作品

概要

作者スライム
作品名おむらいす
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-10-06 (土) 23:18:59

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

とある日の週末、恒例となっている不思議探索の日。
俺は例のごとく5分前に到着。ハルヒの「遅い!罰金!」と言う罵声や、喫茶店の奢りも、最早スキップ出来ないRPGのオープニングイベントの様に当たり前の光景となっていた。
しかし、今日は一味違うぞ。何と今日のお昼はファーストフードでは無く、北高に舞い降りたエンジェル、朝比奈さんの手作り弁当なのだ。
昨日の団活終了後、朝比奈さんが自ら「私が作って来ましゅ」と麗しきお声で大役をかって出た訳だ。うーんお昼が待ち遠しい。

午前の探索終了。なんでまた週末の学校休みにまで古泉のニヒルスマイルを拝まなければならんのだ。
言葉数と同じ位鼻息がフンフン俺のコメカミをなびかせていたぞ気持ち悪い。
だが許そう、全てを許そう。何せ今からランチタイムなのだからな。今日はコレを楽しみに来た様なものだ。
シートを敷いて、ランチボックスを開ける。それはまるで宝石箱の様に多種多彩な食材で埋め尽くされていた。SOS団に入って良かったと思えるひとときだ。
ハルヒはと言うと、相変わらずの暴飲暴食っぷりを発揮し、朝比奈さんは持参したお茶を啜っていて、古泉は何故かウインナーばかり食っている。
長門もハルヒに負けず劣らずの大食漢だからな、今頃近くにある食材は既に空っぽになって…いない。どういう事だ?朝比奈さんの絶品料理が口に合わないとでも言うのか?
長門は箸で摘まんだままの卵焼きをジッと凝視している。朝比奈さんも長門の様子を見てはいるが、明らかに妙である。
普段なら食が進んでいない長門を見たらオドオドするハズだが…心なしか微笑を浮かべている様にも見える。すると朝比奈さんが…
「長門さん、その卵焼きは半熟状態にして、中にカニかまぼこを入れたんですよ」
「…そう」
料理の内容とそれに対する相槌の繰り返し。長門は料理に興味を持ったのだろうか?だが長門なら作り方やその材料の原産地まで特定出来そうなものだが。

不思議探索午後の部。
俺は長門と二人で行動する事となった。行き先はもちろんあそこだ。図書館に入るなり、長門は足早に俺の目の前から消えた。
俺の目からは何か慌ててる様にも見える。1秒でも早く本が読みたかったのだろうか?それにしてはいつもとは別の方向に行った様な…まぁいいか。
数時間後…。
俺はまた眠っちまって集合時間に遅れたら団長様の機嫌を損ねちまうからな、何としても我慢だ。そういや長門はどこだ?アレから全く見てないが…
探しがてら館内を歩く事にした。しかし休みだってのに皆さん他にやる事無いもんかね。俺?俺はやる事があるぞ。この世の不思議を探しているのさ…。おい、そこ笑うなっ。
脳内独り会話が一段落した所で長門を見つけた。ソコは…料理本の所だ。やはり興味がある様だな。ハルヒの観察以外で趣味を持つ事は良い事だよ、
そう思いながら長門に話しかけたら、思いもよらない事態が起こった。
「おい長門、料理でも始…」
「!…バタンッ!」とっさに料理本を畳む長門。
「別に」
そう言い放ってその場を立ち去ろうとしたその時…誰も座っていない椅子の脚に長門の足がぶつかり…体勢が崩れた。
「危ねえ!」俺はとっさに長門を後ろから抱き付く形で助ける。ふぅ、危機一髪だ…突然の事で気付くのが遅れ、今脳から伝達が入った。俺の右手が、長門の左のソレを鷲掴みにしていた。
「うわっ!すまん長門!」
「………」
長門は尻餅を付いて、ゆっくり顔をあげる。この微細な表情の変化、俺以外に分かる奴はいないだろう。
驚いた表情をしていたのだ。

「長門、ホントすまなかった!わざとじゃ無いんだ…その…」俺が説明に困っていると、
「いい」
そう言って長門は俺の目を見つめていた。気のせいかも知れないが、若干長門の息が乱れている様にも感じ、何より上目使いで俺を見るその黒水晶の様な目は
じんわり濡れている。俺をとらえて離さないその魅力的な瞳に、吸い込まれそうな感覚を憶えた。
「…あ、な、長門、そろそろ集合時間だ。行こう」
「…」頷く長門。
しかし、今日の長門は変だ。飯をじっと凝視してたり、何より足がつまずくなんて考えられん。絶対防衛ラインがたった一席の椅子の脚であっさり崩されるなんて…
俺は小一時間脳内会議をしていた。

結局その日は収穫無し。解散となった。そして俺は家路に着き、部屋でまったりしていると、携帯が鳴った、ハルヒからだ。
「もしもしキョン!?明日暇でしょ!明日も駅前に9時集合よ!」
「おいおいどういう事だ」
「有希が図書館で不思議を見つけたんですって!何でも突然椅子が動いて有希がつまずいちゃったらしいわ!
幽霊って可能性も否定出来ないわね…明日は午前だけにしといてあげるから絶対来なさい!いいわね!」
一方的に電話は切れた。ひょっとしてあの時の椅子につまずいた事を言ってるのか?…何を考えている長門。その日の夜、俺は第二回脳内会議を開催した。

次の日、俺は集合場所に8時40分に到着した。いつもより15分早いのは、長門の言っていた真意を知りたいと思った気持ちの表れだろう。さすがにハルヒはまだ来…
「遅いわよ!」
あら来てたよ。誰か俺の部屋に隠しカメラでも仕込んでるのではないか?まるで勝てる気がしない。
「何ぶつぶつ言ってんの!今日は班分けは無し!行くわよ有希!」ふと長門を見ると、制服ではなく水色のワンピースを着ていた。正直言おう、可愛い。
ハルヒに腕を掴まれ、ヒラヒラと紙の様に引っ張られる長門。隣には日本最後のラストエンジェル、朝比奈さんと、裸足に革靴が似合いそうな男No1、ニヒル古泉が立っていた。
そうだ、俺は朝比奈さんに聞きたい事がある。
「朝比奈さん」
「はい、なんでしょう?」
「最近、長門の様子が変だとは思いませんか?」
「どうしてそう思ったんですか?」
俺はこれまで不思議に思ってた事を全て話した。昨日の飯の事、図書館で俺が近づいたら急に慌て出し、椅子につまずいてこけそうになった事。
朝比奈さんは俺の話を微笑みながら聞いていた。あ、その笑顔眩し過ぎです。すると朝比奈さんは…
「実は昨日のお弁当、長門さんからのリクエストだったんですよ」
俺は驚いた。でも何で長門は突然そんなリクエストを朝比奈さんにしたのだろう。
すると、朝比奈さんは全てを打ち明けてくれた。何と、長門は朝比奈さんに相談を持ち掛けたらしいのだ。
話は先週の日曜日に遡る。

先週の日曜日、長門は昼間スーパーで昼食を買い、帰宅していた。すると長門の目に飛び込んで来たのは、河原にいた数組のカップルの姿。
みんな満面の笑みで寄り添い、世間話をしたり弁当を広げて食べている、その仲睦まじい光景が長門にとっては凄く新鮮で、それに興味を持ったそうなのだ。
こういう事をしてみたい。でも相手がいない。それに料理もまともに出来ない…
いや待て。俺は一つ引っ掛かった。
「朝比奈さん、長門ならあのとんでもパワーで何とでもなるんじゃないんですか?草野球の時みたいに。」
「それでは意味が無いのですよ」
割って入ったのは古泉だ。居たのか。
「ええ先程から。長門さんは恐らくそういう力を使わず、地球人と同じ様に接してみたいのでは無いでしょうか?」
「同じ様にとは?」と、俺。
「自分で彼に食べさせたい料理を選び、調べて作り方を学び、努力して一生懸命作ったものを彼に食べてもらう。それをやってみたいのでしょう」
すると朝比奈さんが…
「先週の月曜日、長門さんが事情を話してくれた後に私に言って来たんです。『あなたが作った料理を見て参考にしたい』と。」
朝比奈さんは続けて、
「私は長門さんに聞きました。誰か作ってあげたい人はいるんですか?と…」
「何て言ってたんです?」

「キョンに…と。」

俺は言葉を失った。そして昨日の図書館での出来事がフラッシュバックされる。
あれは俺の為だったのか…俺がアイツに話掛けるまで、すぐそばにいた俺にも気付かない位必死に料理の本を見て勉強してたのかアイツは。
そりゃいきなり声を掛けられたら誰でもパニクるよな。だから思わず椅子に足をぶつけてコケた訳か…
アイツも宇宙人製アンドロイドである前に、とんでもパワーを使える魔法使いである前に、一人の女の子なんだ…。
「キョンに…」か。長門にその名で呼ばれるとはな。嬉しい様な恥ずかしい様な。すると古泉が、
「恐らく、長門さんがあなたを招待するのは今日かと思われます。長門さんは動揺によって椅子に接触、転倒したのですからね。
不思議を発見したと言うのは嘘で、今日あなたを誘う為の口実作りだったのでしょう」
そして朝比奈さんも、
「キョン君、長門さんの願いを叶えて上げて下さい。少なくとも今の長門さんは一人の普通の女子高生なんです。彼と呼ばれる人と一緒に同じ時を過ごしたいと思っているはず。
本当に付き合ってとまではいいません、でも二人でいる時は恋人同士の様な関係でいてもらいたいの」
長門がそう望むなら、俺はなんだってするさ。アイツには返しても返しきれない借りがあるし、それに…俺としても隣にアイツがいてくれたら落ち着くと言うか…
何言ってんだ俺は。

するとハルヒと長門が戻って来た。何かあったのか?図書館の不思議検証はどうした。
「もう、有希がこんなにおっちょこちょいだったとはね!」ハルヒが口を尖らせながら言っている。
「さっき思い出したらしいんだけど、有希が動いたって言った椅子、実はその隣で読書してたオジサンが座ろうとして誤って足で蹴飛ばしたんだって!
本に集中してて椅子を見てなかったらしいわ」
なるほど。しかしネタバラシするのが早すぎるだろ、まだ10時だぜ。
「まぁいいわ、せっかく皆集まってるんだしお茶でも行きましょう!もちろんビリのキョンの奢りでね!」
へいへい。
俺達はいつもの喫茶店で2時間程話をして、その場でお開きとなった。
「それじゃあみんな明日また部室で会いましょ!」
ハルヒの号令により解散となった。
俺が歩き出したその時、右腕にやんわり力が加わる。

長門が俯いて袖を掴んでいた。

「どうした長門」
「家に来て」
「大事な話でもあるのか?」ちょっとイタズラが過ぎたかな?飯に誘ってるのは分かってるのに。
「涼宮ハルヒの事」
…あれ?飯の誘いじゃなかったのか、朝比奈さん&古泉!俺は急に緊張してきた。
「あ、ああ分かったよ」
俺と長門は会話する事なくマンションに到着した。
「入って」
「あ、おじゃまします」
いかん、これは想定外だ。てっきり飯食って話して帰るだけだと思っていたからな。ハルヒの何を話そうってんだ。
俺は長門と向かい合って席に着く。長い沈黙…たまらず俺から口を開いた。
「あのさ長門、ハルヒの事で話があるん…」
「うそ」
「ふぇ?」
この間抜けな疑問形リアクションは俺だ。
「涼宮ハルヒについて話があると言うのは嘘。彼女の名前を出すと、あなたは必ず家まで来ると言う確信があったから使った」
「どうしてそんな事言ったんだ」
「怒った?」
俺は目を丸くした。普段の長門はこんな感情が込められた言葉を口にしないからな。
「いや…別に怒ってる訳じゃないぞ?」
「あなたが怒っているにしろ、怒ってないにしろ、嘘をつくべきではない。私はなたに謝罪し、お詫びをしなければならない」
今日の長門はよく喋る。こんなの初めてココに来た日の電波話以来だ。その時…
「ごめんなさい…
お詫びにご飯を作るから、食べてくれる?」
その顔からは少し不安げな表情が見てとれる。そして俺はこの時思った。朝倉涼子との戦いの時とは逆の事を。
━ああ、コイツは宇宙人じゃないみたいだ。━
「ああ、是非いただこう」
俺がそういうと、長門は無音で立ち上がり台所へ向かった。

しばらく経つと、台所から軽快に食材を切る音が聞こえて来た。まるで夫婦だ。すると…
トントントント…カランカラン!
何だ?俺は台所に向かう。そこには包丁で指を切った長門が、傷口を見ながらボーッとしていた。
「長門大丈夫か?」
「へいき」
尚も傷口を見つめ続ける長門。その時俺は古泉の言葉を思い出す。
「努力して一生懸命作ったものを彼に食べてもらう。それをやってみたいのでしょう」
長門、お前は怪我しても力を使って治したくないんだな。だが力は無くても俺にも出来る事がある。
「長門、指見せてみろ」
長門は振り向いて指を見せた。俺は指をくわえ、止血した。
「…!」
長門が驚いた様にビクッと体を震わせる。俺がくわえたまま長門を見ると、その視線に気付いたのか、長門は視線を横に逸らした。なんでだろう?
「よしっ血、止まったぞ。カットバンしなきゃな」俺は手当てしてやった。その間、長門はずっと俺を見つめていた。

その後順調に調理が進んだ様で、長門の手作り料理がここに完成した。
「おっ、これは!」
「おむらいす」
チキンライスの上にオムレツが載っている。包んで無いじゃないか!と言うツッコミはやめておこう。これだけでも十分旨そうだ。
しっかしなんつう量だ…チキンライスだけでも米3合はある。この辺は長門仕様だな、気合い入れて食うか!
「いただき…」
「待って」
「ま?」
俺は突然話しかけられると、アホなリアクションをしてしまう様だ、新発見。
長門はナイフを持って来て、オムレツの真ん中辺りに縦に切れ目を入れた、すると…
「おおっ…」思わず言葉が漏れる。
切れ目を入れた途端、中から半熟の卵が向日葵の様に大輪を咲かせ、チキンライスを包み込んだのだ。これは凄い…
「長門凄いな!かなり練習したんじゃないか?じゃないとこんな芸当出来ねえよ!」
「………ひみつ」
続けて長門が、
「コレ」
ケチャップだった。すると長門は俺の横にちょこんと座り、オムライスに文字を書き始めた。
こんな光景谷口なんかに見られたら卒業まで言われそうだな。そんな事を考えている間に書き終わった様だ。俺はその文字を読む。
………………
思わずニヤついてしまった。そんな俺を横で長門は首を傾げながら見ていた。長門もオムレツに視線を落とす。そこに書かれてた文字、それは…

『キュン』

長門も間違いに気が付いた様で、下を向いてしまった。前髪で顔が見えない。それにしても俺の気のせいなのかは分からないが、長門の耳が赤い様に見える。
その姿はたまらなく可愛く、思わず俺は長門の頭を撫でてしまった。
「ありがとうな、長門」
「いい」
そういった長門の表情は見えないが、かろうじて見える口元はニッコリと半円を描いていた。
自分の席に戻って、長門もケチャップを手に取り、そして字を書き始める。おいおい待て長門。
「俺も手伝うよ」
俺は後ろから手を伸ばし、両手で長門の両手を掴み、一緒に文字を書いた。
長門の匂いが鼻腔をくすぐる。シャンプーや、ボディーソープの香りではなく、長門有希の匂い。女の子って何でこんなにいい匂いがするんだろうね。
書いてる途中、長門はこんな事を言ってくれた。
「昨日…」
「昨日がどうかしたか?」
「助けてくれてありがとう…」
「ああ、次は気を付けるんだぞ?」
「分かった」
そして文字を書き終え、俺が、
「今度は間違えなかったな」と悪戯混じりに言うと、
「…………」
コツンッと無言で俺の頭を小さな手でこずいた。
二人で書いた文字、それは

『ユキりん』

だった。

その後二人で食事。絶品だったな、量は多かったのにペロリと平らげてしまった。途中長門が俺に、
「あーん」と言いながら食べさせてくれたのは俺だけの秘密だ。そういや長門は先週カップルを見たと言ってたが、その時にその光景を見たんだろうな。
俺達も中々のバカップルっぷりだった。

そしてその週の週末、恒例不思議探索の日…
くじ引きの結果、俺は長門と二人になった。お互いの腕が当り、長門が俺の手首を掴み、やがて手を握り合って俺達は歩き出す。
どれくらい歩いただろうか、突然長門は俺の前に飛び出し、振り向きざまにこう言った…

『大好き』

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:04:00 (2713d)