作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと口述筆記
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-12-09 (日) 22:55:52

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

ほんの少しだけ温もりを提供してくれる冬の夕日を浴びながら、
俺は授業中でも見られないような勢いで、
一心不乱にノートを金釘流の文字と数式で埋めていた。
これくらいの勢いで数学の参考書を消化できれば、
ハルヒや長門までは行かなくとも谷口の数倍の成績は取れそうだな。

 

しかし残念ながら俺が書いている数式たちは、
おそらくこの先出会うことが無いであろう類のものであり、
ではなぜ俺がそんなものを書いているのかというと……

 
 

「……の確率変数Z及びXが互いに独立であり、
なおかつZが平均0、分散1の正規分布に従い、
Xが自由度nのカイ二乗分布に従うとき確率変数ルートn分の……」

 
 

淡々と口を動かしながら呪文のような言葉を唱える文学少女のためだ……

 
 
 
 
 

「……このように変数を変換すると、
ヤコビアンがマイナスルートn分のyの2分の1乗となり……」

 
 

え〜と、長門さん?
先ほどから度々申し訳ございませんが、
そろそろ分かる言葉でお願いできないでしょうか?

 

「問題ない。日本語で話している」

 

「いや、俺にはまだドイツ語のほうが分かりやすく聞こえるんだが……」

 

「ではドイツ語で話す」

 

すまん。今のは言葉の綾だ。
国旗にドラゴンを組み込もうとしている連合王国の言語も理解できない俺に、
科学力が世界一と謳われた国の言葉が理解できるはずが無い。

 

「でも次の本はドイツ語の原書」

 

「……マジで?」

 

「マジ」

 

さすがにそれはご容赦いただきたいところなんだが……

 

「ダメ。あなたが言い出したこと。
それにあなたには責任がある」

 

居合いのようにすっぱりと俺の嘆願をぶった切る長門。

 

「しかし実際問d……」

 

「どこまで書けたの?」

 

「……トレビアンがどうのこうの、って所まで」

 

「トレビアンではなくヤコビアン。そこまでで全体の3分の2の量。
まだ続きが残っている。あなたは余計なことを言わずに作業を続けるべき」

 

珍しく分かり易い怒りのオーラをにじませるその瞳に見つめられた俺は、
陳情申し立てを取り下げ再び書記の職務に従事することにした……

 
 
 
 
 

「……書けた、ぞ……」

 

アルファベットの羅列に次ぐ羅列に酷使した右腕と、
それ以上に疲労した精神を奮い立たせながら、
俺はノートを長門に手渡す。

 

「ご苦労様。次は……」

 

「待って、くれ……少し、休憩を……」

 

「……わかった」

 

ありがとうございます、長門様!
いや〜長門さんはもう天使や女神のような……

 

「でも5分だけ」

 

鬼!悪魔!極悪人!まないt

 

「なに?」

 

いえ、何でもありません。
ありがたく5分間休ませていただきます。

 

握りつぶされたボールペンの姿に、
口が滑った場合の俺の姿をダブらせながら、
俺は奴隷もかくやという作業に従事させられた原因を思い出していた……

 
 
 
 
 

いつものように存在理由意図価値不明の団活動に参加するために、
文芸部室に足を踏み入れた俺に対し、
普段とは違う香りが鼻腔をくすぐった。

 

「あら、キョン。遅かったわね」

 

掃除当番だったからな。って知ってるだろ、同じクラスなんだから。
そう答えながら今度は俺が質問をする。

 

「何やってんだ?」

 

「見てわかんない?」

 

俺の目に写る喫茶店に置いてありそうな物と、
その中に入った黒い液体と、この香りから導かれる答えは一つしかないが……

 

そう、コーヒーだ。

 

「分かってるじゃない」

 

飲み物の名前くらいは存じ上げている。
俺が知りたいのは何故こんな所にサイフォンやら何やらがあって……

 

「ほら、いつもみくるちゃんがお茶淹れてくれてるじゃない。
だからたまには代わりにあたしがコーヒーを淹れようと思ったわけ。
そしたら……」

 

オーケー。状況把握は出来た。
お前はこのあと
『古泉君が知り合いの喫茶店のマスターからコーヒーセットを借りてきてくれたから、
皆においしいコーヒーを振舞ってあげようと思ったのよ』と言う!

 

「古泉君が知り合いの喫茶店のマスターから……ハッ!?
どうしてあたしの言うことを先に……あんたまさか予知能力でもあるの?」

 

残念ながら俺は普通の一般人らしいからな。
予知能力の類はお前の傍で本を読んでる宇宙人か、
お茶を淹れてないからそわそわしてる未来人か、
また余計なものを持ってきた超能力者に期待してくれ。

 

「まぁいいわ。っと、もうできたみたいね」

 

「あ、そうみたいですね〜」

 

「じゃあ、あたしが直々に淹れたげるわ。
みんなありがた〜く飲みなさい!」

 

「ありがとうございます」

 

「……」

 

三者三様の返答を貰いながら、
意気揚々とカップに漆黒の飲料を満たしていくハルヒ。

 

そして満面の笑みの団長様の『さぁ、召し上がれ!』の一言で、
俺が手近にあったカップを持ち上げて口を付けようとした時、悲劇は起こった……

 
 
 

「あ、キョン君、それ長門さんのカップじゃ……」

 
 
 

心優しい朝比奈さんの忠告。
驚いてカップを下ろそうとする俺。
横から俺の左頬めがけて飛んでくる握り拳。
何故か怒り顔のハルヒの理不尽な攻撃に対して反論しようと……

 
 

パシャッ……

 
 

液体がかかる音に振り向く俺。
手に持っていたカップから飛び散った苦めのコーヒー。
同じく音がした方向を見るハルヒ。
液体が染み渡ろうとする紙媒体の情報……

 
 

そして目を見開いた長門の顔。

 
 
 
 
 

その後、視線だけで人間の心肺機能を停止させることを実証しかけた長門は、
無言で本棚のほうを指差し、俺の方に歩み寄ってきた。

 

「……」

 

「な、長門?」

 

一歩前進。

 

「いや、すまん。つい手が滑って……」

 

一歩前進。

 

「ちゃんと拭かしてもらうから……」

 

一歩前進。

 

「だから、落ち着いて欲しいんだけどな……」

 
 

三歩前進。

 
 

「…………………………」

 
 

目の前で沈黙という名の猛抗議をする少女に比べれば、
トン単位の体重を持つシベリアトラでも子猫ほどの脅威にしかならない。
そう思った俺は核弾頭よりも威力のありそうな視線を送る少女に、
命乞いの意味もこめてこう言った。

 
 

「悪かった。何でもするから許してくれ」

 
 
 
 
 

結局、絶対零度から液体窒素並に視線を温めてくれた長門は、
『コーヒーがかかって読みにくくなったところを書き写す』ことを条件に、
俺を許してくれた。
とはいえ、真に悪いのはハルヒのような気がするが……
世の中には理不尽なことが一杯あるんだな。

 

そんなことを考えながら、白紙のノートを黒字で染めていた俺に、
無口少女がありがたい一言を口にした。

 
 

「次で最後……」

 
 

ようやく終わりと言うことか。
で、次は何だ?また専門書か?それともラテン語の聖典か?

 

「大丈夫。日本語の物語」

 

そうか、それはありがたい。

 

「最後は私が書き方を指示する」

 

「指示?」

 

「そう」

 

書き方に特徴がある文章なのだろうか。
それともこいつが指示するんだから何かこだわりでもあるんだろか。
そんなことを考える俺をよそに、
長門は淡々と文章を口にした。

 

「俺が海に放り出されてから数日、改行、はるか……」

 

「え〜と俺が海に放り出されてから数日改行はるか……」

 

「違う、改行は文ではなく、指示」

 

「あぁ、すまん。もう一度書き直すよ」

 

そう言う俺に頷きながら、
長門は再び文章を口にした

 

「俺が海に放り出されてから数日、
はるかかなたに見えていた小島はかなり近づき、
長い弓の形状の島だと俺が気付いた頃には、
門が大きな屋敷の姿も見えていた。
有事の際の無線でもあるのではないのかと、
希望を持ってその島に泳ぎ着いた俺は、
がくがくと寒さに震える体を奮い立たせると、
大きな深呼吸を一つして走り出した。
好都合と言っても差支えが無いことに、
きりたった岩肌などなく、走ることに問題は無かった。
だが、数日の漂流生活は俺の体力を奪っており……」

 
 
 
 
 

「ねぇ、キョン。これ何かしら?」

 

「ん?あぁ、長門の本の写しで……」

 

「縦読みなんてキョンにしては考えたわね?」

 

「は?一体何の……って、お前後ろ手に何持っt」

 
 

「ちょっとこっちでお話しましょ……」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:03 (2625d)