作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと履歴書
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-10-29 (月) 22:51:18

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

まだ日中の陽射しには熱がこもっているような、初秋のある日。
いつもは部室で風鈴のように静かなページをめくる音を響かせる文学少女が、
突然予想だにしないことを言い出した。

 
 

「バイトをすることにした」

 
 

「……すまん。なんだって?」

 

思わず鼓膜が正常に働いてるか確かめたくなる気持ちを抑え、
俺はオセロを並べる手を止めて長門に聞き返した。

 

「バイトをすることにした」

 

「バイト?」

 

それは電子情報の容量のことや、
格闘技では反則となる噛み付きのことではないよな。

 

「アルバイト」

 

「そうか」

 

「パートタイムジョブ」

 

「言い換えなくても分かってるぞ」

 

「そう」

 

しかし何でまた急にバイトをすることにしたんだ?
金策に困ってる様子は無いが……

 

「涼宮ハルヒの観察をこの敷地外でも行うため」

 

「ハルヒの観察を?」

 

「そう」

 

学校外って事は……あいつが行きそうな所でも観察するってことか。
そういえば喜緑さんも駅前の喫茶店でバイトしてるし……

 

そう考える俺に、
長門は少しだけ低いトーンで話を続けた。

 

「彼女が行きそうな店でバイトをしようと思う。
ただ……」

 

ただ、なんだ?
その店の主人がお前に色目を使うって言うのか?
それなら今すぐ乗り込んでキャメルクラッチを……

 

などと考える俺をよそに、
静かな声で長門は言った……

 
 
 

「これの書き方が分からない……」

 
 
 

そう言って長門が取り出したのは、
欄がたくさんある一枚の履歴書だった……

 
 
 
 

「まず、ここに名前を書く」

 

「あなたの?」

 

「俺の名前を書いてどうする。お前の名前だ。
ここに漢字で『長門有希』って書いて、上に……」

 

珍しく二人きりの団室で、
俺は長門にリクルートの学生指導のように、
履歴書の書き方を教えていた。

 

と言っても俺もこんなものは書いたことが無く、
多分こんな感じだろう、と言った具合に教えている。

 

「で、ここには生年月日……お前が生まれた日だな」

 

「それなら3年前の……」

 

「ストーップ!!」

 

危ないところだった。
さすがに3歳児を雇ってくれる所なんか無いぞ。
というかこの外見で『3歳です』なんて言う人間を雇う人がいるだろうか。

 

「そこはお前の設定、と言うか戸籍の生年月日を書いたほうが良いぞ」

 

「そう」

 

「そうだ、確か写真の裏には名前を書いたほうが良いらしいぜ」

 

「わかった」

 

「ちゃんと性別の『女』の欄に○を付けろよ」

 

「あなたは私を『女』と見ているの?」

 

何となく人聞きの悪いことを言うんじゃない。

 

「学歴は……中学と高校で良いんじゃないか?」

 

「中学には行っていない」

 

そういえば北高に来る前の3年間は待機していたんだったか。
どことなくさびしそうな雰囲気を出す長門を前に、
俺はアドバイスを続けた。

 

「まぁ、それはどことでも……なんなら俺と同じ中学でも良いさ」

 

「そうする」

 

即決ですか……もう少し悩んでくれてもいいと思うぞ?
というか俺の出身中学を知ってるのか?

 

「資格……」

 

「ん?あぁ、別に無いなら書かなくても良いんじゃないか?
バイトにはそこまで必要が無いだろ。
まぁ、お前ならどんな資格でも免許でもすぐに取れそうだが」

 

「まかせて。情報操作は得……」

 

「危ない発言はお止めください」

 
 
 
 
 

「……ざっとこんなもんか?」

 

「完成?」

 

「あぁ、見た感じ問題あるところはないだろ」

 

あえて挙げるなら印刷されたような長門の文字が、
手書きと思われないことが問題か?
あと自己PRの文章は俺が考えたから、かなりキャラが違うが……

 

そんなことを思う俺に、
静寂少女がまっすぐ目を見ながら謝辞を述べた。

 

「ありがとう」

 

「ん?あぁ、気にするなこれくらいお安い御用だ」

 

「そう」

 

長門にはいつも助けてもらってるからな。
むしろ頼りにしてもらってこっちが感謝したいところだ。

 

「ところで、ハルヒの観察のためって言ってたけど、
どこでバイトするつもりだ?」

 

ふと思い至った疑問を口にする俺。
そんな俺の疑問に、長門は少し嬉しそうな調子で答えた。

 
 
 

「……本屋」

 
 
 

「……本屋?」

 

「書店」

 

「言い換えなくても分かるぞ」

 

「そう」

 

「え〜と、ハルヒの観察のため、だよな」

 

「そう」

 

「自分が本が好きだから、ではないよな?」

 

「それは違う。
私が本に囲まれたいと思っているとか、
書店なら新刊がすぐに手に入るかもしれないと思っているとか、
あわよくば自分の好きな本を入荷したいなどとは思ってもいない」

 

「……そうか」

 

語るに落ちた様な少女の志望動機に、
俺はそれ以上何も言うことができなかった……

 
 
 
 
 
 

オマケ

 

「不採用だった」

 

「なんでまた?」

 

「『接客態度に難有り』と言われた」

 

あぁ……まぁ、にこやかな接客は出来そうもないからな。

 

「それは仕方ないな。また次があるさ」

 

「そう……ところで今日はこれの書いてほしい」

 

「これ?何だ?」

 

「ここにあなたの名前を書くのは分かった。
あとは私の名前を書いて……」

 
 

そう言いながら長門が取り出した用紙には、
明らかに俺の年齢では縁の無い言葉が書いていた……

 
 

「判子を押して役所に出せば籍を同じにできるはず……」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:01 (2585d)