作品

概要

作者ちの たりない人
作品名バレンタインの消失
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-02-15 (金) 11:22:23

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

1.
三限目が終わった休み時間、俺の教室に古泉の奴がやってきた。
話がある、という事だが、どうやら朝比奈さんや長門の二人から、こいつはすでに聞いているらしい。
「で、なんで俺を呼びに来たのがお前なんだ?古泉」
朝比奈さん、は学年が違うため確かに無理はあるが、古泉より遥かに長門のほうがクラス的に近い。
このにやけ顔を拝むよりは、長門の無表情の方が数段ましというものである。
「最初に感付いたのは確かに長門さんなんですが、長門さんがあなたを呼びに行った場合の涼宮さんの心情を考慮した、と言う事です」
長門が来てたら、ハルヒがついて来ちまう可能性がある、と言う事か。

 

で、俺たち四人は窮屈にも、非常階段の踊り場に雁首をそろえたわけだが。
「時空改竄の情報が何処かからかは不明だが、微量に放出されているのを確認した」
「微弱な…余震って言うのかな? 時空震が時折起こっているんです」
「涼宮さんの心境の方は、むしろ安定しているんです。ゆえにお二方の言う現象が、あの涼宮さんが原因では無い、と考えられます」
三者三様の現状報告を聞き、俺ははっきり言おう。
「さっぱり解らん」
「状況の現段階における危険度は無視出来るレベル。ただし、この先に関しては予測不可能」
長門、おそらく長門の親玉含めそれってのは、確かにかなりの異常事態だな。
「気をつけて」
解散際、長門は俺にそう呟いた。
俺は一体、何に気をつければいいというんだ。

 
 

2.
そして昼休み。
1時間ほどしか経ってないとは言え、何かしらの情報が欲しい俺は、長門がすでに居るであろう部室を目指した。
俺は部室をノックする。
返事は無いが人の気配はあり、長門が中に居るのは間違いなかった。
俺は部室のドアを開け、そして、俺の思考は数秒停止した。

 

眼鏡をかけた長門がいつもの椅子に座って本を手に、俺を見上げていた。
俺は錆び付いているのを無理に動かすように、部室を見回してみる。
視界に入ってきているのは間違いなく、俺たちのSOS団が不法占拠している文芸部室であり、年代モノのパソコンしかなかったアノ部室ではない。
しかし、目の前に座る眼鏡の長門は、俺の長門分析眼からしても間違いなく…アノ長門なのだ。

 

俺は四限目、居眠りをした記憶は無い。
付け加えるなら、俺が教室を出る際、後ろの席でハルヒが居眠りしてもいた。
そう、ここは俺が良く知る俺たちの世界のはずなのだ…では、目の前のこの長門は一体?

 

困惑している俺の顔を見て、長門は小首を傾げて見せた。
「どうかした?」
どうかした、なんてものじゃなくてだ……。
「長門、だよな?」
肯定の仕草。
「宇宙人製アンドロイドの?」
否定の仕草。しかも、困惑した表情が付属。
「邪魔したな」
俺はそう告げて取り合えず部室を出た。
部室から呼び止めるような「あっ」と言う声が聞こえてきて、罪悪感が浮かんだが…。

 
 

3.
俺は、俺が知る俺たちの長門を探すべきだと考えた。
ハルヒはこの学校で元気に居眠りをしていたし、見ている景色は間違いなく俺が良く知る世界。
そして、探し人はあっさり見つかった。
むしろ、俺が部室から出て来るのを待っていた、と言うのが正解だろう。
こちらの長門も俺の目測が間違いなければ、困惑の表情をしている。
だが、この長門は間違いなく俺の長門だ。
「部室に、わたしの同時間異元体を確認した為、接触を避けた」
「これもお前の仕業って、わけでも無さそうだな」
長門は頷きを返すと
「誰、によるものかは不明。わたし自身も先ほど、朝比奈みくるの同時間異元体と遭遇している。おそらく、涼宮ハルヒや古泉一樹の同時間異元体も存在するもの、と思われる」
俺は一瞬、その古泉の同時間なんちゃら体に同情した。
おそらく、女子高の真っ只中に居る事だろう。

 

今回の件に関しては、長門は違う。
朝比奈さんにそんな能力はあるわけもないし、古泉だってそうだろう。
ハルヒに関しても古泉が違うと太鼓判を押していた。
では、誰が?
「予測される範囲で、要因と思われるものは次のうちのどれか」
そう言って長門が口にしたのは、以下のようなものだった。
「周防九曜…天蓋領域。涼宮ハルヒの深層意識。この世界、それ自体が持つ情報の蓄積されてしまったエラー。もしくは……」
そこで長門は俺を見据えた。
「あなた」

 

「正確には、あなたの記憶や意識に先に述べた何かが助力になった可能性」
渋面になる俺に
「あくまで可能性のひとつ」
と、気にするなと言う意味なんだろう、言った。
「現時点では幾つかの同時間異元体が存在しているに過ぎない。危険度、と言う意味では低い」
アノ長門やなんの力も無いハルヒや古泉、ただの上級生の朝比奈さんが居た所で、危険ってのは確かにないが。
「混乱の発生は後で修復可能。原因の究明と事態の収束が第一」
「まぁ、そうだな」
だが、俺は…俺たちは甘かった。
それは、すでに目の前に立っていた。

 
 

4.
真っ黒な奴がなぜだか此処に立っていた。
原因はやっぱりこいつだったのか?
と思ったが…ちょっと待て。
俺の知りうる限り、目の前の黒い物体も、性質こそ長門と違えど無表情だったはずだ。
俺は視線を横に立つ長門に向けると、長門も俺を見て頷いた。
「同時間異元体」

 

「周防九曜、なぜ、此処に?」
問いかけた長門に対し、目の前の九曜は、余裕の笑みを浮かべてこう告げた。
「――今日、という日がどう言う日か。―――あなたは解っているはず」
俺は思わず言いそうになった。―が短いな、と。
長門は数ミクロン眉根を上げる。
どうやら、この九曜とも長門は意思疎通出来ているらしい。

 

「――――」
「…………」
ダッシュと三点リーダーの睨み合い。
この辺りは大差は無い様子なのだが……。
目の前の九曜は優雅に、自分の髪を手で払うと
「――――本日、わたしが用があるのは、平坦地味娘ではありませんし」
九曜はそう告げ、俺を見つめた。
なんだろう? 真横の長門から怒りのオーラが上がったような気がするんだが。
「――――車はすでに手配済み。わたしの家に――来ていただけますね」
目の前のなんちゃら体・九曜はそんな言葉をのたまった。

 

「へっ?」
「……」
長門は俺を庇うように立つ。
相手が本物の九曜なら、ある意味誘いに乗るのも手だとは思えたが……
今、俺が思考を回さなくてはならないのは、その事ではなかったらしい。
目の前で、九曜のなんちゃら体と長門が対峙している。
では、俺の袖を後ろから引っ張る、この小さな力は一体?

 
 
 
 

5.
俺は、すでに予想は出来てはいたが…その主を見て頭を抱えなくてはならなくなった。
眼鏡の長門が俺の袖を引いていたのだ。
やれやれ。どうするんだ、これは。
「九曜さんと……わたし?」
長門は目の前の長門……とんでもなく解り難いな、眼鏡の長門は眼鏡レスの長門、だと長すぎる。
とにかく、長門'は長門を見て唖然としたわけだ。
「迂闊」
長門はその声に、振り返らずに呟いた。

 

そして、さらにその前に踏ん反り立つ黒い影はこんな言葉を口にした。
「――――――――平坦が二つ並んでも…………」
空気が凍った気がした。
長門の怒りオーラ、はまだ長門らしいと言えるのかもしれないが、長門'も似たオーラを出すとは……さすがに大元は同じだという事か。
長門'のは、微妙に拗ねた感じがするのは、多分気のせいではないと思うが。

 

俺はこの場を逃げるべきだと、本能的は告げているのだが……長門'のこの手を振り払って、はさすがに罪悪感の方が上に立っちまう。
さて、どうする俺?
その均衡を破ったのは、長門'だった。

 

「こっち」
「え?」
俺と、多分だが長門が何とか聞こえる程度の声で、長門'はついて来るように言うと、俺の袖を申し訳程度に引っ張った。
長門が頷いた……俺の目測が正しければだが、のを合図に、俺は長門'と共に逆方向…つまる所、部室の方へと走り出した。
九曜'がなにやら言っていたが、取り合えず長門に任せるるべきだろう。

 
 
 

6.
俺と長門'は取り合えずまた、部室へと舞い戻ってきた。
「…………ごめんなさい」
「いや、まあ助かった」
と本当に言えるかは別だが。少なくとも、頭を整理するにはマシな状況にはなったか。
長門'は困惑気味の視線を泳がせている。
そりゃあ確かに、自分と同じ顔した別人(?)が居たりしたわけだ、普通の思考なら混乱するだろう。
どこから説明するべきか、と……その前に疑問が口に出る。
「九曜の事、知ってるのか?」
そもそも、この長門'の記憶だとどう繋がっているのか。

 

長門'のぽつぽつ話を総合し、俺の推測を交えるとだが、以下のような状態であるようだ。
あの時、エンターキーを押すあの瞬間。長門'によって俺は邪魔をされたらしい。
ハルヒ'は、その行為に呆れはするものの、俺'の話の信憑性なども踏まえSOS団'を設立。
こちらへの連絡手段を模索しつつも、ある意味、俺たちと似た事をして来ていたらしい。
その中に、少し趣向は変化するものの佐々木'達とも出会い、現在に至る…と。
また、朝倉'に関してだが、現在も長門'の世話を焼きまくっているらしい。

 

さっき見た九曜'は、確かに俺が知る九曜とは、どう転んでも違うように感じる。
この一件の犯人はこっちの九曜である、と見るのが妥当だろう。おそらく、長門も気がついている。
九曜の事は長門に任せるしか、超ド級の凡人たる俺には選択肢が無い。

 
 
 

7.
「お茶でも飲むか?」
俺自身が一息つく、という意味もある。が、どちらかと言えば、落ち着かない現状を少しでも、と思って長門'にそう言った。
「……」
無言を了承と受け、俺は湯を沸かす。
不思議な話、長門となら、二人きりでここに居たとしても俺自身落ち着いていられるのだが、こっちの長門…長門'と居ると妙に落ち着かない。
一年と少し前のあの一件。その時に見た雰囲気とも違って感じるのは、俺の気のせいばかりでもないだろう。

 

「ほら」
俺は湯飲みを長門'の前に置いた。
俺に軽く会釈をし、湯飲みを手に持つ。
なんだか、じっと見続けられているような気がするんだが……まぁ、長門の役目がハルヒの観察だし、そういうのは同じようなものなんだろうか。
「俺の顔に、なんかついてるか?」
取り合えず聞いてみる。
長門'は「あっ」と顔を少し赤らめ、下を向いた。
「……ごめんなさい」
どうやら、じっと見続けていた自覚が無かったようだ。
こんな顔、見ても詰まらんと思うのだが……。

 

「あまりにも……同じだから」
「同じ?」
「わたしが知っている、あなたと」
それはそうだろう。何しろ俺'だ。
その延長線上に俺は居ないとしても、その過去には間違いなく共通性がある。
そんな俺を見て、長門'は首を振って見せた。
「どこがだ?」
口に出して聞いては見たが、返って来た答えはこうだった。
「…………教えない」

 
 

8.
俺たちがそんな……俺的に不毛な事をやっていると、部室のドアが開き、長門がやってきた。
なんと言うか、俺だからと言うよりも結構ありありと見て取れるんだが……。
「疲れてないか?」
「少し」
それは、かなりと言う事だな。
しかし、ものの数分でここまで疲れる長門と言うのも珍しい。
「そんなに、大変だったのか?」
「異元体の朝比奈みくる、涼宮ハルヒ、古泉一樹、それと周防九曜を元の次元への送還は完了した。ただ…………」
さすがだ長門。で、ただ……って?
長門は長門'をじっと見つめる。
「あの、周防九曜は…………私たちの知るソレ、以上の難敵」
長門'がなんだか神妙に頷いた。

 

「後はわたし自身の異元体を、元の次元へと送還するだけ」
そう言われた長門'は頷きを返すと、椅子から立ち上がり、長門の目の前に立つ。
「わたしは、わたし自身とは言えあなたにも謝らねばならない」
長門'はその言葉に否定の異として首を振る。
「……謝るべきはわたしの方」

 

そのやり取りを見つつ、俺は長門'と二人きりだと感じた、ちょっとした居心地の悪さや、あの時との雰囲気の違いがなんなのかを見つけていた。
この長門'は、俺が知る目の前のもう一人の長門と、ある意味同じ……
あの時見た所在無げで、自分に自信を持ててなかった長門とは変わっているんだ、と。
実際はどうかは解らんが、薄く微笑んで長門を見ている長門'に、それを感じた。

 

長門は、俺が聞き取れないあの高速言語…早い話が呪文だな、を詠唱し始めた。
何かを思い出したように、長門'は俺へと視線を向ける。
「……最後に……ひとつだけ」
長門の詠唱は止まらない。
「……このわたしも、わたしと同じできっと……あ…………」
長門'の姿が、掻き消すように消えた。

 
 
 

9-α
「行っちまったか」
俺はため息を吐き出す。
なんともまぁ、慌しい昼休みだ。

 

俺は長門に視線を向ける。
情報操作というか、そう言った事でと言う感じではなく、疲れきった感じに見えた。
「お湯も沸かしちまってるし、お茶でも飲むか?」
長門は、無言ではあるが小さく頷いてくる。
俺はお茶を淹れつつ、どう言う事だったのかを問いかけた。
それによると、俺の記憶を元にしたのは間違いないらしい。
ただし、同時間の別次元…ややこしいが、要するに俺があの状態に居残ってしまった世界を平行世界から選別し、そこから長門'他を呼び寄せたとか何とか。

 

そう言った事に関しては、九曜は長門以上の事が出来る……と言う事なのか……。
「一概に、そう、とは言えない。周防九曜がわたしに秀でている部分と、その逆の部分が存在するに過ぎない」
そりゃ、まあそうなんだろうがな。
しかし、相変わらずだが、九曜がこの事で何をしたかったのかがさっぱり解らんな。

 

それにしてもだ……
「俺があっちに居残っちまってた可能性もあったって事なんだよな」
今更ながらに呟いてみる。
長門'がここに来たんだから、それは当たり前なんだろうし、俺自身も迷いが無かったわけではなかったしな。
俺がそんな風に回想していると、長門はとんでもない事を口にした。
「むしろ、戻れた事の方が、可能性としては低かった」
「何?」
確かに迷いはあったが、かなり戻りたいと思ったはずなんだが……。
そんな俺の心情を察してか、長門はこう続けた。
「戻れないとした場合の要因の大半は、あの場面におけるわたし自身。ついで涼宮ハルヒ、朝比奈みくる。あなた自身がエンターキー以外を選んだ可能性は1%にも満たない」
長門……この場合は長門'が邪魔をしたり、ハルヒがせっついて変なキーを押したり、朝比奈さんがドジを踏んだり…って事か…。
俺は、かなりの奇跡の上に立っているのかもしれんな。
なんて事を思った。

 
 
 
 

9-β
放課後。
わたしは掃除当番だった。
今日は涼宮さん達と、駅前で会う日だと言うのに、ついてない。
一番不幸なのは、喫茶店代を奢らされる事になるだろう、彼だけれど。
掃除を終えたわたしは、足早に教室を出る。

 

靴を履き替えるのももどかしく、わたしは校門へと急いだ。
校門に近付くにつれ、聞き慣れた話し声が耳に入って来る。
「もちろん義理。あなたは誤解なんてしないだろうから安心だけどね」
「谷口じゃないからな。ちゃんと言っておかないと、あいつは一生誤解したままだぞ」
「それは、ちょっと勘弁して欲しいかな…と」
そこで、声の主はわたしに気付き、手を上げた。
わたしもそれに答えるように、小さく手を振り、告げる。
「……朝倉さんも、待っててくれたの?」
朝倉さんは彼を指差した。
「暇そうにしてたから」
「そう言うお前が暇なんだろうが」

 

「今日は駅前の日?」
そう問いかけて来た朝倉さんに、わたしは頷きで答える。
「なんだか楽しそうよね。何かするんなら、わたしも仲間に入れて欲しいかな」
「バニーガールとかやらされてもいいんなら、ハルヒにそう伝えとくが」
その言葉に、朝倉さんはわたしの方を向く。
わたしは、思わず首を横に振り、
「……私は、やってないから」
と否定した。
「ふぅん」
信じてないって返事が返される。

 
 
 
 

10-α
「そう言えば、あの、もう一人の長門は最後、何を言いたかったんだろうな?」
俺に対して、今目の前に居るこの長門もなんとか、と言おうとしたのだけは解ったんだが…。
湯飲みを手に、しばし俺を見つめていた長門は
「はっきりと断定は出来ない。ただし、推測は可能」
と言った。
その推測はなんなのか? と俺は期待して長門を見ていたが、長門は俺をじっと見つめ、しばし沈黙した。

 

時間にして一分は経ってないだろう沈黙の後、長門はこう切り出した。
「わたしは、言語を介する事による齟齬が発生する可能性を考慮している」
情報統合思念体は言葉を持たない。最初に長門の家で聞いた言葉を思い浮かべ、取り合えず納得する。
「故に、わたしは、わたしが本当に告げるべき事は言語ではなく、わたし自身の行為によって示してきた」
俺は長門の顔をじっと見、感情の変化を読み取ろうとしてみる。
冗談や洒落を言っているわけではなく、どちらかと言うと真剣な顔だな、と俺的観察眼は告げていた。
「えーっと、つまり…どういう事だ?」
解らないのでギブアップ宣言をしたいところだが、長門の次の言葉はそれを許さなかった。
「わたし自身の行為から、あなたがそれを読み取る事を私は希望する」
「あー…なんだ、ヒントは無いのか?」
の俺の言葉は、長門がお茶を飲む音で否定をされた。
考えろって事だな、と思う俺に長門は頷いたようだった。

 

と、お茶を飲んでて思い出した。
「昼飯……まだだった」
長門に話を聞いてから、パンでも買おうと思ってたのがアダになった。
もはやパンはほぼ売り切れだろう。
と言うか、時間も大して残ってない。

 

と、長門は立ち上がり本棚の本…その後ろから何かを取り出した。
綺麗に包まれてリボンまでされた、箱。
長門はそれを俺に差し出した。

 
 
 

10-β
「お邪魔虫は退散……」
朝倉さんが『虫』と言った辺りで、別な声が聞こえて来た。
その声を聞くのは、今日は通算二度目。
「――今度は…逃がしませんから」
「げっ……」
「…………九曜さん」
「また来たのね、お邪魔昆布鴉」
三者三様の反応に、と言うよりも、朝倉さんの言葉に九曜さんは反応した。
「―――芋虫眉毛には……言われたくないわ」
「個性的な眉、って言って欲しいわね」
そう九曜さんに言いながら、朝倉さんはわたし達にウィンクして見せた。
「今のうちに行けって事らしいな」
彼がわたしに囁く。
わたしもそれに頷き、逃げる様に……ではなくて、本当に逃げた。
九曜さんの非難の声が聞こえたけど、気にしないようにした。

 

わたし達は二人、駅前の集合地点への道を歩く。
朝比奈さんはとっくの昔に向かっているから、わたし達二人は涼宮さんに『遅刻』と言われるだろう。
「掃除当番はどうしようもないしな」
それはあくまで、わたしだけの問題なのだ。
と、わたしの考えが解ったのか、彼はわたしの頭に手を置いた。
気にするな、という表情に、今日あった不可思議な出来事を思い出す。

 

「……わたしは、一生かけても拭えない事をあなたにした……」
口をついて出た言葉に、彼はしばし呆然とわたしを見たが、やっぱりこう言った。
「気にするな」
自分の表情がたまに、よく解らなくなる。今もそうだ。
わたしに解らないわたしの表情から、彼は何を読み取ったのか肩をすくめ、こう告げた。
「そんなにすまないと思うんだったらだ、今日みんなに奢る分、お前の分だけ勘弁してもらえるか? 今月割とピンチなんだ」
今度はわたしが呆然と、彼を見る番になった。

 

そんなわたしの肩を軽く叩き、
「ちょっと急ぐか」
と、彼は駆け足を開始した。
「…………待って……」
わたしは思い立ち、鞄を開ける。後からでは、わたし達は帰る方向が違う…機会は今だと思った。
わたしの行動を不思議に思ったか、彼も立ち止まり振り向く。
鞄からわたしはその箱を取り出した。
ラッピングの見栄えはまあまあだけど、中身は少し自信は無い。
わたしはそれを彼に差し出した。
「…………あの…その…」

 
 

11

 

「……これ、食べて」

 
 
 

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:12 (2710d)