作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんとあられ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-02-12 (火) 21:12:23

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

この地域にしては珍しく数cmばかり雪が積もった中を、
籠の中に入れられたげっ歯類のように走らされた体育以外は、
特に変わりがなかった授業を終えた俺は、
機械よりも機械的にSOS団室と言う名の魔窟に向かっていた。
おそらく神の子に五感を奪われたとしても、
あの部屋には正確にたどりつけそうだな。

 

などと考えながら、団室に到着した俺はいつものように扉を叩く。

 

「どうぞー」

 

聞き慣れ過ぎて忘れられそうにもない無愛想な声で返事がくる。
どうやらいつも優しい返事をしてくれる麗しの上級生はご不在の様だ。

 

「よぉ」

 

「遅かったわね」

 

俺が遅いんじゃなくて、お前が早すぎるんだよ。
ホームルームが終わるや否やチーターみたいなダッシュをしやがって。
オリンピック100メートルの世界新でも目指しているのか?

 

「お前と長門だけか?」

 

「古泉君はホームルームが長引いてるみたい。
みくるちゃんは……もうじき来るんじゃないの?」

 

そうおざなりな感じでハルヒが答えると同時に、
廊下から聞き覚えのある足音がタイミングよく聞こえてきた……

 
 
 
 
 

「はい、キョン君」

 

「ありがとうございます、朝比奈さん」

 

俺に遅れること数分、SOS団に参上したマイエンジェルは、
あっという間にメイド服姿に着替えると、甲斐甲斐しく給仕をし始めた。

 

「はい、長門さんもどうぞ」

 

本から顔をあげ、差し出された湯呑み、それから朝比奈さんの顔を見て、
静かにゆっくりと頷く無口文学少女。
おそらくあいつなりに礼を述べているつもりなんだろう。

 

「今日は寒いから少しだけ熱いお茶を淹れてみたの。
だから気をつけて飲んでくださいね?」

 

「そうなんですか。わかりました。気をつけます」

 

そんな些細な違いにまで気を配っていただけるなんて恐縮です。
惜しむらくは俺の舌がその些細な違いを判別するほど上品ではないことか。
だが、朝比奈さんがわざわざ工夫してくださったんだ。
ここは一つ、違いが分かる男として何か気の利いた感想でも……

 

「ぷはー!みくるちゃーん、おかわりー!!」

 

お前は飲み屋に遅れてやってきたおっさんか?
もう少しこのお茶の貴重さを理解して、
最低でもフランス料理のフルコースを食べるときと同じくらい、
時間をかけて丁寧に飲むべきだと思うがな。

 

「なによぅ、お茶は熱いうちに飲むものでしょ」

 

さも昔から伝わる格言を口にするように言うんじゃない。
確かに熱いお茶を淹れてくれたんだから、
熱いうちに飲むべきだとは思うが、それ以上に味わうべきだろう。

 

そんな俺の心の声を無視し、
ハルヒは朝比奈さんに空の湯呑みを渡しながら話しかける。

 

「ねぇ、みくるちゃん。おいしいお茶を淹れてくれるのは有り難いんだけど、
お茶菓子はないのかしら?やっぱりお茶だけだと口が寂しいのよね〜」

 

お前はニコチン中毒略してニコ中のおっさんか。
口が寂しいなら大人しく幼児の様に指でもしゃぶっていればいいと思うぞ。

 

「お茶菓子ですか?確かこの辺に……あ、ひなあられならありますけど?」

 

指先で湯呑みを弄びながら探し物をする様子を眺める暴君に、
おずおずという表現がぴったりな感じで菓子袋を見せるメイドさん。

 

「ひなあられ、ねぇ……すこし早い気がするけど、まぁいいわ。
お菓子は年中いつでも変わらない味だし」

 

まぁ、旬があったり、脂がのったりするわけじゃないからな。
チョコやケーキだって時期によって味が変わるわけではない。
二月中旬に食べようが、誰から貰おうが、何個貰おうが、
十二月下旬に誰と食べようがチョコやケーキの味が変わることはない。
孤高の紳士淑女たちが口にするものだけが劣っているはずが無い!

 

心の中で何故か言い訳めいた感じにそう叫ぶ俺。
そんな俺にハルヒはひなあられの袋を渡すと、
部屋の奥の方を振り向いて備品と化しかけた少女に声をかけた。

 

「有希も食べるでしょ?ひなあられ」

 

「……」

 

年中頭の中がひな祭りな女のお誘いに対し、
何故か俺の方を向いて沈黙する長門。
なんだ?無口宇宙人さんはそんなにこの製菓に興味があるのか?

 

「ほら、有希が待ちくたびれてるじゃない。
さっさと袋を開けなさい!」

 

「わかったから、耳元で騒ぐな。
ちゃんと開けてやるから……ほらよ」

 

中身をばらまくことも無く綺麗に袋をパーティ開けしてやると、
間髪入れずに横から健康的な肌色をした腕が伸びてきた。

 

「……うん、中々おいしいわね。
みくるちゃん、お茶のおかわりお願いできるかしら?」

 

適当につかみ取った複数個の小さな塊を口に放り込み、
しゃくしゃくと小気味よい音を鳴らしながらそんな事をのたまうハルヒ。
それにしてもお前の脳内辞書には遠慮と言う言葉が無いのか?
一度返品して新しいものに取り換えてもらった方がいいぞ。

 

一つ二つ摘まみながらそんなことを考える俺。
あ、俺もお替わりいただけますか、朝比奈さーん。

 

「っと、長門は食べないのか?」

 

湯呑をアツアツのお茶で満たしてもらいながら、
先ほどからじーっ、という効果音付きで俺の手元を見つめる静少女に、
俺は三つほどあられを手に乗せて声をかけた。

 

「……」

 

この沈黙はおそらく『食べたいけど問題がある』という意味か。
手元の本と直径一センチほどの菓子を交互に目をやっているところを見ると、
どうやら手が汚れないかを気にしているらしい。
確かに油たっぷりのジャンクフードを食べた手ならば、
本を読む時に汚れが付いてしまうだろうが、
あられくらいならそれほどでもないような気がする。

 

とはいえ、長門が多少なりと気にしているのに、
無理に『気にするな』などと言って食べさせるのは問題があるだろうな。

 

「……」

 

わかっている。無理強いしたりしないよ。
けど、そうだな……手を使わずに食べればいいんだよな?

 

「……?」

 

食事は口さえ使えればできるしな。
そう思った俺は、手に乗せたあられを一つ摘まんで、
長門の方に放り投げてみた。

 

「……」

 

口元に向けてゆるやかな放物線を描いて飛んでいく丸い菓子を、
長門は見事に口でキャッチすると、ぽりぽりと食べだした。
さすが万能宇宙人。Nice catch.

 

それにしてもハルヒといいこいつといい、
CMに起用されそうなほど旨そうに食うな。
この乾いた咀嚼音を聞くだけで販促効果は十分だろう。

 

などと広告代理店への宣伝めいたことを考えていると、
突然耳元で炎獄の覇者のような咆哮が響き渡った。

 
 

「ちょっとキョン!?なに有希に行儀が悪いことやらせてるの!!」

 
 

まずは落ち着け。俺の鼓膜はそんなに強くないんだ。
あと、後半は何て言ったか分からなかったからもう一度頼む。
最初の『ちょっと』の時点ですでに音が聞こえなくなったんだよ。

 

「有希に行儀が悪いことをさせないで、って言ったの!」

 

なるほど、そう言ったのか。

 

「行儀悪いことって……」

 

「有希に口でキャッチさせてたでしょ?」

 

「あぁ、あれか」

 

確かにお行儀はよろしくないが、
見ての通り手が使えないみたいだから仕方ないだろ。
それとも俺の手ずから食わせてやれとでも言うつもりか?

 

「……」

 

「ほら、長門も『気にしてない』って言ってるじゃないか」

 

「あ、あのぅ……長門さんは何も言ってないような気がしますぅ……」

 

「気にしてない、って言っても……マナーが悪いわ」

 

未だ渋い表情をするハルヒに、長門は手元の本を持ち上げ、
それとテーブルの上に鎮座するあられとハルヒの顔を交互に見た。

 

「……」

 

「有希がそう言うなら……特別に許してあげるけど……」

 

「だ、だから長門さんはさっきから一言も……」

 

「でもキョンにやらせるぐらいならあたしが投げるわ」

 

そう言うとハルヒは俺の手のひらから球形のお菓子をひったくると、
そのうちの一つを餌を待つひな鳥のような表情をする長門に投げ渡した。

 

「……」

 

「あら、さすが有希!ナイスキャッチよ!!」

 

口でキャッチして小さくもぐもぐと食べる文学少女の姿が物珍しいのか、
団長さまはぽんぽんと放り投げ始めた。

 

「……」

 

「こんなことも上手にできるなんて……本当に有希は何でもできるのね」

 

感心したように長門の口にお菓子を放り投げるハルヒ。
しかし、ちょっとやりすぎじゃないのか?

 

「だって、有希が欲しいって言うんだもん」

 

「……」

 

「そうは言うがな、長門。少し食い過ぎじゃないか?」

 

「本当に、お二人には何が聞こえてるんですか?」

 

とにかくそろそろごちそうさましておいた方がよいだろう。
そう思った俺は先ほどからあられピッチングマシーンと化したハルヒの腕を、
軽く引っ張って止めることに……

 

「ちょ、キョン、邪魔しないで……あっ!」

 

したかったのだが、どうやらタイミングが悪かったらしく、
ハルヒの手からは丸いお菓子が零れるように落ち、
床の上に一直線に飛び込んで……

 

……いかなかった。

 

「……」

 

「おい、長……」

 

『門』と俺が続けるよりも早く、
目の前でノーロープバンジーをしていたあられを口に含む長門。
さすがスーパー宇宙人。一瞬で移動してあられの命を救うとは。
だが、一瞬であの距離を移動したということは、
長門はそれなりの速度を出したわけで、
なおかつ進行方向に俺がいるということは……

 
 

「ごほぉっ……」

 
 

頭で結論を出すよりも早く『衝突』という結果を文字通り受け止めた俺は、
しばし夢の世界へ旅立つこととなった……

 
 
 
 
 
 
 

「ほんとすごかったわ有希!瞬間移動でもしたかと思ったんだから!!」

 

確かにすごいと思うが、あられの命を救うのに、
俺の命を犠牲にすることはないと思うぞ?
というかせっかく助けたあられの命も食っちまえば無くなるじゃないか。

 

「……」

 

「いや、怒ってない。もうさんざん謝ってもらったしな」

 

「でも、本当に大丈夫?キョン君。すごい音がしたけど……」

 

大丈夫ですよ。ちょっと猛スピードで長門がぶつかってきて、
数分呼吸困難になって、川の向こうのご先祖様に会ってきただけですから。

 

「そ、それって、大丈夫じゃないと思うんだけど……」

 

「それにしても、お茶菓子のあられはなくなってしまったみたいですね。
朝比奈さんは食べました?」

 

「あ、はい。あたしも少し戴きました。おいしかったです」

 

そうか。それはよかった。
ということは、ほとんど長門の胃袋に収納されたが、
一応全員この製菓を食べることができた、ということか。
こいずみ?誰それ?

 

「たまには、こんな風にお茶菓子があってもいいわね。
今度何か買ってこようかしら?」

 

おぉ、生まれてはじめて良いことを言ったんじゃないか、お前?

 

そんな俺の言葉を華麗にスルーして、
ハルヒは長門の方を向いてこう付け加えた。

 
 

「でも今度は有希もちゃんと本を置いて、
手で食べること。いい?」

 
 

その忠告に対し、長門は静かに、しかしいつもより大きめに頷いた……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:10 (2708d)