作品

概要

作者
作品名散歩
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-10-15 (月) 22:48:00

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

或る冬の真夜中。
ふと、目が覚めた。
温い布団から身を起こし、身支度を始める。
寝巻きから冬服の制服を着てカーディガンを羽織、更にその上にダッフルコートを着る。
手袋も忘れない。
全ては暗闇の中で、済ます。
コートのポケットへ鍵と少量の小銭を忍ばせ、自宅を後にした。
真夜中の散歩、特に意味は無い。
夜空に満天の星々。
空気が何処までも冷え澄み渡り、何時もよりも良く見渡せる。
余りの冷気に耳と鼻が痛み出し、顔全体が強張る。
フードを目深に被り、両手を顔に暫く当てる。
暫くそうしていて、少しは良くなったので歩く。
紅葉の秋は当の昔に過ぎ去り、枯木の並木道を独りで歩く。
寒々しく何時もより透明度が高く、眼に見える光景も耳に聞える音も良く通りそう。
その代わり香りも臭いも冷気に押さえられ殆ど無いも同然、触感もこうも肌を痺れさせる程となると。
冬には冬なりの良い所があり、悪い事もあると、ぼんやりと思う。
一昔前の私は、そんな似通った所があった。
でも私は冬そのものでは無かった、事実それでは自身を保てなかったのだ。
多くの人と偶然と必然性を持って、今の私が在る。
諸手に余る程、両肩が軋み背から落ちそうな位の使命があるが。
それでも私は、救われている。
私は冬では無かった、では何者か。
人である、この星の純粋な人ではないにしろ、人である。
普遍的ではないにしろ、それを望み目指す者。
そうで在りたいと願う者。
名は長門有希。
はた、と思う。
何を今更、フードを目深に被り続け両の手をコートのポケットに入れ歩き続ける。
真夜中の冬、並木道。
凍える道中、彼方に見える仄かな明かり。
何の変哲も無い、コンビニ。
店前に辿り着く。
たむろする冬着の少年少女達、ふて腐れている。
彼等彼女等にも悩み苦しみはあるのだろう、ありふれた良くある話。
それだけ思い、店の中へ。
フードを後ろへ下ろし、店内を物色する。
雑誌、アイス、菓子、雑多品、飲食料コーナーへと順繰りに周りレジを見る。
店員はいない、奥の方でモニターでも眺めているのだろう。
今いる中は暖かい、外は寒いだろう。
飲食料コーナーへ向かい、缶コーヒーホットを手にひとつ取る。
コタツにアイスとふたつ思い浮かべ、またレジから遠退き小箱に入ってるバニラアイスをひとつ。
レジに向かうと、眠そうで無精髭の目立つ男の人が出てきた。
品物を置く。
相手が品を手に取りバーコードを読み取る、会計。
ポケットから五百円玉を取り出し、置く。
代わりに少量の釣りと、小さめのレジ袋を受け取る。
出際にフードを目深に被り、店前を伺う。
彼等彼女等は既に何処かに去り、手前駐車場に配送トラック。
運転手のにいさんに、心配そうでそれでいて怪訝そうな視線で見られる。
会釈して私も去る。
普遍的。
先の同い年位の男女も、あの配送も極めて普通。
あの人達の事は今の私には殆ど何も解らないけども、そんな印象。
何の為に生まれてきたのか、未だ判然とせず周りは厳しい多くの矛盾に途惑う未成年。
生まれてきた意味を横に置き、生き抜くために辛い仕事に従事する大人。
勝手に思い浮かべてみる、私の自由。
歩く、歩く、真冬の夜道を。
では私は何なのだろうか、使命はある。
それではその使命を除けば、私は何なのだろうか。
果たしてあの日常を取り巻く、出来事が過ぎ去れば私は。
どうなるであろうか。
手下げた袋からカンコーヒーを取り出し、プルトップを開け一口。
暖かく甘ったるい、元のコーヒーの味が少々。
力を殆ど使わない私は、通り一遍の未来ではなく数多のこれからの行く末を思う事が出来る。
だから遠回り始め、無駄な事が多々あるだろうし自ら招くだろう。
それが苦悩や葛藤や限り無く絶望的な事と思いに、ぶつかり沈みかける事あろうとも。
その場で打算し解決し乗り越える、または未然に自身と周辺を把握し防ぐ。
またはその姿勢と努力。
それが、そういう生き方が普通で普遍的なのだろうか。
そもそも、それが解らない。
多分、これから先も考える事になるのだろう。
何故ならそれが私の主題だからだ。
普通、普遍、大多数、その他大勢。
若干、苛々してきた。
その事に少しばかり安堵する。
余り意識する事でも無い気がする、馴染めれば良い様な気がしないでもない。
歩く、歩く、時たま飲む。
気付く、此処は何処。
辺りを見渡せば見知らぬ住宅街、一戸建てが立ち並ぶ家々。
迷った時は通ってきた道を引き返すのが一番の方法だけども、この場合は。
柄にも無い事を考えて所為か、前後不覚。
静かだが何処か跳ね返す様な雰囲気、暖かみは無く寒さ凍え冷たさだけが目立つ。
雪が降り、半端ながらも白く輝く銀世界。
騒がしく姦しくなければ、殆どの音を吸収し平穏なる雰囲気を持つ場とは明らかに異質。
不安が芽生える、私に絡みつく。
先の思いが蘇る。
今の日常が過ぎ去れば私は、どうなるのであろう。
観察し報告し、仲間を守護する役目を終えた、その時の私。
高校、大学、社会、と様々な経過はあるものの。
役目を終えた私は、私であり続ける事が出来るのか。
仲間達はいても、親から使命を終えたと告げられた。
その後の私は、一体。
どうか消さないで欲しい、そして消えるのならば。
普通に過ぎ去る年月と共に、年老いて死にたい。
生き抜きたい。
夜空を見上げる、相も変わらず輝く無数の星。
流れ星、瞬いた。
願いは唱えない、前を見る。
今現在、何処にいるか判らないけども。
山々に雑木林の類を裂けて、建物に道を沿って歩けば。
何時かは道尋ねられる人にも出会えるだろう、地図も見つかるだろう、運良ければ見知った所に戻れる。
歩こう、歩き出す。
願い成就されるされないに関わらず、途中経過を楽しめれば良いと思う。
寿命、死、終わり、これが全てではない。
それは一点に過ぎない、面で捉えて行きたい、欲を言えば空間的に。
更に思うならば、それらを余り意識する事無く。
淡々と静々と歩く、不気味と思えなくもない、夜の中。
建物の群の中から飛び出さない様に、道に沿いながら。
何もかもが、おかしい。変わっている。
あの出来事から以前の私は、これ程までに自分に対する問題を考えた事があるだろうか。
先が見えないから、脅えているのだろうか慄いているのだろうか。
思案する思考する、大した時間も量でも無いけれども。
代償行為だろうか、それか自分に対してそれだけ真剣に向き合える様になったのか。
どちらにせよ、煮詰まり言葉に埋もれ身動き出来なくなる様は止したい。
理屈無しに。
気付く時は気付き。
感じる時は感じる。
魔法など使わずとも、自ずと自然に。
歩き続けて体が火照り始めたのか。
柄にも無い突拍子な事ばかり考えた所為、照れか羞恥か。
コーヒーを飲む、冷めている。
そこそこの量を飲み干す。
喉は潤った、まだ歩けそう。
目の前に一粒の雪が舞い、落ちる。水の結晶。
夜空を見上げる、星々は映らず一面の雲。
そこから雪が降って来る、降って来る。
微妙で複雑な感慨、感情が、僅かに競り上がる。
何時の間にかフードが脱げ、頭と顔があらわになっても見続ける。
歩は止まっていた。
私の名の由来、大事な事、決して他者に踏み躙られてはならない領域。
この世の、この星の、決まった季節と条件が織り成す奇跡。
私自身の事を表現し、そこに類希なる望みと願いを込めた。
限り有るであろう私にどうか奇蹟を、その為なら出来る事全て…。
想いから覚める、時々似たような事を考えている時がある。
自分自身の事なのに、ふと考えるだけで解らなくなる。
深みに深みに、沈めば沈む程、私が私を見失う。
前へ向き直り、フードも被らずに歩き出す。
雪は変わらず振り続ける、身に積もる冷たい幽かな重み。
頭、両肩、それより下は疎らに。
へばり付く、白い雪。
もう何処をどう気を付けて歩けば良いという問題は、この際どうでも良かった。
冬、風、処、夜空、流星、闇雲、雪。
私は降り積もり敷き詰められた雪の、行く末を末路を知っている。
如何なる環境と場所と状況でも、薄汚く踏み躙られ汚れ穢れ…。
その内、溶けて水になり。
その内、蒸発して粒子になり元の場所へ戻る。
余り良い事ではない、ではないにしろ。
雪が降る様、その結果の一時の銀世界。
誰かに覚えて貰い、誰かの良き結果に繋がるのなら。
それで良い、綺麗なまま終われなくても。
慰めだろうか、未来に悲惨な自分を予感してしまった、私自身への言い訳だろうか。
結局、思考思案は出口の無い、究極の迷路なのだ。
得る事はあるかもしれない、でも溺れればそれまで。
今日の真夜中考えた事は、これからの出来事で答を導き出そう。
気付くと、目の前に地図の立て看板。
歩調を僅かに上げて、近寄り見てみる。
現在位置の赤点から、直ぐ傍に私の住まいが標されている。
看板から眼を離し、高層マンションを見上げる。
肩透かしの様な気分、それと他愛も無い喪失感。
コンビニの袋はしっかりと持っていた、だが。
空き缶はどうやら何処かに落とし、置き去りにしてしまったらしい。
一瞬迷う、戻るか戻らないべきか。
今迄来た道を見る、暗くて黒く先が見えない道。
自分の住居を見る、あそこに戻ればもう帰れる。
空き缶の分は。
後日、取り返そう。
一度の汚れを引き換えに、沢山の汚れをキレイにすれば良い。
あと、もう少し落ち着いた所で、今度は飲もう。
帰っても良い所に帰り、一切の明かりの無い家の玄関で雪を払う。
自宅の冷蔵庫に買ってきたアイスを入れ保存する。
ビニール袋は屑カゴの袋に使えるので、台所の箪笥の何時もの所に入れて置く。
寝室に行く。
上着であるダッフルコートをハンガーに掛け、カーディガンと制服を脱いで枕元にたたむ。
最後に布団の上に脱ぎ散らした寝巻きを手に取る。
着替え終わって冷たい布団に頭の先まで入って、腕組し脚を交差させて摩擦し暖を取りながら。
明日の朝の光景を、真白な世界を思い浮かべながら。
明日の奇妙な学園生活を、思い浮かべながら。
明日の帰宅後、あの居間でコタツに入りアイスを食べながら一人読書している自分を思い浮かべながら。
再び眠る。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:01 (2941d)