作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと夢
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2007-09-18 (火) 21:32:13

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

いつもと少し違う格好や装飾品をつけると、
印象が変わることがあるということはよくある話だ。
年上の従姉妹がまるで怪しげな鳥のようになったときには、
俺だって驚いたもんだ。

 

「あ、あの……」

 

だが、目の前にいる少女のイメチェンは、
ただ味気ない眼鏡を装着しただけのものだというのに、
俺の想定内の範囲をはるかかなたオホーツクの海まで越えていた。

 

「えと……」

 

確かに眼鏡属性の無い俺にとって、
いつもは1組のレンズを装着している女の子が、
突然コンタクトレンズをつけて現れたらありがたいことだと思う。

 

また、反対にある日裸眼の女の子が突然眼鏡をかけたとしても、
それはそれで新たな一面が見えるような気がする。

 

しかし、それはあくまで見た目、つまり外面だけの変化であって、
内面はいつもと変わらないはずだ。

 

「どうかした……?」

 

どうかしたと言われればどうかしているかもしれないが、
むしろそのセリフは俺が言いたいくらいだ。

 

「なぁ、ここがどこだか分かるか?」

 

先ほどから確信めいた嫌な予感がしていた俺は、
その少女に質問をした。

 
 
 

「文芸部室……?」

 
 
 

顔を赤らめたまま部屋の中を見回しながら、
彼女……眼鏡をかけた長門は静かな声でそう答えた……

 
 
 
 
 

「文芸部室なんだな?」

 

放課後のSOS団の部屋で、
いつもとかなり様子が違う長門に俺はそう聞き返す。

 

「場所からみると、そう……だけど……」

 

だけど?

 

「備品が別のものになっている……
こんな良いパソコンなんて無かった」

 

そう言えば型落ちの古いパソコンが一台あるだけだったな。
こんなノートパソコンが五台もあるなんて、
設備面では天と地の差だろう。

 

「誰かが寄付でもしてくれたの?」

 

まぁ、ある意味寄付してもらったようなもんだな。
もっと正確に言えば強奪と獲得だが。

 

「他にも見覚えの無いものが多い……」

 

古泉のボードゲームや朝比奈さんの急須などを見ながら、
オロオロとした様子で話す長門。
確かにどちらも文芸部室には必要ないものだからな。

 

「本棚に並んでいる本も少し違う」

 

「何だって?」

 

この部屋に巣食う人間で本棚に本を増やすような奴はいないが……
それともいつものお前と今のお前は嗜好が違うのか?

 

意外な答えに驚いた俺がそんな風に考えていると、
先ほどとは少し違った声色で長門は小さく言った。

 
 

「あなたの本が無い……」

 
 

「俺の、本?」

 

何だ?そっちの俺は出版なんてことをしているのか?
そんな文才があったなんて驚きだな。

 

「あなたが持ってきた本」

 

「俺が持ってきた本?」

 

「憶えてないの?」

 

生憎この本棚の増量に貢献した覚えはない。
というか何故俺が本を持ってこなければならんのだ?

 

そう疑問に思う俺に、その文学少女はさも当然のように答えた……

 
 
 

「あなたは文芸部員だから……」

 
 
 
 
 

それから数分ほど会話をしてみたところ、
この長門の中では俺はこいつと二人きりの文芸部員、と判明した。
一瞬また世界が改変されたのかと思ったが、
この部屋の設備や、授業中にハルヒがいたことも考えて、
変わったのは目の前で怪訝そうにキョロキョロする物静かな少女だけだろう。

 

しかし、それが分かったところでこの状況はどうしようもない。
何よりいつも頼りになる宇宙人本人が誤作動を起こしているのだから、
解決策の糸口すら見当たらない。

 

とりあえずこの長門が誰かに見つかれば……

 
 
 

「やっほー!!みくるはいるかいっ!?」

 
 
 

普段使わない脳を活性化させようとした矢先、
夏場の太陽よりも明るい声がドアの方から聞こえてきた。

 

「つ、鶴屋さん、どうしたんですか?」

 

とっさに長門を背中に隠しながら、
俺は快活な先輩に尋ねた。

 

「う〜ん、と……みくるに用があったんだけど……ま、いいさね!」

 

どうやら朝比奈さんを探しているようだが、
残念ながらここにはそんな人はいない。
それはこの狭い部屋を見れば明らかなわけで、
そうなれば彼女はまた別の場所に探しに……

 

「ところでキョン君?一体何を隠してるのかなっ?」

 

「え?い、いや、何も隠してなんて……」

 

「いいからお姉さんに見せるっさ!」

 

「だ、だから何も隠すようなことなんて無いですよ」

 

背後で小さくなる長門を隠しながら、
俺は必死の抵抗を……

 

「でも、キョン君の左わき腹の向こうから何か見えてるにょろ?」

 

「えっ!?」

 

慌ててその方向を見る俺。

 

「おや、有希っこじゃないかいっ!?」

 

「!?」

 

よそ見したことで出来た隙間から見えたらしく、
鶴屋さんは意外そうな声を上げた。

 

「キョン君はカマかけやすくていいね」

 

「それ、褒め言葉になってませんよ……」

 

呆れる俺に対し、鶴屋さんは尚も言葉を続ける。

 

「で、キョン君はどうして有希っこを隠してるんだい?
それに……」

 

「!?」

 

ぬっと顔を突き出す鶴屋さんに、
少し体を震わせながら驚く長門。

 

「な〜んかいつもの有希っこと違う気がするにょろ?」

 

「あ、えと……」

 

「き、気のせいですよ。
ほら、長門だっていつもクールなわけじゃないだろうし」

 

「ふ〜ん……何か事情がありそうだねっ」

 

何か気付くところがあったのか、
鶴屋さんは元気よくそう言った。

 

「うん、お姉さんは何も見ないし聞かないでもおくよ」

 

ありがとうございます。
その空気の読むスキルをあなたのご友人と、
俺の知人のアホに分けて欲しいくらいです。

 
 

「でも、長門っちにイタズラしちゃだめにょろ〜?」

 
 

「なっ!?」

 

「!?」

 

突然の発言に驚く俺。
長門も目を見開き顔を赤くする。

 

そんな俺たちの様子を見て、
鶴屋さんはにんまりと笑いだした。

 

「あはは、その分だと問題なさそうだねっ!
ほいじゃ、あたしはみくるを探してくるよ!ごゆっくり〜」

 

そして偉大なる先輩はいつもの笑顔のまま部屋を出て行くのを、
俺たちはただぼんやりと見送った……

 
 
 
 
 

『おや、ハルにゃん?今からSOS団かいっ?』

 

『あら、鶴屋さん。今から行くつもりだけど……どうかした?』

 

『みくるを探してるんだけど、一緒に探してくれないっかな?』

 

『みくるちゃん?いいわよ、探しましょ』

 

鶴屋さんが部屋から出て数秒後に聞こえてきた会話により、
先輩の空気を読む能力の高さと、
ハルヒが近くまで聞こえてきたことを知った俺は、
いまだ見知らぬ人に声を掛けられた衝撃で固まっていた無口少女を連れて部屋を出た。

 

古泉なら説明すれば分かってくれるだろうし、
朝比奈さんも何とか理解はしてくれるだろうが、
ハルヒにだけはこの長門の存在を知られるわけには行かないだろう。

 

とりあえずどこか人気が無いところに……

 
 

「あれ?キョン?どうしたんだい?」

 
 

「うわ!?」

 

突然背後から聞こえてきた声に、
俺は心の底から驚いた。

 

「なんだ、国木田か」

 

「なんだ、とはご挨拶だね。
ところで長門さんと二人で何してるんだい?
涼宮さんから逃げてる、とか?」

 

当たらずも遠からず、ってとこだな。

 

「この時間なら屋上か上の方の教室がベストじゃないかな。
人も少ないだろうし」

 

事情を知らないはずなのに、
何故か的確なアドバイスをくれる国木田。
やはり持つべきものは親友だな。

 

「分かった、サンキュ国木田」

 

「どういたしまして」

 

にこやかに手を振る友人の助言を受けた俺は、
いまだ現状を把握していない長門の手を引き階段を登って行った……

 
 
 
 

「よっ、と……ここなら安全か」

 

屋上に通じるドアを開け、
俺たちは開けた空間に出た。

 

「……」

 

「っと、すまないな、急に引っ張ってきちまって」

 

「それは、いい……それより……」

 

階段の昇降に疲れたのか少し顔を赤らめた様子で、
長門は更に言葉を続けた。

 
 

「どうしてこんな所に?」

 
 

「あぁ〜それはだな……」

 

本当のことを告げるか、
それとも何とかして誤魔化すか……
どちらにせよ説明が面倒なことになりそうだな……

 

そんな事を考えていた俺に、
ズボンのポケットから振動とともに電話が掛かってきた。

 

「っと!?……ゲッ!ハルヒ!!」

 

着信を見て俺は心の底から焦る。

 

「ハルヒ?」

 

あぁ、そうか、こいつは知らないんだな。
というか鶴屋さんや国木田のことも赤の他人って認識だったろう。

 

「さっき俺の友達が言っていた俺が逃げている相手だ。
涼宮ハルヒって名前」

 

説明する間も携帯電話の振動は止まらない。

 

「電話に出てあげたら?」

 

「あぁ、そうする」

 

長門のお許しを得た俺は、
通話ボタンを押す。

 

「もしm……」

 
 

『ちょっとキョン!?あんたどこにいるの!?
有希もいないけどまさか変なことしてないでしょうね!?』

 
 

携帯電話でそんなでかい声で叫ぶな。
あと変なことってなんだ、変なことって。

 

「おかしな事を言うな、俺は別に……」

 

『あら?あんたもしかして外にいるの?』

 

「イヤ、イナイヨ。ジャアナ」

 

それだけ言って俺は電話を切り、
ついでに電源も切る。
まさか声だけで居場所が分かるなんて……
あいつは耳に逆探知機でもつけているのだろうか。

 

再び移動するべきか考える俺に、
傍らから静かな声が聞こえてきた。

 

「今、私の名前……」

 

ん?あぁ、そういえばハルヒはお前も探しているみたいだな。

 

「相手は私のことを知ってるの?」

 

「そうみたいだな」

 

「さっきすれ違った男子も、部室に来た人も……」

 

「長門っていう女子生徒のことなら知ってる」

 

俺の言葉に現状把握が出来ていない長門は、
ますます怪訝な表情をした。

 

「どういうこと?」

 

確かにお前が疑問に思うのは当然だが、
説明するのが難しくてだな……

 

「もしかして……」

 

焦る俺をよそに、何か思い当たる節があるような顔つきになると、
長門は小さく、しかし確信の含まれた声でこう言った……

 
 
 

「これは……夢?」

 
 
 

夢、か……

 

「そうだな、これはお前が見ている夢かもな。
え〜と、何て言ったっけ……」

 

「明晰夢?」

 

「そう、そのメーセキムとやらだ」

 

何も本当のことを教えることもない。
これは誰かが見ている夢の世界だ。

 

「そう……夢……」

 

少しだけ寂しそうな笑顔で呟いた長門は、
更に言葉を続けた。

 

「夢なら目を覚ませば忘れてしまう?」

 

「そりゃ……そうだろ」

 

「あなたもここの出来事を覚えてない?」

 

これがお前の見ている夢だというのならそれも当然だろう。
そう俺が答えると、少し照れたように微笑みながら、
長門はこう言った。

 
 

「それなら……あなたに言いたいことがある」

 
 

俺に言いたいこと?

 

「そう……」

 

それなら何も夢の中でなく目が覚めてからでいいじゃないか?

 

「それだと……勇気が出ないから……」

 

勇気?
夢のほうがはっきり言いやすいってのは分かるが、
そんな勇気がいるようなことなのか……

 

そうぼんやりと考える俺に、
たたずまいを直した長門はまっすぐこちらの目を見て、
はにかんだ笑顔でいつもより大きな声で……

 
 
 

「私はあなたのことがs――――――」

 
 
 
 
 

『キョーン!!どこにいるの!?出てらっしゃい!!』

 

突然下方から聞こえてきた声に、
俺は驚いてその方向を見た。

 

「いっ!?ハルヒの奴、何でグラウンドにいやがる!?」

 

『あんたが外にいるのは分かってるのよ!
さっさと出てきなさい!!』

 

残念ながら同じ外でも俺たちがいるのは屋上だ。
そんなことを思っていた俺に、
いつの間にか俺の傍まで来ていた長門が声をかける。

 

「あれが、涼宮ハルヒ、さん?」

 

「ん?あぁ、そうだ」

 

「あの人も私のことを……」

 

「あぁ、よく知ってるぞ。
それどころかいつも気に掛けているくらいだ」

 

「そう……」

 

なんだ、随分嬉しそうだな。
夢の中とはいえあんな奴が知り合いにいて嬉しいのだろうか。

 

「あの人……あなたのことはどう思っているの?」

 

「俺のことをどう思って、って……」

 

口うるさい雑用係とでも思ってるんじゃないか?
毎回理不尽な罰金を課したり、何かと俺を引っ張り出すし、
面倒なことを押し付けてくるし、そのくせうるさいし……

 

俺がそう説明すると、
長門は何故か意外そうな顔をして何事かを呟いた。

 
 

「……素直じゃないのね」

 
 

「ん?何か言ったか?」

 

聞き取れなかったため聞き返した俺に、
小さく首を振った長門は屋上の手すりに少し身を預けると、
驚くべきことをし始めた。

 
 
 

「お〜い!すーずーみーやーさーん!!」

 
 
 

普段の無口ぶりから想像できないような明るく大きな声で、
長門は運動場を歩き回るハルヒを手を振りながら呼んだ。

 

『有希!?あんたそんなとこで何してんの!?』

 

驚いたハルヒと俺に、
長門は更に追い討ちをかけるかのようにこう叫んだ。

 
 
 
 

「私、絶対譲らないからー!!」

 
 
 
 
 
 
 

オマケ

 
 

「昨日は迷惑をかけた」

 

あぁ、気にすることはないぞ。
ちょっとハルヒに延髄四の字固め喰らっただけだから。

 

「誤作動の原因は分からない」

 

「そうか……でももう大丈夫なんだろ?」

 

「大丈夫」

 

こくりと頷く長門を見て、
昨日の拷問の痛みも消えていくような気分になる。

 

そんな事を考える俺に、
目の前の文学少女は少しだけ驚くようなこと言った。

 

「彼女から伝言を預かっている」

 

「え!?」

 

驚く俺に対し、
いつもの坦々とした口調……ではなく明るい様子で、
長門は言葉を続けた。

 
 
 
 

「素敵な夢をありがとう」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:03:59 (2708d)