作品

概要

作者ちの たりない人
作品名return together
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-03-16 (日) 15:18:48

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木登場
橘京子登場

SS

 

0.
わたしが眼を覚ましたのは、学校に行く準備をし始めるにはまだまだ早い、日が昇り始めた頃だった。
眼を覚ました理由を鑑みるに、わたしはどうやら悪夢と呼ばれるものを見たらしい。
ただしかし、わたしがそれを悪夢と思えている、その事がわたしを少しばかり安堵させる。
わたしの記憶に齟齬は生じていない。
悪夢、その中においてわたしは記憶に齟齬を発生させていた。
私は知っていたはずの事を、その中では忘れ去っていたのだ。
忘れてはならないはずの事、……違う、忘れたくはない事を、わたしはその夢では忘れていたのだ……。
そして、この事はなんらかの前触れであると、わたしは割合とすぐに気がつく事になってしまった。

 

それはその日の登校途中の事である。
不可思議な事に、わたしの登校ルートに涼宮ハルヒが立って…待っていたのである。
「あ、有希。おはよう…」
「おはよう」
幾分、というには明らか過ぎるほどに、涼宮ハルヒは覇気をなくしていた。
「……」
無言で見つめるわたしに対し、涼宮ハルヒは
「夢見が悪くて……」
と溜息を漏らす。
「夢?」
鸚鵡返しに問い返すわたしに「たいした事じゃないのよ」と前置きをし、次のように語りだした。
「夢で、そう夢でなんだけど、覚えているはずの事を忘れてて、違和感だけ残ってて……」
わたしは、おそらく目の前の涼宮ハルヒでは気がつかない程度だとは思うが、目を丸くした。
「それは、推測だが……彼の事?」
そう告げたわたしに対し、今度は涼宮ハルヒが目を丸くした。
「なんで……」
「私も似た夢を今朝見た」
理由はまだ不明ではあるものの、異常事態が進行しつつあるのは間違いがないようだった。

 

.
もし仮に、今のこの現状そのものも悪夢であると言うなら、早急に目を覚ましてしまいたい。
この感想に至ったのはわたしだけではなく、この場、この部室に居る全員がそうなのではないだろうか。
「鶴屋さんも覚えていませんでした……」
朝比奈みくるは力なくそう告げた。
「当然、といえば当然よね…アホの谷口はおろか、中学が同じだったはずの国木田も忘れているんだから」
「僕のクラスはまぁ、元々近しい人が居ませんでしたから……ただ、荒川さんや森さんに電話してみた所、記憶にない…と」
そう、不可解と言うにはあまりにも奇妙な事に、SOS団員を除く全員が彼…呼称キョン…の事を綺麗さっぱりと忘れていたのだ…。
また、この場には涼宮ハルヒが居る為に公表はしていないが、喜緑江美里との連絡も途絶えており、今日は学校に姿を見せてはいない、と言う事も追記しておく。

 

「これは……SOS団に対する挑戦ね!」
そう、声高に宣言する涼宮ハルヒだが、やはり、いつもの覇気はない。
明言できてしまう事があるとすれば、現状の彼女では閉鎖空間を作り出す事すら出来ない。
不幸中の幸い……とでも言えばいいのだろうか……。

 

「うじうじしているのは性に合わないわ。学外の知り合いを当ってみましょ」
「建設的ですね。とは言え、僕はすでに電話で……と、もう一方居ましたが、電話番号とかは解りません。つてを頼って探してみます」
「じゃあ、古泉君はそっちお願い。みくるちゃんはキョンの家に行って見て、あたしも思う所当るから……有希は……」
「わたしも、ひとり会うべき相手が居る」
涼宮ハルヒはそれぞれの顔を見回すと
「じゃあ、そうね……四時間後に駅前に集合しましょ。何かあってもなくても、情報を交換よ」
と、行動開始を告げた。
わたしが会うべき相手は、周防九曜。
この件の首謀者の可能性が最も高い存在である。

 
 
 

-M
涼宮さんに言われ、あたしはキョン君の家へと向かっていた。
学外の知り合い、という時点で、この時間平面状の居候であるあたしにアテがあるわけでもない。
涼宮さんに言われるまでもなく、あたしの選択肢はこれしかなかった。
アテがあるとしても、それはあの商店街の人達位のものだし。
溜息混じりに歩くあたしの進路を、誰かが塞いでいた。
「まったく、無駄な事をさせる」
あった事のある、少しだけ…だめな事は解っているけど……嫌悪感を感じるその人は……名前を思い出せなかった。
「お前もどうせ、涼宮ハルヒにでも言われて見に来たんだろうが、おあいにくさまだな。キョン…だったか、あいつの痕跡は完全に消えてたな」
「ふえっ?」
いきなりそう捲くし立てられ、あたしの頭がついていけていません。
「あいつの家に僕も行く羽目になっただけの事だ。玄関先に居たあいつの妹と接触を試みたが、兄など居ないといわれて来た所さ」
「それって……」
妹さんも忘れている……予想はしていたけれど、改めてそれを告げられるとショックはかなり大きかった。
いえ、それだけじゃなくて、もうひとつ重要な事に今更ながら気がついた。
「あなたも、キョン君の事を……?」
「忌々しい事だが、覚えている。僕だけではない事は、僕が頼まれて仕方なくとは言えここに出向いた事から察しは付くだろう」
SOS団のみんなだけ、じゃ無かった。
それがなんだか希望に思えた。

 

-H
あたしは、ほんのちょっとばかりイライラしていた。
大した事はない、あんな馬鹿が居ない位どうって事無い……あー、もうイライラする。
今から会おうとしている人の顔見た途端、蹴倒したくなってきたわ。
「それは遠慮願いたいところだけどね」
「ドロップキックなら大サービスするわよ」
待ち合わせ場所に彼女は待っていた。
部室を出た後、即、携帯で呼び出したのだ。
「キョンの事で話がある、とあたしは聞いたから来たんだけど……鬱憤晴らしなら他を当って欲しいかな」
どことなく、作ったような口調にあたしはイライラを隠さず告げる。
「そうよ、キョンの事よ」
彼女、佐々木さんは一拍程度考えるそぶりを見せると
「橘さんが言っていた事が、事実だという事か」
と呟いた。
「涼宮さん達SOS団とあたしの身内の数人、以外の誰もキョンの事を忘れている、もちろん、キョン自体の存在も消えている……まちがってないわよね?」
「ええ、そうなるんでしょうね。そっちの記憶にもキョンが居るんなら」
「忘れるわけはない、と思いたいところだけど……明日はどうかは解らないね」
その言葉にあたしは身震いする。
今朝見た夢、それが頭をよぎったからだ。

 
 
 
 

-I
「さて」
「さて、じゃない。どう言う事なのか説明してよ」
僕はツテを頼り、なんとか彼女との接触に成功していた。
会話が成功するかは別問題ですが。
「説明も何もですね、僕達も困惑しているんですよ」
「彼をこちらに引き入れて、佐々木さんを神の座に押し上げる、崇高なあたしの計画が!」
「それを崇高と言うかはさておきですね、橘さん、あなた達の組織でも、彼の事は……」
「あたし以外覚えていませんでした。綺麗さっぱりですよ? 信じられますか?」
僕は迫り来る驚異を手で制しつつ
「先ほど申し上げましたとおり、僕の機関の方でも全く同じ状況なんです」
と、もう五回目にはなろうかという事を告げました。
とは言うものの、橘さんとあう前、ついさっきまでの僕も、実質は似たような心境にあったのかもしれませんが。

 

「それで、結局どうするつもりなんですか?」
叫んだ事で落ち着いたのか、橘さんはこう切り出してきました。
「そうですね、まずは原因の究明を最優先に、でしょうか?もちろん、彼の復活を模索もしますが」
そんな事を言いながら、僕はふと、彼女達にとってもこれは不都合以外の何ものでもない、と言う事を再認識しました。
「もっとも、涼宮さんが彼の事を忘れていたのであったなら、僕はこの件を無視していた可能性も、否定はしませんけど」
そう告げる僕に、ジトっとした目を彼女は向けてきました。
「出来もしないくせに」
「はい、多分それで正解だと思います」

 

-Y
周防九曜を探す。
この現状において、わたしはわたしの持つ能力のすべてを使ってそれを行う事が出来る。
否、すでにそうしてきたつもりであった。
文芸部室を出てからすでにかなりの時間が経過しているにもかかわらず、わたしは周防九曜の存在位置を特定する事が出来ていなかった。
存在感知をさせない事に秀でているとでも言うのだろうか、所在はおろか、どの方角に居るという事すらも不明。

 

わたしは無為に、かなり歩き回る事になってしまった。
無為、と言う言葉は適切ではない、そう気がついたのはこの場所に着いてからだった。
わたしが部室からここまで歩いて来たルートを、冷静な判断で見てみれば、その全てが一点の事柄に集約していると解る。
そう、わたしが今立っている場所。わたしの眼前に立つ建物が、その事を悠然と物語っていた。
図書館。
冷静な判断で見れば、わたしがなにを求めていたのかは明白であり、そして、その事に気がついてしまった事でまた、わたしは冷静さを失い始めていた。

 

「――――まるで、人間のよう…………」
まるで、わたしが来る事を知って待っていた、そうとでも言わんばかりに周防九曜がわたしの前に立っていた。
「……やはり、周防九曜」
わたしが発する言葉を聞いているのかは不明だが、周防九曜は「――違う」と告げた。
「違う?」
「――――長門有希が求めるの……は、わたしではない」
「情報操作、その性質上可能なのはわたし達か、あなた」
「手を動かした……。――――でも、それを求めたのは……ここには――……居るけど、居ない」
周防九曜の言葉は、わたし達が引き起こす言語的齟齬とはずれて感じられ、その言葉の意味を理解するのに数拍の時間を要した。
「情報操作はあなたが、首謀者は別に居る……?」
その問いかけに、周防九曜は次の言葉を残すと、もはや用は無いと歩き去ってしまった。
曰く、わたしが求めるものは、始まりの場所に最初からあった……と。

 
 
 
 

-I
壮観、と言う言葉が相応しいでしょうか?
涼宮さん、いや、この場合は彼と言う方が適当でしょう、関わる人のほとんどがこの場に居るのですから。
ほとんど、と言うのは一部居ないと言う事です。
もちろん、彼もその一人ですが、重要な人がもう一人足りません。
長門さんです。

 

そして僕たちが集まり、彼の事をどうするべきか話し合おうとした時でした、涼宮さんが一瞬キョトンとされました。
「あっれ? あたし達なんでこんなにわんさか集まってるんだっけ?」
その言葉を合図に、とでも言いましょうか、いえ……周防九曜さんが来られたのが、多分合図だったのでは?と僕は思ってはいますが、感覚が『いつも』になっている、とでも言いましょうか…。
「涼宮さんが仰ってたように、佐々木さん達と親睦を深めよう、と言う会合だった、そう記憶してますが」
嘘も方便ね、と横に居る方が言われましたが、気にはしないようにしましょう。
どうやら、元通りになったような感触があります。
どうして解るのか?と問われれば、解るのだから仕方が無いとしか言えませんが……
詳細は彼、もしくは長門さんに聞く必要性はありそうですね。

 

-K
さて、灯台下暗し、と言う言葉をご存知だろうか。
読んで字の如しではあるが、灯台は周囲を照らす為にあり、その真下は真っ暗闇……転じて、身近にあるものほど気がつかない、とかそういう意味なわけだが。
俺が居る場所は正に、いや、むしろ灯台の中に入っちまってる感が否めないな。
文芸部の部室だ。
困り果てた朝比奈さんのお姿や、ニヤケ面に冷や汗を混じらせた古泉、いつもの団長然とした状態、その何分の一かの元気しかないハルヒ。
まぁ、なんだ、二度は見たくないな、ああいうのは。
「ひとり、わざと省かれましたか?」
対面に座り、貼り付けたような微笑を浮かべながらお茶を飲んでいる、先輩に当る女生徒は、そんな言葉を告げた。
「ええ、わざとです」
憮然とお茶を飲む俺。
わざと省いた、と言うとそりゃあいつには悪いとは思う、思うがしかし
「よほど、堪えたと見えます。良い傾向です」
悪魔ですか、喜緑さん。
ええ、ええ、そうですとも。
あんな顔した長門なぞ、思い出したくもないぞ。
「こう言ってはなんですが」
「はい?」
「長門さんは、どんな顔をしてました?」
聞きやがりますか?
「普通に、わたしにも、長門さんがさっき、どういう表情をしていたのか解らなかったもので」
嘘をつくな嘘を。
「とりあえず、それは置いておきましょうか……来たようですし」
そう喜緑さんが告げたとほぼ同時に、部室のドアが開かれた。

 
 
 
 


文芸部室のドアを開くと、そこには二人の人影が見えた。
彼、と時を同じくして連絡を閉ざしていた喜緑江美里。
「まさか、喜緑江美里……あなたが…………」
敵性判断を下しかけたわたしと喜緑江美里の間に、彼が割って入る。
「すまんが長門、とりあえず今回の件は喜緑さんも頼まれてやっただけらしいんだ」
「誰…に」
周防九曜も喜緑江美里も首謀者ではないと言う、まさか、と言う視線を彼に向けるが、
「俺も今朝、寝ている所をたたき起こされたクチだ」
と肩をすくめて見せた。
では、一体……?
「いずれ解る、と言うしかわたしには出来ません。もちろん、朝比奈みくるさんの異時間同位体でもありませんよ」
いずれ、と言われても困惑するだけのわたしの肩に、彼は手を置いた。
「ほんと、すまなかったな長門。だけどな……」
何かを言おうとして言いよどむ彼。その代弁なのか、喜緑江美里が告げる。
「あなた達は全員、気がつくべき事をしっかり認識していない……わたしは頼まれた時そう聞かされました」

 

後で聞いた事を総合するならば、事がSOS団のみではなかった為、その誰に対しても意味のある人物として彼が選抜された。
また、喜緑江美里にその事を言ってきた人物は複数人である事や、彼女だけではわたしの感知に引っかかると判断し、周防九曜に応援を求めた事、を知る事は出来た。

 

わたしは体から力が抜ける、そんな感覚を覚えた。
しかし、それも一瞬。
彼が私の肩を後ろから押すように抱き、こう告げたからだ。
「ハルヒが駅前で待っているんじゃなかったか? 遅刻して罰金は勘弁願いたいところだぜ」
時間……迂闊にもここからでは約束の時間には間に合わない。
しかし、彼は言葉とは裏腹に、さほど急ぐ様子では無かった。
「喜緑さん、戸締りはお願いしちまっても?」
「はい」
「じゃ、行くか長門」
わたしは、多分まだ困惑というものの中にいるのだと思う。
彼の言葉に、今のわたしは頷く事しか出来なかった。
ただ、肩に置かれた手のぬくもりに、これが現実である事を改めて認識していた。

 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:14 (2710d)