずに出てきたのはカレーとキャベツの千切りだった。
 いつかのメニューと全く同じだが、長門の好意だし、素直に頂こう。
「食べて」
「ああ、いただきます」
 一口食べる。ん、このカレーはレトルトの味じゃない……?
 出てきた早さから考えると、レトルトなんじゃないかと思うのだが。
「一昨日読んだ本に、カレーは熟成させると味が増すと書いてあった。これは昨日仕込んだもの」
 道理で味にコクがあるわけだ。箸が――正確には、カレーだからスプーンだが――進む。
 予断だが、肉じゃがやおでんなんかは作ったその日よりも次の日の方が美味しい。
 これはタレ・つゆの味がきちんと染みこむからであり、例えばおでんの鍋底に残った大根は相当な美味しさになっている。
 カレーが美味しくなるのはまた理由が違い、余計な水分がとぶ事で味にコクや旨みが出るんだそうだ。

 

「おいしい?」
 何処となく不安そうな表情で長門。
 ああ、凄く美味しいぞ。ご飯の硬さも丁度いい。
 それに長門の手料理ってだけでも美味しいさ。
「……そう。おかわりもあるから」
 朝比奈さんの入れたお茶や、長門の手料理が食べられるなんて、俺は相当に貴重な体験をしてないか?
 天国に拷問があるとしたら、きっとこんなんだろうな。

 

 そこでふと気がついた。おかわりがあるって事は、事前に作っておいたのは一人前じゃないわけで。
「長門が俺を呼んだ理由って、もしかしてこれだったのか?」
 長門はミリ単位で頷く。
 その表情に不安の色は無く、むしろ目が輝いている様にも見える。くそ、可愛いやつめ。
 そんな長門を見ていると、抱き締めてやらないといけない気分になるのはなんでだろうね。
 我慢だ。我慢しろ、俺。

 

 ギターですら簡単に習得してしまう長門だ、料理だって、既にかなりのスキルを持ってるに違いない。
 カレーとキャベツの千切りだけだが、本当に美味しかった。
 長門のペースにつられたのもあるが、3杯も食ってしまった程だ。

 

 食後のお茶を飲み、今にもはち切れようとする胃を休ませていると
「お風呂を入れてくる」
 長門は立ち上がり、風呂場へと向かった。
 あいつも風呂に入るんだな。
 ま、『有機』インターフェイスなんだから細胞レベルで人間と同じなのかもしれない。
 俺もそっちの方がいいと思うし、むしろそうであって欲しい。

 

 そんな風に過ごしていた食後のゆっくりとした時間は、戻ってきた長門によって打ち砕かれた。
「一緒に入る?」
 いや、それは大変嬉しい申し出なんだが、色々とまずい。
 長門も女の子なんだから、男にそんな事いうんじゃない。
「あなたは自分が女性だと言った。女性同士ならば湯を共にするのも自然」
 ご冗談でしょう、長門さん?
 ……思い出してきた。俺は実にくだらない冗談を長門に言った。そのせいか。

 

「あれは冗談でだな。長門と一緒に風呂に入りたくて言ったんじゃない」
 長門は谷口評価でAランクマイナーが付く程の、世間一般から見ても美少女である。
 俺評価だと今の長門はもっと……それはいいとして。
 そんな美少女と一緒に風呂に入って、あんな事やこんな事をする妄想を抱いた経験が無いと言えば嘘になる。
 嘘にはなるのだが。
 長門は俺の命なんてものを助けてくれた事さえあるし、自惚れじゃないが俺を信頼してくれていると思う。
 そんな長門を、一時の感情に流されて悲しませる事があったら、それこそ俺は死ぬしかない。

 

「……そう」
 俺の意図が伝わったのか、長門は納得してくれた。
「あなたはわたしを騙していた」
 前言撤回。伝わってなかった。
 長門があのくだらない冗談を信じた筈も無いし、騙したとはいえないと思うが。
「わたしは騙された。だからあなたは謝罪する必要がある」
 分かった分かった。俺が悪かった。
 だからその、捨てられた子犬の様な瞳を向けないでくれ。心が痛い。
「謝罪ってのは何をすればいいんだ?」

 

「今日は泊まっていって」
 夜はまだまだ長そうだ。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:17 (1774d)