作品

概要

作者輪舞の人
作品名たぶん、よくある光景
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-12-23 (日) 03:57:06

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 涼宮ハルヒと彼との関係は、北高という限定されたコミュニティにあって、相当の注目を浴びる存在となっている。ごく当たり前のように。

 

 もともとがそのエキセントリックな行動と強烈なパーソナリティによって、東中学時代には「生ける伝説」となった彼女のことである。
 「伝説」を間近で見聞していた東中出身の学生たちが、そのすさまじいまでの奇行の数々を学内で吹聴して回っていたのは想像に難くなく、結果、涼宮ハルヒ自身の知名度は学年で常にトップを独走を続けてしまっている現在の状況は、自明の理とでも言うべきなのだろう。
 容姿端麗、成績優秀、文武両道という、個体能力としても最高評価を受ける彼女が、しかしその行動の異常性と、異性とのパートナー関係をすぐ破綻させるというスキャンダルまでを兼ね備えているのだ。
 これで多感な時代の生徒たちの注目を浴びるな、という方がおかしい。

 

 そんな彼女がここにきて、ある特定の一男子と、破綻する事なく継続的に交友関係を結んでいるという噂は、またたく間に伝播し、本来そんな噂にいちいち関与することもないと思われる講師陣の関心までひくという異例の事態にまで至っていた。
 と、このように、すでに二人の関係は事実かどうかに関わらず、すでに北高関係者の間では公然の秘密となっており、知らぬは当の本人たちのみ、だったりする。
 ……本当に知らないのか。今のわたしでも、よく理解できないものがあったのだが。

 
 

「長門、いるか」
 めずらしく、彼がわたしの教室までやってきた。
 後ろの出口から、少しだけ顔をのぞかせるとわたしの名を呼んでいるのが見える。
 わたしはゆっくりと立ち上がると、彼の元へと向かう、のだが。
 ……女生徒の小さな悲鳴のようなささやき声が、わたしの背後から不意に沸き起こるのを感じる。
 なに? 私は聴覚センサの補正を開始する。

 

(あの人、あれでしょ。あの涼宮ハルヒっていう人と付き合ってるとか言われている)
(そうそう。なんか、いっつも一緒にいるでしょ。やっぱりそうなのかなぁ)
(結構、かっこいいよね。なんか、ムスっとした感じもするけど)
(でも、あのライブの時とか、涼宮さんも、かっこよかったよ。感動したなぁ)
(なんとなくお似合いって感じ? いいよなぁ。私も彼氏欲しいなぁ)

 

 ……こういった異性間交友に関するゴシップは、特に女生徒の間では強く浸透するものらしい。
 二人の関係が、このように周囲に周知されている事実に、わたしはほんの少しだけ寂しさを覚える。
 少し、ではないのかもしれないが。

 

「……長門?」
「なに」
「あ、いや……大丈夫か、おまえ」
「問題ない」
「本当か。また前みたいに、何かあったりしないだろうな」
 クリスマスのことを言っているのだろう。
 もう、終った話なのに。
 わたしは小さな、誰にも気づかれないため息をひとつつく。
「ほんとうに大丈夫。用件は」
「ああ、実はな」

 

 彼は、私に飾り気のない一枚のハンカチを差し出した。
 これは確か、彼が食事をしている際に、惣菜を服にこぼしてしまった時に貸した(その場で作った)物だった。きれいにアイロンがけまでしてある。
 覚えていてくれた。そんな些細なことが、今のわたしにはとても嬉しい。

 

「これは」
「ああ、ちょっと教室移動でそこまで来たから、ついでにと思ってな」
「いいと言ったはず」
「そういう訳にもいかんだろう。何しろ……」
「キョーンッ!!」

 

 彼の後ろから、強烈なハイトーンボイス。
 当然、彼女。涼宮ハルヒだった。
「何してんのよ! こっちはとっくに他の機材、運び終わってるんだから!」
「ああ。ちょっと長門に、借りたものを返そうと思ってな」
「へ? 有希?」
 ようやくわたしの存在に気づいたよう。今の彼女には、もはや彼しか見えていないのかも知れない。
 それほどまでに、あなたは彼のことを思っている? 少し、うらやましい。

 

「あんた、なに借りたのよ、有希に」
「ハンカチだ。なにもやましいことなんかしてないぞ」
「なんで」
「なんでって、昼飯を部室で食ってる時に、こぼした飯で服を汚したからだろうな」
「なーんーで、有希と二人っきりでご飯食べてんのよ。わたし、知らなかったわよ、そんなの」
「なんで、俺が誰と飯を食うか、いちいちお前に報告しなきゃならんのだ」
「あのねぇ、あの部室はSOS団のものなのよ。つまりは団長のわたしの許可がいるわけ。あたりまえじゃない」
「誰がいつ、あそこにいるかなんて、そもそもお前は最初から把握してなんかいないだろうが」

 

 わたしはその存在を完全に無視されたまま、ただ二人の痴話喧嘩の見届け人のようにして立ちつくしている。
 結局私はハンカチを返却される事もなく、言い争う二人が遠ざかっていくのを教室の出口で見送っていた。
 さすがに力が抜けたように自分の机に戻る。
 まあ、いつものこと。
 ごくありふれた、たぶん、よくある光景。

 

「ちょっと長門さん、今のアレってなに」
 クラスメイトたちが、私の机の周りに近寄ってきていた。
 少し興奮しているように見える。
 理由はまったくわからないが。
「なに、とは」
「なに、じゃないでしょう」
「今の、彼が長門さんになにか返しに来てたんじゃないの?」
「そう。だけど、いい」
 実際、ほんとうにどうでもいい……と、以前のわたしなら思ったのだろう。
 だが彼女たちに特に関係がある話でもないはずなのに、どうしてこのように興奮しているのだろう。
 それがわからない。
「よくないよ。二人で話してる時に、横から割り込んできてさ」
「そうだよ、ひどいよ、あれじゃあ。長門さんの事完全に無視じゃない」
「でも、あの人、何か長門さんと話してる時、すごく気遣ってるような感じだったね。涼宮さんの時とは話し方とか、雰囲気、全然違って見えたよ」
「……そう?」
 確かにそう。彼は、特にあの事件以来、常にわたしのことを気遣ってくれている。
 でも、それは、あくまでわたしの事を友人として見ている、それ以上のものではなかった。
 それが分かるだけに、寂しい気持ちは常にまとわり付いてくる。
 でも、それでいい。ずっとそう自分に言い聞かせていたのだし、あの二人の関係を見守り続けていくだろうという決意はすでにあったから。
 そのことをわたしは周囲に告げた。
 彼は、ただ優しいのだけなのだ。
 ……少し鈍感だけど。
「それは、彼は優しい人だから」
「そうそう。なんか、すごく優しそう。話と違うかも……って、ええ?」
「……なに?」
 なにか、いけない事を言ってしまったのだろうか。
 反応がない。完全に静まりかえっている。
 その後、一拍おいて……

 

 悲鳴のような、よく理解できない女子生徒の声。

 

「今、優しい人、とか言った?」
「言ったよね? ひょっとして、長門さん、あの人のこと、好きとか」
「すごい……長門さんが男の人と話をしているだけでも勇気出してるなぁとか思ってたのに……」

 

 わたしは包囲されたまま、黄色い声の集中砲撃を浴びている。
 今度は、聴覚センサのレベルダウン。頭に響く。少し、辛い。
「ねぇ、ひょっとして……好き、なの? 彼のこと?」
 皆が突然、黙り込み、私の反応を待っている。
 なぜ、私が、この気持ちをここで公表しなければならないのか。
「好き、とか嫌いとか、そういう問題ではない」
 これまでの彼と彼らとの、超常的な冒険の数々を想起する。
 確かにわたしたちには、恋愛感情というものよりも、遥かに強い結びつきがすでに確立しているのを感じている。
 涼宮ハルヒについても、私は彼女を仲間であると強く信じているのだから。
「あの人とわたしとの関係は、そういう表現で表せるものではない。わたしはそう思っている」
 なぜ、多くを語るのだろう。
 でも、それは偽りのない気持ちだったし、事実でもあった。
 しかし……反応がない。

 

「?」

 

 見上げると、皆が唖然としたような表情に。
 そして再び……

 

 なんという大きな悲鳴。

 

 いったいどういう反応なのか。
 ……正直なところ、困る。
「長門さん、がんばりなよ! 応援するから!」
 なに。どういうこと?

 

「確かに涼宮さん、すごいモテるし、バンドの事もあって人また人気も出てきたりしてるけどさ」
 ちょっと、待って。みんなの言っていることがうまく理解できない。

 

「実は、長門さんだって男子の間じゃ、結構噂になってるんだから。知らないでしょ」
 わたしが? 誰かに? いったいどんな評価を。

 

「告白とか、された事あるんじゃないの?」
 ……一度だけ。勘違いで。

 

「いけるよ。彼のあの表情、ただの友達とかじゃないみたいだったし」
 ……そう、思えるの? 人間の視点から見ても? 本当に?

 

「応援する。涼宮さんに負けないで、いっちゃえいっちゃえ」
 いっちゃえ、いっちゃえ……どこへ?

 

 わたしはその後、散々、けしかけられ、励まされ、応援を約束され、祝福された。
 少しだけ、何かに向けて前向きになるような気持ちになっていくのを感じる。
 やがて、ほとんど理解できていない状況に変わりはないが、なにか返答しなければならない、そんな圧力をまとった空気が形成されていた。
「…………」
 無言のプレッシャーを前に、わたしは言葉を選ばなければならなかった。
「……わかった」
 またもや沈黙。

 

「……善処する」

 

 これまでにない、最大級の悲鳴。
 周囲の生徒が何事かとやってくるほどに。

 

 わたしは正体不明の拍手に囲まれながら…… 
 このことを統合思念体にどう報告してよいのかを検討していた。
 その場の勢い、というものほど恐ろしいものはない、と痛感しつつ。
 そしてもうひとつの事実を確認する。

 

 ともだち、というものが、実はわたしの周りにも存在していたのだ、ということを。

 
 

―おわり―

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:04 (2705d)