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作者 | 見守るヒト |
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作品名 | 耳かき |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2008-01-02 (水) 21:31:52 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
長門の様子がおかしい。
それに気付いたのはつい最近のことだ。と言うよりは、最近になって様子がおかしくなった、と言うのが正確だろう。
とはいえ、何かしらの異常行動しているわけではなく、長門の行動は部室に来ては無言で読書をする等、いたっていつもどおりだ。
はたから見ればなんら変わりなく見えるのは、俺以外の周りの様子を見ていればわかることである。
では何故俺が、長門の様子がおかしいなどと言う原因がなんであるかといえば
「よう、長門。相変わらず早いな」
「……」
「長門?」
「…なに」
「いや、相変わらず早いな、って」
「…そう」
これだ。
なに?さっぱりわからんだと?つまりだな、俺が言いたいのは
声をかけても長門の反応が鈍い
その一点につきる。
そんなことはないだろうといいたくなる気持ちもわからなくはないが、それこそそんなことはない。
この宇宙人製アンドロイドである長門が、かけられた声に無反応というのは、実のところほとんどないのだ。
読書をしていようが何をしていようが、かけられた声には何かしら反応は返す。
たとえそれが、視線を向けるだけだとか、視線すら向けずに「なに」と無感情に声を返すだけであろうと。
まぁ、事態が切迫している時みたいな非常時は除いて、ではあるがな。
そんな長門が、最近はさっきのようなやり取りが珍しくない状態が続いている。
はっきり言おう、これは異常事態であると。
朝比奈さんや古泉の様子を見ている限りでは、ハルヒが相変わらずのへんてこパワーを発動させたわけではないだろう。
ということはこれは長門個人の異常という事になる。
一体どうしたと言うのだろうか。もし何かしらの厄介ごとを抱えているなら力になってやりたいとは思うのだが、
いかんせん俺は宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく、ましてや世界を崩壊させてしまう様なでたらめなパワーを持っているわけではない。
いたってそこらにいくらでもいる一般的な高校生なのである。
しかしながら、正直このままでは俺の精神衛生上、非常に良くない。せめて話を聞くだけでも出来ないものか。
何の力になれなくても、話しぐらいならいくらでも聞く。いつも世話になっている長門ならなおさらだ。
そんなことを考える日が続き、とうとう我慢できなくなった俺は意を決して聞くことにした。
その日は、たまたまことのほか早く団活が終わり、ほかの三人は既に帰宅して、
読書をしながら居残っている長門と話をするにはおあつらえむきだった。
俺は長門に呼びかけた。
「なあ、長門」
「なに」
お、今日はすんなり返事したな。
「最近おまえ、どっかおかしくないか?」
「……」
長門がこちらに顔を向ける。
何だ、その顔は。無表情で隠しているつもりだろうが俺にはわかるぞ。そのまるで予想外なものを見たときのような顔は。
こいつは俺が気付いてないとでも思っていたのだろうか…というより、たぶんそうなんだろうなっ!悪かったな、鈍くって!!
…とりあえず落ち着こう。色々いってやりたいことはあるが、長門のその顔でこいつが何らかの異常を抱えているのかわかったんだから。
「やっぱりそうか。なあ長門、確かに俺に出来ることは少ないかもしれないが、もしかしたら何か出来ることがあるかもしれん。だから、お前が嫌でなければ話してくれないか?」
「………」
俺のその言葉を聞いた長門は、いつもより少し多い三点リーダを引き連れてしばし黙り込む。
ややあって長門が口を開いた。
「聴覚に異常がある」
「なに?」
「聴覚器官そのものに異常があるわけではない。いたって健康。
しかし何らかの外的要因により、ここ最近音声情報を聞き取りづらい状況にある」
「え〜、つまり、耳に異常はないが声が聞こえにくいと言いたいのか」
「端的に言えば、そういうこと。加えて時折ごろごろと不可解な音が聞こえることもある」
「ごろごろと音がする?」
こいつ、まさかと思うが…
「長門、ちょっとこっちにこい」
「…?」
俺が手招きをすると、長門は少しだけ不思議そうな顔をするがすぐにこちらへと寄ってくる。
うむ、素直でよろしい。素直なやつは好きだぞ。
よってきた長門を俺は横へ向かせて、長門の普段なかなか間近で見ることのない耳を覗き込む。
顔が近いせいで少々妙な気分になるが気にしない。やっぱりこいつの肌白いな、とかいい匂いがするな、なんてことはまったくもって気にしない。
覗き込んでみれば案の定とでもいうべきか、意外と言うべきか。耳の穴がすごいことになっていた。
一体どれだけ放置しとけばこんな風になるんだ?妹でもここまでひどくはならない。
長門から顔を離した俺は、ざっ、と部室を見回す。目的のものは2つ。それはすぐに見つかった。
一つはティッシュボックス。そしてもう一つは、細くて先端が平べったくなっていて、その反対に白いふわふわな毛がついているあれだ。
ここまでくれば誰だって俺がしようとしていることがわかるだろう。
そう、この道具の名のとおり、「耳かき」をしようとしているのだ。もちろん長門のを、だ。
二つの道具を手早く集めた俺は、今度はがたがたと椅子を並べていく。
椅子を四つ並べ、その一番端だけを少しだけ後ろへとさげる。
そしてそこに俺が座る。よし、これで準備完了だ。さて後は
「何をしているの」
うおっと。長門のほうから声をかけてきた。どうやらこいつには俺が何をしようとしているのかがわからんらしい。
「とりあえず座れ。んで、ここだ」
そう言って俺は自分の膝をポンポンとたたく。
俺は、俺の横に座って寝転がり、頭をここに乗せろと言う意味で言ったのだが、何を勘違いしたか長門は「わかった」と言って『俺の膝の上』に座る。
ちょっと待てい!!
いやいや、長門さん。そうじゃなくてですね。決してこの体制が嫌なわけではありませんが色々とまずいというかですね。
ってこらこら、こんな状態で読書を始めるんじゃありません!
何故か敬語になりながらも、なんとかかんとか長門にどいてもらうことに成功する。
なんでそんなに名残惜しそうな顔をするんだ。だめだぞ、そんな顔をしても。……まぁ、二人きりの時なら考えてやらんでもないが。
って何で俺はそんなことを考えてるんだよ。正気に戻れ、俺。
さっきのではどうも言葉が足りてなかったようなので改めて細かく長門に説明する。
説明を受けた長門は素直に言うことを聞き、現在、俺の膝に頭を乗せている状態だ。
所謂膝枕と言うものである。
「じゃあ、始めるぞ。いいか?」
「…いい」
それでは、っと。改めて長門の耳を覗き込む。
おーおー、こりゃすごい。これはやりがいがありそうだ。
まずは浅いところからカリカリと削る。
「んっ!…」
「あっ、と。すまん。痛かったか?」
「大丈夫。続けて」
「わかった。痛かったら言えよ」
長門に釘を刺して、耳かきを再開する。ふーむ、これは下手すると奥まで落ちるな。気をつけなければ。
カリカリカリ……
その後、
「…っ!……っ!(ピクピク)」
「おい長門。あんまり動くな。カスが奥に落ちる」
「……」
といったやり取りや
「あ……ンッ!…」
「…っ!ダメ…」
「〜〜〜っ!」
なんて声が聞こえてきたような気がしたが、耳かきに集中していた俺は全然気付かなかった。
やがて耳の中のカスがほぼなくなり、中をサリサリと大雑把にかく。
「よし、大体終わったな」
「……(フゥ)」
俺のその言葉に随分安心したように長門は息をついた。
もしかしたらこいつは他人に耳をいじられるのが好きじゃないのかも知れんな。
悪いことをしたとも思ったがもう既に後の祭りである。
さて、最後の仕上げだ。
俺は後ろの綿毛の部分でサササッと長門の耳の中の細かいかすを取っていく。
その間、長門はくすぐったそうに少しだけ肩をすくませていた。
これで本当に最後、っと
「フ〜ッ!」
「〜〜〜ッ!?!?!?!??(クテリ)」
「ん?どうした?長門」
何故か長門はぐったりしている。なんか顔も赤いし。どことなく色っぽくて目の保養にはなるんだが体調でも悪いんだろうか。
「大丈夫か?長門」
「…だ、い丈夫。問題…ない」
そんな風に息を切らせて言われても説得力に欠けるんだがな。まぁ、いいか長門にはもう少し『ゆっくり』してもらえることだしな。
「そうか。じゃあ長門」
「…何」
「後ろ向け。今度は反対だ」
その時の長門の顔が、何故か絶望感いっぱいだったように見えたのはたぶん俺の見間違えだろう。
耳かきが終わった後、またも何故かぐったりして動かない長門を背負ってマンションまで送り届けたのは別の話だ。
今度耳かきをする時は長門の体調のいい時にするとしよう。