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作者 | ちの たりない人 |
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作品名 | いつか、雨の日に |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2008-01-20 (日) 09:11:09 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 登場 |
みくる | 登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
注・これはサムデイ イン ザ レインを、ポジィティブに考察したのを基にして書き、投下したものに加筆したものです)
部室を出、廊下を歩き出した時、隣にいた彼女は思い出したように問いかけてきた。
「あの、寒く、無いですか?」
「大丈夫、平気」
わたしは、部室で呑気に眠る彼を思い浮かべる。わたしの顔に、多分変化は無い。
もし、わたしの顔が、意思疎通としての機能を果たせたならば、この優しい隣人に心配させる事も無いのだろう。
そんな日が、きっと。
「じゃ、行きましょうか」
朝比奈みくるはそう告げて、傘を広げた。
折り畳みの傘は小さく、彼女一人でも手狭に見えた。わたし一人ならそうでも無いのかもしれないが。
「どうしたんです?」
横に並ぼうとしなかったわたしに、朝比奈みくるは小首を傾げる。
「わたしは…」
濡れても平気だと言おうとした言葉を、彼女は止めた。
「平気、には見えません」
そう、わたしの唇に人差し指を置き微笑む彼女の顔を見つめる。
わたしの中、たまりつつあるエラーに気が付いている…そう言うわけでも無いだろう。
彼女は渋面…苦笑いと言うのが多分正解なのだろう、になると「ごめんなさい」と告げる。
「なぜ?」わたしは疑問を口に出す。「あなたが謝る必要性は感じられない」むしろ、あと少しした後の自身こそが、あなた達に謝らねばならない。
「あたしはやっぱり、長門さん…あなたがちょっと苦手です」
重く立ち込める雨雲、その遥か先を見るように彼女は言った。
共に歩き出すも、わたし達は最初、互いを見ずにいた。
ただ、沈黙を良しとしないのか、彼女は話をし始めた。
「あたしは長門さん…あなたに嫉妬してるのかも」
口をついて出た言葉は、止まるという事を忘れる時があるのだろうか…今、この時の彼女のように。
「あたしは、何も出来ないし何も言えないし…ううん、そもそも、何も知らないし」
自嘲気味の笑顔で、こちらを向く。「長門さんは、何でも知ってて、何でも出来て…」
「わたしも、同じ」
自分の顔がどう、形作っているかは解らない。多分、彼女もソレを感じ取る事は出来ない。
だから、せめてわたしは言葉として、出来うる限りの齟齬を落とそうと思う。
「わたしに出来る事は少なく、わたしに解る事も少ない。そして、多分、わたしもあなたと言う存在に対し羨望の意識を持っていると思う」
キョトンとした顔がこちらを覗き込む。どこか納得する事がある。彼が朝比奈みくるに対して、どういう意味合いの視線を送っていたのか。
「言葉というものをもってすら、わたしは意志の疎通に、齟齬を発生させている可能性が高い。あなたは、言葉を使わずとも相手に意識を伝えている」
これで、彼女に伝わったのか、わたしは測りかねていた。その意思を視線に乗せたとしても、多分、わたしの顔に変化は無い。
彼女は首を横に振る。
「はい、あたしには長門さんがどう思っているのか、そういうのは全然わかりません。」その顔はしかし、笑顔だった。「でも、解る人がいる、それは大きい事だと思いますよ」
彼女はある種の緊張が取れたのか、今日の事を…何気ない日常の事を話す。
その半分は、涼宮ハルヒに振り回されていたという事象ではあったが。
思い立ったように、話の中で彼女はこう、漏らした。「私も傘もって来ておけば」と。
今、わたし達を雨から……その身の半分程度ではあるものの、守っている傘は涼宮ハルヒのものであった。
『あたしは2本持っているから。幾らなんでも、この寒さで雨に濡れたら風邪引くわよ』
涼宮ハルヒはそう言って、わたし達二人に傘を押し付けてきたのだった。
嘘だとは解っていたし、本来の目的が別にある事も、胸にたまるエラーが教えてはいた。
ただ、涼宮ハルヒがわたし達の身を案じていた事も、疑いようの無い事実でもあった。
朝比奈みくるは不意に、私が傘を持って来ていなかったのは何故かを尋ねてきた。
わたしは空を見、そして彼女を見る。
雨が降る事を予見できなかった…わけでもない…なら、わたしは何故?
「よしっ」彼女は、右手を握り締める。『この位なら大丈夫』と言う風な呟きが、雨音に消されて流れていく。
わたしは、次の言葉を促すように彼女を見つめると、彼女はわたしの唇にまた人差し指を当てる。
「今から言う事は、あたしとあなた以外には『禁則』で」
「わかった」
微笑を交えて告げられた、彼女との『禁則』はわたしの胸にたまるエラーに、ゆるく波紋を作る。
「涼宮さんに、負けてばかりはいられないから」
雨雲の向こう、そこにあるはずの星空を彼女は見上げ、わたしもそれに倣う。
いつか、雨の日に