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作者 | 見守るヒト |
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作品名 | 初日の出 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2008-01-05 (土) 22:30:04 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
某県、某海岸。
日も上がらぬ暗がりの中、彼は隣にいる彼女に気遣わし気に声をかけた。
「寒くないか」
「平気」
いつもと変わらぬ平坦な声音でそう答える彼女に、幾分か安心して「そうか」と答えた彼はその場でぐるっと周りを見渡す。
老若男女、実に様々な人が自分たち同様にいるのがわかる。それも当たり前だった。
今日は一月一日。そう、ここにいる皆は、ここで初日の出を迎えるべく集まっているのだ。
そんな中、彼は時間を確かめるために携帯を見やると、もう少しで日の出の時間になるところだった。
「もうすぐ日の出だな」
彼がそう言うや否や、次第に空が白みだしていた。
ざわざわとしていた周囲の人達も騒々しさを納めていく。
だんだんと明るさが増していき、ついに朝日が顔を出した。
それは正に大自然の神秘。
差し込まれる光は眩く輝き、眩しい筈なのに視線を外す事を許さない。
その光に当てられて黄金色に染まる海面は、まるで砂浜から太陽へと伸びる黄金の道。
誰もが言葉を飲み込み、その奇跡の瞬間に心を奪われていた。
彼も当然その光景に目を奪われる。が、彼にはそれよりも気がかりなことがあった。
その光景から目を離した彼は隣の彼女を見やった。彼女はこの光景をどう思っているのだろうと。
彼女へと視線を移した彼の目に飛び込んできたのは、その澄んだ瞳から一筋の涙を流す彼女の姿だった。
魅入られるように、食い入るようにその奇跡を見つめる彼女。恐らくその頬に流れる雫にも気付いていないのだろう。
「有希」
そんな彼女に彼は小さく呼びかける。
その声にハッとした様に彼女が顔を彼へと向けた。
―ああ、綺麗だな。
彼女の頬を伝う雫は朝陽をうけて煌き、彼の目には宝石などでは比べようの無いほどに美しく見えた。
彼女が涙を流すほどに、何かをこの景色から感じ取ってくれたことを彼はとても嬉しく感じる。
彼はほんの少しだけそれをもったいないと思いつつも、自身の手で彼女の涙を拭う。
彼女は彼のその行為に漸く自分が涙を流していたことに気付き、それを拭おうとするが、彼はそれを優しく「いいから」と制した。
そのまま彼は反対の頬も拭い、その大きな手で彼女の手を包み込むように握った。
そんな彼を彼女は不思議そうに見つめる。
気恥ずかしくなったのか、彼は反対の手でポリポリと頬をかくと顔を日の出へと向けた。
彼女も彼に習って、改めてその瞳を日の出へと向ける。
彼がポツリと呟くように言葉をもらした。
「綺麗だな」
その言葉に彼女は小さく頷き、
「とても、綺麗」
と賛同の意を表した。
自分が自身につけた名前の由来となったモノ、それと同じように様々な奇跡の果て創り出されたこの光景に、心動かされている自分を、確かに彼女は感じていた。
「なあ、有希」
再び呼びかけられた彼女はもう再度彼へと顔を向ける。
彼は彼女を見つめていた。
優しくて穏やかな、彼女にしか見せない顔で。
「明けましておめでとう。今年もよろしくな」
そういう彼に彼女は、キュッと握られた手を軽く握り締め、
「…こちらこそ、よろしく」
と、彼のおかげで手に入れた、彼にしか見せない淡い笑顔で小さく微笑んだ。
今年もいい年になる、と幸福な予感に包まれながら、二人は握られた手を離さないまま朝陽を見つめ続けていた。