作品

概要

作者ちの たりない人
作品名なごりゆき
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-01-29 (火) 09:50:34

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

俺は、部室に貼り付けてある写真を見つめ、呻いた。
「くそ、どういう事だよ」

 

ほんの数日前、涼宮ハルヒの力が消滅するに至る、それまであったような奇天烈な紆余曲折があった。
そして、消えたのはそれだけに留まらなかったのである。

 

長門有希。
あいつは、俺の記憶以外のすべてから、完全に消えていたのだ。
部室に張ってある写真、長門が居たはずの部分には誰もいない空間が空いており、アノ映画には喜緑さんが出演している事になっていた。
そして、その喜緑さんすらも…長門という人物を知らず、朝倉は自身のバックアップであった、と言う風に告げたのだ。

 

ハルヒの力がない以上、俺の切り札はすでに意味合いをなくし、完璧なる凡人の俺にはこの虚無感の中、呻く位しか出来なかった。

 

やがてSOS団は、一人欠けた事に気がつきもせずに、平常業務を開始する。
視線の落ち着き所も無く、居心地の悪さだけを感じた俺は
「帰る」
とだけ告げて、部室を後にした。
扉を閉める後ろで、咎める様なハルヒの声が聞こえたが、もはやどうでも良いと感じていた。

 

空には薄く雲が張っていた。
そろそろ季節の変わり目か…などと益体のない事を思いつつ校門を出、しばらく幽鬼の如く歩いていた俺だったが…。
横に何か居るという事に、ようやくの様に気がつき、視線を向ける。
ナニかが俺の横に並ぶように歩いていた。いや、歩いているかどうかはよく解らないが、俺の横にぴったりと着いて来ていた。
「お前は…?」

 

周防九曜。
俺のつぶやきに意も解さず、こちらを見るでもない。
ただ、氷のような瞳で、道の先を眺めていた。
あいつの目は湖面のような…くそっ。
俺は真横に居る九曜に八つ当たりしそうになる衝動を押さえ込み、「今はあんまり傍に来ないでくれ」と、低く告げた。
その呟きは聞こえたのか、九曜は一度こちらを見ると停止する。
俺は、小さく安堵し、歩き始めた…だが、九曜は何を思ったのか、少し俺との距離をとり、そのまま着いて来たのだ。
その距離約2m。

 

「傍に来るなと言ったからか?」
俺の問いかけにはしかし、いや、当然の如く答えもせず、俺が家に辿り着くまで、その距離をただ、着いて来ていた。

 
 

次の日。
放課後俺は、当然の如く部室へと向かいそうになる足を無理やり捻じ曲げ、帰路へと着く。
あの部室に居たら、今の俺はどうにかなっちまいそうだったからだ。

 

空は昨日にも増して曇天。これは多分一雨来るだろう…傘は無かったが、今の俺は濡れて帰るのがお似合いだと、校門を出た。
そうすると、また、昨日の事の繰り返しを行うように、周防九曜が横に並ぶ。
俺は頭を抱え、九曜を一瞥する…と、昨日と同じく、全く同じ距離離れて、着いてこようとしていた。

 

後ろをただ着いて来られるのは、昨日やってみたが、かなり気味が悪い。
あいつ以上に感情を読み取れない事もそうだが、俺以外の人間が、九曜を意識すらしてない事も、それに拍車をかけていた。
同じ気味が悪いなら…と、俺は、諦めたようにふり返る。
「並びたきゃ勝手に並べ。そうされる方が逆に落ち着かん」
そう俺が告げた次の瞬間には、真横に九曜の顔があった。

 

話をする、と言う選択肢もあったが、嫌でもあいつと比べてしまう、だから暫く俺は何も話はしなかった。

 

無言でしばし歩いていると、九曜は手を僅かに広げ、空を仰ぎ見た。
「―ほら…――――く――る―――」
俺は何の事かわからず、とりあえず空を見上げ、広がる曇天に「雨か?」と問いかけた。
「まぁ、こりゃあ降るだろうな」
そう告げた俺の顔を一度だけ見、九曜はまた同じポーズをとる。
「――ふる…?違う―――く――る―――」
お前なら、少なくとも意味の通る事を告げてくれるし、顔を見りゃ俺には……
俺は落ちていきそうになる思考を、頭を振って戻す。
「だから、雨なら…」
「―――――く――る―――」
俺はなんとなく、本当になんとなくだが、こう思った。
「雨、じゃ無いのか?」と。

 

九曜はその凍った瞳を俺に向ける。正解、と言う事なのだろうか?
「雨じゃないとなると…雪はさすがに降る季節じゃないぞ」
「――――――――――――――」
無言で俺を見詰めた後、また九曜は空を見る。
「―――――もう…――――少し…――」
「まだまだ。寒くならなきゃ無理だと思うんだが」
「―――――わりと…――すぐに…―くる―――希望。」
こいつはやっぱり、良く解らん事をのたまう。

 

と、鼻先に何かが当る。
どうやら降り始めたらしい。ま、濡れ鼠になれば逆に、気分もマシになるだろう……。
だが、その一滴から先、俺に雨が当る事は無かった。
いや、雨はしっかり降っているし、むしろ本降りになり始めたと言って良い。
俺の頭上にはビニール傘が広げられていた。もっとも、それで防げないはずの雨も、俺には当たりもして無いのだが。
「――――これは、まだ…――駄目、違う。」
そのビニール傘を持つ九曜は、そんな言葉を告げていた。

 
 

翌日の朝。
教室に現れた俺を見て、ハルヒが一瞬、変な顔をした。
「なんだ、少しは元気になってきた? 今日は部室これるわよね?」
元気に、と言われて昨日ほど陰鬱な気分じゃない俺自身に、俺は驚いた。
「変な奴に元気付けられたって…」
そう言う事だ、と俺は思った、一瞬だけ。
本当にそれだけだったか?

 

九曜の言葉を俺は思い出す。アイツは、ナニが、イツ、ドウナル?と言っていたんだ?
「お前以上に難解なんだがな」
俺は、今は目の前にいない、湖面の瞳に語りかける。
そんな俺の姿に、唖然としたような顔で
「ちょっとキョン。変な病気にでもかかった?」
と、告げたハルヒに俺は
「ああ、俺はどうやら病気らしい。早退するから後は頼む」
と、どちらかと言えば古泉チックな笑顔を見せた。
「ちょっと、来たばかりで…」
ハルヒの頭をなでるように叩き「SOS団のためなんだ」と、俺は教室を飛び出した。

 

九曜は覚えている。そして、もうすぐ来る事を、多分だが確信しているんじゃないのか?
昨日俺に言いたかったのは………。
問題は、俺に九曜の真意が解るかどうかだが…
やれやれ。

 

名残有希

 

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:08 (2732d)