作品

概要

作者ちの たりない人
作品名新雪の舞う日に〜なごりゆき・それから〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-01-29 (火) 09:53:34

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

これはSS集/868の続編に当ります

 

1
あらすじを言えと言われても、今の俺の精神衛生上、あまり込み入った事まで思い出す気は無い。
ハルヒの力が消滅し、理由は不明だが、俺以外の記憶、記録から長門有希が消えちまった。
そう思っていたわけだが、俺以外のとある奴が覚えていた。あまつさえそいつは、長門が戻って来るだろう事を予見しているようだった。
そいつの名前は周防九曜。
なんでこいつが?とも思ったが、よくよく考えれば合点もいく。
こいつは俺たち人間でもなきゃ、情報統合思念体側の存在でもない。
では…俺は?

 

2
長門が消えてからの数日は、今は思い出したくも無いが…世界中の鬱と言う鬱に乗り移られたほどの気分だった。
俺以外、同じインターフェースである喜緑さんですら忘れている中、俺だけが覚えていたあの感覚。
俺も忘れるのか? 忘れた事さえ忘れるのか? と、どこかでみた話を思い出した事もあった。

 

周防九曜に、俺は救われた。初対面時では考えられない事だが、実際そうなってしまった。
だが、いまだに俺は、こいつの心情を認識できているのかは解らない。
ただ、あの日。朝に早退した日からしばらくして、大体三・四日だったか、あいつの奇天烈な言動に注視し、なんとは無くではあるが、多分そうなのだろう。
長門有希は戻ってくる。それも、そこまで遠くない未来において。

 

で、俺が今している事を教えよう。

 

駅前公園の掃除だ。
はっきり言っておくが、俺も何でこんな事をしているのかは、さっぱり解らない。
九曜に「長門が戻る為に俺に出来る事を、教えてくれ」と言ったはずなんだが…。
俺はここに連れてこられ、箒、ちりとり、ゴミ袋を手渡され
「チリ――――――――が…山になる」
と、言われたわけだ…解説者はどこに居る?

 

とは言えだ、ここは確かにはじまりにはうってつけかも知れないとも思っている。
あいつの栞を見て、自転車をこいで来た日を思い出す。

 

俺は箒を手に、確かに何もしてないよりは気も晴れるはず、と掃除を始めたわけだ。
ちなみに、九曜だが……なんと言うか、すごく異様なものを見ている気がするのは、気のせいではないだろう。
アノ、動作のまま、空き缶拾いなんぞをやっている。
子供が見たら泣き出しそうだが、九曜を認識しているのが俺位だって事は、それは無さそうではあった。

 
 

3
「やっと見つけたわよ、キョン!」
今、一番会いたくない奴の声が、すぐ傍で聞こえた。
「ハルヒ、か」
俺は箒を止めずに、一瞥だけした。
ハルヒだけでなく、古泉や朝比奈さんまで、揃っている。
「なんであんたが、ここの掃除なんてしているわけ?」
俺はため息をつき、肩をすくめて見せた。「俺にも解らん」

 

と、瞬間移動でもしたのか、多分したんだろう…どう考えてもさっき居た位置からは遠すぎる、俺の真横に九曜が立つ。
古泉が「これはこれは」と意味深な言葉を漏らしてはいるが、もちろん、横に居る九曜は気にも留めずに、こう告げた。
「―――――あなた…達も――山になる」
ハルヒは傍目、とてつもなくあほな顔をする。気持ちは解らんでもないな…。
そう言えば、ハルヒはこいつと面識があった…という事を記憶しているんだろうか?
確か長門が一緒に居たはずだ。どういう記憶に落ち着いているのか…。

 

「周防九曜さん、でしたね…この方も………その長門さんを?」
「こいつが何か知っているみたいでな、こいつの助言? に従って掃除しているんだ。お前は、こいつの言いたい事って解るか?」
「無理ですね」
即答しやがった。
「情報統合思念体のTFEI端末の方々とすら、まともにコンタクト取れているとは、まだまだ言い難い位ですし」

 

俺はその一言に首をひねる。ちょっと待て?
古泉のすぐ隣で、ハルヒは九曜を見ている。別段その会話に、大した関心も無さそうにだが。
「涼宮さんには粗方の事は、もう話してあるんですよ」
「話してって…」
「僕個人の判断……では、もちろんありません。僕の所属する機関及び、情報統合思念体のTFEIの、代表として喜緑さんに許可は得ました」

 

4
古泉の話を要約すると、ハルヒの力が消失したのは、ハルヒの心的成長が一番大きいと思われる事。
この力の発現を調べるに際し、地球人類自体を調べるべきだと思われる事。
故に、一度発現した経験のあるハルヒに、直にコンタクトを取るべきでは?と言う結論に至った事…などなど。
俺が長門の事に悩んでいる間に、世の中はかなりの速度で進んだらしい。

 

「取り合えず、掃除ね」ハルヒはそう言うと、俺から箒をふんだくった。
「みくるちゃん、あっちに掃除用具入れが確かあったから、箒とちりとり持って、公園の周囲を掃いてちょうだい」
唖然とする俺を無視してハルヒは、「キョンと古泉君は雑草むしりお願いね。九曜さん、だっけ? あなたはカン拾い続行お願いするわ」と指示をし始めた。
「さて、やりますか」
俺は、良く解らないままに、古泉に引き連れられていった。

 

「あなたも罪な人ですね」
俺の横でばっさばっさと鎌を振るい、草を刈りながら古泉は話し出した。
「涼宮さんの力が残っていたら、僕は廃人になっていたかもしれませんよ」
言いつつも、そうはならなかった故か、古泉の顔はいつもの0円スマイルだった。
「安心しろ」
手を休める事無く、俺は言う。「今回ばっかりは、俺が先にそうなっている」
「ですね」本心からの笑みを向ける。だから、顔が近い。

 

「教えてはいただけませんか? いえ、僕だけではなく涼宮さんや朝比奈さんにも」
「何をだ?」
「長門有希、と言う方に関して。どういう方なのか、僕達はその方とどう言う事をしたのか」
「…………」
「よほど素晴らしい方なんだろう、という予測しかないんですよ、記憶の無い僕達には」
古泉が悪くないって事はわかるが、なんだか無性に腹が立った。お前も、ハルヒも朝比奈さんも、あいつと一緒に居たはずだ…。
「気を悪くしたなら、すみません」
ため息ひとつ。
「わかったよ」

 

5
その日を境に俺は、また部室に足を運ぶようになった。

 

ハルヒの突如の思い付きや、たまに訪れる九曜の意味不明、理解無用の用事など、ある意味SOS団らしい日々になっていく。
涼宮ハルヒ曰く「その長門さんって子もSOS団員だったんでしょ? なら、帰ってきた時に無くなってたら悲しいじゃない」
と言う、解るような解らんような理屈に押されつつではあったが、あいつがこれをどこかで見ている…そんな気すらもして来ていた。

 

約一月が経った頃。
涼宮ハルヒ監督第二回作品『喜緑エミリの逆襲 Episode00』をとりはじめた……突っ込んでいいぞ。
長門が元々居なかったとして、1作目が出来上がっていた事もあり、喜緑さんに出演を依頼し、なおかつ…彼女の部下役に九曜が起用されていた。
どっちが上か解り辛いのがポイントだろう。

 

九曜はその日、おかしかった。突っ込まれる前に言う、いつもだが、その日は特にだ。
時折、目線を水平で固定するいつもの感じではなく、空を見上げていたのだ…その理由を知るのは、割とすぐ後だったが…。

 

今日の分の撮影は終わりだと、俺に機材の大半を押し付け、俺たちは部室に戻って来た。
部室のドアの前で、ハルヒは立ち止まり首をひねる。
「鍵、かけて出たわよね?」そう呟きつつ、扉を開け…数瞬後、ハルヒのこんな叫び声が聞こえた。
「誰よ?あんた」
俺はみんなからやや遅れ、重い機材の切れ間からハルヒ曰くの『誰』を見て………
機材を落としかけた。

 
 

6
「長門………」
何とか力を維持し、その言葉だけを吐き出し、俺は機材をその場に置いた。
見紛うわけも無い、長門有希が…さもそれが当たり前であるかのように……俺にとってそれは当たり前なんだが、パイプ椅子に座って本を読んでいた。
ただ、制服ではなく、私服姿で。
俺の言葉に皆が俺をまず見、次いで長門に視線を戻す。
衝動を抑えなければ、きっとそのまま抱きしめていたのは、心のうちに留めておく事にする。

 

「…………」
長門は俺を、じっと見つめた。
俺は、ホンの少しの違和感を感じた…違和感?…違うな、うまく説明は出来ない。
その視線の主は間違いなく、俺が良く知る俺の長門で、アノ眼鏡をかけたもう一人の長門ではない。まして、誰かが変装しているとか、まるっきりの別人でも無い。
そんな事は絶対にない、と断言は出来る。
出来るのだが……ホンの少しだけ、違って見えた。

 

俺に視線を固定し、しばらく見つめていた長門は
「……ただいま」と言い、他の面々へと向き直る…そして…。
あろう事かこう言ったのだ。
「はじめまして、私は長門有希」と。
「長…門?」
俺の呟きに、いつもしてきたように視線で答える長門。
その視線には、喜びと悲しみが混在しているような…喜び七の悲しみ三、位だろうか。
そして、違和感(?)に思い当たった。この、今の長門の視線からならば…五人に一人は意味を見出せる…と。

 

「なるほど」言って長門の前に進み出たのは喜緑さんは、
「確かに、初めましてになりますね」
とにこやかに笑った。
「どう言う、事ですか?」
と言う、俺の問いかけに答えたのはしかし、長門本人であった。
「わたしは、あなたが良く知る長門有希である、と同時に、喜緑江美里や古泉一樹らの知っていた、わたしとは言えない存在。もっと正確に言うなら」
そこで言葉を止め、俺をしっかりと見つめる。
「今のわたしは、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースではない」

 
 

7
俺は長門が戻ったと、言う喜びを感じたのは間違いない、が、当の長門がそれ以上の爆弾を落としてくれた。
「もしかして、人間…」になったのか? と言おうとした俺の問いかけは、長門に途中で阻まれる。
「それは無理。わたしは有機的情報操作から発生したものであり、人の胎内で育まれた者ではない。故に、あなたがインターフェース等を呼称する際に言う…」
「人間もどき…か?」
「そう。それに該当する、と言う点では同じ」
なんだろう、長門。拗ねているのか?その眼は。

 

「なるほど、なるほど。なんとなくですが理解は出来ました」
一人で納得する古泉。ほっとけば説明はするだろうから、あえて要求はしなかった。
「人間で例えれば"生まれ変わった"と言う感じなんでしょう。あえて僕らの記憶がを消したのは…推測ですが、過去の、その長門さんとの同一視が無理だと思われたのでは?」
「長門は長門だ…」
憮然と言う俺に、にやけ笑のまま「あなたはそうです」と告げた。
「涼宮さんや朝比奈さんは、ある意味巻き添えなのかもしれませんが……」そこで一旦言葉を区切る。
自分の言っている事が間違いでない事を、長門の無言で確認する。
「僕達、機関の人間やTFEI端末の方々だと、長門さん…という存在の前にTFEI…ヒューマノイドインターフェースである、と認識するからです」
俺がクエスチョンマークを浮かべていると
「最初の認識をどこに置くかです。あなたは個人に、僕などだとTFEIや未来人、と言った所に…」
と言うのだが、もちろん、俺には解らなかった。

 

朝比奈さんは、古泉の話は聞かず…聞いても多分良く解らなかったのだろう…ハルヒとなにやら話していた。
俺の視線に気がつくと「キョン君が言っていた感じと、違う感じが…涼宮さんもそうだって」
と言って来た。
それは俺も感じたが、あえて言わなかった。
さっき古泉に言ったが、長門は長門だ、それは間違い無い。

 
 

8.
「わたしを対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースと同じような呼称をするなら…」
長門は、これは多分考えてるんだろう、俺にも解りやすいので言ってくれ。
「自立思考型ヒューマノイド」
インターフェース…とは続かなかった。えー…っと…なんだって?
そんな視線に気がついた長門は、三人中一人は見抜けるだろう表情をして言った。
「人間もどきで構わない」
拗ねてるだろ?絶対。

 

「ホムンクルス…みたいなものでいいのね?」
ハルヒが顎に指を当てて、そう呟いた。
「"魔法"という概念は絡まないが、その表現は的確」
うんうん、とハルヒは頷いて「あなたSOS団に入りなさい。いえ、もう入ってたはずだから、明日から参加しなさい。これは命令よ」と満面の笑みで言った。
「わたしは構わない、が」視線をハルヒに向ける。長門の眼には戸惑いが見て取れた。「わたしはあなた達の記憶を操作した。そのようなものと共に居れるのか?」
「あったりまえよ」瞬殺だった。
「過去の事なんて知ったことじゃないわ。大事なのは今よ! 思い出なんて今から作ればいいだけよ」
微妙に矛盾した言葉だが、長門には伝わったようだった。

 

「周防九曜、あなたには嫌な役をさせてしまった」
九曜は長門を…見てるんだか見てないんだか、いつもながらわからない視線で、
「―――――わたしにも…―――――降り始める」
と完全に意味不明な事を言い、用は済んだとばかりに、スライドするように部室を出て行った。

 

俺が肩をすくめ、視線を長門に送ると
「あなたが、わたしを忘れる事を望んだなら、わたしは戻る気はなかった」
と言い始めた。
そんな事はない、そう言いたかったが、長門の続く言葉に止められる。
「そんな事はない、とあなたは言いたいと思う。だが、わたしは"わたし自身"がそうであるように、人が脆い事を理解できている」
渋面になった俺の顔を見て、長門は……この場の全員が解る程度に……笑った。

 
 
 

9.
長門はスッと立ち上がり、俺の前まで歩いてきた。
「そう言えば、長門。制服は?」
「わたしはまだ、ここの生徒ではない。転入の手続きに来ただけ」
そういうのは情報操作で、ちょちょいのちょい、だったと思ったんだが…はて?
「わたしは、出来うる限り人間と同じ環境で、人間と共に過ごす事。それを情報統合思念体的には目的としてここにいる。情報操作は最低限」
なるほどな…と言うかだ……。

 

長門は俺に触れ合う位前まで来ていた。
はっきり言おう!
周りの視線が痛いです………なかったら何をしてしまうかは、ご想像にお任せするしかないだろうが。
「今のわたしを縛るのは、人としてのそれとほぼ同じ、それと」
俺を下から見上げる。吸い込まれそうな湖面の瞳が語りかける。
「あなた」

 

「わたしは、今、ある衝動を押さえ込んでいる。この場でそれを発散すべきか否か、あなたに問いたい」
この状況は、どう説明すればいいんだ?
背水の陣、いや、すでに崩落しているな。
ハルヒですらニヤニヤして見ているという、SOS団開始当初では考えられない事態である。
俺、結構冷静だな。
冷静を装わないとどうしようもない、とも言えるが。

 

「許可?」
長門の眼は潤んでるとすら言えるレベルで…スマン、反則だろ?これは
「許可?」
そして首を傾げる。
これで断れる奴がいるか? 居たら…絶対代わってやらん。
「解った、もう、好きなようにしろ」

 

その後どうなったかって?
言っても仕方ないだろう。想像通りの展開だった、とだけ言ってやる。

 

最後に、おなじみの台詞でしめてやる。
「やれやれ」
って、俺より先に言うなよ、長門!

 
 

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:08 (3088d)