作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんとチャイム
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-03-29 (土) 23:36:31

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

夕日が地平線の少し上から、優しく陽光を注ぐ黄昏時。
その西日の温かさを頬に感じながら、少女は手元の本を閉じる。

 

「……」

 

少しだけ大きめの音が鳴るように本を閉じたためか、
同じ部屋にいた彼女の友人たちが顔を上げる。

 

「あ、もうこんな時間?じゃあ、今日はこれまでにしましょ」

 

活発そうな少女がそう言うと、

 

「そうだな、ちょうどチェスも終わったし」

 

気だるそうな少年が賛同し、

 

「では、片付けますか」

 

にこやかな顔の少年が卓上の盤を片付け、

 

「じゃあ、わたしは着替えるから先に出ていてください」

 

柔らかな表情をした少女が湯のみの撤去を行う。

 

それはいつもの流れ。普段通りの流れ。
何の滞りも無い、日々の彼女達の流れ。
その流れの中で、彼女は単なる始点に過ぎず、
始業時のチャイムと何ら変わりが無い…………はずだった。

 
 
 
 

「ねぇ、有希」

 

いつもどおりの五人揃っての帰路の途上。
彼女が属する学校の校門から数百メートル歩んだところで、
先陣を切る明朗な少女が振り向きながら彼女に声をかけた。

 

「なに?」

 

淡々とした表情と口調で聞き返す彼女に、
少女は少しばかり窺うような表情で尋ねてくる。

 

「いつも思うんだけど……本、ちゃんと読めてる?」

 

その質問の真意は測れないが、
それでも彼女は律儀に答えた。

 

「読めている」

 

「そう?それならいいんだけど……」

 

どこか腑に落ちない、という表情をする少女に、
後方を歩く少年たちやもう一人の少女には聞こえないような小さな、
しかしいつも通りの声で彼女が質問を返す。

 

「どうして、そんなことを?」

 

聞くの、という言葉を言わなくても、
少女には伝わっていると確信する彼女に、
目の前の少女はバツの悪そうな様子で答えた。

 

「ほら、有希はいつもあたし達が帰る頃に本を閉じてるじゃない?
もしかしてあたし達に気を遣って、
読書を途中で切り上げてるんじゃないかな、って思って」

 

「……キリの良いところで切り上げているだけ」

 

「ほんとに?何だか中途半端なトコで閉じてたと思ったんだけど……」

 

彼女の能力を持ってすれば、どんな部分で読書を中断しても、
当該部分の記録を保存し、翌日に再開することは十分可能だが、
普通の人間ならばある程度、章や段落ごとで区切りをつけなければ、
以前読んだ箇所のことを忘れてしまう。

 

だから、普通ではない普通の人間である少女は、
彼女が何の節目も設けずに、自分たちの帰宅の合図をするため、
読書と言う行為を中断しているのだと懸念していた。

 

そんな少女の想いに、彼女はその能面の様な表情を、
少しばかり和らげると、普段より温度を感じる声で言った。

 

「大丈夫、どこまで読んでいたかは把握している」

 

「でも」

 

「それに……」

 

なおも食い下がろうとする少女の言葉を遮り、
彼女は静かにその双眸を見つめてこう言った。

 
 

「楽しみは後に取っておくもの」

 
 

だから、あなたが気にすることはない。
気に病む必要もないし、私に気を遣うことも無い。
私とあなたにはそんなもの必要ないから……

 
 

直接口にはせず、それでも伝わったことを信じて、
彼女は静かに少女の顔を見て、少しだけを緩める。

 

それは、顕微鏡で見ても分からぬほどの変化であったが、
それでもその少女は嬉しそうな顔でこう答えた。

 
 

「そう、それならいいわ」

 
 

会話は聞こえずともその声だけは耳に届いたため、
そちらに視線を向けた後ろの三人の少年少女たちの眼には、
不思議なほど満足そうな二人の少女の顔が映っていた……

 
 
 
 
 

「でも、本当にあたし達に気を遣わなくていいのよ?
有希は読みたいときに好きなだけ読めばいいんだからね」

 

友人としての少女の忠告に、彼女はいつもの様に小さく顎を引くと、
普段と変わらぬ透き通った声で返事をした。

 

「わかった」

 

「うーん、でも、さすがに何冊も読まれると困るかな……
あ、そうだ!有希もたまにはキョン達みたいに、
ボードゲームをやってみればいいんじゃない?
本を何冊か読み終わった後に、半端に時間が余るでしょ?」

 

「ボードゲーム?」

 

「そうそう。古泉君がいっぱい持ってきてるんだしね。
みくるちゃん……は相手にならないから、あたしやキョンを相手にして、
一緒にゲームしましょ。中途半端なところまで本を読むより、
そっちの方が楽しいわよ」

 

その笑顔も自信もたっぷりな少女の言葉に、
考える間もなく、いつもより大きめの首肯で返事をした彼女が、
それ以降チャイム代わりに本を閉じることが無くなったのは、また別の話……

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:14 (2625d)