作品

概要

作者しめじ
作品名おかえり
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2008-01-27 (日) 22:06:54

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 細かいことは省かせてもらうが……
 クリスマスにまで後一週間と迫った、寒い日のことだ。
 その日もいつもの強制ハイキングコースを通って北高の門をくぐり、これまたいつもどうりに教室のとを開け、席に着いたわけだ。
 後ろから「おはよう、キョン君」という女子の声。
「キョン『君』……っておい!」
 後ろに居たのは、「どうしたの?」と首を傾げる朝倉だったのだ。
「『おい』だなんて酷いな。今日のキョン君おかしいわ」
 困った顔の朝倉の横から、カゼ気味の谷口が「コイツなら、前からおかしいだろ」と茶々を入れてきた。
「そうだ谷口、ハルヒはどこだ?」
「ハルヒって涼宮か? なんでキョンが知ってるんだか。まあ、見た目はすげえ美人だし、有名人だからな。あいつなら、坂の下の高校だ。何のつもりか知らないが、中身はとんでもないDQN だぞ」
 DQNとはなんだ、DQNとは。
「あたし、そんな人知らないわ」と、朝倉は言う。
 とにかく、いきなりハルヒと朝倉が入れ替わっちまったのさ。
 おかしい。こいつは、俺を襲って来たとき、消されたはずだ。
 いやまて、落ち着け。
 慌てるな。今までさんざんいろいろな目に会って来たじゃないか。
 閉鎖空間で神人が暴れてたり、猫が喋って鳩が白くなりついでに桜が咲いて、そんでもって、夏休みや文化祭前日がさんざんループしたりしたではないか。今度も、何か手がかりがあるはずだ。
「あ〜、それはいい。ところで、朝倉さん……長門を知ってるか」
「ご近所さんだもん。目立たない子だけど。結構キレイな子だし、気になる?」
「なんだキョン、俺的Aマイナーの長門さんに、気があると? あー、分からんでも無いが、コミュニケーション取りにくいって話だぞ」
「そうじゃないんだが……」
 と、俺が頭を抱えた所で、担任が入って来た。 

 

 その日は、なんとか平静を保って過ごした。
 昼休みにそれとなく長門のクラスを覗いたが、見付けることはできず、古泉はこともあろうに教室ごと消滅していた。
 そして放課後、頭痛のようなものに悩まされながら、部室棟に向かった。あそこなら、誰かしら居るはずだ。この際コンピ研の部長氏でもいい。
 途中に朝比奈さんとばったりと出くわし、ついあれこれ問いつめていた所、鶴屋さんに変態扱いされ、ひと捻りにされた。で、這々の体で文芸部室へ。
 ノックして「こんちは」と中に入ると、いつも通り……そう、あの日以来いつも通り、喜緑さんが本を読んでいた。
 喜緑さんはこちらを向くと、「こんにちは」と静かに挨拶して来た。
 その顔を見て、俺の理性は淡路島まで吹っ飛んで行っちまった。
「これはどういうことだ、頼む、教えてくれ!」
 気がつくと、ずかずかと部室に乗り込み、優しそうな顔の先輩を、問いつめながら部屋の隅まで追い込んでいたのだ。
「こらっ! 少年!」
 直後、後ろから襟首を引っ掴まれた。
「みくるちゃんだけじゃなくて、えみりんにまで手を出すとは、どういうつもりにょろ?」
 振り向くと、不審に思って追いかけて来た鶴屋さんが、目を吊り上げてた。
「ヘンタイは、こうだっ!」 
 俺はそのまま「ぽぃ!」という声とともに、部室から放り出されてしまった。

 

 手詰まり……か。
 おかしいのは自分の方だ、と半ば決めつけながら下駄箱へ向かっている所で、ちょうど日誌を職員室に届けに行く朝倉と鉢合わせになった。
「元気ないわね」
「まあ、な。頭が痛い」
 痛いのは、間違いない。
「谷口君の風邪、うつされたのかな。あ、ちょうど良かった、これを長門さんから預かったの」
 朝倉が出して来たのは、見覚えのある長編SFの本だった。
「長門さんに貸してたの? あの子、読書好きね」
 俺は「まあ」とだけ答え、それを受け取ると、朝倉と別れて学校を出た。
 出てすぐに、半信半疑ながらも、栞が挟まっていないか探してみた。
 ……あった。
 そこには、「午後七時、公園で」と、懐かしいあの筆跡で書かれていた。

 

 七時少し前、俺はあの公園へ来た。雪こそ降っていないものの、日はとっくに落ちてえらく寒い。
 中に踏み込み、街頭の下にあるベンチに目をやると、眼鏡をかけた長門が居た。
「久しぶり、かな」
 俺は長門に近づき、声をかけた。
「久しぶり。こっちへ」
 眼鏡長門はゆうっくりと立ち上がり、抑揚の無い声で言うと、白く無表情な顔のまま、俺を連れてあのマンションに向かった。
 無言のまま、玄関、エレベーターと進み、何度か訪れたあの部屋へ。
 促されるまま上がり込み、炬燵に足を入れる。眼鏡長門はお茶を出すと、ゆっくり向かいに座った。
「あの、長門……元気だったか?」
 なんとか紡いだ言葉に、コクリと頷くと「会いたかった」と、小さく言った。
「俺もさ」
「ほんとに?」
 本心から「もちろん」と答える俺。眼鏡以外は文化祭前と変わらない、あの長門に会えたんだ。他の団員は、みんな変わっちまったっていうのに。
 そう思った矢先、その楽観的考えすら吹き飛んだ。
 長門の「うっうっ」と嗚咽する声とともに。
「ど、どうした?」
「あうぅ……なんで泣いてるのか、よく分からない。
 あなたには、たった一回図書館でカード作ってもらっただけなのに、今日ちょっと見たとたんに凄く会いたくなって。
 うぅ……それで、あなたと同じクラスにいる朝倉さんに頼んで、本を……。来てくれると思わなかったけど、だけど……」
 長門は眼鏡を涙で濡らしながら、震えていた。
「ごめんなさい……どうしてこんなに会いたくて、苦しいのか、自分にもわからない。いきなり呼び出して、ごめ……」
 泣きながら、声を詰まらせる。俺も、何を言っていいか分からずに居た。
 ――ぴんぽ〜ん!
 そのとき、ドアベルが鳴った。

 

「出る……」
「いいのか、泣き顔で」
「いい、だいじょうぶ」
 なにかこの、中途半端に長門っぽいところが、切ない。
「長門さん、どうしたの!?」
 玄関先で聞き覚えのある声。やっぱりというか、朝倉だった。
「キョン君じゃないの。どうして、あなたがここに?」
 鍋とナイフを抱えて入って来た朝倉は、目を丸くして眉毛をひくつかせた。
「ちょっと、女の子の家に押し掛けてきて、泣かすなんて、最低!」
「ま、待ってくれ。そのナイフをだな」
 また刺されては叶わん。それに今の長門は、助けてくれそうにない。
「これは包丁! ネギとかを刻むのに持って来たの」
「あの、その……」
 眼鏡長門が立ちすくんで、俺たちを交互に見ている。
「あ、ごめんね長門さん。今、おでん用意するから」
「でも、何で泣いてるの?」
「よくわからない」
 朝倉は「ふ〜ん」とだけ言い、鍋を台所のコンロに乗せた。
「沢山あるから、キョン君も食べて行く?」
「ん? ああ」
「なら、用意を手伝って。泣いてる子にやらせられないわ」
 混乱気味の俺だが、「ちょっと、な」と長門に声をかけ、台所に向かった。 
 朝倉が「らっつぁっつぁりりばりりん♪」と、妙な歌を唄いながら、ネギを切っている。
 それを横目に、俺は取り皿や箸を引っ張りだして、お盆に並べ始めた。
「ねえ、キョン君」
 手を止めた朝倉が、小声で言った。
「長門さんが泣いてる理由、分かる?」
「……いや」
「あたしは、知ってる。キョン君が、包丁を怖がったわけもね」
「なに? もしかして……」
「長門さんと喜緑さんは、今は普通の人間。あたしも、ね。だけど、もとに戻る方法は、知ってるわ」
「どうするんだ」
「長門さんの気持ち、分かってあげて。それだけよ」
「気持ち……ん?」
 腕に感触。振り向くと、まだ目が赤い長門が、袖をつまんで引いていた。
「あ、すまん。炬燵にもどろうか」

 

 微妙な雰囲気の中、三人でおでんを食べた。
 片付くとすぐ、朝倉が帰ろうとしたので、俺も続こうとしたところ「『帰り』たくないの?」と、長門の方を目で指し、押し戻されてしまった。
 再び二人だけ。さらに微妙な空気。
「えっとさ、ここでぼうっとしてるのもなんだし、散歩でもいかないか?」
 コクリ、と無言で頷く長門。
 そして、外に出たはいいが、午後八時を回った今では、やってる店も少ない。
 ただぶらぶらと歩き、ふと気がつくとあの日の図書館の前に来ていた。
「あの時の図書カード、使ってるのか?」
 訊くと、長門は「使ってる」と、ポケットの財布からそれを取り出した。
「そう、か。良かった」
「……よくない。わたしは……帰りたい……でも、どこへ? わからない」
「おい、泣くなって」
「ごめんなさい……あなたの側に居たい。でも、なぜ?」
 なぜだろう。朝倉は言った……長門の気持ちを考えろ、と。
「もしかしてさ、喜緑さんと、入れ替わったの、悔やんでたのか?」
「え、あ、きみどりさん?」
 長門の返事は要を得ない。
「ずっとSOS団に居て、一緒に楽しくやりたかったんだろ?」
「わからない……」
「そうか、すまん」
 さらに「わけ分からない事をきいて」と言おうとした所で、突然長門が「ごめんなさい」と、抱きついて来た。
「だけど、あなたが好き。一度だけでいい、お願い」
 驚いた事に、長門は眼鏡を外すと、目を閉じて顔をこちらに向けて来た。
 キス……?
 長門の口が、小さく動く。
 雪のように白く透き通った顔の、うす紅いその唇。
 俺はそのか細い背中に手を回すと、そこに自分の唇を重ねた。

 

「……ありがとう」
 数秒か数十秒か。
 顔をはなすと、そこに液体窒素の瞳が二つ。
「全ての記憶を回復した。世界を、再構築する」
「え? どういうことだ」
「全て、わたしがやったこと……」
 長門はそう言うと、手を開いて天にかざした。
 そして「終わるまで、肩を抱いてて」と、無表情のまま言った。
「……その方が、安全」 

 

 それから、猛烈な目眩に見舞われ、もみくちゃにされた。
 その途中――背中にもう一つ、手の感触があった気がする。
「……キョン君、またね」
 朝比奈さん(大)?
 こころなしか、温かい気がする。
 おそるおそる目を開くと、そこは見慣れた文芸部室。俺は机に突っ伏して、眠り込んでいたようだ。
 ふと横を見ると、同じようにハルヒが机に突っ伏していた。
「長門」
 思わず声に出し、見回した。……いた。
「あなたは、休んでいて……学祭には、間に合う」」
 パソコンに手をかざした長門が、いつもの無表情のまま、魔女になった自分が動いている画面を見つめていた。
「帰って、来たんだな」
 俺は訊いた。長門が、本の僅かにコクリと頷く。
 そして俺は立ち上がり、眼鏡なしの長門にそっとキスをした。

 

「おかえり」

 
 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:08 (2704d)