作品

概要

作者見守るヒト
作品名約束
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-12-21 (金) 16:14:12

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 吐く息も白くなる冬の夜、俺はゆっくりと街を歩いている。
 向かう先は特に決めていない。というより決めあぐねているというのが本音だが。
 まったく、現実ってのはどうしてこうも世知辛いのかね。
 そんな冗談めかしたことを考えながらも心は違う方へ向いている。
 これが夢ならさっさと覚めてほしいが、夢ではないことは俺自身が一番よくわかっているのだ。
 ハルヒの、願ったことが現実になるという力。
 その力によって叶えられた一番最初の願い。
 「ありのままの自分を受け入れ、導いてくれる存在」として造られたモノ。
 それが俺の正体だった。
 思えば可笑しなものだ。
 SOS団の中で唯一普通でまともであると思っていた自分こそが一番の異端者だったのだから。
 古泉がいつか言っていた「一番の謎は貴方です。」という言葉がリフレインする。
 お前の言う通りだったよ古泉。お前の勘も捨てたもんじゃないな。
 とはいえそれを自覚したのはつい先ほどのことである。
 なぜ分かったのかと聞かれれば、分かってしまったのだからしょうがないとしか言いようがない。
 まえに古泉が言っていたのもこんな感じだったのかね。
 しかしながら不思議なことに、そのことにショックを受けるどころか簡単に受け入れている俺がいるのだ。
 そしてもうじき自分が消えてしまうであろうことも。
 なぜ俺が消えてしまうのか、答えは簡単だ。
 ハルヒの力が消えたから。
 な、簡単だろ?実際今この瞬間にも自分の存在が薄れていっているのがわかるのだから。
 そんなことを考えながら歩いてた俺はある場所に辿り着いていた。

 

 光陽園駅前公園

 

 正直まいったね。無意識とはいえこんな時になってさえあいつに頼ろうとしている俺がいることに。
 本当なら一番会うのを避けたかった相手なんだが、俺の心はそれを許してくれなかったらしい。
 ま、あいつが今この場所にいる保障はまったくないのだが、俺の中には変な確心がある。
 ここにあいつ、長門有希がいるということが。

 

 公園に入り等間隔に並ぶ街灯の下を歩いていくと、
 その光に当てられて白く浮かび上がるベンチの前に小さな人影が見える。
 そのまま近付いてみれば思っていたとおり、長門がそこに佇んでいた。
 俺はその場で微動だにしない長門に出来るだ平静を装って話かけた。
 よう、長門。どうしたんだこんな時間に、散歩か?
 今日は冷えるからな。さっさと家に帰らないと風邪引くぞ、って、お前は風邪なんか引かないか。
 そんなことを口にする自分に失笑してしまう。こんな状況になっても逃げようとする自分が酷く滑稽に感じた。
 俺か?俺はちょっとこっちに用事があったから少し寄ってみただけだ。
 俺も風邪引くといかんからな。そろそろ帰るとするよ。じゃあな、長門。
 いつからかこっちを見ていた長門に言い訳じみた言葉を発すると俺は踵を返した。
 これ以上こいつの顔を見ていられない。そう思って歩き出そうとしたときに、腕にやんわりとした力がかかる。
 目を向けてみれば長門が俺の袖を掴んでいた。
 それを見た瞬間、あのときの光景がフラッシュバックした。
 改変された世界。
 変わってしまった長門が帰ろうとする俺の袖を掴んで引き止めたときの光景が。
「あなたは…」
 振り返ることはできなかった。
「あなたは、怖い?自身が消失してしまうことが。」
 それを聞いたとき俺は悟った。こいつは全てを知っていると。
 …いつから気付いてた?
「…確信を得たのは涼宮ハルヒの力が失われたとき。それ以前にもあなたという存在には疑念を抱いていた。」
 それじゃ、俺のことをずっと名前で呼ばなかったのも…
「…そう。」
 そうか。
「けれどそれはあなたという人を疑っていたわけではない。それは信じてほしい。」
 信じるさ。長門は嘘はつかないからな。
 俺は空を見上げた。気付けば雪が降り始めていた。
 正直怖くないって言ったら嘘だな。でも不思議と後悔はない。
「……」
 だけどな、未練はあった。そう、あったんだ、でも…
 そこでようやく俺は振り返った。目の前には長門がいる。
 でも、もう未練はない。俺は長門、最後にお前に会いたかったんだ。
 そう言ったとき、俺は長門を抱きしめてしまっていた。
 長門は押し返すでもなく、なすがままにされていた。
 すまない、長門。俺は結局最後までお前に頼っちまった。ホント情けないな、俺は。
「別に、いい。」
 長門はいつもと変わらない平坦な声で答えた。
「それは私も同じだから。」
 そういって顔を上げた長門の瞳は微かに揺れているようにみえた。
「私も最後にあなたに会いたかった。だからこうしてあなたを待っていた。」
 俺は直ぐにはその言葉を理解することが出来なかった。
 長門…?
「…私の役目は涼宮ハルヒを観察し、入手した情報を統合思念体へと報告すること。」
 それは初めて長門に家へと呼びだされた時に聞かされたこと。
「けれど、涼宮ハルヒが力を失ったいま、その必要性はなくなった。」
 まさか……
「役割を終えた私は情報統合思念体によって情報連結を解除される。それが…今日。」
 な…!?それは
 本当なのか、と聞こうとした俺が眼にしたのは今まさに光の粒子と化していく長門の足だった。
「けれど私は既に情報統合思念体にとってバグとエラーの塊でしかない。
情報連結を解除された後は何処に還ることもなく私の情報は拡散する。」
 なんだと!?
「だから間に合ってよかった。あなたが消える前に、私が消える前に。」
 そう言って俺を見つめる長門は後悔なんざ微塵も感じさせない、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。
 そんな長門を見て、俺は今までずっと隠していた気持ちを自然と口にしていた。
 長門、俺さ、ずっとお前のことが好きだったんだ。
 それを聞いた長門は一瞬だけ目を見開いたがすぐにいつもの表情に戻って
「私も、あなたのことが、大好き」
 といつもの平坦な声で言った。
 俺はこんなときでもいつも通りな長門が可笑しくて、愛しくて。
 俺たちはお互いをギュッと抱きしめていた。
 まるで時間がスローモーションのように流れていく。
 消えていく俺の存在。
 散りゆく長門の存在。
 辺りが光によって包まれていく。
「もし…」
 ん?
「もし許されるなら…」
 何をだ?
「私にも魂というものが存在し、生まれ変わるということが許されるなら…」
 ああ。
「そのときは…」
 その先は言われなくても流石に俺でもわかった。
 そうだな。そのときは

 

「「ずっと一緒に…」」

 

 薄れゆく視界の中、俺が見た光に包まれる長門の顔は……

 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……」
 どうした、有希。空なんか見上げて。
「雪…」
 ん?本当だ。珍しいな。
「……」
 どうした?
「……一緒?」
 え?
「ずっと一緒?」
 ん…当然だろ、ずっと一緒だ。
「約束?」
 ああ、約束だ。

 
 

 それは雪降る夜に交わした二人だけの小さな約束…

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:03 (2713d)