作品

概要

作者Tardis
作品名安上がりな楽しみ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-03-26 (水) 12:10:30

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

日に日に太陽が俺の不快指数をうなぎ登りに釣り上げていた真夏日もとりあえず一段落し、俗に言う釣瓶落としの秋の日に突入しかかっていたとある土曜日の朝。俺は、まるで鶏の代理を努めているかの如く、けたたましく鳴り響く自分の携帯の着信音で目が覚めた。

「Eメール受信 涼宮ハルヒ」


あいつにしては珍しい。こういった事細かな用件にいたるまで、礼儀無用の電話連絡を使うのがあいつだ。


「本日急用、不思議探しは中止」


あいつらしい、簡潔かつ感情の欠片も感じられない文面。
どうやらそれは俺に対してだけであるらしい、と以前古泉から聞いたことはあったが……。



とにかく、俺の手元には、予想だにしなかったフリータイムが転がり込んで来たらしい。
しかしながら現在の俺は、寂しさだけで死んでしまうというハムスター同様に、何もない休日を過ごそうとする予定に拒否反応を示すようになってしまったらしく、これもSOS団などという得体の知れない学内非公認組織なんぞに所属してしまったせいだな、と、この時ばかりは自分の不遇を嘆くことを禁じ得なかった。




さて、当選した宝くじよりも貴重な今日1日をいかにして過ごそうかと思案せんとベッドに座り腕を組んだ瞬間、昨日の昼休み中に国木田が教えてくれた耳寄り情報を思い出した。
その時は谷口同様、自分には縁がないものと適当に聞き流していたが、今にして思えば国木田よ。今日ほどお前の持ち込んだ情報が有用だった日はないぞ。


いや今までが役立たずだったという意味では断じてないが。



俺は国木田に最大限の賛辞を送りつつ、携帯を手にとってアドレス帳を開きコールした。
おおよそ長いとは思えない3コールのあと、その相手は無言で電話をとった。


「長門か?朝早く悪いな、俺だ。」
「……なに?」
「今日の活動中止になっただろ?だから俺も時間を持て余してるんだ。それで、と言っちゃ何だが、一緒に出掛けないか?」
「………」
「国木田から聞いたんだが、先週、駅の反対側に新しく古本屋が出来たらしい。長門なら来るかな、と思ってな。」
「行く。」
即答だ。異常なほど乗り気だな今日は。
「読書の秋。」
お見事。返す言葉もないね。


「じゃ、いつもの場所でな。」




さては長門も知らなかったのか?それならちょうどいい。俺も駅の反対側なんて滅多に行かないから、久しぶりに顔を出してみるのも悪くない。


電話を切って身支度を整え、俺はママチャリに飛び乗った。




まるで台本に書かれているかの如く、俺が駅前に着いた時には、すでに広場の中央のベンチに座る長門の姿があった。俺の方が時間をかけずに出て来る自信はあったのに、その期待はあっさりと裏切られたのである。まあ細かいことは追求せずともよかろう。この長門有希という小柄なアンドロイドは、時おり頼んでもないところで非常識な宇宙人パワーを発揮する癖があるのだから仕方ない。


「待ったか?」
「待ってない。」
「じゃ、行くか。」


傍目から見れば、異常なほど言葉数は少ないんだろう。長門とコミュニケーションを取るにはひたすら慣れるしかないからな。しかしながら、対有機生命力コンタクト用ヒューマノイドインターフェースなのにコンタクトを取るのにコツが要るとはどういうことやら。その点だけ見れば朝倉の方がより万人受けしそうだから、多分そっちの系統は朝倉に任せっきりだったのかもしれない。
長門も自分の仕事は観察だって宣言してたしな。



さて。長門を後ろに乗っけて――体重をゼロにしたりしないように、と頼んでおいた――俺は駅の反対側へと向かう。


踏切を抜けてほどなく、新しい古本屋の看板が目に入った。恐らく、見たことのない人はいないであろう、黄色い看板の店。店名は敢えて伏せるが、本を売るなら……のCMでお馴染みのあの店さ。
俺の遠方の友人などは、週に3回は立ち寄るという。遠方の友人とはどこのどいつだ、などという問い掛けは愚問だぞ。



店内に入ると、長門はおもむろに小さなカゴを手に取り夢遊病患者のような足取りで奥の棚へと消えていった。これだけ本があれば、長門のことだから5〜6冊くらいは買い込むだろう。
俺は俺で、掘り出し物のゲームを探してみたり、お気に入りのアーティストの古いCDがないかチェックしてみたり、面白そうな漫画がないか立ち読みしてみたりと、ごくごく一般的な高校生らしい楽しみ方で古本屋を満喫していた。
うん、これこそ古本屋の醍醐味だ。意外な掘り出し物を発掘するというのは、やはり何事にも代えがたい価値があると思う。



時間を忘れ漫画の立ち読みに没頭していた俺は、突如後ろからの視線を感じ振り向いた。目の前にいたのは、本を満載したカゴを4個――4個だぜ4個――抱えた長門有希その人であった。


読みが甘かったな。まさかここまで買い込むとは。しかも、SF、ファンタジー、恋愛小説まではいいとして。
普段は読まないライトノベルやら、リハビリテーションの専門書、スポーツ選手の自叙伝に
自動車免許取得の教則本、お笑い芸人のネタ本まであるとなると、もうどういう了見ですか長門さん?
フェザープレーン並みに薄く軽い俺の財布でその本の山の代金を支払うのは、江○2:50があのままの格好でエベレストを制覇するくらい不可能ですよ?
あるいは六法全書がなかった分まだ普通と捉えるべきですか?


「いい。最初から、私が払うつもり。」


長門の本の代金は長門が払うという、至極当然の原理を主張されただけなのに、微妙に複雑な気分になるのはなぜ?ホワイ?

ちなみに俺はと言えば、最近聴き始めたオールドロックで贔屓目にしているアーティストのCDがあったので買っておいた。




店を出て、再び自転車に乗る。普段通りというべきか、俺は長門をマンションまで送って行くことにした。こいつに限って言えば、不審者に襲われたとて自分で護身するどころか完膚なきまでに叩きのめすことすら造作もないだろうが、万が一何かがあったら俺の責任だ。
それに、こうやって長門を乗せて走るなんてそうそうあるもんじゃないからな。貴重な体験をみすみす逃したりするほど俺は愚かではないさ。




長門をマンションまで送って行くのは大して遠回りというわけでもなく、ほどなく目的地に到着した。
じゃあな、と挨拶をかけるより早く、長門は俺の袖口を引っ張った。



「上がっていって」


長門がこうやって自分の意志を俺にぶつけるのは珍しい。と同時に、喜ぶべき出来事でもある。俺は長門のご好意に甘えて、部屋に上がらせてもらうことにした。


長門が部屋のロックナンバーを押してエントランスの鍵を開け、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。
今までもう何回訪れたかしれない、そしてこれから何度訪れるかもわからない708号室は、例によって殺風景、そして本が山積みになっていた。



「お茶飲む?」
今日初めての疑問文。
「いただきます。」
そう答えて間もなく、長門は2人分のお茶を持ってきた。
ん、また前より上達してるな。朝比奈さんにも負けてないぞ。
「……そう?」
長門の瞳が普段より2mmほど見開いている。虫眼鏡なら見やすいかもな。
「そうさ。」
その一言で、長門から安堵のオーラが立ち上るのが分かる。写真ではわからないだろう。


「そういえば、」
俺は前々から気になっていたことを聞こうと口を開いた。
「お前の懐事情って一体どうなってるんだ?仮にも一人暮らしだろ?バイトもしてないし。」
「情報統合思念体が毎月、わたしの口座に振り込んでくれる。朝起きたら財布にお金が増えている時もある。」
親玉の金策は、と聞こうとしてやめた。何しろ相手は情報統合思念体だ。
言ってみれば何でもアリなのだから聞いても仕方がない。
ただ、日本及び世界経済に悪影響を及ぼさない範囲内にとどめておいて欲しい、と切に願った。
あと、あまり大金を与えすぎると甘やかしに繋がるぞ。たまには一般的な人間の言葉も参考にして頂きたい。いくら情報統合思念体でもな。


すると長門は再び口を開いた。
「時々、家事をやっていてくれる時もある。豪勢なディナーが用意されている日もあった。レトルトの多いわたしにとっては新鮮。」
別の意味で驚いた。偉大な存在のわりにえらく家庭的な親玉だなおい。
しかしながら、長門の父(?)親はなかなかに娘思いな、いいお父さんじゃないか。いずれまた会ってみたいもんだな。



「ひょっとしたらいつかその機会があるかもしれない。理論的にだけ言えば、情報統合思念体があなたと会うことは可能。
情報統合思念体そのものは実体を持たないが、人間に擬態して直接的にあなたと会話することが出来る。」


今度は冗談抜きで驚いた。戯言のつもりで言っただけだったのだが。
余談だが今日の長門はやけに饒舌だ。これだけでも珍しい事だが、自分を気遣ってくれたのが嬉しいのか、或いは自分自身のことを話せるのが嬉しいのか。自分が宇宙人だというカミングアウトの時以上によく話す。




閑話休題。
となるとアレか。いずれはお父上にご挨拶せねばならんということか。
「そう。」
ちょっと待て!!いきなりの重大宣告だろうがそれは!
ひょっとしたら“うちの娘はやらん!”オーラを全身から発生させながらやって来るかもしれないんだぞ?
残念ながら俺は戦国武将や悪徳政治家ほど策士ではないから、うまく立ち回れる自信が微塵も湧いてこない。
うっかり敵に回した時の恐ろしさはハルヒとどっこいどっこいだ。喧嘩になりかけたら長門が仲裁してくれよな?




「それはそれで……楽しみ。」


長門よ、人の苦悩を待ち遠しそうに期待せんでくれ。



しかし、いつか長門の親父さん(?)と出会うその日が待ち遠しく、普段よりも寝付きが悪かったことを補足しておく。



(了)

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:14 (1888d)