作品

概要

作者ID:g5hsdrE6
作品名微笑は自ずから
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-05-05 (月) 15:53:51

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「…………」
 ひたすらに無言。
 長門が無言で無表情なのはいつもの事なのだが、今は怒りのオーラらしきものを上げている。
 生徒会により、文芸部が廃部に追い込まれそうになった時の長門、と言えば分かってもらえるだろうか。

 

 出会ったばかりの頃、無言の長門と居るのは苦手だったのだが、最近はむしろ心地の良い静寂となっていた。
 それがどうだ。今の文芸部室には俺と長門しか居ない。なのに針のむしろって奴だ。

 

 ……なんでこんな事になっちまったんだっけね。

 
 
 

 嵐の前の静けさ、と言うのがピッタリだろうか。
 俺の後ろに座っている、黄色いリボンの団長様が静かにしている時は良くない事が起こる前触れだ。主に俺にとって。
 機嫌が悪くて静かにしている時は古泉のバイトが増え、その古泉に機嫌を直す事をしろと言われるわ
 何かを考えて静かにしている時は朝比奈さんか俺が大変な思いをするんだよな。やれやれ。

 

 これでも1年はコイツに振り回されてるから分かる。今は後者だ。
 そしてふとしたきっかけで何かを思いつき―――

 

「そうだわキョン、物理的に笑わせれば良いのよ!」
 等とのたまった。

 

「何がだ、主語を言え主語を」
「有希よ。あの子は理想的な無口キャラなんだけど、笑いすらしないじゃない?」
 確かにな。あの、鶴屋さん作『少年Nの悲劇』を読んでも無表情を貫き通したくらいだ。
 かと言ってゲラゲラ笑う長門も嫌だが。
「そりゃそうよ。あの子はそういうキャラじゃないもの。微笑むくらいで良いの。
 素材が良いんだから、微笑めばもっと可愛くなるのに、勿体無いじゃない」

 

 長門の微笑み、か。思い出されるのは改変されたあの世界の長門だ。
 こっちの世界を選んだのは俺なのだが、長門の微笑みをもう一度見たいと思う事もあるもんさ。

 

 そう、だから

 

「鳴かぬなら 鳴かせてしまえ ホトトギス、よ」

 

 長門を微笑ませよう、というハルヒの思い付きに心を動かされたとしても仕方ないだろ?
 しかしハルヒよ。それを言うなら「鳴かせてみよう」だ。実にお前らしいんだが。

 
 

 その後の授業は、気がつけば終わっていた。
 先のハルヒとの会話―――正確には微笑む長門―――が気になって授業を聞いてるどころじゃなかったからな。
 ま、俺が授業をロクに聞いていないのはいつもなんだがね。

 

 そして放課後は光に集まる虫の様に、SOS団のアジトである文芸部室へと足を運んだ。もはや日課だ。

 

 ノックを2回。
「……」
 返事は無言。
 麗しい朝比奈さんの、麗しい着替え姿を見てしまう危険も無いので、ドアを開けて部室へと入る。

 

「よう。長門、お前だけか」
「そう」
「他のみんなはまだ来てないのか?」
「涼宮ハルヒは掃除当番。朝比奈みくるはホームルームが長引いている。古泉一樹は進路相談。
 少なくとも後10分32秒の間は誰かが来ることは無い」
 詳細を教えてくれる長門。
「そうかい」
「……そう」

 

 後10分は長門と2人。そんな事を聞いてしまってはひとつの欲望が浮かび上がってくる。
 内容は言うまでも無いよな。

 

 ―――微笑む長門を見てみたい。
 ―――でもそんな事をして良いのか。

 

 逡巡。いや、葛藤だな。
 俺が欲望と葛藤していると、長門は何事かと言いたげに小首を傾げ、上目遣いで俺を見上げていた。
 長門。その格好は反則だ。正直、たまりません。

 

 音を立てて、俺の中で何かが崩れていく。
 ああ、俺の理性ってヤツはこんなにも弱かったんだなぁ。

 
 

 気がつけば俺は長門の前に立っていた。
 長門から見たら、夢遊病患者の様な足取りだっただろうな。

 

「なあ長門。ちょっといいか?」
 長門は相変わらず上目遣いで俺を見上げている。
 その長門の、白磁の様な頬に手を伸ばし
「なに?」
 と言う長門を半ば無視しながら、俺は両手で口角を軽く持ち上げた。

 

 微笑んでいる、と言えない表情ではあったが、長門の頬はとにかくやわらかかった。
 その白皙さと相俟って、新雪を踏み潰す感覚を思い出したくらいだ。

 

 その感触に物足りず、色々と弄っている内に面白い顔になっていて
「ぷっ」
 噴出してしまった。
 途端、世界が凍り付いた。いや、実際に凍り付いては居ないが、そうとしか形容出来ない。
 長門なら本当に凍り付かせる事も不可能じゃないだろうからな。

 

「許可も無く女性の顔を触る事は推奨しない」
 長門はもはや上目遣いじゃない。
「女性の顔を見て笑う事も推奨しない」
 絶対零度の視線で俺を睨んでいた。

 
 

 そして冒頭に戻るって訳だ。
 なんだ。ハルヒの入れ知恵があったとはいえ、結局悪いのは俺じゃないか。

 

 どうしようかと悩んでいると、ハルヒと朝比奈さん、そして古泉の順にメンバーが揃って行き
 俺は思考を中断せざるを得なくなった。

 

 その日の活動はいつもと全く同じだった。
 ハルヒがパソコンに向かい、マウスをカチカチとさせる傍らで、朝比奈さんはお茶を入れ
 その様子を見守りながら、俺は盤面上で古泉軍の兵士を虐殺する。
 そして長門が部屋の隅で本を読む。

 

 長門が本を閉じる音をチャイムに、解散となるのもいつも通りだ。
 いつも通りじゃないのは俺の頭の中くらいで、どうしようかと思っているうちに長門は帰ってしまった。

 

 どうしたもんかね。本当に。
 ま、悪いのは俺なんだし、家で夕飯を食べてから散歩がてらに謝りにいこう。

 
 

 夕飯を食べた俺は、食後の休息もそこそこに、自転車に乗って駆け出した。
 妹が何か言ってた気がするが、そんなものは帰ってから聞けばいい。

 
 

 幾度と無く足を運んだマンションのエントランスで708号室を呼び出す。

 

『……』
「長門、俺だ。今日のことを謝りに来た」
 それだけで通話は切れた。電話を入れてから来るべきだったもしれない。
 それでも、オートロックのドアが開いたってことは、入れって事だろう。
 俺はちょうど1階に止まっていたエレベータに乗り、7階まで上がった。

 

 長門の部屋の前に着くと、はたして長門はドアを開けてそこに居た。
 頭を下げる。
「今日はすまなかった。お前の微笑みが見たかったんだ」
「……」
「長門が微笑む所は見たことが無いし、だから無理やりやってしまった」
「……」
「それでお前の頬っぺたを触っているうちに調子に乗ってしまったんだ」
「……」
 相変わらずの無言だが、オーラのようなものは感じられない。
「本当にすまなかった」
 頭を上げると、そこに居るのはいつもの無表情の長門。

 

「お詫びといっては何だが、今度の日曜日に図書館でも行かないか?」
「いく」
 即答。どことなく嬉しそうに見えるのが俺の気のせいじゃないといいんだが。

 
 

「その前に」
 長門は小さく右足を振りかぶり
「おかえし」
 俺のスネを軽く蹴った。

 

 その長門が微笑んで見えたのも、俺の気のせいじゃないと信じたい。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:15 (1834d)